上 下
193 / 205

第193話「モーリスさんの告白」

しおりを挟む
 モーリスさんの店で彼の打ち明け話を聞いている俺達……
 当然の事ながら、店内に他の客は居ない。

 モーリスさんが話すのは、この世界の古代史そのものだ。

「我がガルドルド魔法帝国と悪魔との大戦の末期、反撃に転じた悪魔軍の猛攻撃を受け、我が帝国軍は防戦一方、その上連戦連敗であった……ガルドルド王都まで撤退して態勢を立て直そうとしていた矢先、俺と皇帝専属の帝国親衛隊は奇襲を受けてしまった」

 モーリスさんは遠い目をして「ふう」と息を吐いた。
 余程、怖ろしい経験だったに違いない。

「ふいを衝かれた帝国親衛隊はほぼ壊滅……俺は残った僅かな供に守られていたが、更に大悪魔の攻撃魔法を受けてしまい、全身に激痛を感じて、そこで意識が無くなった……多分身体も残らず、あっさりと死んだのであろう」

 『兄』から、彼が死んだという部分を聞いた時、やはり辛く無念だと感じたらしい。
 ソフィアの目には、大粒の涙が溢れていた。

「それから……俺はどうなったのか……意識が戻って気が付くと見知らぬ国の平民の、幼い子供として暮らしていた」

「見知らぬ国の平民?」

 思わず俺が聞くと、モーリスさんはにっこりと笑う。

「ああ、死んでから数千年後の未来……ここヴァレンタイン王国の王都セントヘレナの市民街だったのさ」

 これって……
 俺とはまた違った転生の経験だな。
 今度、邪神様の許可を貰って、モーリスさんへ俺の経験をカミングアウトするのも良いかもしれない。
 俺にとってモーリスさんは『兄さん』であり、『転生の先輩』なのだから。

「何故か……幼い子供の俺に前世の記憶と知識はそのままあった。だが平凡な平民の子供に何が出来る?」

 皇帝としてガルドルド魔法帝国の再興という使命も頭を過《よ》ぎったのだろう。
 しかし、それをやるには環境が伴っていなかったという事だ。

「だから前世とは全く違う人生を歩もうと決めたんだ。しかし、ただ平凡な人生も御免だった」

 以前、ソフィアから聞いた事があった。
 兄の帝国皇帝は魔法の能力はそこそこだったが、非常に優れた錬金術師であった事を。
 だけど、まさかタトラ村のモーリスさんがソフィアの兄だなんて、俺は思いも及ばなかった。

 俺がそんな事を考える中、モーリスさんの話は淡々と続いている。

「だから俺は持っていた錬金術の知識を活かしてセントヘレナで錬金術師になった。現在の錬金術は、ガルドルドの頃と比べはっきり言って退化していた。だから俺は行けると思った」

 確かに!
 未来からタイムスリップした、某医療漫画の逆みたいなものだ!

「逆に目立ち過ぎてもまずいから、俺は不自然にならないように知識を小出しにしながら、高みを目指して行った」

 転生したアレクサンドル少年の優れた才能を知った両親は素直に喜んでくれたらしい。

「俺は地道に頑張ったよ。そうしたらある程度の財産を作る事が出来たんだ。その金で俺を可愛がってくれた『こちらの両親』には充分に恩が返せた。ふたりとも豊かで充実した人生を自慢の息子から与えて貰って満足して亡くなった」

 しかし、両親が亡くなると、アレクサンドル青年の目的は無くなってしまったらしい。
 いわゆる生きがいが無くなってしまったという奴だ。

「当時は愛する人もおらず、もし居ても自分の秘密を告げる事が出来る人など現れないと思っていた。そうしてこうして時が過ぎ……あっという間に15年……俺は虚しくなったのさ」

 生きがいもないまま、時間だけが過ぎて行く。
 そんな毎日が嫌で厭世的になったのだろうな、モーリスさん。

「それでこの村へ?」

「ああ、転生したこちらの母親の出身地が、このタトラ村だった。俺は王都での生活に疲れて、もうただただ静かに暮らしたいと思っていた。だから村へ貢献出来る万屋《よろずや》を開いて、世捨て人みたいに暮らし始めたのさ」

 ふ~ん……
 この村で万屋をやっているのは、そんな理由わけだったんだ。

「この村の暮らしはそれなりに面白かった。地味で平凡ながら平和で……何気ない村人とのやりとりも楽しくて、な」

 そんなモーリスさんの日々に変化が生じたのはどうしても処分出来なかった錬金術の道具を見てからだという。

「だけど……このままで良いのか? と考えて、錬金術の実験を密かに再開した。もっともっと村の役に立とうと、な。俺がこの時代に転生した意味を改めて考え出したのさ」

 投げ遣りになっていたモーリスさんは、再びこの世界で生きる意味を見出そうとしていたのだ。

「そこへ……トール。お前がジュリアちゃんと一緒に現れた。覚えているかい?」

 確かジュリアは……「人生を投げ捨てる人なんて嫌いだ!」と言ったっけ。
 俺がそう言うとモーリスさんは頭を掻いた。
 そして照れたように、笑ったのである。

「ジュリアちゃんのきついひと言で完全に目が覚めた。俺は絶対にやり直そうと決めたんだ」

 モーリスさんの顔は晴々していた。

「ありがとうございます! お話して頂いて!」

 その瞬間。

「あああ、兄上ぇ!!! あおう、あおう! うわああああ~ん!」

 ソフィアが大声で泣き出すと、モーリスさんに飛びついたのである。
 本当の身体が復活して俺に縋って号泣した時と同じだった。
 この世界でたったひとりの肉親の兄が……姿形は違えど生きていたのだ。
 こうなるのは……当り前だろう。

