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奇跡の救援者編
第7話「悪徳は栄えず」
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バルバがベルナールとの魂の契約に基づき、魔道具――青銅の巨人を召喚、起動。
北の砦を襲ったオーク共を、一方的に殺戮していた頃……
砦の救援に赴いたラウルス王国軍を率いるウジェーヌ・ドラポール侯爵は、野営用に設営された天幕でひとりワインを飲んでいた。
「ふふふ、ベルナールめ。お前の命も、いよいよこれで終わり……だな」
ウジェーヌは、いい気味だと思いながら、少し可哀そうかとも思う。
ベルナール・ゴーギャンは忠実な部下として、これまで良く仕えてくれたから。
それどころか愛人のクローディーヌまで引き受け、磨き上げ、更に美しい女にしてくれた。
自分が妾として囲っていた頃よりも、人妻となったクローディーヌは遥かに美しくなった。
口うるさい妻が死んだ今、再びクローディーヌを取り戻し毎晩弄ぶ……
それがウジェーヌの歪んだ願望である。
その為には、夫のベルナールが邪魔なのだ。
「ベルナール……素直に離婚に応じていれば良いものを……女の為に意地を張って命を失くすとは馬鹿な奴だ」
そう、今迄通り自分の言いなりになっていれば……
あいつは死なずに済んだものを……
で、あれば過酷な北の砦にも送らず、王都で適当な役職に就けて、いずれは別の女とも結婚出来ていただろうに。
ただウジェーヌにとって意外だったのは、クローディーヌが復縁の説得に応じなかった事だ。
昔はなんでも、男の言いなりだった女が……
ベルナールとの離婚に応じず頑として反抗したのだ。
しかし所詮は女……ベルナールさえ居なくなれば……また戻って来る。
かつてクローディーヌを思いのままにした、ウジェーヌはそう信じている。
「何故なら、儂はあいつの身体の隅々まで知っておる。どこを攻めれば悦ぶか、性癖もな……ふふふふ」
毎夜繰り広げられた痴態が、ウジェーヌの脳裏に浮かぶ。
クローディーヌの豊満な乳房はウジェーヌの手の中で淡く染まり、秘密の場所は熱くじっとりと濡れる……
ウジェーヌは再び手に入れるであろう、クローディーヌの熟れた女体を想像し、熱い息を吐いた。
そして、嫌らしく、舌で乾いた唇をぺろりと舐め回した瞬間。
「あ~、ホント最低ねぇ」
「な!?」
驚いたウジェーヌが見たのは、天幕内に立つ小柄な少女の姿である。
付近は人払いさせ、誰も居ない筈なのに……
冷たい笑顔を浮かべるメイド服姿の少女は、シルバープラチナの美しい髪を肩まで伸ばし、端麗な顔立ちをしていた。
バルバと共に居た、あのツェツィリア……である。
ウジェーヌは、ツェツィリアを睨む、そして尋ねる。
「貴様は! ……どこのメイドだ、小娘」
「え~、いやだ! 聞かれたって、あんたに名乗る名前なんてないわぁ」
まるで小馬鹿にしたようなツェツィリアの物言いであったが、ウジェーヌは怒りを耐え、更に言う。
「何だと? 小娘の癖に生意気な……儂を誰だと思っておる」
「もう! さっきから小娘、小娘って……私、あんたなんかより数万倍も年上よぉ」
「ふ、ふざけるなっ」
ウジェーヌがどう見ても、ツェツィリアは15歳位の少女だ。
それが、数万倍年上?
実にふざけた物言いだと、ウジェーヌは思った。
そんなウジェーヌへ侮蔑の視線を投げ掛けながら、ツェツィリアは言う。
「ふざけているのはどっち? 自分の薄汚い欲望の為に、命を懸けて敵と戦っている同胞を切り捨てる蛆虫じじいが」
「ぐぐぐ……」
どうやら目の前の少女は全ての『事情』を知っているようだ。
こうなったら……ウジェーヌは再びツェツィリアを見た。
目の前のツェツィリアの肌は、不自然なくらい白い。
深いルビー色の瞳に、真っ赤な唇が人間離れしていた。
発する雰囲気が、大人になりきれない少女と思えぬほど艶めかしい。
ウジェーヌの男心をそそって来る。
下半身の一部が硬く膨張する。
ここはたぎった、自分の『男』で言う事を聞かせよう……
ウジェーヌは本能に従い、手を伸ばした。
目の前のツェツィリアを、無理矢理捕まえようとしたのである。
しかし、ツェツィリアは平然としていた。
逆に伸ばしたウジェーヌの手の平を、無造作にひとさし指で「びしっ」と弾いたのだ。
その瞬間!
