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第161話「閑話 計算づくの裏切り」
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同時刻、ペルデレの迷宮地下3階……
魔物が倒されたばかりの現場で、女達の言い争う声が聞こえて来る。
「何よ、金、金、金って! 貴女達は私の兄に対する崇高な思いを理解してくれたのではないのですか? それに今回の契約金には迷宮探索も含まれていた筈です!」
金切り声をあげて怒っているのはフレデリカ・エイルトヴァーラである。
やはり先行して敵を倒していたのは彼女達クラン、スペルビアだったのだ。
「ええ、フレデリカ様。貴女の崇高な思いと契約は充分理解しているつもりですよ。だから私達は仲間になった……ただねぇ、この状況で契約金の金貨500枚だけでは到底足りません。戦闘手当てをもっとはずんでいただかないと、ね」
腕を組んでフレデリカを見ながら、言い放ったのはスペルビアのクランメンバーであるロドニア王国の元騎士ダーリャ・グリーンである。
「そうですよ。ダーリャの言う通りです、フレデリカ様」
追随したのはヴァレンタイン王国の元司祭ベレニス・オビーヌだ。
先程、ギャラの割り増しを要求したダーリャと顔を見合わせてにやりと笑ったのだ。
この地下3階までであれば、ダーリャとベレニスだけでも地上に帰れると計算しての割り増し宣言に違いない。
「約束を破るとは……貴女達、人間は恥と言うものを知らないのですか? 誇り高きロドニアの元騎士と敬虔な元ヴァレンタインの司祭でしょう?」
フレデリカと共に相手を嗜めるのが、フレデリカの侍女であり、アールヴのハンナ・エクルースであった。
しかし人間として約束を守れと言うふたりの言葉など、ダーリャとベレニスの耳には届いていない。
「我々は労働に見合う正当な要求をしているだけですよ。決断して下さい、フレデリカ様。さあ、どうするのです?」
ダーリャは再びそう言うと、ふんと鼻を鳴らしてフレデリカを見据えた。
しかしフレデリカの答えはノー。
「お断りします! 貴女方みたいな不埒な人間達とは今後一切関わりを持ちたくありません」
いきなりギャラの割り増しを要求したクランのふたりに対して、フレデリカは怒りを隠さない。
彼女達の要求をきっぱりはねつけると、解雇を告げたのである。
「契約は解除します。どことでも行って下さい!」
しかしロドニア王国の元騎士ダーリャ・グリーンとヴァレンタイン王国の元司祭ベレニス・オビーヌは、にやにや笑うのをやめない。
彼女達にとってはこの展開も想定済みなのであろう。
貰うものだけ貰って早々にクランからの離脱を考えていたかもしれない。
多分計算づくという奴だ。
「ふふふ、では交渉決裂……ですね。私とベレニスは地上へ戻りますので、後はハンナ殿とごゆるりと」
ダーニャは冷たく言い放つと、踵を返して今来た道を戻って行く。
ベレニスもわざとらしく鼻を鳴らして、その後をついて行ってしまう。
……こうしてフレデリカのクラン、スペルビアはあっけなく空中分解してしまったのだ。
フレデリカは人間ふたりが居なくなると、どっと疲れが出たようだ。
うんざりした顔付きでハンナに向き直ると、兄の探索を継続するように促したのである。
「ハンナ、こうなったら仕方がありません。私達ふたりでお兄様を探しましょう」
しかし忠実な侍女であり、従士でもあるハンナの答えはフレデリカの予想に反するものであった。
「フレデリカ様、それは無謀というものです。この先はどのような敵が出てくるやもしれません。今迄にこの迷宮へ入った名のある戦士や冒険者は皆、未帰還なのです。たったふたりでは危険過ぎます」
切々と訴えるハンナの諫言。
だが、兄の探索しか頭に無いフレデリカには届いていないようだ。
「そんな事を言っても、ここまで来たのですよ。今更戻れません、ただ進むだけです」
リスクを一切顧みないフレデリカに、ハンナは危うさを感じる。
「私はやはり反対です。フレデリカ様はご自分の身を分かっていらっしゃらない。エイルトヴァーラ家令嬢として、貴女は大事な血筋を残して行く義務があるのです」
しかしハンナは説得する材料を誤ってしまった。
家の存続を理由にしてしまったからだ。
現在のフレデリカにとっては父の考え方と同じ様に感じて、一気にハンナへの仲間意識を喪失したのである。
「ハンナ! 何それ? 私はエイルトヴァーラ家の子作りの道具ではないわ」
「フレデリカ様!」
激しく反論されたハンナの顔には「しまった」という後悔の念が表れている。
「もういいわ! ハンナまでも裏切るのなら私はひとりで先に行く。お兄様を探しに、ね」
フレデリカが迷宮の先へ向おうとした時。
優れたシーフでもあるハンナが、ふたりの居る場所へ来る何者かの魔力波を捕捉したのである。
「ま、待って下さい! フレデリカ様! だ、誰か、こちらへ来ます!」
「もしや! ダーリャとベレニスか? さすがに翻意して戻って来てくれたの?」
「い、いえ! こ、こ、これは……この魔力波は!?」
ハンナは激しく首を振る。
驚いたその表情は魔力波の主が意外な人物である事を物語っていた。
「だ、誰!?」
「フレデリカ様がクランにお誘いした、あのトールとかいう男です」
「え? ト、トールが? でも彼も冒険者です。この迷宮に居てもおかしくはないでしょう? 何故ハンナはそんなに驚いているのです?」
ハンナが何故そこまで動揺しているのか、フレデリカには不思議である。
「トールだけではないからです。他にも魔力波がいくつか……その中には、な、何と……アマンダ様までが居ります!」
