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第192話「驚きの再会」

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「はぁ!? わらわは、そなたのような親爺など全く知らぬぞ」

 モーリスさんから、いきなり名前を呼ばれたソフィアは首を傾げた。
 全然、心当たりが無いらしい。
 ソフィアの無反応振りを見たモーリスさんは、何故か納得顔だ。

「……ああ、そうか! まあこの風体ではすぐに分からないだろうな」

「???」

 モーリスさんがぽつりと呟くが、相変わらずソフィアの頭の上には?マークが飛び交っている。
 怪訝な表情で、睨んでいるだけだ。
 首をゆっくり横に振ったモーリスさんは苦笑し、息を整えた。

「コホン! ええと……余は栄光あるガルドルド魔法帝国皇帝アレクサンデル・ガルドルド也!」

 何を言うのかと思ったら……
 モーリスさんがガルドルド魔法帝国皇帝???
 何じゃ、そりゃ!
 
 そしてアレクサンデルって何???
 凄~く恰好良い名前だけど、はっきり言って似合わねぇ。
 名前と顔が一致しない。
 
 そもそも皇帝って!?
 俺はソフィアの身内だぞ! って事だろうか?

 モーリスさんのとんでもないカミングアウト? に思い切りドン引きしたのであろう。
 彼を見るソフィアの視線は一気に冷たくなり、口元は呆れたような笑みが浮かんでいた。
 「笑うに笑えない冗談を言うな!」という顔だ。
 当然、出てくる言葉もきつい。

「……悪いが、良い齢《とし》をした親爺の、それもくだらない茶番に付き合っている暇はないぞ。さっさと旦那様との仕事を終わらせてはくれまいか、商店主よ」

 兄? どころか、完全に他人扱いが炸裂している。
 モーリスさんはソフィアの反応に吃驚して、あんぐりと口を開けていた。

「はああっ!? おいおいソフィア! 俺の言う事を信じてくれないのかよ!」

 ソフィアは……大きな溜息を吐いた。
 そして「もう、いい加減にして欲しい!」という雰囲気で、厳しく言葉を返したのである。

「当たり前じゃ! アレクサンデル様は確かに我が兄上であり、ガルドルド魔法帝国皇帝の名じゃ! だが兄上は世界でも有数の超美形! 全世界の国の王女、誰もがため息をつくような、妾の憧れの男子であった。お前のような汚く足が臭そうな、むさいおっさんとは違うのじゃ!」

 ああ、昔の兄との思い出を語るソフィアは、遠い目をして夢見る少女のようだ。
 これってかつてのフレデリカのようである。
 俺が思わずフレデリカを見ると、たまたま目が合ってしまった。
 案の定、彼女は苦笑している。

 片や、モーリスさん。
 愛する妹からスーパーショッキングな言葉を投げ掛けられて、茫然自失という感じである。

「俺が汚く足が臭そうな……むさい……おっさん……」

「そうじゃ! 鏡をよ~く見てしっかり自覚せい! どうせ、どこぞで手に入れた古文書か何かで兄上の名を知り、『語り』を行って来たのであろう?」

「…………」

 ああ、容赦ないソフィアの口撃……
 可哀想なモーリスさんは俯いてしまっている。
 しかし、ソフィアの追撃はやまない。

「お前がこれ以上、酷い『語り』をするのであれば容赦はせぬ。我が旦那様と一緒にお仕置きをさせて貰うぞ。兄上の名誉というものがあるからな」

 ここで……
 さすがにモーリスさんの堪忍袋の緒が切れた様である。

「ぐぐぐぐぐ……ソフィアぁ! 言わせておけばぁ!」

 モーリスさんが怒りの言葉を発したが、ソフィアは全く意に介していない。

「何じゃ? やるつもりかの! 旦那様、懲らしめの為にこの詐欺親爺を一発殴ってはくれまいか!」

 は!?
 ここで、いきなり俺に振る?

 だけど……

 あまりに凄い会話の内容だったので、気になった俺はソフィアとモーリスさんが話している間、色々と調べている。
 俺の特技である魔力波《オーラ》読みを使ってね。
 そしてまず、はっきりした事があった。

 それは……

「え? 嘘を言っていない? この汚い親爺が?」

 俺の言葉を聞いたソフィアは愕然としている。
 使徒として覚醒しつつある、俺の魔力波オーラ読みから得る情報が疑う余地はないと知っているからだ。
 
 俺はもう1回念を押す。

「ああ、この人、モーリスさんは全然嘘を言っていないよ」

 俺が擁護したので、モーリスさんは「うんうん」と頷いている。

「そうだ! 俺はさっきからお前の兄だ! とこれほど言っているのに…… だったら良い! 証拠を出そうじゃないか、俺とお前だけの秘密を喋ってやるぞ!」

「え? ひ、秘密!? ま、まさか? なんの話だと言うのじゃ!」

 モーリスの反撃に対して蒼ざめるソフィア。
 『秘密』と聞いて何か心当たりがあるようだ。

 ソフィアの秘密?
 一体、何だろう?
 果たしてこの人は本当にソフィアの兄なのだろうか?
 でも魔力波オーラを見る限りモーリスさんは嘘を言っていないんだよな。

 あたふたするソフィアを見た俺は、思わず『秘密』を聞こうと耳を澄ませていた。

「ソフィアが5歳になった朝!」

 モーリスさんが話を切り出した。
 どうやら、ソフィアが幼い頃の話らしい。
 だが、ソフィアの反応がモノ凄い。
 今迄の冷淡な彼女と大違いだ。

「は!? ななな、何じゃあ!?」

「こいつは中々起きて来なかった! 俺が心配して見に行くと……もじもじしたソフィアがベッドに座ったまま、俯いていて兄上……粗相をして御免なさいと……」

 ここでいきなりソフィアが大きく手をぶんぶん振って、モーリスさんの話を止めに掛かる。
 誰から見ても慌てているのが、丸分かりであった。

「わああああああっ! わ、分かった! たたた、確かに兄上じゃ! あああ、貴方は間違いなく妾《わらわ》の兄上じゃ!」

「ふん! ようやく分かったか!」

 勝ち誇る? モーリスさんに俺も何となく頭を下げた。
 何か事情があるようだが、ソフィアの肉親が生きているのは喜ばしい。
 そう、俺は思うもの。

「モーリスさん、貴方の素性を詳しく話して貰えないか? 俺もソフィアと出会った話をするから……」

「ああ、トール……お前が我が妹を助け出し、幸せにしてくれたんだろう? ジュリアちゃん同様に、な。――本当にありがとう!」

 モーリスさんは、心の底から嬉しそうな笑みを浮かべて俺に礼を言う。

 それは兄として最愛の妹に再会出来た事、そして彼女が幸せ一杯なのを見て満足したのに他ならなかったのだ。
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