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第14話「さすがね!」

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……そもそも、未開の原野と違い、レサン王国王都グラン・ベールの近郊は、
騎士隊や王国軍により討伐され、魔物は殆ど居ない。

更に定期パトロールをひんぱんに行い、通報があればすぐ討伐軍が差し向けられた。
結果、ここ50年ほどは、魔物の襲撃が殆どなかった。

それゆえ、王都郊外にあるラパン修道院も専任の警護の女子騎士、女子の兵士を置かず、
騎士隊OGジスレーヌ達、武道に長けたシスター数人を警護役として兼任させる形で、対応していたのである。

そのような中、突如起こった大事件であった!

ラパン修道院農園へ押し入り、シスター達を襲って来た恐ろしい魔物オーク100体余り。

人間女子に対し、異様な執着を見せる鬼畜なオークどもは、欲望をむき出しにして、うら若きシスター達を襲った。

しかしそんなオークどもを撃退、否! 完全に討ち滅ぼしたした魔獣のような女子がふたり居た。

それは、歴戦の男子騎士をも蹴散らす『女傑』とうたわれた、元騎士のロゼール。
オークよりはるかに強いオーガを圧倒する『オーガスレイヤー』と謳われたカリスマ貴族令嬢ベアトリス。……のふたりである。

ロゼールとベアトリスは謳われる通り、圧倒的な強さを示し、オークども100体の殆どをを討ち果たした。

激戦の末、勝利し、見つめ合うふたり。

命を懸け、ともに戦った事で、ロゼールとベアトリスの間には、
確かな心の絆が生まれていた。

さてさて!
激しい戦場となった農園には、ふたりに倒されたオークどもの死骸があちこちに散乱していた。

幸いと言うか、襲われたシスター達は、魔獣女子ふたりの奮戦により、
奇跡的に乱暴もされず、命も取られず、全員が軽い『かすり傷』『打ち身』で済んでいた。

すんでのところで救われたシスター達は大いに安堵し、
メイスを持ったままのロゼールとベアトリスの下へ全員が集まっている。

集まったのはまた、オークどもが襲って来たらと思うと不安らしい。

ベアトリスは、自分が救ったシスターをそっと抱きしめ、優しく背を撫でている。
ロゼールへ話しかける。

「ふ~っ、ロゼ、何とか、犠牲者を出さずに済んだわね」

対して、襲われたショックから号泣するシスターを慰めながら、ロゼールも大きく頷く。

「ええ、ベアトリス様」

「でも、ちょっとだけ、悔しいわ。ロゼに美味しいところを取られたからね」

「え? 美味しいところですか?」

「そうよ。突然変異らしき、上位種ので~っかい親玉の討伐は、ロゼに譲ちゃったもの」

「ええっと……乱戦でしたし、たまたま、めぐりあわせですよ」

「まあ、良いわ、そんな些細ささいな事は。こうやって全員無事だったし、私もオークどもをぶっ飛ばして、久々にす~っとした。良いストレス解消が出来たわ」

心底お嬢様のベアトリスだが……
シスターを守る為、自ら身体を張り、オークの群れに立ち向かい戦った。

普段は上級貴族特有の気高さを見せながら、気さくで親しみやすい部分も多い。
そして圧倒的に強い!
ロゼールは、そんなベアトリスを好ましく思う。

「ええ、私もです。結果良しの上、お互いにす~っとしましたね」

と、そこへ。

「ベアトリス様あ! ロゼぇ!」

教育担当のジスレーヌが2名のシスターとともにやって来た。
彼女と元騎士のシスター達は、
ロゼールとベアトリスが救ったシスター達を出来る限り回収し、本館へ連れて行く作戦であった。

ジスレーヌの表情は明るい。
どうやら作戦は成功したようだ。

背後についているのは、青ざめた修道院長である。
ジスレーヌが連れて来たらしい。
おびただしいオークの死骸が転がる農場を見て、修道院長は小さな悲鳴をあげる。

「ひえっ!? こ、こ、これはっ!?」

驚く修道院長へ、ジスレーヌが応える。

「修道院長様、私がご報告した通りですわ」

「報告した通りって……ま、まさか! ベアトリス様とシスター、ロゼールのたったふたりで100体以上ものオークを!?」

ここでずいっと前へ出たのがロゼールである。
魔物との戦いを、戦場を散々経験しているロゼールは、
『戦鬼モード』から、既に『通常モード』へと戻り、淡々と言う。

「修道院長様、驚くのは、後にして頂ければと」

「え!?」

「ご対応を優先致しましょう。簡単に報告を致します。今回のオークどもの襲撃、撃退しました。幸い死者や重傷者は居りません。軽傷者のみで、全員のみさおも守られました。まずはこの場の全員で本館へ行き、正門を固く閉ざし、数人の警備を置き、安全を確保した上で、軽傷者の手当を! と同時に、襲撃でひどくショックを受けた者もおりますから、丁寧なメンタルのケアを。回復魔法、鎮静魔法の行使を担当のシスター方へお願い致します」

はきはきと言い、指示を出すロゼールを見て、
「さすがね!」とベアトリスはにっこり。

「ええ、修道院長さん、軽傷を負った者は居るけど、命や操を失った者は皆無。但し、襲われた事による精神的なダメージが心配だから、しっかりとケアしてくれる」

「は、はい! かしこまりました!」

ベアトリスのダメ押しが利き、修道院長は大きく頷いた。

自分の指示が通りにっこりしたロゼール。
今度はジスレーヌへ問いかける。

「ジスレーヌ姉、作戦の守備、本館の様子、それと襲撃報告の、救助以来の緊急魔法鳩便は飛ばしましたか?」

騎士隊の後輩の問いかけにジスレーヌは微笑む。

「うふふ、ばっちり、全員ケア出来なくて申し訳なかったけど、私達も10体オークを倒し、5人護衛して本館へ連れて行ったわ。当然無事で、ケガもない。本館は念の為、ふたりが正門に張り付いている。当然正門は固く閉ざしてね。魔法鳩便は修道院長様が、襲撃があって、すぐに飛ばしたわ」

「ではまもなく騎士隊か、王国軍が救援に赴きますね! ……もろもろ、把握致しました。ありがとうございます」

ロゼールは、ジスレーヌへ一礼。
更にベアトリス以下、全員へ告げる。

「では、そろそろ本館へ移動を。私とベアトリス様が先頭に立ち、周囲を警戒しながら戻ります。けして油断せずに、気を引き締めてください。オークの残党が居るやもしれません。全員注意し、本館へ無事入るまで、警戒を怠らないようにしてください」

一気に指示を出したロゼール。
そして、

「ベアトリス様、お疲れのところ、恐縮でお手数ですが、ご一緒に、本館まで修道院長様以下、シスター達の護衛をお願い致します!」

真剣な眼差しで指示を出すロゼールに対し、

「OK! 任せて! 行きましょう!」

と、ベアトリスは笑顔で大きく頷いていたのである。
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