真☆中二病ハーレムブローカー、俺は異世界を駆け巡る

東導 号

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第138話「悪魔ヴォラクの提案」

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 十八時五分前――

『遅くても五分前には必ず現場にいる』を、菜緒はモットーにしている。
 赤い窓枠が印象の店に入る。手前にテーブル席が四つ、カウンター席。
 奥行きがあり、大津院長はカウンターの奥のテーブル席に一人着いていた。
 先に飲んでいたのか、赤ワインが入ったグラスが目の前に置かれている。

「遅くなってすみません」
 菜緒は頭を下げ、詫びる。
 院長はそんな菜緒に、いつものように朗らかな笑顔を見せた。

「私が早く来たんだから平気よ。さ、座って。何か頼んで」
「はい、ありがとうございます」
 促され院長と対に座ると、アルコールのメニュー表を見る。

「お酒は強い方?」
「はい、道民は強い人が多いですよ~」
 そう笑いながら菜緒は、食前酒としてハスカップ酒を注文した。
 面談みたいなものだから、果実酒のような軽めの方がいいだろう。

 すぐに運ばれたものは赤ワインより薄めの色合いで、飲むと甘酸っぱさが口の中に広がり、その後に少しの渋みがやってきた。
「さて、お酒を飲みながらなんだけれど……うちで働くようになって二週間。どう? 姉崎さんにあっているかな?」
 よかった、仕事を続けられそうかどうかの確認だと内心ホッとする。

「お陰様で、皆さん良い方ばかりです」
「仕事中は皆殺気立ってることが多いから厳しいこと言うこともあるけれど、それは気にしないでね」
「はい。承知しています」
「続けられそうかしら? まあ、これからも不満や心配事があったら相談してね。このことは他の皆にも話してあるから」
「ありがとうございます。頑張りますのでよろしくお願いします」

 菜緒はグラスを置いて、院長に頭を下げた。
 まだ二週間、されど二週間。
 菜緒の中で、ようやく看護師としての感覚が戻ってきた頃だ。
 ここで気を抜いてミスなどしたら許されない。改めて気を引き締める。

「――それで、ここからが本題なんだ」

(えっ? ここから本題? 今までのは?)

 思わず声に出して突っ込みたくなったのを慌てて堪える。
 院長は一口ワインを飲むと、息を吐き出し菜緒に話す。

「うちの休診日は知ってるよね?」
「はい。……水曜と日曜祝日が終日。土曜日が午後お休み。そして木曜日は午前中がお休み――ですよね?」
 院長が頷く。

「そのことで姉崎さんに相談があるの」
「私に……ですか?」
「木曜日の半休のことなんだけど、出勤してくれるかしら? 二週間に一度だからそう負担にならないと思う。勿論、時間外手当として時給一万五千円だすわ」
「ええ! 一万五千円!?」

 ――どってんしたおどろいた

 思わず声を上げてしまう。
 院長はまた頷くと、声を落とす。
 飲むにはまだ時間が早いので、店内には菜緒と院長しかいない。
 店自体はそう大きくないので、普通の声の大きさで喋ったら店員に聞こえるかもしれないと思ってのことかもしれない。
 聞き耳を立てて欲しくない内容なのか。
 菜緒も軽く上半身を乗り出し、聞く体勢に入る。

「時給が高いのは理由があって、ちょっと特殊な患者さんを訪問診療するからなの」
「そうなんですか。……あの、特殊な患者さんって聞いていいですか?」

 重大な疾患を抱えている患者さんとか、または資産家のご老輩とか想像する。
 介護付きなのかでも、覚悟が必要になってくるからだ。

「ちょっと不思議な体質を持つ子供達――というところかしら……?」
「『ちょっと不思議』……ですか」
「ごめんなさい、どういった言葉が適当なのか思い当たらなくて……」
 院長自体もどう表現したらいいのか戸惑っているようで、唸っている。

「あ、でも子供達の診療というのはわかりましたから……」
「向こうが姉崎さんを推しているのでねぇ」
「――はい?」

 思わず聞き返した。
 自分を推薦している、ということは顔見知りということだ。

(でも私、ここにきて子供の知り合いって……いた? いないよね?)

 ふっ、と脳裏に数人の子供の姿が浮かぶが、どれも蜃気楼の中にいるように顔がおぼろげだ。
 それだけおぼろげなのだから、きっと自分の小さい頃の記憶だろうと流す。
 黙ってしまった菜緒を元気づけるように院長が言う。

「大丈夫よ、私もずっと診療しているし急患にも応じているけれど、そんな怖がるようなものじゃないの。全然大丈夫! ただ私一人だと結構大変でね。補助してほしいのよ。確かに月に二回ほど半休が消えてしまうけれど……」
「いえ、半休がなくなるのは苦ではありませんので大丈夫です。ただどうして先方は私のことを――」
「引き受けてくれる!? 助かるわ! 皆にも聞いてみたんだけど全員に断られちゃって、どうしようと思っていたのよ~」
「あ、えっ? え……ぇえ……」

 ありがたそうに手を握られては断れない。
 それに院長のホッとした顔といったら――よほど一人で出向くのが嫌だったのだろうか。
 院長にどこか、怯えた影が見え隠れして気になる。

「あの、院長」
「何?」
「そんなに怖いところ……なんですか?」
「……そんなんではないのよ……うーん。そうか、姉崎さんもそういうの『わかる人』なのね? だから呼ばれたのか」

『わかる人』?
『呼ばれた』?




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