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第158話「いよいよ出動」
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俺達はペルデレ遺跡の中を進んで行く。
この遺跡には今迄に数多の冒険者、そして略奪者がやって来たに違いない。
欲だけしか無い彼等が傍若無人に好き勝手して行ったのに間違いはなく、地上の部分は荒らされ放題。
崩れ落ちた壁面は、様々な言葉や絵が書きなぐってある醜い落書きだらけであった。
俺はさりげなく、傍らに居たソフィアの手を握る。
彼女の心中を慮っての事だ。
ソフィアはこのペルデレに住んでいたわけではない。
しかし、ガルドルド帝国が威信をかけて造った街がこのありさまではショックを受けるだろうと考えたのだ。
ソフィアは手を握った瞬間、吃驚していた。
だが、すぐ俺の気持ちを察したらしい。
ホッとしたように、俺の顔を見つめたのだ。
そんな空気を振り払うように、俺はクランに気合を入れる。
「さあ、迷宮の入り口までもう少しだ。人や魔物の気配は感じられないが、気をつけて行こう! ジュリア、どうだ? 何か感じるか?」
「うん! トールの言う通り、周囲や先に敵らしい奴は居ないよ。このまま進んで大丈夫……だけど誰かが既にこの先へ進んだみたい……迷宮の入り口に何頭か馬が繋がれている」
俺に問われたジュリアは、自信満々に答えた。
今やジュリアの索敵能力は神業といえる域まで達している。
何と1km以上先に居る、敵の詳細まで分ってしまうのだ。
彼女に気付かれず、俺達に忍び寄るなど絶対に不可能なのである。
でも馬が居るのか……
俺も再び索敵で探ってみる。
確かにジュリアの言う通り、俺達の前に遺跡に入った奴が居るらしい。
多分……先行したフレデリカ達だろう。
彼女達が居なくなったタイミングと馬を考えると可能性は高い。
アマンダパパ、マティアス・エイルトヴァーラの依頼もある。
どちらにしろ、フレデリカとは早く接触した方が良いに決まっていた。
俺は嫁ズを促して先を急いだのである。
――30分後
俺達は迷宮の入り口に着いた。
ジュリアも指摘した通り、迷宮の入り口には4頭の馬が繋がれている。
確か、フレデリカのクラン、スペルビアは4人。
数はぴったり合う。
しかし彼女達クランの姿はそこには無い。
既に迷宮の中へ入ったに違いなかった。
「急ごう!」
促す俺の声に、嫁ズは全員大きく頷いたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺達は遂に迷宮へと足を踏み入れた。
大悪魔アモンが抜けて、代わりにアールヴの魔法剣士アマンダが入ったクラン、バトルブローカー。
だけど隊列はちゃんと打合せをしてある。
探索、戦闘等の数パターンを想定した。
まずはその基本型で行く事にする。
圧倒的な盾役《タンク》だったアモンの代役は俺が務めて先頭。
攻撃役《アタッカー》としてジュリアとアマンダが直後に続く。
そして支援役《バファー》としてイザベラ、回復役《ヒーラー》としてソフィアが最後方に控えるという並びだ。
なお悪魔ヴォラクは戦闘能力を全く持たない。
シーフとしてお宝の発見役兼罠の解除役である。
俺は情報屋のサンドラさん……いや、アマンダの母親ミルヴァ・ルフタサーリから購入した迷宮の地図を改めて眺めた。
クランリーダーとして俺が的確な判断をしないといけない。
確か、地下1、2階の魔物は雑魚のゴブリンしか出なかったな。
むしろ、人間の山賊及び初心者殺しがやばいのだっけ。
迷宮はコーンウォールの迷宮と同様で暗かった。
ゲームの迷宮のように都合良く、人為的な明かりなど点灯させてはいないのだ。
しかし今の俺達は夜目が利く者ばかりである。
クランのメンバーで著しく夜目が利くようになったのは、やはりジュリアであった。
かつて迷宮の暗さに怯えて半泣きしていた少女はもう居ない。
俺はといえば邪神様から改造されて授かった加護があり、イザベラとヴォラクは悪魔だから問題無し。
アマンダもデックアールヴの能力とやらで闇なんてへっちゃら、ソフィアも自動人形の仕様って奴でOKらしい。
俺達クランのメンバーは魔導ランプなどを使わずとも皆が暗闇を見通せる力を有していたのである。
そんなわけで……
俺達はサクサク迷宮を進んだ。
しかし全く敵の気配は無い。
遭遇するのは山賊や初心者殺しと呼ばれる男達の死骸である。
容赦なくぶった切られた死体を見て、俺は確信した。
手を下したのはフレデリカ達クランであると!
