騎士をやめて花嫁修業しろと言われた私は、公爵家お嬢さま御付きの騎士メイドとなりました!

東導 号

文字の大きさ
上 下
7 / 32

第7話「礼節、勇気の発動」

しおりを挟む
ロゼールは再度、

「ベアトリス様! 修道院長様の件、ご再考をお願い致します!」

と、ベアトリスへ向かい、ひざまずいたまま、頭を深く下げ、きっぱりと言い放っていた。

びっくりしていたのは、教育係のジスレーヌだけではない。

かばって貰った当の修道院長も驚愕。

花嫁修業、行儀見習いの女子達の為に、良かれと思って厳しくして来た。
しかし、数多の女子達から、自分へ苦情が出ていた……事実が発覚した。
しまったと思い、後悔もした。

そして、ロゼールへも厳しくシビアに叱責するのが日常だったのに……

自分を憎んでいると思ったロゼールがまさか、かばってくれるとは……
全くといって良いほど思っていなかった。
なので、目をぱちくりしていたのだ。

そんなロゼールを、まっすぐ射るように「びしっ!」と見つめ、
ベアトリスは、シニカルな笑いを浮かべながら数回頷く。

「ふ~ん……ロゼール、修道院長同様、貴女も私に逆らうの?」

ベアトリスの問いかけに対し、ロゼールは小さく首を横に振る。

「いいえ!」

「では、私の決定に従いなさい。修道院長は失職させます」

「ですが、ご再考をお願い致します」

「へえ、私がこれだけ言っても……まだ逆らうの?」

「ご再考をお願い致します」

「私は言ったはずよ。3度目の反抗は私のマイルールで、NG決定だって……私の決定を4度も否定した貴女を、更に厳罰の『追放』にするわ」

「追放……ですか?」

「ええ、追放。……ロゼール、貴女がこの修道院へ来た経緯を私は知っている」

「そうですか」

「このトラブルで貴女は実家から勘当される。私にも逆らったから、この国にも居られなくなるわ。つまり完全に国外追放よ!」 

「構いません! 元々、1か月前、ここへ来た時にすぐ脱走して、遠くへ旅に出るつもりでしたから」

「あははは! 来てすぐ修道院を脱走して遠くへ旅立つの? 貴女、やっぱり面白いわね」

「けして面白くはありませんが……私、旅に出て、他国へ行くつもりでしたから」

「あはははは、それが何故、思いとどまったの?」

「はい、武道ひとすじ、全く世間知らずの私は、まずシスター、ジスレーヌ……騎士隊OGのジスレーヌ・オーブリー先輩に慰められ、様々な事項のご教授を頂きました。そして、修道院長様には、くじけそうになる度、厳しくも温かく𠮟咤激励されたのです」

「成る程。それで思い留まり、1か月間、修道院で、花嫁修業、行儀見習いが出来たって事ね」

「はいっ! 私がくじけず、あきらめずにやって来れたのは、シスター、ジスレーヌと修道院長様のお陰なのです」

「そうなの?」

「はい! 修道院長様は、誤解されやすい方なのだと私は思います。あまりにも私達の教育に熱心なあまり、つい言葉がきつくなり、やりすぎてしまうのです」

「うふふ、私達の教育に熱心なあまり、つい言葉がきつくなり、やりすぎてしまう……か。……確かにそうかもね」

「もしも今回の件で反省なされば、修道院長様は、充分やり直せると私は思います。どうか、ベアトリス様! 今一度再考され、修道院長様へチャンスをお与えください!」

「うふふ、ロゼール。貴女の言いたい事は良~く分かったわ」

「はい! というわけで。私ロゼール・ブランシュは、修道院長様には大きな恩義があります。騎士隊を除隊しましたが、私は今でも騎士です。忠誠、公正、勇気、武芸、慈愛、寛容、礼節、奉仕の8つの徳目は私の心の礎《いしづえ》です」

「成る程。ロゼールの礼節―目上を敬い、目下を侮らない謙虚さ、勇気―いかなる場合でも強者へ立ち向かう胆力……が、今、発動したという事ね」

「はい! そうとって頂いて構いません。ですから、ベアトリス様が、もしも修道院長様を失職させるというのでしたら、修道院長様の大恩に報い、私は反対致します。そして反対が通らぬ場合、ベアトリス様のご命令通り、追放され、遠くの他国へ旅に出ようと思います!」