ウジェーヌの全身にとてつもない激痛が走る。
もし傍らでウジェーヌを見る者が居たら、大きな声で叫んでいただろう。
血色の良かったウジェーヌの全身が、あっという間に紫色に染まったからである。
一体何が起こったのか?
以前バルバが言った通り、この世界では生きとし生ける者は魔力を持つ。
魔力とは血液と共に、生命力を支える根幹である。
もし魔力が無くなれば……生物は倒れ、そのまま死ぬ……
ツェツィリアは自身の能力を使い、ウジェーヌの持つ魔力を全て吸収したのである。
「ぐわ!」
短い悲鳴が上がった。
しかし小さく短かったので、外には漏れていない。
護衛の騎士達が駆けつけて来る様子はない……
ウジェーヌは四肢を硬直させ、「かっ」と目を見開いた。
そして「どうっ」と地に倒れてしまったのである。
倒れたウジェーヌへ、ツェツィリアは冷たい眼差しを向ける。
まるで、ゴミでも見るように。
「うふふ、欲望に狂った蛆虫じじい、まだあたしの声が聞こえる? あんたはもう死ぬのよ」
「…………」
「そして魂はね。私達、悪魔達が散々喰らった後、残ったカスはごみ屑みたいに冥界へ捨てられる。あんたは、もう二度と人間には戻れないわ」
「…………」
ツェツィリアは、自分の胸元へ、すっと手を差し出す。
いつの間にか、華奢な手の上には、黒く輝く小さな光球が浮かんでいる。
「うふふ、こいつったら……やっぱり超が付くぐらい真っ黒な魂ね。これならば今回の報酬には充分。……真面目なご夫婦の綺麗な魂なんかよりず~っとね」
「にやり」と笑ったツェツィリアは、ピンと指を鳴らす。
同時に彼女の姿は煙のように消え失せた。
数時間後……
いつまで経っても専用の天幕から出て来ないウジェーヌを不審に思った部下達が覗いたところ、地に伏した彼の身体は既に冷たくなっていたのである。
北の砦を襲ったオーク共を、一方的に殺戮していた頃……
砦の救援に赴いたラウルス王国軍を率いるウジェーヌ・ドラポール侯爵は、野営用に設営された天幕でひとりワインを飲んでいた。
「ふふふ、ベルナールめ。お前の命も、いよいよこれで終わり……だな」
ウジェーヌは、いい気味だと思いながら、少し可哀そうかとも思う。
ベルナール・ゴーギャンは忠実な部下として、これまで良く仕えてくれたから。
それどころか愛人のクローディーヌまで引き受け、磨き上げ、更に美しい女にしてくれた。
自分が妾として囲っていた頃よりも、人妻となったクローディーヌは遥かに美しくなった。
口うるさい妻が死んだ今、再びクローディーヌを取り戻し毎晩弄ぶ……
それがウジェーヌの歪んだ願望である。
その為には、夫のベルナールが邪魔なのだ。
「ベルナール……素直に離婚に応じていれば良いものを……女の為に意地を張って命を失くすとは馬鹿な奴だ」
そう、今迄通り自分の言いなりになっていれば……
あいつは死なずに済んだものを……
で、あれば過酷な北の砦にも送らず、王都で適当な役職に就けて、いずれは別の女とも結婚出来ていただろうに。
ただウジェーヌにとって意外だったのは、クローディーヌが復縁の説得に応じなかった事だ。
昔はなんでも、男の言いなりだった女が……
ベルナールとの離婚に応じず頑として反抗したのだ。
しかし所詮は女……ベルナールさえ居なくなれば……また戻って来る。
かつてクローディーヌを思いのままにした、ウジェーヌはそう信じている。
「何故なら、儂はあいつの身体の隅々まで知っておる。どこを攻めれば悦ぶか、性癖もな……ふふふふ」
毎夜繰り広げられた痴態が、ウジェーヌの脳裏に浮かぶ。
クローディーヌの豊満な乳房はウジェーヌの手の中で淡く染まり、秘密の場所は熱くじっとりと濡れる……
ウジェーヌは再び手に入れるであろう、クローディーヌの熟れた女体を想像し、熱い息を吐いた。
そして、嫌らしく、舌で乾いた唇をぺろりと舐め回した瞬間。
「あ~、ホント最低ねぇ」
「な!?」
驚いたウジェーヌが見たのは、天幕内に立つ小柄な少女の姿である。
付近は人払いさせ、誰も居ない筈なのに……
冷たい笑顔を浮かべるメイド服姿の少女は、シルバープラチナの美しい髪を肩まで伸ばし、端麗な顔立ちをしていた。
バルバと共に居た、あのツェツィリア……である。
ウジェーヌは、ツェツィリアを睨む、そして尋ねる。
「貴様は! ……どこのメイドだ、小娘」
「え~、いやだ! 聞かれたって、あんたに名乗る名前なんてないわぁ」
まるで小馬鹿にしたようなツェツィリアの物言いであったが、ウジェーヌは怒りを耐え、更に言う。
「何だと? 小娘の癖に生意気な……儂を誰だと思っておる」
「もう! さっきから小娘、小娘って……私、あんたなんかより数万倍も年上よぉ」
「ふ、ふざけるなっ」
ウジェーヌがどう見ても、ツェツィリアは15歳位の少女だ。
それが、数万倍年上?