俺達は更に進んで行く。
しかし抵抗は皆無である。
あるのは死体、死体、死体であった。
フレデリカのクラン、スペルビアは全員が女性のクランだ。
美人揃いの彼女達が来たのを見た敵は皆、『カモネギ』だと思って舐めてかかったらしい。
その報いは今、俺達が見ている通りだ。
あの時に紹介されたのは、フレデリカ以外に3人。
何気に魔力波で見ると全員が『凄腕』であったから、この階ではまず敵など居ない。
倒された死体の中には行方不明になったと思われている冒険者も居るのだろう。
そう考えると自業自得とは言え、虚しい死に方だと思う。
下層に行けなくて仕方なく安易な道を選んだのだろうが、俺はこんな末路は辿りたくないものだ。
ただ死体にアールヴは混ざっておらず、全員が人間族。
すなわちマティアス・エイルトヴァーラの息子アウグストは、この中に居ないという事になる。
フレデリカが兄を探しに行って、手違いで殺すなどありえないが……万が一の場合もあるからチェックは怠らない。
地下1階の敵は皆無であったから、俺達はどんどん進み、地下2階への階段はすぐに見付かった。
当然俺とジュリアは索敵をしながら進んでいる。
だから、敵が居ないのを確認して階下へ降りて行く。
降りた地下2階も地下1階と全く同じ様相である。
壁面の造りも地味な石積みなので、今の所魔法帝国が造った特異な迷宮というイメージは全くない。
どこにでもあるありふれた『普通の迷宮』なのだ。
だが、コーンウォール迷宮に潜った俺達は慣れている。
多分、上層の仕様は擬態だから。
少し進んだが、地下2階も同じく死体だらけ。
唯一違うのは、たまにゴブリンなど魔物の死体が混ざっているくらいである。
一体どこまで戦闘無し――で行くのだろう。
数回上層で戦闘をして現クランの慣らし運転をする筈の俺の計画は今の所、狂いっぱなし。
下層で強い敵とのいきなりの本番は避けたかったが、まあ良い。
アマンダは魔法剣士としてそこそこ戦えるだろうし、俺はコーンウォールでの戦いの経験が活きる筈だ。
地図によれば地下3階へは『転移門』で移動するとの情報なので、俺達はひたすら探した。
「ふふふ、感じるぞ。妾が来たのを奴等め、しっかりと見ておるわ」
傍らのソフィアが、いきなり呟いた。
どうやら迷宮の主は、既に俺達を監視しているらしい。
「地下1階もそうだが、この地下2階にも魔法水晶の『視点』を大量に隠しておる。それを使って妾の存在に気付いたようじゃ」
王女のソフィアがこの迷宮に来たと知ってガルドルドの魔法工学士達はどのような反応を示すだろうか?
絶対服従を誓うのか、絶好の神輿とし、担ぎ上げて使おうとするのか、それとも……
そうこうしているうちに地下3階への転移門が見付かった。
次からは一気に敵が強くなると地図には記載されている。
人間の敵が少なくなり、強力な魔物が主な敵となる。
だが俺は……
少しワクワクしていた。
いよいよ、右手薬指にはめた真鍮製の指輪の力を発揮させる時が来たのだ。
義理の兄である悪魔王子エフィムから貰った召喚の指輪を使うのである。
ケルベロスをどう戦わせるかは勿論、どのような魔物を従えてやろうか!
