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第184話「エイルトヴァーラ家の支配者」
しおりを挟む いろいろと紆余曲折あったが……
俺達はペルデレの迷宮を『クリア』し、アールヴの街ベルカナへと戻って来た。
ベルカナへ戻ったのは、マティアスから受けた依頼完遂の為である。
そして行方不明だった者達の帰還の付き添いも含めて。
帰還者はアールヴ族がアウグスト・エイルトヴァーラを始めとした82人、そして人間族が50人ちょい……
人間があと30人ほど残っているが、余りにも多いと目立ち過ぎるのでほとぼりが醒めたら、段階的に少人数で戻って貰う。
ちなみに……
説明する際に必要な、不明者の発見状況についてもしっかり考えた。
行方不明者達は不思議な『異界』に繋がった迷宮を彷徨っていた……
俺達クランとフレデリカ、ハンナが彼等を『偶然』発見し、色々と苦労したものの無事に連れ帰ったという設定にしたのだ。
じゃあ、その異界って何? どのようになっているの? もう安全なの?
って根掘り葉掘り聞かれるだろう。
しかし、不可思議な異界が何故あるのか等の原因も含め、仕様は一切理解出来ないと突っぱねる。
いくら聞かれても『不明』とするよう意思統一をしたのである。
現在、ペルデレの迷宮の入り口は封鎖されてはいないが、この近辺では怖ろしい魔窟として知れ渡っているので、新たに入る馬鹿は滅多に居ない。
ただへそ曲がりの『変わり者』が踏み込まないよう、念の為に地下4階の『転移門』は封鎖した。
なので……
ガルドルドの『秘密』が眠る地下5階以降へ進む事は、絶対に出来ない。
こうして、行方不明者を連れた俺達クランは一挙に英雄となった。
まず、正門のアールヴ衛兵達に吃驚されたのは言うまでもない
何せ、総勢140人近い大所帯なんだから……
アールヴの上級貴族達は、ほぼ絶望視していた自分の身内が無事に戻って来たので狂喜乱舞して歓迎してくれた。
上から目線で排他的な彼等でも、さすがに身内を命懸けで救った事にはとても感謝してくれたのである。
そして……ここはマティアス・エイルトヴァーラ邸……
アールヴでも十指に入る、大貴族の屋敷は超豪華であった。
多分、敷地だけで超高層マンションが20棟以上楽に立ちそうな広大さだ。
マティアスは、予想以上に大喜びしてくれた。
依頼のあったフレデリカは勿論の事……
完全に諦めていた跡取り息子のアウグストも傷ひとつなしで無事に連れ帰ったのだから、当然といえば当然である。
いつものクールでダンディな雰囲気など、さっさと豚にでも食わせろというくらいの豹変ぶりであった。
号泣! 号泣! また号泣!
喜びのあまり、大泣きするマティアスは兄妹の名を叫ぶ。
興奮して、鼻水まで垂らしている。
逆にマティアスの妻で、ふたりの母親であるフローラは冷静だった。
彼女はクールビューティというタイプのアールヴ美人で、嬉しそうに笑顔は見せるものの泣いたりはしていない。
「うおおおお! アウグストォ! フレデリカァ!」
取り乱すアウグストの傍らで、淡々と礼を言うフローラは、殊更に邪神様の力だと強調する。
「トール様! この度は全てスパイラル様のお力のお陰ですね。アウグストとフレデリカを無事に連れ戻して頂き、ありがとうございます!」
おいおい全て邪神様のお陰?