「今度は俺の話を聞いて貰えますか? ソフィアと出会った時の事、そしてこれからの事……」

 そんな俺の問い掛けに対して、泣きじゃくるソフィアの背中を優しく擦《さす》りながら、モーリスさんは笑顔で頷いたのである。

 ――1時間後

「そうか……ありがとう、トール! そして皆さん! 改めて礼を言おう。本当にありがとう!」

 モーリスさんは、俺と嫁ズへ深く頭を下げた。
 そして前世での怨みつらみや蟠りを捨てて、この世界の為に協力してくれる事を約束してくれたのである。
 その証拠が、悪魔であるイザベラとの握手と約束だ。

「俺も仲間に入れて欲しい! 宜しく、イザベラ!」

「ああ、こちらこそ! お兄様」

 ああ、良かった!
 当事者同士は大変だろうが……
 やはり歩み寄らないと!
 恨みを忘れず、争い続けていては何も生まれない。
 現在のような世界の危機みたいな緊急時には尚更だ。

 トントントン!

 あれ? 誰かが店の扉をノックしている。
 閉店中の看板を出して置いた筈なのだが……
 この魔力波オーラは?

 扉を開けてそこに立っていたのは……俺達を呼びに来たジェマさんであった。

 しかし少し様子がおかしい?
 俯いたジェマさんの顔が何故か赤いのである。

「ええっと、俺達……実は……結婚したんだ」

 今度はモーリスさんが、さっきとはまた違った衝撃の告白をした。
 ジェマさんも黙って、こくりと頷く。
 まるで、初心うぶな少女のように、恥ずかしそうにしてる。

 ななな、何ですと!?

 俺達はいきなりのとんでもない展開に驚いて、全員口をあんぐりと開けていたのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

追放もの悪役勇者に転生したんだけど、パーティの荷物持ちが雑魚すぎるから追放したい。ざまぁフラグは勘違いした主人公補正で無自覚回避します

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
ざまぁフラグなんて知りません!勘違いした勇者の無双冒険譚  ごく一般的なサラリーマンである主人公は、ある日、異世界に転生してしまう。  しかし、転生したのは「パーティー追放もの」の小説の世界。  なんと、追放して【ざまぁされる予定】の、【悪役勇者】に転生してしまったのだった!  このままだと、ざまぁされてしまうが――とはならず。  なんと主人公は、最近のWeb小説をあまり読んでおらず……。  自分のことを、「勇者なんだから、当然主人公だろ?」と、勝手に主人公だと勘違いしてしまったのだった!  本来の主人公である【荷物持ち】を追放してしまう勇者。  しかし、自分のことを主人公だと信じて疑わない彼は、無自覚に、主人公ムーブで【ざまぁフラグを回避】していくのであった。  本来の主人公が出会うはずだったヒロインと、先に出会ってしまい……。  本来は主人公が覚醒するはずだった【真の勇者の力】にも目覚めてしまい……。  思い込みの力で、主人公補正を自分のものにしていく勇者!  ざまぁフラグなんて知りません!  これは、自分のことを主人公だと信じて疑わない、勘違いした勇者の無双冒険譚。 ・本来の主人公は荷物持ち ・主人公は追放する側の勇者に転生 ・ざまぁフラグを無自覚回避して無双するお話です ・パーティー追放ものの逆側の話 ※カクヨム、ハーメルンにて掲載

異世界あるある 転生物語  たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?

よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する! 土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。 自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。 『あ、やべ!』 そして・・・・ 【あれ?ここは何処だ?】 気が付けば真っ白な世界。 気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ? ・・・・ ・・・ ・・ ・ 【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】 こうして剛史は新た生を異世界で受けた。 そして何も思い出す事なく10歳に。 そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。 スキルによって一生が決まるからだ。 最低1、最高でも10。平均すると概ね5。 そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。 しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。 そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。 追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。 だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。 『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』 不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。 そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。 その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。 前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。 但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。 転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。 これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな? 何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが? 俺は農家の4男だぞ?

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

47歳のおじさんが異世界に召喚されたら不動明王に化身して感謝力で無双しまくっちゃう件!

のんたろう
ファンタジー
異世界マーラに召喚された凝流(しこる)は、 ハサンと名を変えて異世界で 聖騎士として生きることを決める。 ここでの世界では 感謝の力が有効と知る。 魔王スマターを倒せ! 不動明王へと化身せよ! 聖騎士ハサン伝説の伝承! 略称は「しなおじ」! 年内書籍化予定!

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

処理中です...