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奇跡の救援者編
第1話「北の砦」
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ラウルス王国のあるアトランティアル大陸の北方には……
『魔境』と呼ばれる、人間にとっては未開の大地が広がっている。
殆ど人が住まず、広大な森林と草原が占め、様々な動物が主な住人であった。
数多の魔族、魔物も跋扈する。
ラウルス王国内にも、数種類の魔物は存在した。
だが……
猿のような顔をした身長1m程度の人型魔物、ゴブリンが最強であり、強靭な王国騎士隊の前では全く脅威とはなりえなかった。
しかし魔境に生息する魔物は、強さの桁が違う。
魔境においてはゴブリンなど最弱の雑魚であり、他の魔物の単なる餌に過ぎないのだ。
そして餌となるのは、人間も全く同じ……
この怖ろしい魔境とラウルス王国の国境で、連日、激しい戦いが繰り広げられていた。
ただでさえ身体能力に優れた魔物なのに、攻め寄せた数でも常に圧倒的に勝っており、守備側の人間は押されっ放しであった……
そして今日もまた、命を懸けた戦いが始まっていた……
命令と答える声、そして鬨の声。
怒声、悲鳴、断末魔……あらゆる声が交錯する。
そして人外共の咆哮が!
「ひるまず、持ちこたえよっ!」
「ああ、ここを突破されたら、きついぞっ」
ごわはぁぁぁぁあああっ!!!
「ぎゃああああっ!!!」
「うわぁ、コームが! コームがやられたっ!」
「畜生! も、もう捕まって、く! 喰われているっ!」
「ああ、コ~ム~っ!!!」
「く、くそ~っ! 奴等、許せねぇっ!」
「敵討ちだっ!!!」
戦況は一進一退であったが、やがて……
「ロック! 撤退! 総員の撤退を命じろ!」
「隊長! 了解っ! 全軍たいひ~! たいひ~っ!!」
大きな声で、指揮官の命令が下り、即座に副官の声が応える。
年齢身分は全く違うが、しっかり統制されたらしい守備隊は、さっと後退した。
後には、力尽き命を失った無残な死体が、いくつも残された……
だが退避する兵達には、同胞の死体を回収するどころか、弔う間もない。
圧倒的な数の魔物の前には、ほんの少数の人間など……無力であった。
愚図愚図していると、自分さえも喰われてしまう。
兵達は、僚友を失った悲しみと辛さを必死に堪え……撤退したのである。
魔境とラウルス王国の国境を接する場所にさして大きくない砦が築かれていた。
ラウルス王国所属の『北方砦』と呼ばれる城塞だ。
守備の任に就く兵士は約300人足らず……
丸太を二重に組んだ簡素な二段階の柵が、何とか敵の侵入を阻んでいた。
当然ながら、国境など人間が決めたモノ。
動物は勿論、魔物にとっては全く関係がない。
果断なく侵入を図る魔物と、砦の守備隊は絶え間ない戦いを繰り返していたのだ。
襲来する魔物は強力で、守備隊の兵士は常に生命の危機にさらされており、赴任期間を全うして故国へ帰還出来るのは、全兵士のうち僅か3割に満たなかった……
そのように過酷な任地である。
王国中、希望者を探しても、誰もが行きたがらない。
行きたがるわけがない。
わざわざ、自ら命を捨てに赴くわけがないのだ。
そんな事情から300人の兵士の半分は高額な金で雇われた傭兵、残り半分は重罪人という構成であり、正規の兵士は殆ど居なかった。
しかし、彼等は必死に戦った。
唯一の命と引き換えに支払われる相当な金、もしくは恩赦を獲得する為に。
その砦が……今、滅亡の危機に瀕していた。
このところ魔物の襲撃の頻度が急にあがっただけではなく、何か明確な意思を持つかの如く国境を侵そうとしていたのだ。
今回、攻め寄せたのは、何とオークの群で約3,000体。
砦を守る兵士のゆうに10倍以上、今迄に例を見ない規模であり、とんでもない大群であった。
オークは身長2mを越す、豚のような顔をした人型魔物である。
人間の約10倍と言う、とてつもない膂力を誇るオーガほどではないが……
並みの人間の数倍近い力を誇るし、ある程度の知能も有している。
オークもオーガや他の魔物同様、人間を餌とし、好んで喰らう。
砦を攻め、国境を侵そうとするのは……
実は彼等にとって砦への襲撃は、単に縄張りを広げるだけでなく、『食糧』の調達でもあるのだ。
守備隊とオーク共の間で激戦が展開されたが、多勢に無勢。
約1か月は……何とか持ちこたえた。
守備隊は砦を頼んで必死に戦ったが、既に第一の柵は突破された。
柵が突破されると、オークの群れは勢いに乗って、すぐ第二の柵まで攻め寄せて来た。
またもや激戦が繰り返された……
度重なる戦いで、戦死者が相次ぎ、残った兵士の数はもう100人を切っていた。
……この第二の柵が打ち壊されれば、砦が落ち、オークの群れが王国内へなだれ込むのは時間の問題であった。
当然、北方砦は王国へ緊急事態の連絡を入れた。
緊急の魔法鳩便を、王都へ送ったのである。
連絡を受けて、そんなに時間を置かず王国軍3,000人の部隊はやって来た。
歴戦の騎士500人を中心とした、屈強な部隊である。
熟練の弓隊500人も含まれていたので、すぐ北方砦の守備隊と合流して戦えば砦は何とか死守出来ると思われた。
だが……
不思議な事に、王国軍は北方砦の手前10㎞にて行軍を止めた。
そして、その場にて野営を始めたのである。
このままでは、北方砦は確実に落ちる……
しかし何故か……救援に来た筈の王国軍は、全く動こうとしなかったのである。
『魔境』と呼ばれる、人間にとっては未開の大地が広がっている。
殆ど人が住まず、広大な森林と草原が占め、様々な動物が主な住人であった。
数多の魔族、魔物も跋扈する。
ラウルス王国内にも、数種類の魔物は存在した。
だが……
猿のような顔をした身長1m程度の人型魔物、ゴブリンが最強であり、強靭な王国騎士隊の前では全く脅威とはなりえなかった。
しかし魔境に生息する魔物は、強さの桁が違う。
魔境においてはゴブリンなど最弱の雑魚であり、他の魔物の単なる餌に過ぎないのだ。
そして餌となるのは、人間も全く同じ……
この怖ろしい魔境とラウルス王国の国境で、連日、激しい戦いが繰り広げられていた。
ただでさえ身体能力に優れた魔物なのに、攻め寄せた数でも常に圧倒的に勝っており、守備側の人間は押されっ放しであった……
そして今日もまた、命を懸けた戦いが始まっていた……
命令と答える声、そして鬨の声。
怒声、悲鳴、断末魔……あらゆる声が交錯する。
そして人外共の咆哮が!