実にふざけた物言いだと、ウジェーヌは思った。
そんなウジェーヌへ侮蔑の視線を投げ掛けながら、ツェツィリアは言う。
「ふざけているのはどっち? 自分の薄汚い欲望の為に、命を懸けて敵と戦っている同胞を切り捨てる蛆虫じじいが」
「ぐぐぐ……」
どうやら目の前の少女は全ての『事情』を知っているようだ。
こうなったら……ウジェーヌは再びツェツィリアを見た。
目の前のツェツィリアの肌は、不自然なくらい白い。
深いルビー色の瞳に、真っ赤な唇が人間離れしていた。
発する雰囲気が、大人になりきれない少女と思えぬほど艶めかしい。
ウジェーヌの男心をそそって来る。
下半身の一部が硬く膨張する。
ここはたぎった、自分の『男』で言う事を聞かせよう……
ウジェーヌは本能に従い、手を伸ばした。
目の前のツェツィリアを、無理矢理捕まえようとしたのである。
しかし、ツェツィリアは平然としていた。
逆に伸ばしたウジェーヌの手の平を、無造作にひとさし指で「びしっ」と弾いたのだ。
その瞬間!
ウジェーヌの全身にとてつもない激痛が走る。
もし傍らでウジェーヌを見る者が居たら、大きな声で叫んでいただろう。
血色の良かったウジェーヌの全身が、あっという間に紫色に染まったからである。
一体何が起こったのか?
以前バルバが言った通り、この世界では生きとし生ける者は魔力を持つ。
魔力とは血液と共に、生命力を支える根幹である。
もし魔力が無くなれば……生物は倒れ、そのまま死ぬ……
ツェツィリアは自身の能力を使い、ウジェーヌの持つ魔力を全て吸収したのである。
「ぐわ!」
短い悲鳴が上がった。
しかし小さく短かったので、外には漏れていない。
護衛の騎士達が駆けつけて来る様子はない……
ウジェーヌは四肢を硬直させ、「かっ」と目を見開いた。
そして「どうっ」と地に倒れてしまったのである。
倒れたウジェーヌへ、ツェツィリアは冷たい眼差しを向ける。
まるで、ゴミでも見るように。
「うふふ、欲望に狂った蛆虫じじい、まだあたしの声が聞こえる? あんたはもう死ぬのよ」
「…………」
「そして魂はね。私達、悪魔達が散々喰らった後、残ったカスはごみ屑みたいに冥界へ捨てられる。あんたは、もう二度と人間には戻れないわ」
「…………」
ツェツィリアは、自分の胸元へ、すっと手を差し出す。
いつの間にか、華奢な手の上には、黒く輝く小さな光球が浮かんでいる。
「うふふ、こいつったら……やっぱり超が付くぐらい真っ黒な魂ね。これならば今回の報酬には充分。……真面目なご夫婦の綺麗な魂なんかよりず~っとね」
「にやり」と笑ったツェツィリアは、ピンと指を鳴らす。
同時に彼女の姿は煙のように消え失せた。
数時間後……
いつまで経っても専用の天幕から出て来ないウジェーヌを不審に思った部下達が覗いたところ、地に伏した彼の身体は既に冷たくなっていたのである。
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