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奇跡の救援者編
第5話「恐るべき魔道具」
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どっご~ん!
どっご~ん!
先程から凄まじい音が辺りに響いていた。
砦の本体に繋がる第二の門、正門を外から打ち破ろうとするオークの攻撃である。
彼等は極端に太い丸太の先端を、鋭く鋭く尖らせた破城槌で、正門を粉々に打ち破ろうとしているのだ。
副隊長のロック・ケーリオが歯噛みをする。
「畜生! 隊長殿、このまま座して、ひたすら死を待つとは悔しいです……門を開いて打って出なくて良かったのでしょうか?」
「うむ……このまま待つんだ」
ロックは、隊長ベルナールの取る作戦を予想していた。
確かに、正門を破られるのは痛手ではある。
しかし攻め手は、門の幅という限られた範囲から来る。
相手の3,000体は、一度には守備隊へ襲いかかれない。
こちらの残った兵100人で集中して、攻め込んだオーク共を叩くだけ叩き、劣勢となったら砦に立てこもる。
だが所詮は消耗戦……敵の圧倒的な数には敵わない。
最後のひとりまで戦い抜いて、守備隊全員は華々しく散るだろう……
単に死ぬ時期が早いか、遅いかの違いである。
だが、構わない。
ロックは、敬愛するベルナールや忠実な部下達と共に死ぬ覚悟はしていたのだから。
片や、ベルナール……
こちらは、全く違う事を考えていた。
彼が妻の行く末を頼み土下座をした後に、バルバは告げたのだ。
『生き残りの部下と共に、守りを固めて門の内側で待機せよ。だが、武装は解くな、そして絶対に打って出てはならぬ』
『な、何をするつもりなんだ?』
『具体的な事は内緒だ。まあ、見ていろ……とっておきの魔道具を使う』
『と、とっておきの魔道具?』
『言っただろう? 俺は魔道具屋の店主だと』
『魔道具……』
……結局、バルバは何をするのかを、具体的には教えてくれなかった。
なので、ベルナールは言われた通りに部下を率いて正門の内側に待機しているのである。
どっご~ん!
どっご~ん!
相変わらず、門を打ち破るべくオークの激しい攻撃は続いていた。
守備隊の面々はギリギリと歯ぎしりしながら、待機していたのである。
と、その時。
異変が起こった。
「あおおおおおおっ」
「ひぃやああああっ」
「あああああああっ」
門に対する攻撃がぴたっと止まった。
と同時に、オーク共が泣き声に近い悲鳴をあげているのだ。
ベルナールにも僅かに感じる……
何か、大気が乱れていた。
どうやら……原因不明な大量の魔力が放出されているようだ。
ベルナール達は、魔法使いほど魔力に対して敏感ではない。
だからオーク達が、何を感じているかは分からない。
しかし、オーク達は、酷く怯えていた。
そして怯えの原因は、すぐに分かった。
どっっっっっっず~ん!!!
だっっっっっっず~ん!!!
遥か遠くで、いきなり!
守備隊が踏みしめる大地が、上下に激しく揺れた……
否、深く震えたと言っても良い。
「何だ! 地震かぁ!」
「どうしたぁ」
「何なんだぁ」
「騒ぐなぁ、落ち着けぇ」
副官のロックが、動揺する兵士達を宥める中……
ベルナールには、分かった。
遂にバルバが……恐るべき魔道具を使ったのだと。
「しかし、一体何が起こった?」
そこまで言って、ベルナールは言葉を飲み込んだ。
バルバの存在、そして今迄の言動を一切伏せておいた方が良いという判断が本能的に働いたのだ。
やがて大地が揺れ動く原因が……明らかになった。
「な、何だ、あれはっ」
「すげぇっ!」
「まさか!」
ベルナール達が目をこらすと……
何か……黒い影が見える……
まるで王都の街を守る巨大な城壁のような……
否、城壁どころではない。
高さは……ゆうに20m以上あるだろう。
影が砦へ近付くにつれ、その正体は明らかになった。
影の正体……それは巨大な人型である。
全身が眩く光る赤銅色をした、金属製の大巨人であった。
それも今のラウルス王国の騎士や兵士の出で立ちではない。
シンプルな布を巻きつけたような、独特な服装をした古代の戦士である……
「こ、これが……」
と言い、ベルナールはまたも無理やり言葉を飲み込んだ。
そして心の中で、声を出さない大声で叫んでいた。
この巨人が魔道具!?