俺は中二病全開状態で、にやにやしていたのであった。
この遺跡には今迄に数多の冒険者、そして略奪者がやって来たに違いない。
欲だけしか無い彼等が傍若無人に好き勝手して行ったのに間違いはなく、地上の部分は荒らされ放題。
崩れ落ちた壁面は、様々な言葉や絵が書きなぐってある醜い落書きだらけであった。
俺はさりげなく、傍らに居たソフィアの手を握る。
彼女の心中を慮っての事だ。
ソフィアはこのペルデレに住んでいたわけではない。
しかし、ガルドルド帝国が威信をかけて造った街がこのありさまではショックを受けるだろうと考えたのだ。
ソフィアは手を握った瞬間、吃驚していた。
だが、すぐ俺の気持ちを察したらしい。
ホッとしたように、俺の顔を見つめたのだ。
そんな空気を振り払うように、俺はクランに気合を入れる。
「さあ、迷宮の入り口までもう少しだ。人や魔物の気配は感じられないが、気をつけて行こう! ジュリア、どうだ? 何か感じるか?」
「うん! トールの言う通り、周囲や先に敵らしい奴は居ないよ。このまま進んで大丈夫……だけど誰かが既にこの先へ進んだみたい……迷宮の入り口に何頭か馬が繋がれている」
俺に問われたジュリアは、自信満々に答えた。
今やジュリアの索敵能力は神業といえる域まで達している。
何と1km以上先に居る、敵の詳細まで分ってしまうのだ。
彼女に気付かれず、俺達に忍び寄るなど絶対に不可能なのである。
でも馬が居るのか……
俺も再び索敵で探ってみる。
確かにジュリアの言う通り、俺達の前に遺跡に入った奴が居るらしい。
多分……先行したフレデリカ達だろう。
彼女達が居なくなったタイミングと馬を考えると可能性は高い。
アマンダパパ、マティアス・エイルトヴァーラの依頼もある。
どちらにしろ、フレデリカとは早く接触した方が良いに決まっていた。
俺は嫁ズを促して先を急いだのである。
――30分後
俺達は迷宮の入り口に着いた。
ジュリアも指摘した通り、迷宮の入り口には4頭の馬が繋がれている。
確か、フレデリカのクラン、スペルビアは4人。
数はぴったり合う。
しかし彼女達クランの姿はそこには無い。
既に迷宮の中へ入ったに違いなかった。
「急ごう!」
促す俺の声に、嫁ズは全員大きく頷いたのであった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
俺達は遂に迷宮へと足を踏み入れた。
大悪魔アモンが抜けて、代わりにアールヴの魔法剣士アマンダが入ったクラン、バトルブローカー。
だけど隊列はちゃんと打合せをしてある。
探索、戦闘等の数パターンを想定した。
まずはその基本型で行く事にする。
圧倒的な盾役《タンク》だったアモンの代役は俺が務めて先頭。
攻撃役《アタッカー》としてジュリアとアマンダが直後に続く。
そして支援役《バファー》としてイザベラ、回復役《ヒーラー》としてソフィアが最後方に控えるという並びだ。
なお悪魔ヴォラクは戦闘能力を全く持たない。
シーフとしてお宝の発見役兼罠の解除役である。
俺は情報屋のサンドラさん……いや、アマンダの母親ミルヴァ・ルフタサーリから購入した迷宮の地図を改めて眺めた。
クランリーダーとして俺が的確な判断をしないといけない。
確か、地下1、2階の魔物は雑魚のゴブリンしか出なかったな。
むしろ、人間の山賊及び初心者殺しがやばいのだっけ。
迷宮はコーンウォールの迷宮と同様で暗かった。
ゲームの迷宮のように都合良く、人為的な明かりなど点灯させてはいないのだ。
しかし今の俺達は夜目が利く者ばかりである。
クランのメンバーで著しく夜目が利くようになったのは、やはりジュリアであった。
かつて迷宮の暗さに怯えて半泣きしていた少女はもう居ない。
俺はといえば邪神様から改造されて授かった加護があり、イザベラとヴォラクは悪魔だから問題無し。
アマンダもデックアールヴの能力とやらで闇なんてへっちゃら、ソフィアも自動人形の仕様って奴でOKらしい。
俺達クランのメンバーは魔導ランプなどを使わずとも皆が暗闇を見通せる力を有していたのである。
そんなわけで……
俺達はサクサク迷宮を進んだ。
しかし全く敵の気配は無い。
遭遇するのは山賊や初心者殺しと呼ばれる男達の死骸である。
容赦なくぶった切られた死体を見て、俺は確信した。
手を下したのはフレデリカ達クランであると!
俺達は更に進んで行く。
しかし抵抗は皆無である。
あるのは死体、死体、死体であった。
フレデリカのクラン、スペルビアは全員が女性のクランだ。
美人揃いの彼女達が来たのを見た敵は皆、『カモネギ』だと思って舐めてかかったらしい。
その報いは今、俺達が見ている通りだ。
あの時に紹介されたのは、フレデリカ以外に3人。
何気に魔力波で見ると全員が『凄腕』であったから、この階ではまず敵など居ない。
倒された死体の中には行方不明になったと思われている冒険者も居るのだろう。
そう考えると自業自得とは言え、虚しい死に方だと思う。
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ただ死体にアールヴは混ざっておらず、全員が人間族。
すなわちマティアス・エイルトヴァーラの息子アウグストは、この中に居ないという事になる。
フレデリカが兄を探しに行って、手違いで殺すなどありえないが……万が一の場合もあるからチェックは怠らない。
地下1階の敵は皆無であったから、俺達はどんどん進み、地下2階への階段はすぐに見付かった。
当然俺とジュリアは索敵をしながら進んでいる。
だから、敵が居ないのを確認して階下へ降りて行く。
降りた地下2階も地下1階と全く同じ様相である。
壁面の造りも地味な石積みなので、今の所魔法帝国が造った特異な迷宮というイメージは全くない。
どこにでもあるありふれた『普通の迷宮』なのだ。
だが、コーンウォール迷宮に潜った俺達は慣れている。
多分、上層の仕様は擬態だから。
少し進んだが、地下2階も同じく死体だらけ。
唯一違うのは、たまにゴブリンなど魔物の死体が混ざっているくらいである。
一体どこまで戦闘無し――で行くのだろう。
数回上層で戦闘をして現クランの慣らし運転をする筈の俺の計画は今の所、狂いっぱなし。
下層で強い敵とのいきなりの本番は避けたかったが、まあ良い。
アマンダは魔法剣士としてそこそこ戦えるだろうし、俺はコーンウォールでの戦いの経験が活きる筈だ。
地図によれば地下3階へは『転移門』で移動するとの情報なので、俺達はひたすら探した。
「ふふふ、感じるぞ。妾が来たのを奴等め、しっかりと見ておるわ」
傍らのソフィアが、いきなり呟いた。
どうやら迷宮の主は、既に俺達を監視しているらしい。
「地下1階もそうだが、この地下2階にも魔法水晶の『視点』を大量に隠しておる。それを使って妾の存在に気付いたようじゃ」
王女のソフィアがこの迷宮に来たと知ってガルドルドの魔法工学士達はどのような反応を示すだろうか?
絶対服従を誓うのか、絶好の神輿とし、担ぎ上げて使おうとするのか、それとも……
そうこうしているうちに地下3階への転移門が見付かった。
次からは一気に敵が強くなると地図には記載されている。
人間の敵が少なくなり、強力な魔物が主な敵となる。
だが俺は……
少しワクワクしていた。
いよいよ、右手薬指にはめた真鍮製の指輪の力を発揮させる時が来たのだ。
義理の兄である悪魔王子エフィムから貰った召喚の指輪を使うのである。
ケルベロスをどう戦わせるかは勿論、どのような魔物を従えてやろうか!
俺は中二病全開状態で、にやにやしていたのであった。
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