……確かに彼からチート能力を貰っているから納得出来るが、俺達クランも少しは頑張ったんだぜ。
ちょっとは認めて欲しいものだが、フローラは俺達をさほど評価していない。
種族としては遥かに下に見ている、人間のお陰という事実を絶対に認めたくない。
それが丸分かりだ。
但し、マティアスとフローラは子供達の事を本当に心配していたようである。
父と母ふたりに代わる代わる抱き締められたアウグストとフレデリカの兄妹は、俺達に向かって照れ臭そうに笑っていた。
「おお、ありがとう! ありがとう!」
充分過ぎる抱擁タイムがやっと終了。
目を真っ赤に腫らしたマティアスが、改めて俺達へ深々とお辞儀をした。
そして妻のフローラも、爽やか風な笑顔で一応は頭を下げたのである。
俺達のクランには、フローラにとって大変微妙な存在のアマンダも居たが……
フローラもさすがにアマンダへ礼を言い、頭を下げた。
ただ目は全く笑っていなかったので、やはりうわべだけの態度だろう。
フローラの態度が慇懃なのは、マティアスとアマンダの母ミルヴァの恋愛の件が原因。
何と言ってもアマンダは、フローラにとっては到底許せない浮気相手の子供なのだから。
しかしいくら生理的に受け入れられなくても、ここでアマンダを罵倒などしてはさすがに恩知らずとなってしまう。
夫のマティアスから、俺が邪神様の使徒と聞いているだろうから尚更だ。
「貴方、トール様に救助依頼したのでしょう?」
「あ、ああ……依頼したよ」
「では約束した報酬をお支払いして、そろそろお帰りになって頂ければ宜しいかと! ……さあ、アウグストとフレデリカにはじっくり話があります!」
……何だか、エイルトヴァーラ家の様子が分かって来た。
この家の実権を握っているのは……妻であるフローラだ。
家長のマティアスはほぼ言いなりという感じであり、こうなった理由は結婚の際のゴタゴタであろう。
フローラの話というのは、兄妹への厳しい説教に間違いない。
フレデリカがとても嫌そうに顔を顰めているから、一目瞭然だ。
「あ、あの……」
と、その時。
消え入りそうな声でマティアス、フローラのエイルトヴァーラ夫妻に声を掛けたのはフレデリカの侍女であるハンナだ。
無理もない。
さっきから、ず~っと放置状態だもの。
しかしマティアスもフローラも無言。
ノーリアクション。
「…………」
「…………」
あらぁ……
ふたりとも……完全スルーですかぁ?
無視されたハンナは、切なそうな表情で呼び掛ける。
「旦那様! 奥様!」
「…………」
「…………」
やっぱり無視……ですか?
「だだだ、旦那様ぁ!」
「ええい、うるさいわよぉ!」
最後は半泣きになってマティアスを呼んだハンナの声を断ち切るように、冷たい声をあげたのはフローラである。
「ハンナ! 貴女がアウグストとフレデリカをそそのかして、冒険者などにしたのは分かっているのです。その上、あのような危険な迷宮へ連れて行くなんて! 今日限りクビです! どこなりとでも行くと良いわ」
「そ、そんな! 私がそそのかすなんて! 奥様が仰るような事を、私は絶対にしていません!」
「もう! 危機回避能力が高いから有能などと売り込んだ挙句にこれよ! やはり元冒険者みたいな下司で卑しい女は駄目ね!」
元冒険者みたいな下司で卑しい女?
ああっ、これは酷い!
普通は言わないぜ、このような事。
息子と娘を溺愛するばかりに……
自分の子供達は悪くないと、ハンナへ責任の転嫁をはかっているのであろう。
「母上!」
「お母様!」
さすがにアウグストとフレデリカが非難するが、フローラは相変わらず完全無視。
明後日の方角を向いている。
一方のマティアスはというと……何も言えず項垂れている――こりゃ、駄目だな。
「あぐあぐあぐ……お、お、お、お世話に……なりました」
フローラから完全に引導を渡されたハンナ。
可哀想に……
俯いて、泣きながら出て行こうとする。
「ハンナ! ちょっとぉ、待ったぁ!」
「あう!?」
出て行こうとするハンナを引きとめようと優しく肩を掴んだのは……俺である。
ちょっと癒してやろうと神力波を込めたのは内緒だ。
しかし!
これがとんでもない事になってしまう。
「マ、ご主人様!?」
「なぁ、ハンナ、良かったら、俺達の下へおいで!」
その時、確かに俺は言った筈である。
俺……ではなく、複数形。
俺達クランの下へ来いと!
