悪魔☆道具

東導 号

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大地を砕く魔剣編

第7話「報酬」

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 元気を取り戻したジャンは、身振り手振りを交えて、熱弁していた。
 話す内容は無論、魔剣カラドボルグへの賛辞だ。

「あんたの言う通りだ、バルバ。すげぇ……威力だった、カラドボルグ」

「ははは、俺は嘘を言わない」

「おお、そうだな。迷宮でどんな奴と戦っても無敵だった。血糊もあっという間に消えるし、オーガの堅い皮膚を斬っても刃こぼれひとつもねぇ」

「そうだろう、そうだろう」

 ジャンの話を聞くバルバは、満足そうに何度も頷いていた。
 自分の持つ魔道具の素晴らしさを認められると嬉しいらしい。
 
 片や、カラドボルグの使用感を話すジャンの口調は、冷めるどころかますます熱を帯びて来る。

「遠く離れた敵も、隠れている奴も、あっという間に木っ端微塵だ! ぶちゃっと一発で肉片さ! ホント凄すぎる!」

 更にジャンの説明は、迷宮に出現した敵を一体どのように倒したか、具体的になって行く。
 戦いの様子を聞きながら、バルバはにやりと笑う。

「うむ、お前も漸く、この魔剣の素晴らしさが分かったようだな」

「ああ、文句なしだ! あとさ、念動力を使い過ぎて魔力切れ? ぶっ倒れそうになった事もあったけどさ……何とか地上へ戻れたよ……以上さ」

 一気に喋った感のある、ジャンの話が終わった。
 しかし助かりたい一心でひたすら進んだ為か、重大な疑問にジャンは気付いていなかった。
 深い広大な迷宮で、出口への方向も、シーフが居なくて罠を避ける勝手も何も分からない彼が……
 何故地上向かって、一切迷わず、障害物に遮られずに進めたのか?
 それが実はバルバのお陰だと、ジャンは気付いていなかったのだ。

 まあバルバが、ジャンを助けたのは情けをかけたからではない。
 単に、「剣を回収しに行くのが面倒だった」だけである。

 閑話休題。

「ふむふむ……成る程」

 話の始められてから、バルバはずっと熱心にメモを取っていた。
 ジャンの戦いぶりを、詳しく記しているようだ。

「バルバったら、何? 珍しくマメね~」

 いつの間にか、ツェツィリアが傍らに立っていた。
 バルバが羽ペンで、いろいろ紙に書き込むのを、熱心に眺めている。

 しかしバルバは、振り向かずに首を横に振る。

「いや、ツェツィリア。マメとかではない、俺の記憶力ならメモなど取らんで問題ないが……次に誰かに貸す時に、いちいち説明するのが面倒だ。これがあれば、見せるだけで済む」

「あ~あ、だと思った」

「…………」

 まるで、漫才みたいなバルバとツェツィリアの掛け合いである。
 ジャンはつい、「ぼうっ」として見つめていた。
 バルバが向き直って、ジャンの肩を叩く。

「ジャン、お前は良くやってくれた。お前みたいな下級冒険者であっても、この剣は使いこなせる事が証明されたからな」

「お前みたいな下級冒険者? 一応、俺だって10年以上冒険者やっているんですよ……」
 
 ジャンが嘆くのも無理はない。
 10年の冒険者キャリアはけして短くはない。
 そもそも冒険者は体力が勝負。
 基本、若いうちしか出来ない職業なのである。

 ちなみに、冒険者ランクは最高がSで、最低がF。
 
 10代を少し超えた頃、ジャンは冒険者ランクFとしてデビューした。
 E、D、とランクを上げて来て、現在はCランク。
 そろそろB以上の上級ランカーに手が届く、中堅クラスの冒険者なのである。

 ジャンは項垂れ、大きくため息をつく。

「むう、良くやったと言いますけど……バルバさんは、俺の事、全然褒めてないっすよね」

「いや俺なりに褒めている。無事、地上へ帰還してくれたお陰で、お前の死体を探しに迷宮へ行かずに済んだ」

 死体を探しに行かないで済む?
 それって、俺がもし死んでも、全然気にしないって事?

 バルバの冷淡さは、何となく分かっていながらも……
 こんなデリカシーのない、ストレートな事は普通の人間は言わない。

 がっかりしたジャンは、大きくため息をつく。

「はぁ…………」

「それに、今後この剣を別の者へ貸与する際に、参考にして貰えるからな」

 バルバは今後カラドボルグを、他の客へも貸して行きたいらしい。
 でも、ジャンにはもう関係がなさそうだ。
 
「ですか……そりゃ良かったっすね」

「ふむ、話は済んだ。さて、お前に礼をしよう……いわゆる報酬だ」

「へ? 報酬をくれるんですか? おおお、やった!」

 報酬?
 稼業として冒険者の癖で、仕事をした礼が貰えると聞き、ジャンの目が輝いた。

「ああ、お前と、確かに約束した」

 いつの間に?
 どこから?
 
 目の前のテーブルには、「どさっ」と置かれた真っ黒な革袋があった。
 大きさは、それほどでもない。
 
 手品のような状況に、ジャンは吃驚した。
 置かれた音を聞くと、どうやら中身は金らしい。

「こ、こ、これは!?」

「僅かだが、中に金貨が100枚入っている。それとこれも礼だ」

「は?」

 驚くジャンの目の前に、これまた手品のように、ひとふりの剣が出現していたのであった。
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