真☆中二病ハーレムブローカー、俺は異世界を駆け巡る

東導 号

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第189話「悪魔王女の啖呵」

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「ずいっ」と前に出たイザベラ。
 彼女を見たジュリアの父エドヴァルドは驚愕した。

「むむむ、娘っ! おおお、お前は! も、も、もしやっ!?」

 何故、エドヴァルドはイザベラに気が付かなかったのか?
 イザベラが魔力波オーラを極力押えていたのもある。
 加えてエドヴァルドは俺とジュリアに集中し過ぎていて、他の嫁ズに対して全く注意を払っていなかったせいもあった。

 イザベラは、不敵に笑う。
 まるでエドヴァルドを、わざと挑発しているようでもある。

「そう! 私は悪魔だよ! 竜神族のおっさんなら私の正体が分かるだろう?」

 さらっとカミングアウトしたイザベラに対して、今度はジェマさんが吃驚する。

「あ、悪魔ぁ!? ひ、ひええええっ!?」

 悲鳴をあげるジェマさん。
 普段は滅多に動じないジェマさんでさえ、どうやら腰をぬかしてしまったようだ。
 やはり人間にとって悪魔は恐怖の対象だから。

 そんなガクブルのジェマさんをスルーして、イザベラはエドヴァルドを見据え、名乗る。

「ははん! 私は悪魔王アルフレードルの娘イザベラさ!」

「ぐぐぐ……な、何故!」

 何故!?
 悪魔が!?

 エドヴァルドの顔には、はっきりそう書いてあった。
 こうなると完全にイザベラのペースである。

「見りゃ分かるだろう? 私がトールの第二夫人さ! そしてあんたの娘ジュリアは第一夫人! この意味が分かるかい? おっさん!」

「むむむ……」

「私はね……いや、私達はね! 皆、ジュリアを認めているんだ! 第一夫人として私達大勢の妻をきちっとまとめてくれる器量をさ。それだけじゃない、私達は全員ジュリアが大好きなんだよ!」

 皆がジュリアを認めている!
 全員、ジュリアが大好き!

「イザベラ……」

 熱く語るイザベラの姿を見て、ジュリアが唇を噛み締めている。
 どうやら胸が一杯になっているらしい。

「ううう……」
 
 片や、エドヴァルドはイザベラから一方的に攻め込まれて言葉が出てこないようだ。
 ここでイザベラは、エドヴァルドに止めを刺しにかかる。

「大事な家族なんだよ、ジュリアは! 凄く大事な、ね! 彼女を奪おうとするなら、おっさん、覚悟しなっ! トールだけじゃない! 私達妻はあんたを絶対に許さないよ!」

「イイイ、イザベラ……あううう、あああ、ありがとう!」

 イザベラの言葉を聞いたジュリアはもう泣き崩れてしまっていた。

 家族!
 何という、一体感のある言葉だろう。
 
 しかしイザベラの正論の前に、反論出来ないエドヴァルドが遂に『切れて』しまう。

「ぬぬぬ、だ、黙れ! 黙れぇ! お前達など、私が竜化してこの村ごと捻り潰してやるっ!」

 竜化とは……
 先程ジェマさんから聞いた、竜神族が本来の姿に戻る事。
 恐ろしい巨大な竜になる。
 彼等竜神族、最後のバトルモードなのだ。
 
 でも!
 竜化して、怒りの余り、このタトラ村ごと潰す!? だとぉ!
 何、馬鹿な事言ってるんだよ。

「お、お父さんっ、やめてっ!」

 ジュリアがハッとして止めようとする。
 しかし興奮するエドヴァルドは収まらない。

「うるさいっ、黙れ! 皆殺しだっ」

 怒り狂う竜神王の前で、イザベラは限りなく冷静だ。
 動揺するどころか、大きな声で啖呵を切ったのである。

「言うに事欠いて……あんた……最低だよ、おっさん!」

「な、何いっ!」

「私はね、あそこに居るおばさんの話を聞いた時、あんたを凄く尊敬したんだ」

「そ、尊敬!?」

 驚くエドヴァルドに対して、イザベラはいかにも残念そうな表情だ。
 悪魔族は力を信奉する。
 エドヴァルドが単身、100体の竜へ立ち向かったのを聞いて感動していたに違いない。
 しかし!
 憧れ、尊敬していた相手が実は最低だった!
 そんな顔付きだ。

「ああ、そうだよっ! 素晴らしいじゃないか? 竜の大群の前にたったひとりで身を挺するなんて! だから尊敬したんだ。自分の命も顧みず、大事な家族を守ろうとする傷だらけのあんたの姿が目に浮かんだからね」

