182 / 205
第182話「シスコンアールヴの謝罪①」
しおりを挟む
人間、ガルドルド、アールヴ、そして悪魔と4つのコミュニティ。
会議の末、お互いに協力補完しつつこれからやって行く体制がほぼ固まると……
後はこの迷宮で暮らしていた者達の処置である。
ぶっちゃけ、君達はこれからどうするの? という話だ。
各コミュニティにおいてリーダー格の者が対象者を集め、全員へ充分な説明を行い、質疑応答もする。
そして答えは出た。
……結局、ガルドルドの人工物へ魂を移した者のうち、元の身体に戻ったのは全体の8割弱程度となった。
ガーゴイルズ約100体のうち人間82体、自動人形アールヴズの悪魔が約30体のうち21体、そして巨人のアールヴ約100体のうち81体……
元の身体に戻らない理由は様々だ。
はっきりいって、以前暮らしていた世界へ戻りたくない、この新たな地下都市で生まれ変わってやり直したい、などの理由だ。
人間関係の煩わしさや経済的な理由なども大きい。
確かにこの迷宮に居れば3食の心配もしなくて良いし、与えられた機体さえもてば命も半永久的にもつ。
ちなみに3つめの道を取りたいと言う者も居た。
すなわち……
この迷宮を出たいが、俺達の作る新たなコミュニティとも一切の関わりを断ちたいという希望を持つ者だ。
彼等にも万全のケアをする。
人生をリセットしたい者はある程度の金を渡し、忘却の魔法を掛けて故郷の街の中へ戻してやるのだ。
行方不明の者が無事に戻ったという図式になり、本人は出発した後の事は何も覚えていないという決着の仕方だ。
しかし本来の身体に戻った者は、俺達が示した新たな仕事に就いて頑張りたいと言う者が殆どだったのである。
魔法工学師達が粛々と手術?を実施している間に、俺はあるキーマンと話をしていた。
テオちゃんに用意して貰った応接室でふたり、正対して長椅子に座っている。
そのキーマンというのは……
いち早く自分の身体に戻ったアールヴの男。
アマンダの弟、フレデリカの兄にあたるアウグスト・エイルトヴァーラ。
何と、あんなに俺を憎んでいた彼の方からサシで話したいと申し入れがあったのである。
こうなれば話は早い。
俺はアウグストを労わった上で、これから家族になる彼にある程度事情を話した。
この俺の正体が、邪神様の使徒である事などを……
すると吃驚した事に、アウグストは俺に頭を下げて謝罪したのである。
「済まなかった! 良く考えたら今回の勝負方法は僕に凄く気を遣ってくれたのだな……」
へぇ!
アウグストって、案外素直だな。
俺の話を理解してくれた。
アールヴの上級貴族の家柄出身で、やたらとプライドの高い慌て者だと思っていたのに……
「お前……いや、兄上の実力を見てよ~く分かった。さすがはスパイラル様の使徒だ」
「まあ……ね」
「うん! 僕が勝つのは無理! あれは人間の動きじゃないもの。まともにやっていれば僕は命をあっさり落としたかもしれない……そうしたら我が人生はこの迷宮で終わっていたからね」
「兄上って?」
何気にアウグストが俺を呼んだ言い方が気になった。
「ああ、貴方がアマンダ姉の夫君だから兄上だろう?」
ああ、そういう事か。
アマンダとフレデリカを嫁にした俺は、もはやアールヴとはがっつり家族だものな。
「アマンダ姉は僕の理想の女性だった。優しくて凄い美人でその上、強いと来ている。リョースアールヴとデックアールヴの間に生まれた子供が呪われているなんて迷信だって分かっていたし、本当の姉でなければ絶対に結婚を申し込んでいたよ」
え、ええっ!?
そこまでの『思い』だったのかよ!
こいつは姉の事が相当好きだったのだ……
「でもアマンダ姉は血が繋がった実の姉だ。アールヴの掟でさすがに姉弟の近親婚は固く禁じられている。僕は悩み抜いて、愛する彼女を忘れようとして死地であるこの迷宮に潜ったのさ」
成る程!