しかし傷心のハンナは、俺が優しくプロポーズしたと聞き間違えてしまったのだ。
「あうううっ……喜んでっ! ぜひぜひハンナをご主人様のお嫁さんにして下さい~っ」
ハンナは大きな声で叫ぶと、俺の胸にどんと飛び込んで来たのである。
俺は「えっ」という驚きの表情で、泣き叫ぶハンナを抱き締めていたのであった。
俺達はペルデレの迷宮を『クリア』し、アールヴの街ベルカナへと戻って来た。
ベルカナへ戻ったのは、マティアスから受けた依頼完遂の為である。
そして行方不明だった者達の帰還の付き添いも含めて。
帰還者はアールヴ族がアウグスト・エイルトヴァーラを始めとした82人、そして人間族が50人ちょい……
人間があと30人ほど残っているが、余りにも多いと目立ち過ぎるのでほとぼりが醒めたら、段階的に少人数で戻って貰う。
ちなみに……
説明する際に必要な、不明者の発見状況についてもしっかり考えた。
行方不明者達は不思議な『異界』に繋がった迷宮を彷徨っていた……
俺達クランとフレデリカ、ハンナが彼等を『偶然』発見し、色々と苦労したものの無事に連れ帰ったという設定にしたのだ。
じゃあ、その異界って何? どのようになっているの? もう安全なの?
って根掘り葉掘り聞かれるだろう。
しかし、不可思議な異界が何故あるのか等の原因も含め、仕様は一切理解出来ないと突っぱねる。
いくら聞かれても『不明』とするよう意思統一をしたのである。
現在、ペルデレの迷宮の入り口は封鎖されてはいないが、この近辺では怖ろしい魔窟として知れ渡っているので、新たに入る馬鹿は滅多に居ない。
ただへそ曲がりの『変わり者』が踏み込まないよう、念の為に地下4階の『転移門』は封鎖した。
なので……
ガルドルドの『秘密』が眠る地下5階以降へ進む事は、絶対に出来ない。
こうして、行方不明者を連れた俺達クランは一挙に英雄となった。
まず、正門のアールヴ衛兵達に吃驚されたのは言うまでもない
何せ、総勢140人近い大所帯なんだから……
アールヴの上級貴族達は、ほぼ絶望視していた自分の身内が無事に戻って来たので狂喜乱舞して歓迎してくれた。
上から目線で排他的な彼等でも、さすがに身内を命懸けで救った事にはとても感謝してくれたのである。
そして……ここはマティアス・エイルトヴァーラ邸……
アールヴでも十指に入る、大貴族の屋敷は超豪華であった。
多分、敷地だけで超高層マンションが20棟以上楽に立ちそうな広大さだ。
マティアスは、予想以上に大喜びしてくれた。
依頼のあったフレデリカは勿論の事……
完全に諦めていた跡取り息子のアウグストも傷ひとつなしで無事に連れ帰ったのだから、当然といえば当然である。
いつものクールでダンディな雰囲気など、さっさと豚にでも食わせろというくらいの豹変ぶりであった。
号泣! 号泣! また号泣!
喜びのあまり、大泣きするマティアスは兄妹の名を叫ぶ。
興奮して、鼻水まで垂らしている。
逆にマティアスの妻で、ふたりの母親であるフローラは冷静だった。
彼女はクールビューティというタイプのアールヴ美人で、嬉しそうに笑顔は見せるものの泣いたりはしていない。
「うおおおお! アウグストォ! フレデリカァ!」
取り乱すアウグストの傍らで、淡々と礼を言うフローラは、殊更に邪神様の力だと強調する。
「トール様! この度は全てスパイラル様のお力のお陰ですね。アウグストとフレデリカを無事に連れ戻して頂き、ありがとうございます!」
おいおい全て邪神様のお陰?
