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第136話「クリスティーナ・エイルトヴァーラ」
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「ああっ! ギルドマスターだ!」
「ク、クリスティーナ様だ!」
へぇ、このアールヴ美女が、このベルカナの街の冒険者ギルドのマスターなのか!
俺は直ぐにソフィアに目配せして魔法障壁を解除するように伝えた。
ソフィアも軽く手を挙げて俺の指示に応える。
暴徒化した冒険者達を支えていた見えない壁が消え、何人かは悲鳴をあげて床に崩れ落ちた。
クリスティーナと呼ばれたギルドマスターは納得するように頷いた。
「結構な腕の魔法使いが居るようですね……ところでたった5人が大人数に襲われそうになっていて当ギルドの職員が何もしないとはどのような理由ですか?」
「ええと、それがそのう……フレデリカ様絡みでして……」
こう申し出たのが、先程青くなって俺に駆け寄って来た中間管理職アールヴの職員である。
「馬鹿者! フレデリカだろうが、何だろうが、ギルド内でのこうしたトラブルを収拾しないで放っておくとは何事か! 後で処分の沙汰を下す、覚悟しておくが良い!」
クリスティーナはそう言い放つと、「ほう」と溜息を吐き、俺を見て更に暴徒化した冒険者達を見つめた。
あれだけ騒いでいた冒険者達も、ギルドマスターの登場でさすがに静かになっている。
「双方から1名ずつ説明の為にこちらへ来て下さい、宜しいですか?」
成る程!
事情聴取という事ですか。
やましい所が全くない俺は嫁ズを見て、「俺が行く」と目で伝えた。
そして、胸を張って堂々とギルドマスター、クリスティーナの下へ赴いたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――15分後
俺達はギルドマスター専用の応接室に居た。
今回のトラブルにおいて当然ながら俺達に非は無い。
因縁をつけた冒険者の一団は、俺に対しての正式な詫びとベルカナの街を3時間清掃という強制労働の刑に処せられたのだ。
まあ暴行されかかった刑としては軽いものなのだが、言い分をちゃんと聞いて貰えたので、俺としては不満が無い。
「改めて名乗らせて貰う。私はクリスティーナ・エイルトヴァーラ、このベルカナの冒険者ギルドマスターを務めている」
目の前のクリスティーナさんは、どことなく誰かに似ている。
長い金髪を靡《なび》かせ、すらりとした体型にアールヴにしてはやや大きい胸。
鼻筋の通った綺麗な顔立ちで、瞳は深い灰色。
あれぇ!?
白鳥亭の女将、アマンダ・ルフタサーリさんに凄く似ている!?
「どうか、したか?」
「いいえ、何でもないです……ええと、こちらも名乗りましょう。俺はトール・ユーキ。ヴァレンタイン王国の商人兼冒険者でクランバトルブローカーのリーダーをやっています」
「トールの妻のジュリアです」
「同じく妻のイザベラです」
「同じく妻のソフィアじゃ」
「私は彼等と一緒に商売をしている、ヴァレンタイン王国バートランドの商人兼冒険者のヴォーラです」
悪魔ヴォラクは、宿で記帳した偽名を名乗る。
「成る程、分かった。先にお詫びしよう! つまらない事で君達に迷惑を掛けたな、済まない!」
クリスティーナさんはこう言うと深く頭を下げた。
これには俺達が吃驚する。
アールヴは基本的に誇り高い種族だ。
軽々しく謝罪したりはしない。
と、言う事は……
「もしかしてギルドマスターはフレデリカさんの身内ですか?」
「ふふふ、鋭いな。君の言う通りだ。フレデリカは私の兄の娘さ。私は彼女にとって叔母にあたる」
やはり……そうか……
「フレデリカさんの事は白鳥亭のアマンダさんから聞きましたよ。何でも仲間を探しているとか……」
「アマンダ……そうか……」
クリスティーナさんはアマンダさんの名を聞いた瞬間、何故か遠い目をした。
話したくない事情がありそうだ。
だけど敢えてクリスティーナさんの魂の中は見ないようにした。
それは俺なりに作った魔力波読みのエチケットだ。
クリスティーナさんは「ふう」と溜息を吐くと淡々と語り始める。
それはフレデリカ・エイルトヴァーラの『事情』であった。
「姪のフレデリカの兄、まあ私にとっては甥にあたるアウグスト・エイルトヴァーラが半年前に仲間内で一隊を組織して失われた地の遺跡に潜った。彼等はそれっきり戻って来ておらず行方不明なのだ」
そうか!