「ひるまず、持ちこたえよっ!」
「ああ、ここを突破されたら、きついぞっ」
ごわはぁぁぁぁあああっ!!!
「ぎゃああああっ!!!」
「うわぁ、コームが! コームがやられたっ!」
「畜生! も、もう捕まって、く! 喰われているっ!」
「ああ、コ~ム~っ!!!」
「く、くそ~っ! 奴等、許せねぇっ!」
「敵討ちだっ!!!」
戦況は一進一退であったが、やがて……
「ロック! 撤退! 総員の撤退を命じろ!」
「隊長! 了解っ! 全軍たいひ~! たいひ~っ!!」
大きな声で、指揮官の命令が下り、即座に副官の声が応える。
年齢身分は全く違うが、しっかり統制されたらしい守備隊は、さっと後退した。
後には、力尽き命を失った無残な死体が、いくつも残された……
だが退避する兵達には、同胞の死体を回収するどころか、弔う間もない。
圧倒的な数の魔物の前には、ほんの少数の人間など……無力であった。
愚図愚図していると、自分さえも喰われてしまう。
兵達は、僚友を失った悲しみと辛さを必死に堪え……撤退したのである。
魔境とラウルス王国の国境を接する場所にさして大きくない砦が築かれていた。
ラウルス王国所属の『北方砦』と呼ばれる城塞だ。
守備の任に就く兵士は約300人足らず……
丸太を二重に組んだ簡素な二段階の柵が、何とか敵の侵入を阻んでいた。
当然ながら、国境など人間が決めたモノ。
動物は勿論、魔物にとっては全く関係がない。
果断なく侵入を図る魔物と、砦の守備隊は絶え間ない戦いを繰り返していたのだ。
襲来する魔物は強力で、守備隊の兵士は常に生命の危機にさらされており、赴任期間を全うして故国へ帰還出来るのは、全兵士のうち僅か3割に満たなかった……
そのように過酷な任地である。
王国中、希望者を探しても、誰もが行きたがらない。
行きたがるわけがない。
わざわざ、自ら命を捨てに赴くわけがないのだ。
そんな事情から300人の兵士の半分は高額な金で雇われた傭兵、残り半分は重罪人という構成であり、正規の兵士は殆ど居なかった。
しかし、彼等は必死に戦った。
唯一の命と引き換えに支払われる相当な金、もしくは恩赦を獲得する為に。
その砦が……今、滅亡の危機に瀕していた。
このところ魔物の襲撃の頻度が急にあがっただけではなく、何か明確な意思を持つかの如く国境を侵そうとしていたのだ。
今回、攻め寄せたのは、何とオークの群で約3,000体。
砦を守る兵士のゆうに10倍以上、今迄に例を見ない規模であり、とんでもない大群であった。
オークは身長2mを越す、豚のような顔をした人型魔物である。
人間の約10倍と言う、とてつもない膂力を誇るオーガほどではないが……
並みの人間の数倍近い力を誇るし、ある程度の知能も有している。
オークもオーガや他の魔物同様、人間を餌とし、好んで喰らう。
砦を攻め、国境を侵そうとするのは……
実は彼等にとって砦への襲撃は、単に縄張りを広げるだけでなく、『食糧』の調達でもあるのだ。
守備隊とオーク共の間で激戦が展開されたが、多勢に無勢。
約1か月は……何とか持ちこたえた。
守備隊は砦を頼んで必死に戦ったが、既に第一の柵は突破された。
柵が突破されると、オークの群れは勢いに乗って、すぐ第二の柵まで攻め寄せて来た。
またもや激戦が繰り返された……
度重なる戦いで、戦死者が相次ぎ、残った兵士の数はもう100人を切っていた。
……この第二の柵が打ち壊されれば、砦が落ち、オークの群れが王国内へなだれ込むのは時間の問題であった。
当然、北方砦は王国へ緊急事態の連絡を入れた。
緊急の魔法鳩便を、王都へ送ったのである。
連絡を受けて、そんなに時間を置かず王国軍3,000人の部隊はやって来た。
歴戦の騎士500人を中心とした、屈強な部隊である。
熟練の弓隊500人も含まれていたので、すぐ北方砦の守備隊と合流して戦えば砦は何とか死守出来ると思われた。
だが……
不思議な事に、王国軍は北方砦の手前10㎞にて行軍を止めた。
そして、その場にて野営を始めたのである。
このままでは、北方砦は確実に落ちる……
しかし何故か……救援に来た筈の王国軍は、全く動こうとしなかったのである。
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