……確かに彼からチート能力を貰っているから納得出来るが、俺達クランも少しは頑張ったんだぜ。
ちょっとは認めて欲しいものだが、フローラは俺達をさほど評価していない。
種族としては遥かに下に見ている、人間のお陰という事実を絶対に認めたくない。
それが丸分かりだ。
但し、マティアスとフローラは子供達の事を本当に心配していたようである。
父と母ふたりに代わる代わる抱き締められたアウグストとフレデリカの兄妹は、俺達に向かって照れ臭そうに笑っていた。
「おお、ありがとう! ありがとう!」
充分過ぎる抱擁タイムがやっと終了。
目を真っ赤に腫らしたマティアスが、改めて俺達へ深々とお辞儀をした。
そして妻のフローラも、爽やか風な笑顔で一応は頭を下げたのである。
俺達のクランには、フローラにとって大変微妙な存在のアマンダも居たが……
フローラもさすがにアマンダへ礼を言い、頭を下げた。
ただ目は全く笑っていなかったので、やはりうわべだけの態度だろう。
フローラの態度が慇懃なのは、マティアスとアマンダの母ミルヴァの恋愛の件が原因。
何と言ってもアマンダは、フローラにとっては到底許せない浮気相手の子供なのだから。
しかしいくら生理的に受け入れられなくても、ここでアマンダを罵倒などしてはさすがに恩知らずとなってしまう。
夫のマティアスから、俺が邪神様の使徒と聞いているだろうから尚更だ。
「貴方、トール様に救助依頼したのでしょう?」
「あ、ああ……依頼したよ」
「では約束した報酬をお支払いして、そろそろお帰りになって頂ければ宜しいかと! ……さあ、アウグストとフレデリカにはじっくり話があります!」
……何だか、エイルトヴァーラ家の様子が分かって来た。
この家の実権を握っているのは……妻であるフローラだ。
家長のマティアスはほぼ言いなりという感じであり、こうなった理由は結婚の際のゴタゴタであろう。
フローラの話というのは、兄妹への厳しい説教に間違いない。
フレデリカがとても嫌そうに顔を顰めているから、一目瞭然だ。
「あ、あの……」
と、その時。
消え入りそうな声でマティアス、フローラのエイルトヴァーラ夫妻に声を掛けたのはフレデリカの侍女であるハンナだ。
無理もない。
さっきから、ず~っと放置状態だもの。
しかしマティアスもフローラも無言。
ノーリアクション。
「…………」
「…………」
あらぁ……
ふたりとも……完全スルーですかぁ?
無視されたハンナは、切なそうな表情で呼び掛ける。
「旦那様! 奥様!」
「…………」
「…………」
やっぱり無視……ですか?
「だだだ、旦那様ぁ!」
「ええい、うるさいわよぉ!」
最後は半泣きになってマティアスを呼んだハンナの声を断ち切るように、冷たい声をあげたのはフローラである。
「ハンナ! 貴女がアウグストとフレデリカをそそのかして、冒険者などにしたのは分かっているのです。その上、あのような危険な迷宮へ連れて行くなんて! 今日限りクビです! どこなりとでも行くと良いわ」
「そ、そんな! 私がそそのかすなんて! 奥様が仰るような事を、私は絶対にしていません!」
「もう! 危機回避能力が高いから有能などと売り込んだ挙句にこれよ! やはり元冒険者みたいな下司で卑しい女は駄目ね!」
元冒険者みたいな下司で卑しい女?
ああっ、これは酷い!
普通は言わないぜ、このような事。
息子と娘を溺愛するばかりに……
自分の子供達は悪くないと、ハンナへ責任の転嫁をはかっているのであろう。
「母上!」
「お母様!」
さすがにアウグストとフレデリカが非難するが、フローラは相変わらず完全無視。
明後日の方角を向いている。
一方のマティアスはというと……何も言えず項垂れている――こりゃ、駄目だな。
「あぐあぐあぐ……お、お、お、お世話に……なりました」
フローラから完全に引導を渡されたハンナ。
可哀想に……
俯いて、泣きながら出て行こうとする。
「ハンナ! ちょっとぉ、待ったぁ!」
「あう!?」
出て行こうとするハンナを引きとめようと優しく肩を掴んだのは……俺である。
ちょっと癒してやろうと神力波を込めたのは内緒だ。
しかし!
これがとんでもない事になってしまう。
「マ、ご主人様!?」
「なぁ、ハンナ、良かったら、俺達の下へおいで!」
その時、確かに俺は言った筈である。
俺……ではなく、複数形。
俺達クランの下へ来いと!
しかし傷心のハンナは、俺が優しくプロポーズしたと聞き間違えてしまったのだ。
「あうううっ……喜んでっ! ぜひぜひハンナをご主人様のお嫁さんにして下さい~っ」
ハンナは大きな声で叫ぶと、俺の胸にどんと飛び込んで来たのである。
俺は「えっ」という驚きの表情で、泣き叫ぶハンナを抱き締めていたのであった。
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