あの時号泣したのは、やっぱり行方不明の兄が心配でたまらなかったのか……
俺はフレデリカに少し同情した。
「遺跡の事は色々な人から聞きました。探索に入った者は全て帰還していないようですね」
「そうなんだ。この冒険者ギルドでも遺跡絡みの依頼を出す事も受ける事も禁じている。余りにも危険だからだ」
成る程!
商業ギルドの拒絶反応もそれが原因か!
「アウグストとフレデリカの父……私の兄であるマティアス・エイルトヴァーラは当然悲しんだが、同時に息子の無鉄砲さを恥じた。そして部下達が後を追って遺跡に救助に向うのを一切禁じたのだ」
フレデリカの父であるマティアスにとっては苦渋の決断であったろう。
何せ息子の命が懸かっている。
しかし救助を認めては仲間や部下に2次、3次遭難の被害が続くのが明白であったからだ。
マティアスは熟考した結果、敢えて心を鬼にしたのだ。
「しかし兄を慕っていたフレデリカには父の決断が納得出来なかったのだ」
フレデリカは父を責めた。
何故兄を見殺しにするのかと!
しかしマティアスの決意は変わらなかった。
息子ひとりの愚かな行動の為に、大事な同胞を無駄死にさせるわけにはいかないと考えたのだ。
結局、マティアスはフレデリカに対して遺跡の探索を厳重に禁止したのである。
「困ったフレデリカは私費で探索隊を組織する事にした。とは言ってもこの冒険者ギルドではメンバーを募る事は出来ない。そこで彼女がとった方法は……」
「街中でスカウトする遣り方……ですね。言い方は微妙ですが……」
「微妙?」
怪訝な顔をして聞き直すクリスティーナさんに俺は肩を竦めて言う。
「ええ、俺はいきなり下僕になれ、と言われましたよ」
「ははは! 気位の高いあの娘らしい」
俺の言葉を聞いたクリスティーナさんは、肩をすくめて苦笑したのであった。
「ク、クリスティーナ様だ!」
へぇ、このアールヴ美女が、このベルカナの街の冒険者ギルドのマスターなのか!
俺は直ぐにソフィアに目配せして魔法障壁を解除するように伝えた。
ソフィアも軽く手を挙げて俺の指示に応える。
暴徒化した冒険者達を支えていた見えない壁が消え、何人かは悲鳴をあげて床に崩れ落ちた。
クリスティーナと呼ばれたギルドマスターは納得するように頷いた。
「結構な腕の魔法使いが居るようですね……ところでたった5人が大人数に襲われそうになっていて当ギルドの職員が何もしないとはどのような理由ですか?」
「ええと、それがそのう……フレデリカ様絡みでして……」
こう申し出たのが、先程青くなって俺に駆け寄って来た中間管理職アールヴの職員である。
「馬鹿者! フレデリカだろうが、何だろうが、ギルド内でのこうしたトラブルを収拾しないで放っておくとは何事か! 後で処分の沙汰を下す、覚悟しておくが良い!」
クリスティーナはそう言い放つと、「ほう」と溜息を吐き、俺を見て更に暴徒化した冒険者達を見つめた。
あれだけ騒いでいた冒険者達も、ギルドマスターの登場でさすがに静かになっている。
「双方から1名ずつ説明の為にこちらへ来て下さい、宜しいですか?」
成る程!
事情聴取という事ですか。
やましい所が全くない俺は嫁ズを見て、「俺が行く」と目で伝えた。
そして、胸を張って堂々とギルドマスター、クリスティーナの下へ赴いたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――15分後
俺達はギルドマスター専用の応接室に居た。
今回のトラブルにおいて当然ながら俺達に非は無い。
因縁をつけた冒険者の一団は、俺に対しての正式な詫びとベルカナの街を3時間清掃という強制労働の刑に処せられたのだ。
まあ暴行されかかった刑としては軽いものなのだが、言い分をちゃんと聞いて貰えたので、俺としては不満が無い。
「改めて名乗らせて貰う。私はクリスティーナ・エイルトヴァーラ、このベルカナの冒険者ギルドマスターを務めている」
目の前のクリスティーナさんは、どことなく誰かに似ている。
長い金髪を靡《なび》かせ、すらりとした体型にアールヴにしてはやや大きい胸。
鼻筋の通った綺麗な顔立ちで、瞳は深い灰色。
あれぇ!?