こいつ、こんな迷宮に潜るなんて、何故そのように無謀な事をしたのか?って思っていたけど、そういう理由だったんだ。
でもフレデリカは?
俺は今や可愛い嫁となったアールヴ美少女の事も振ってみる。
姉のアマンダだけしか眼中にないのなら、妹が可哀そうだ。
「じゃあさ、ぶっちゃけ言うけど……フレデリカは? 彼女はお前を本当に心配して、そのせいでだいぶ無茶したんだぜ」
俺は、フレデリカがベルカナの街で兄の捜索の為に迷宮へ一緒に潜る仲間を募っていた事、やっと集めた人間の仲間に裏切られた事、クランバトルブローカーと合流してここまで来た事などを話してやった。
追及すると、アウグストは力なく俯いて大きな溜息を吐く。
「はぁ……」
「どうだい?」
「ええ……妹には……フレデリカには本当に済まないと思っている。僕のせいでこの迷宮に潜って下手をすれば死んでいたかもしれないから」
「そうさ、あの子は結構な実力者だけど……この迷宮は特別だろう?」
「確かに……」
ここでフレデリカが姉のアマンダを冒涜したなんて言ったらすっごく揉めそうだから、事実は伏せておく。
まあ、嘘も方便って奴だ。
「でも僕以外の男性に、あんなに懐いているフレデリカなんて初めて見た。却《かえ》って僕より兄上のいう事を素直に聞いている。あの我儘な娘が信じられない! フレデリカは本当に好きなんだな、兄上の事が……」
「ああ、俺もあいつの事が可愛いし、大好きだ」
頷くと、アウグストがまたも深く頭を下げた。
しかし!
それだけでは終わらない。
何とアウグストは、俺の前で土下座をしたのであった。
会議の末、お互いに協力補完しつつこれからやって行く体制がほぼ固まると……
後はこの迷宮で暮らしていた者達の処置である。
ぶっちゃけ、君達はこれからどうするの? という話だ。
各コミュニティにおいてリーダー格の者が対象者を集め、全員へ充分な説明を行い、質疑応答もする。
そして答えは出た。
……結局、ガルドルドの人工物へ魂を移した者のうち、元の身体に戻ったのは全体の8割弱程度となった。
ガーゴイルズ約100体のうち人間82体、自動人形アールヴズの悪魔が約30体のうち21体、そして巨人のアールヴ約100体のうち81体……
元の身体に戻らない理由は様々だ。
はっきりいって、以前暮らしていた世界へ戻りたくない、この新たな地下都市で生まれ変わってやり直したい、などの理由だ。
人間関係の煩わしさや経済的な理由なども大きい。
確かにこの迷宮に居れば3食の心配もしなくて良いし、与えられた機体さえもてば命も半永久的にもつ。
ちなみに3つめの道を取りたいと言う者も居た。
すなわち……
この迷宮を出たいが、俺達の作る新たなコミュニティとも一切の関わりを断ちたいという希望を持つ者だ。
彼等にも万全のケアをする。
人生をリセットしたい者はある程度の金を渡し、忘却の魔法を掛けて故郷の街の中へ戻してやるのだ。
行方不明の者が無事に戻ったという図式になり、本人は出発した後の事は何も覚えていないという決着の仕方だ。
しかし本来の身体に戻った者は、俺達が示した新たな仕事に就いて頑張りたいと言う者が殆どだったのである。
魔法工学師達が粛々と手術?を実施している間に、俺はあるキーマンと話をしていた。
テオちゃんに用意して貰った応接室でふたり、正対して長椅子に座っている。
そのキーマンというのは……
いち早く自分の身体に戻ったアールヴの男。
アマンダの弟、フレデリカの兄にあたるアウグスト・エイルトヴァーラ。
何と、あんなに俺を憎んでいた彼の方からサシで話したいと申し入れがあったのである。
こうなれば話は早い。
俺はアウグストを労わった上で、これから家族になる彼にある程度事情を話した。
この俺の正体が、邪神様の使徒である事などを……
すると吃驚した事に、アウグストは俺に頭を下げて謝罪したのである。
「済まなかった! 良く考えたら今回の勝負方法は僕に凄く気を遣ってくれたのだな……」
へぇ!