「え、ええっ!? ア、アマンダが!? ど、どうして?」
「理由は……はっきりと分かりませんが……アマンダ様が居るのなら、多分トール達は私達の敵とはならないでしょう。上手く行けば仲間に出来るのでは……」
「分かりました、ハンナ。とりあえずこの場でトール達を待ちましょう」
フレデリカは納得して頷くと、その場に座り込んだのであった。
魔物が倒されたばかりの現場で、女達の言い争う声が聞こえて来る。
「何よ、金、金、金って! 貴女達は私の兄に対する崇高な思いを理解してくれたのではないのですか? それに今回の契約金には迷宮探索も含まれていた筈です!」
金切り声をあげて怒っているのはフレデリカ・エイルトヴァーラである。
やはり先行して敵を倒していたのは彼女達クラン、スペルビアだったのだ。
「ええ、フレデリカ様。貴女の崇高な思いと契約は充分理解しているつもりですよ。だから私達は仲間になった……ただねぇ、この状況で契約金の金貨500枚だけでは到底足りません。戦闘手当てをもっとはずんでいただかないと、ね」
腕を組んでフレデリカを見ながら、言い放ったのはスペルビアのクランメンバーであるロドニア王国の元騎士ダーリャ・グリーンである。
「そうですよ。ダーリャの言う通りです、フレデリカ様」
追随したのはヴァレンタイン王国の元司祭ベレニス・オビーヌだ。
先程、ギャラの割り増しを要求したダーリャと顔を見合わせてにやりと笑ったのだ。
この地下3階までであれば、ダーリャとベレニスだけでも地上に帰れると計算しての割り増し宣言に違いない。
「約束を破るとは……貴女達、人間は恥と言うものを知らないのですか? 誇り高きロドニアの元騎士と敬虔な元ヴァレンタインの司祭でしょう?」
フレデリカと共に相手を嗜めるのが、フレデリカの侍女であり、アールヴのハンナ・エクルースであった。
しかし人間として約束を守れと言うふたりの言葉など、ダーリャとベレニスの耳には届いていない。
「我々は労働に見合う正当な要求をしているだけですよ。決断して下さい、フレデリカ様。さあ、どうするのです?」
ダーリャは再びそう言うと、ふんと鼻を鳴らしてフレデリカを見据えた。
しかしフレデリカの答えはノー。
「お断りします! 貴女方みたいな不埒な人間達とは今後一切関わりを持ちたくありません」
いきなりギャラの割り増しを要求したクランのふたりに対して、フレデリカは怒りを隠さない。
彼女達の要求をきっぱりはねつけると、解雇を告げたのである。
「契約は解除します。どことでも行って下さい!」
しかしロドニア王国の元騎士ダーリャ・グリーンとヴァレンタイン王国の元司祭ベレニス・オビーヌは、にやにや笑うのをやめない。
彼女達にとってはこの展開も想定済みなのであろう。
貰うものだけ貰って早々にクランからの離脱を考えていたかもしれない。
多分計算づくという奴だ。
「ふふふ、では交渉決裂……ですね。私とベレニスは地上へ戻りますので、後はハンナ殿とごゆるりと」
ダーニャは冷たく言い放つと、踵を返して今来た道を戻って行く。
ベレニスもわざとらしく鼻を鳴らして、その後をついて行ってしまう。
……こうしてフレデリカのクラン、スペルビアはあっけなく空中分解してしまったのだ。
フレデリカは人間ふたりが居なくなると、どっと疲れが出たようだ。
うんざりした顔付きでハンナに向き直ると、兄の探索を継続するように促したのである。
「ハンナ、こうなったら仕方がありません。私達ふたりでお兄様を探しましょう」
しかし忠実な侍女であり、従士でもあるハンナの答えはフレデリカの予想に反するものであった。
「フレデリカ様、それは無謀というものです。この先はどのような敵が出てくるやもしれません。今迄にこの迷宮へ入った名のある戦士や冒険者は皆、未帰還なのです。たったふたりでは危険過ぎます」
切々と訴えるハンナの諫言。
だが、兄の探索しか頭に無いフレデリカには届いていないようだ。
「そんな事を言っても、ここまで来たのですよ。今更戻れません、ただ進むだけです」
リスクを一切顧みないフレデリカに、ハンナは危うさを感じる。
「私はやはり反対です。フレデリカ様はご自分の身を分かっていらっしゃらない。エイルトヴァーラ家令嬢として、貴女は大事な血筋を残して行く義務があるのです」
しかしハンナは説得する材料を誤ってしまった。
家の存続を理由にしてしまったからだ。
現在のフレデリカにとっては父の考え方と同じ様に感じて、一気にハンナへの仲間意識を喪失したのである。
「ハンナ! 何それ? 私はエイルトヴァーラ家の子作りの道具ではないわ」
「フレデリカ様!」
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「もういいわ! ハンナまでも裏切るのなら私はひとりで先に行く。お兄様を探しに、ね」
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「ま、待って下さい! フレデリカ様! だ、誰か、こちらへ来ます!」
「もしや! ダーリャとベレニスか? さすがに翻意して戻って来てくれたの?」
「い、いえ! こ、こ、これは……この魔力波は!?」
ハンナは激しく首を振る。
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「え、ええっ!? ア、アマンダが!? ど、どうして?」
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フレデリカは納得して頷くと、その場に座り込んだのであった。
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