白鳥亭の女将、アマンダ・ルフタサーリさんに凄く似ている!?
「どうか、したか?」
「いいえ、何でもないです……ええと、こちらも名乗りましょう。俺はトール・ユーキ。ヴァレンタイン王国の商人兼冒険者でクランバトルブローカーのリーダーをやっています」
「トールの妻のジュリアです」
「同じく妻のイザベラです」
「同じく妻のソフィアじゃ」
「私は彼等と一緒に商売をしている、ヴァレンタイン王国バートランドの商人兼冒険者のヴォーラです」
悪魔ヴォラクは、宿で記帳した偽名を名乗る。
「成る程、分かった。先にお詫びしよう! つまらない事で君達に迷惑を掛けたな、済まない!」
クリスティーナさんはこう言うと深く頭を下げた。
これには俺達が吃驚する。
アールヴは基本的に誇り高い種族だ。
軽々しく謝罪したりはしない。
と、言う事は……
「もしかしてギルドマスターはフレデリカさんの身内ですか?」
「ふふふ、鋭いな。君の言う通りだ。フレデリカは私の兄の娘さ。私は彼女にとって叔母にあたる」
やはり……そうか……
「フレデリカさんの事は白鳥亭のアマンダさんから聞きましたよ。何でも仲間を探しているとか……」
「アマンダ……そうか……」
クリスティーナさんはアマンダさんの名を聞いた瞬間、何故か遠い目をした。
話したくない事情がありそうだ。
だけど敢えてクリスティーナさんの魂の中は見ないようにした。
それは俺なりに作った魔力波読みのエチケットだ。
クリスティーナさんは「ふう」と溜息を吐くと淡々と語り始める。
それはフレデリカ・エイルトヴァーラの『事情』であった。
「姪のフレデリカの兄、まあ私にとっては甥にあたるアウグスト・エイルトヴァーラが半年前に仲間内で一隊を組織して失われた地の遺跡に潜った。彼等はそれっきり戻って来ておらず行方不明なのだ」
そうか!
あの時号泣したのは、やっぱり行方不明の兄が心配でたまらなかったのか……
俺はフレデリカに少し同情した。
「遺跡の事は色々な人から聞きました。探索に入った者は全て帰還していないようですね」
「そうなんだ。この冒険者ギルドでも遺跡絡みの依頼を出す事も受ける事も禁じている。余りにも危険だからだ」
成る程!
商業ギルドの拒絶反応もそれが原因か!
「アウグストとフレデリカの父……私の兄であるマティアス・エイルトヴァーラは当然悲しんだが、同時に息子の無鉄砲さを恥じた。そして部下達が後を追って遺跡に救助に向うのを一切禁じたのだ」
フレデリカの父であるマティアスにとっては苦渋の決断であったろう。
何せ息子の命が懸かっている。
しかし救助を認めては仲間や部下に2次、3次遭難の被害が続くのが明白であったからだ。
マティアスは熟考した結果、敢えて心を鬼にしたのだ。
「しかし兄を慕っていたフレデリカには父の決断が納得出来なかったのだ」
フレデリカは父を責めた。
何故兄を見殺しにするのかと!
しかしマティアスの決意は変わらなかった。
息子ひとりの愚かな行動の為に、大事な同胞を無駄死にさせるわけにはいかないと考えたのだ。
結局、マティアスはフレデリカに対して遺跡の探索を厳重に禁止したのである。
「困ったフレデリカは私費で探索隊を組織する事にした。とは言ってもこの冒険者ギルドではメンバーを募る事は出来ない。そこで彼女がとった方法は……」
「街中でスカウトする遣り方……ですね。言い方は微妙ですが……」
「微妙?」
怪訝な顔をして聞き直すクリスティーナさんに俺は肩を竦めて言う。
「ええ、俺はいきなり下僕になれ、と言われましたよ」
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