「むうううっ」

「それがどうだい、今のあんたは娘の気持ちを無視して、私達家族の絆を引き千切ろうとする、ただの汚らわしい邪竜さ!」

 邪竜!
 すなわち邪悪、よこしまで腐れ切った竜。
 イザベラは多分知っていたのだろう。
 邪竜とは、竜神族にとって最大の屈辱を与える言葉である事を。

「うぐううう、よりによって邪竜だとぉ! いいい……言わせておけばっ!」

「ああ、何度でも言ってやるっ! もしジュリアを無理矢理連れ去ろうとするなら、私達悪魔族は竜神族に容赦なく宣戦布告するからね!」

 宣戦布告!
 それは全面的な戦争の開始を意味する禁断の言葉である。
 イザベラは聡明な女の子だ。
 決して戦争をしたいわけではない。
 これはエドヴァルドの理不尽な行いに対するイザベラの覚悟を告げる言葉なのだろう。

「な、何っ!」

「いくら竜神族が強くても悪魔はあんた達の1億倍以上は居る。勝てるわけないよ、一気に嬲り殺しさ!」

「くくく、糞っ!」

 悔しがるエドヴァルドに対して、ソフィアがきっぱりと言い放つ。

「ちょっと待った! 悪魔だけではないぞ! 妾《わらわ》の命令ひとつでガルドルドの精鋭鋼鉄の巨人ソルジャーゴーレム軍団一万体も竜神族の国へなだれ込むだろう」

「ななな、ガルドルド!? だとぉ!」

 エドヴァルドも、当然失われた魔法帝国ガルドルドの名前は知っている。
 だが、滅びた国が何故自分達へ攻撃を仕掛けるか、すぐに理解が出来ないのだ。
 ソフィアは美しい金髪をなびかせ、にやりと笑う。

「よっく聞け! 竜神よ! 妾《わらわ》こそトールの第三夫人ガルドルド魔法帝国王女ソフィア・ガルドルドじゃあ!」

 こうなると負けてはいられない!
 アマンダが妹のフレデリカを促した。

「うふふ、フレデリカ! 私達アールヴの事もしっかりとアピールしてっ!」

「そうですっ! フレデリカ様!」

 アマンダに続いて、ハンナにもお願いされたフレデリカはぐっと胸を張る。

「OK! 良く聞いて、おじさま! ジュリア姉を無理矢理連れて行くなら私達アールヴも竜神族への討伐隊数十万を出しますわよ! 私がお爺様にちょっとお願いすれば、すぐに命令を出して貰えるわ!」

 ここでフレデリカの素性を言うのは、侍女ハンナの役回りだ。

「竜神! このフレデリカ様はな! 恐れ多くもアールヴ史上最強のソウェル、シュルヴェステル・エイルトヴァーラ様の孫娘であらせられるのですよぉ!」

「な!? ソウェルの孫娘だとぉっ!?」

 嫁ズの一斉攻撃に対して、エドヴァルドは自陣を支えきれずに混乱する。

「うくくくく! お前達! い、一体お前達は何者なんだぁ!」

 エドヴァルドの問い掛けに、「待ってました」とばかりにイザベラが答える。

「おっさん! 良く聞きな! 私達の名はクランバトルブローカー! この世界の神スパイラル様の使徒トール・ユーキを夫に持つ女達だ!」

「ななななな! ススス、スパイラル様だとぉ!」

 今迄にない驚きで、エドヴァルドは軽いパニックに陥った。
 ああ、ここで来たか、俺のカミングアウト。

「そうだよ、おっさん! トールはね! この世界の管理神スパイラル様の使徒なんだよ」

 言い切るイザベラの顔をエドヴァルドはまじまじと見つめている。

「神の使徒が……何故、悪魔を! 悪魔を妻になどしている!?」

 確かに誰もが疑問に思うだろう。
 神の使徒の嫁が悪魔王女だなんて!
 しかしイザベラはエドヴァルドこそが、答えを理解していると告げたのだ。

「それは竜神! あんたが1番分かっている筈だよ」

「私が……1番……分かっている?」

 エドヴァルドは漸く落ち着いたようである。
 そして暫し、考え込んだのだ。
 
 ここでイザベラはピンと指を鳴らす。
 考え込むエドヴァルドへ、ヒントを与えるつもりらしい。

「そうさ! あんたが人間であるジュリアの母親を妻にした時、そんな疑問や迷いがあったのかい? 出会い、好きになり……愛していた……からだろう?」

「…………」

 もうエドヴァルドは反論しなかった。
 沈黙は肯定の証であり、イザベラの言葉を完全に受け入れた証明でもある。
 脱力したエドヴァルドの顔付きを見たイザベラも、穏やかな表情に変わって行く。

「うふふ、トール! このおっさん……いや、ジュリアの親父さんと勝負して納得させてあげなよ! 私やアモンを納得させたみたいに、さ」

「イザベラやアモンを納得させた? あ、ああ……あの方法か」

「そうだよ! あの方法さ!」

 イザベラの提案したエドヴァルドとの『決着のつけ方』を瞬時に理解した俺は、大きく頷いていたのであった。
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