はきはきと言い放ったロゼール。
対して、ベアトリスはシニカルに笑ったままだ。
表情を全く変えない。

「うふふ、抜きん出た女傑の貴女が、遠くの他国へ旅に出るなんて、我が王国の貴重な人材の流出……それは困るわ、ロゼール」

「ベアトリス様にそこまでお褒め頂き、誠に恐縮ですが……では、旅に出さないと申されるのなら、私を牢獄に幽閉でもするおつもりですか? ご命令とあらば従いますが……」

「あはは、何よ、そのいさぎよさ。ふふふ、負けたわ」

「負けた……とは?」

「『前』修道院長殿!」

「は、はい!? ベアトリスお嬢様!!」

「『前』を取ってあげる! 貴女の失職は、ロゼールの心意気に免じて、取り消しよ!」

「え?」

「まさに、情けは人の為ならずね。すんでのところでロゼールがかばってくれたのよ、感謝しなさい」

「は、はいっ! ありがとうございます!」

「うふふ、私へではなく、修道院長殿、貴女がお礼を言うのはロゼールよ。……今後はもう少し相手をいたわって、物言いをなさる事ね」

「は、はい! そ、それはもう!」

修道院長は、すぐロゼールに向き直り……深く頭を下げた。

「ロゼール殿! いえ、シスター・ロゼール、本当にありがとうございます! 貴女と創世神様に多大な感謝を致します。充分に反省しますから、今後とも宜しくお願い致します」

対して、ロゼールもうやうやしく礼をした。

「こちらこそ! 宜しくお願い致します。修道院長様!」

ふたりの様子を満足そうに眺めていたベアトリス。

「うんうん! よしよし! それと修道院長殿、こういう落としどころはどうかしら?」

「お、落としどころ?」

「ええ、修道院長殿のおっしゃる事も一理ある。確かに、経験不足のロゼールに私の教育係をやって貰うのは負担が大きすぎるわね」

「と、申しますと?」

「私も旧知のオーブリー元子爵夫人、シスター・ジスレーヌに教育係としてついて貰い、花嫁修業、行儀見習いの教授をして頂くわ。ロゼールと一緒に仲良く修行するのよ。で、あれば全てが丸く収まるでしょ?」

何と!
ベアトリスは、ロゼールとともに、花嫁修業をする提案をして来たのである。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

交換された花嫁

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」 お姉さんなんだから…お姉さんなんだから… 我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。 「お姉様の婚約者頂戴」 妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。 「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」 流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。 結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。 そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。

お飾り妻生活を満喫していたのに王子様に溺愛されちゃった!?

AK
恋愛
「君は書類上の妻でいてくれればいい」 「分かりました。旦那様」  伯爵令嬢ルイナ・ハーキュリーは、何も期待されていなかった。  容姿は悪くないけれど、何をやらせても他の姉妹に劣り、突出した才能もない。  両親はいつも私の結婚相手を探すのに困っていた。  だから受け入れた。  アーリー・ハルベルト侯爵との政略結婚――そしてお飾り妻として暮らすことも。  しかし―― 「大好きな魔法を好きなだけ勉強できるなんて最高の生活ね!」  ルイナはその現状に大変満足していた。  ルイナには昔から魔法の才能があったが、魔法なんて『平民が扱う野蛮な術』として触れることを許されていなかった。  しかしお飾り妻になり、別荘で隔離生活を送っている今。  周りの目を一切気にする必要がなく、メイドたちが周りの世話を何でもしてくれる。  そんな最高のお飾り生活を満喫していた。    しかしある日、大怪我を負って倒れていた男を魔法で助けてから不穏な空気が漂い始める。  どうやらその男は王子だったらしく、私のことを妻に娶りたいなどと言い出して――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

君のためだと言われても、少しも嬉しくありません

みみぢあん
恋愛
子爵家の令嬢マリオンの婚約者、アルフレッド卿が王族の護衛で隣国へ行くが、任期がながびき帰国できなくなり婚約を解消することになった。 すぐにノエル卿と2度目の婚約が決まったが、結婚を目前にして家庭の事情で2人は……    暗い流れがつづきます。 ざまぁでスカッ… とされたい方には不向きのお話です。ご注意を😓

今日は私の結婚式

豆狸
恋愛
ベッドの上には、幼いころからの婚約者だったレーナと同じ色の髪をした女性の腐り爛れた死体があった。 彼女が着ているドレスも、二日前僕とレーナの父が結婚を拒むレーナを屋根裏部屋へ放り込んだときに着ていたものと同じである。

「お前を妻だと思ったことはない」と言ってくる旦那様と離婚した私は、幼馴染の侯爵から溺愛されています。

木山楽斗
恋愛
第二王女のエリームは、かつて王家と敵対していたオルバディオン公爵家に嫁がされた。 因縁を解消するための結婚であったが、現当主であるジグールは彼女のことを冷遇した。長きに渡る因縁は、簡単に解消できるものではなかったのである。 そんな暮らしは、エリームにとって息苦しいものだった。それを重く見た彼女の兄アルベルドと幼馴染カルディアスは、二人の結婚を解消させることを決意する。 彼らの働きかけによって、エリームは苦しい生活から解放されるのだった。 晴れて自由の身になったエリームに、一人の男性が婚約を申し込んできた。 それは、彼女の幼馴染であるカルディアスである。彼は以前からエリームに好意を寄せていたようなのだ。 幼い頃から彼の人となりを知っているエリームは、喜んでその婚約を受け入れた。二人は、晴れて夫婦となったのである。 二度目の結婚を果たしたエリームは、以前とは異なる生活を送っていた。 カルディアスは以前の夫とは違い、彼女のことを愛して尊重してくれたのである。 こうして、エリームは幸せな生活を送るのだった。

処理中です...