これがバルバの、悪魔バルバの魔道具なのかっ!!!
そう!
何の前触れもなく……異変は起こった。
何かの金属で造られた正体不明の巨人が……
忽然とオーク達の背後に現れたのである。
だが!
何という、恐ろしい魔道具なのだろう。
ぎしぎしと軋む、金属特有な音をたて、巨人は大股で歩く。
その度に、大地が「どうん」とまた揺れた。
「あいつ、何か、金属で出来ているぞぉ」
「あの輝く色は青銅だぁ、せ、せ、青銅の巨人だぞ」
「何だ? ゴーレム? でもあんなでかいゴーレムは見た事がない! で、でかすぎるっ!!!」
「た、隊長っ!」
「青銅の巨人……」
ベルナールが呟いた瞬間。
バルバの声が、突如ベルナールの心に響く。
『ふふふ、男爵。どうだ、異界から呼び出した俺の魔道具は? 素晴らしいだろう?』
『バ、バルバっ! な、な、何だ、あの巨人は?』
『ふむ、あれは……青銅の巨人だ』
『青銅の巨人!?』
聞き覚えのある名前を聞き、ベルナールは子供の頃に読んだ神話を思い出した。
古《いにしえ》に繁栄したという南の神々……
青銅の巨人とは、生命を持たない巨人。
かつて南には多くの神々が暮らしていた。
中でも最強と謳われた大神は全知全能を謳い、雷を武器としていた。
その妻である女神が、息子である炎と鍛冶の神へ命じて造り出した青銅製の自動人形《オートマタ》なのである。
しかし、そんなモノは太古の、遥か伝説の産物の筈なのに……
『ふふふ、男爵。あんたが考えている通りだ。唯一違うのは……伝説ではなく、青銅の巨人が現実にあるという事だ』
『バルバ……』
『まあ、見ていろ、男爵。お前達は………助かる』
『私達は………助かる』
バルバの言葉を、ベルナールは呆然としながら、ただ繰り返していたのであった。
どっご~ん!
先程から凄まじい音が辺りに響いていた。
砦の本体に繋がる第二の門、正門を外から打ち破ろうとするオークの攻撃である。
彼等は極端に太い丸太の先端を、鋭く鋭く尖らせた破城槌で、正門を粉々に打ち破ろうとしているのだ。
副隊長のロック・ケーリオが歯噛みをする。
「畜生! 隊長殿、このまま座して、ひたすら死を待つとは悔しいです……門を開いて打って出なくて良かったのでしょうか?」
「うむ……このまま待つんだ」
ロックは、隊長ベルナールの取る作戦を予想していた。
確かに、正門を破られるのは痛手ではある。
しかし攻め手は、門の幅という限られた範囲から来る。
相手の3,000体は、一度には守備隊へ襲いかかれない。
こちらの残った兵100人で集中して、攻め込んだオーク共を叩くだけ叩き、劣勢となったら砦に立てこもる。
だが所詮は消耗戦……敵の圧倒的な数には敵わない。
最後のひとりまで戦い抜いて、守備隊全員は華々しく散るだろう……
単に死ぬ時期が早いか、遅いかの違いである。
だが、構わない。
ロックは、敬愛するベルナールや忠実な部下達と共に死ぬ覚悟はしていたのだから。
片や、ベルナール……
こちらは、全く違う事を考えていた。
彼が妻の行く末を頼み土下座をした後に、バルバは告げたのだ。
『生き残りの部下と共に、守りを固めて門の内側で待機せよ。だが、武装は解くな、そして絶対に打って出てはならぬ』
『な、何をするつもりなんだ?』
『具体的な事は内緒だ。まあ、見ていろ……とっておきの魔道具を使う』
『と、とっておきの魔道具?』
『言っただろう? 俺は魔道具屋の店主だと』
『魔道具……』
……結局、バルバは何をするのかを、具体的には教えてくれなかった。
なので、ベルナールは言われた通りに部下を率いて正門の内側に待機しているのである。
どっご~ん!
どっご~ん!
相変わらず、門を打ち破るべくオークの激しい攻撃は続いていた。
守備隊の面々はギリギリと歯ぎしりしながら、待機していたのである。
と、その時。
異変が起こった。
「あおおおおおおっ」
「ひぃやああああっ」
「あああああああっ」
門に対する攻撃がぴたっと止まった。
と同時に、オーク共が泣き声に近い悲鳴をあげているのだ。
ベルナールにも僅かに感じる……
何か、大気が乱れていた。
どうやら……原因不明な大量の魔力が放出されているようだ。
ベルナール達は、魔法使いほど魔力に対して敏感ではない。
だからオーク達が、何を感じているかは分からない。
しかし、オーク達は、酷く怯えていた。
そして怯えの原因は、すぐに分かった。
どっっっっっっず~ん!!!
だっっっっっっず~ん!!!
遥か遠くで、いきなり!
守備隊が踏みしめる大地が、上下に激しく揺れた……
否、深く震えたと言っても良い。
「何だ! 地震かぁ!」
「どうしたぁ」
「何なんだぁ」
「騒ぐなぁ、落ち着けぇ」
副官のロックが、動揺する兵士達を宥める中……
ベルナールには、分かった。
遂にバルバが……恐るべき魔道具を使ったのだと。
「しかし、一体何が起こった?」
そこまで言って、ベルナールは言葉を飲み込んだ。
バルバの存在、そして今迄の言動を一切伏せておいた方が良いという判断が本能的に働いたのだ。
やがて大地が揺れ動く原因が……明らかになった。
「な、何だ、あれはっ」
「すげぇっ!」
「まさか!」
ベルナール達が目をこらすと……
何か……黒い影が見える……
まるで王都の街を守る巨大な城壁のような……
否、城壁どころではない。
高さは……ゆうに20m以上あるだろう。
影が砦へ近付くにつれ、その正体は明らかになった。
影の正体……それは巨大な人型である。
全身が眩く光る赤銅色をした、金属製の大巨人であった。
それも今のラウルス王国の騎士や兵士の出で立ちではない。
シンプルな布を巻きつけたような、独特な服装をした古代の戦士である……
「こ、これが……」
と言い、ベルナールはまたも無理やり言葉を飲み込んだ。
そして心の中で、声を出さない大声で叫んでいた。
この巨人が魔道具!?
これがバルバの、悪魔バルバの魔道具なのかっ!!!
そう!
何の前触れもなく……異変は起こった。
何かの金属で造られた正体不明の巨人が……
忽然とオーク達の背後に現れたのである。
だが!
何という、恐ろしい魔道具なのだろう。
ぎしぎしと軋む、金属特有な音をたて、巨人は大股で歩く。
その度に、大地が「どうん」とまた揺れた。
「あいつ、何か、金属で出来ているぞぉ」
「あの輝く色は青銅だぁ、せ、せ、青銅の巨人だぞ」
「何だ? ゴーレム? でもあんなでかいゴーレムは見た事がない! で、でかすぎるっ!!!」
「た、隊長っ!」
「青銅の巨人……」
ベルナールが呟いた瞬間。
バルバの声が、突如ベルナールの心に響く。
『ふふふ、男爵。どうだ、異界から呼び出した俺の魔道具は? 素晴らしいだろう?』
『バ、バルバっ! な、な、何だ、あの巨人は?』
『ふむ、あれは……青銅の巨人だ』
『青銅の巨人!?』
聞き覚えのある名前を聞き、ベルナールは子供の頃に読んだ神話を思い出した。
古《いにしえ》に繁栄したという南の神々……
青銅の巨人とは、生命を持たない巨人。
かつて南には多くの神々が暮らしていた。
中でも最強と謳われた大神は全知全能を謳い、雷を武器としていた。
その妻である女神が、息子である炎と鍛冶の神へ命じて造り出した青銅製の自動人形《オートマタ》なのである。
しかし、そんなモノは太古の、遥か伝説の産物の筈なのに……
『ふふふ、男爵。あんたが考えている通りだ。唯一違うのは……伝説ではなく、青銅の巨人が現実にあるという事だ』
『バルバ……』
『まあ、見ていろ、男爵。お前達は………助かる』
『私達は………助かる』
バルバの言葉を、ベルナールは呆然としながら、ただ繰り返していたのであった。
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