アウグストって、案外素直だな。
俺の話を理解してくれた。
アールヴの上級貴族の家柄出身で、やたらとプライドの高い慌て者だと思っていたのに……
「お前……いや、兄上の実力を見てよ~く分かった。さすがはスパイラル様の使徒だ」
「まあ……ね」
「うん! 僕が勝つのは無理! あれは人間の動きじゃないもの。まともにやっていれば僕は命をあっさり落としたかもしれない……そうしたら我が人生はこの迷宮で終わっていたからね」
「兄上って?」
何気にアウグストが俺を呼んだ言い方が気になった。
「ああ、貴方がアマンダ姉の夫君だから兄上だろう?」
ああ、そういう事か。
アマンダとフレデリカを嫁にした俺は、もはやアールヴとはがっつり家族だものな。
「アマンダ姉は僕の理想の女性だった。優しくて凄い美人でその上、強いと来ている。リョースアールヴとデックアールヴの間に生まれた子供が呪われているなんて迷信だって分かっていたし、本当の姉でなければ絶対に結婚を申し込んでいたよ」
え、ええっ!?
そこまでの『思い』だったのかよ!
こいつは姉の事が相当好きだったのだ……
「でもアマンダ姉は血が繋がった実の姉だ。アールヴの掟でさすがに姉弟の近親婚は固く禁じられている。僕は悩み抜いて、愛する彼女を忘れようとして死地であるこの迷宮に潜ったのさ」
成る程!
こいつ、こんな迷宮に潜るなんて、何故そのように無謀な事をしたのか?って思っていたけど、そういう理由だったんだ。
でもフレデリカは?
俺は今や可愛い嫁となったアールヴ美少女の事も振ってみる。
姉のアマンダだけしか眼中にないのなら、妹が可哀そうだ。
「じゃあさ、ぶっちゃけ言うけど……フレデリカは? 彼女はお前を本当に心配して、そのせいでだいぶ無茶したんだぜ」
俺は、フレデリカがベルカナの街で兄の捜索の為に迷宮へ一緒に潜る仲間を募っていた事、やっと集めた人間の仲間に裏切られた事、クランバトルブローカーと合流してここまで来た事などを話してやった。
追及すると、アウグストは力なく俯いて大きな溜息を吐く。
「はぁ……」
「どうだい?」
「ええ……妹には……フレデリカには本当に済まないと思っている。僕のせいでこの迷宮に潜って下手をすれば死んでいたかもしれないから」
「そうさ、あの子は結構な実力者だけど……この迷宮は特別だろう?」
「確かに……」
ここでフレデリカが姉のアマンダを冒涜したなんて言ったらすっごく揉めそうだから、事実は伏せておく。
まあ、嘘も方便って奴だ。
「でも僕以外の男性に、あんなに懐いているフレデリカなんて初めて見た。却《かえ》って僕より兄上のいう事を素直に聞いている。あの我儘な娘が信じられない! フレデリカは本当に好きなんだな、兄上の事が……」
「ああ、俺もあいつの事が可愛いし、大好きだ」
頷くと、アウグストがまたも深く頭を下げた。
しかし!
それだけでは終わらない。
何とアウグストは、俺の前で土下座をしたのであった。
0
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜
KeyBow
ファンタジー
間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。
何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。
召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!
しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・
いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。
その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。
上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。
またぺったんこですか?・・・
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

14歳までレベル1..なので1ルークなんて言われていました。だけど何でかスキルが自由に得られるので製作系スキルで楽して暮らしたいと思います
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕はルーク
普通の人は15歳までに3~5レベルになるはずなのに僕は14歳で1のまま、なので村の同い年のジグとザグにはいじめられてました。
だけど15歳の恩恵の儀で自分のスキルカードを得て人生が一転していきました。
洗濯しか取り柄のなかった僕が何とか楽して暮らしていきます。
------
この子のおかげで作家デビューできました
ありがとうルーク、いつか日の目を見れればいいのですが

クラス転移したからクラスの奴に復讐します
wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。
ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。
だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。
クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。
まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。
閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。
追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる