99 / 205
第99話「ジュリアの体調不良」
しおりを挟む
俺達クランがコーンウォール迷宮から、同キャンプを経てジェトレ村の絆亭に帰り……ゆっくり眠った翌朝、『異変』は起こった。
……何とジュリアが高熱を出して、寝込んでしまったのだ。
彼女の身体はカチコチに硬直し、起き上がるどころか満足に手足も動かせない状態である。
しかし俺はホッとした。
何故か?
イザベラとアモンがすぐに『病名』を教えてくれたからだ。
まあ、正確に言えば、病気ではない。
15歳の誕生日を迎えたジュリアに、例の竜神族の覚醒って奴がとうとう来たのだ。
アモンによれば1週間程度の寝たきり状態が続くらしい。
それを聞いた俺は一瞬考え込んだが、すぐにイザベラとアモンへ申し入れをした。
イザベラの姉の婚礼の日までもう残り少ないからだ。
タイムリミットが迫っている。
『賢者の石』と『オリハルコンのレシピ』を少しでも早く悪魔王国に持ち帰らないといけない。
イザベラの姉の輿入れの際に、嫁入り道具として必要なオリハルコン製のティアラと短剣の製作には時間も相当掛かるだろうから。
俺達のやりとりをじっと聞いていたジュリアが、苦しい息の下から呻《うめ》く。
「はぁはぁ……ト、トール……わ、私は絆亭で休んでいるから……イ、イザベラと出発し……て」
悪魔王国へ先に行って貰い、納品して来て欲しいという事だろう。
しかし俺の気持ちは既に決まっていた。
俺は向き直って、イザベラとアモンへ言う。
「イザベラ、アモン……悪いが、先に出発してくれ。俺はジュリアに付いているから」
実の所、俺の心の底にはアモンに対して、深謀遠慮もあった。
俺が腕相撲の勝負に勝ってから、毒舌を吐きながら俺の面倒を何かと見てくれたアモン。
邪神様がそれはアモンの友情だという台詞を吐いていたが、最近は俺の方も友情を感じていたのである。
今更だが……
アモンの婚約者であるイザベラを嫁にした事実が、俺の心の奥底でずっと引っかかっていた。
強い奴が勝つのだから、そんな事は気にするなという悪魔の論理。
そして改造される前の普通の人間であった頃の良心が、俺の中で激しく葛藤していたのである。
俺は、イザベラの事を決して愛していないわけではない。
当然、凄く可愛い嫁だと思っている。
だが悪魔王国におけるアモンの立場はとても微妙だ。
外身はひ弱な人間の俺にみっともなく負けた上に、国王の娘である自分の婚約者だったイザベラまで寝取られた。
と、あっちゃ……下手すると死罪になるくらい、ヤバイかもしれない。
ここでアモンが、何事もなかったかのように悪魔王国に戻る。
そして家出したイザベラを連れ戻して、オリハルコンを持ち帰れば……
彼はお咎め無しどころか、一躍『英雄』となるだろう。
しかし!
イザベラはこんな時に、異常と言って良いくらいの勘が働くのであろうか?
俺の要請に対して、断固として出発を拒んだ。
ジュリアが回復するまで自分も絆亭に残ると宣言したのである。
イザベラの答えを聞いて尚更、吃驚したのがジュリアだ。
俺が残るのでさえ難色を示していたのに、当事者のイザベラまで残ると聞いて戸惑いと嬉しさが入り混じった複雑な表情をしている。
「あううう……だ、駄目だよ、イ、イザベラ……」
「こらっ、ジュリア! 何、言っているの? 私達は仲間というか、夫を同じくする妻同士じゃないか! つまり家族だろう? 助け合うのは当たり前だよ」
「あうううう、トールゥ、イザベラ~」
ジュリアはもう大泣き。
涙と鼻水で酷い状況になっている。
だけど、とっても嬉しそうだ。
そんなジュリアを見て、イザベラはにっこり笑った。
優しさに満ち溢れた笑顔である。
「オリハルコンはもういつでも渡せるんだ。姉上にはもう少し我慢して貰うさ」
アモン単独で帰国するのは絶対に無理……
イザベラはそれを見越して、姉にオリハルコンを渡すのは先になると言っているのだ。
……イザベラの真意は俺にも分からない。
ジュリアの為と言いながら……
帰国したら、俺とはもう二度と会えないのではと感じたのが理由かもしれない。
念話で密かに聞いても構わないが、それはイザベラを完全に信じていない事になってしまう。
ここは、素直にジュリアの為と受け取っておこう。
そうと決まれば、絆亭の女将であるドーラさんには、ジュリアが『風邪』をひいたという事にして延泊を申し入れる。
ちなみに医者は呼ばなかった。
下手に医者を頼むとジュリアの素性が探られる可能性もある。
絶対にやめた方が良いと、アモンから忠告されたのだ。
じゃあ、治療に関しては? と尋ねると……
さすがに他部族の事などで詳しくないと言いながらも、一応アドバイスはしてくれた。
竜神族の覚醒の症状は様々だが、高熱が出る、食欲不振、下痢、眩暈、倦怠感等々。
有効な薬も無い為に、例えば熱が出たら冷やすとか等のいわゆる対処療法的な事を行うしかないようだ。
寝込んでしまい、苦しそうなジュリアを見た俺は、彼女がとても可哀想になってしまった。
俺はジュリアの夫として、身の回りの世話をしっかりやると、心に決めたのである。
……何とジュリアが高熱を出して、寝込んでしまったのだ。
彼女の身体はカチコチに硬直し、起き上がるどころか満足に手足も動かせない状態である。
しかし俺はホッとした。
何故か?
イザベラとアモンがすぐに『病名』を教えてくれたからだ。
まあ、正確に言えば、病気ではない。
15歳の誕生日を迎えたジュリアに、例の竜神族の覚醒って奴がとうとう来たのだ。
アモンによれば1週間程度の寝たきり状態が続くらしい。
それを聞いた俺は一瞬考え込んだが、すぐにイザベラとアモンへ申し入れをした。
イザベラの姉の婚礼の日までもう残り少ないからだ。
タイムリミットが迫っている。
『賢者の石』と『オリハルコンのレシピ』を少しでも早く悪魔王国に持ち帰らないといけない。
イザベラの姉の輿入れの際に、嫁入り道具として必要なオリハルコン製のティアラと短剣の製作には時間も相当掛かるだろうから。
俺達のやりとりをじっと聞いていたジュリアが、苦しい息の下から呻《うめ》く。
「はぁはぁ……ト、トール……わ、私は絆亭で休んでいるから……イ、イザベラと出発し……て」
悪魔王国へ先に行って貰い、納品して来て欲しいという事だろう。
しかし俺の気持ちは既に決まっていた。
俺は向き直って、イザベラとアモンへ言う。
「イザベラ、アモン……悪いが、先に出発してくれ。俺はジュリアに付いているから」
実の所、俺の心の底にはアモンに対して、深謀遠慮もあった。
俺が腕相撲の勝負に勝ってから、毒舌を吐きながら俺の面倒を何かと見てくれたアモン。
邪神様がそれはアモンの友情だという台詞を吐いていたが、最近は俺の方も友情を感じていたのである。
今更だが……
アモンの婚約者であるイザベラを嫁にした事実が、俺の心の奥底でずっと引っかかっていた。
強い奴が勝つのだから、そんな事は気にするなという悪魔の論理。
そして改造される前の普通の人間であった頃の良心が、俺の中で激しく葛藤していたのである。
俺は、イザベラの事を決して愛していないわけではない。
当然、凄く可愛い嫁だと思っている。
だが悪魔王国におけるアモンの立場はとても微妙だ。
外身はひ弱な人間の俺にみっともなく負けた上に、国王の娘である自分の婚約者だったイザベラまで寝取られた。
と、あっちゃ……下手すると死罪になるくらい、ヤバイかもしれない。
ここでアモンが、何事もなかったかのように悪魔王国に戻る。
そして家出したイザベラを連れ戻して、オリハルコンを持ち帰れば……
彼はお咎め無しどころか、一躍『英雄』となるだろう。
しかし!
イザベラはこんな時に、異常と言って良いくらいの勘が働くのであろうか?
俺の要請に対して、断固として出発を拒んだ。
ジュリアが回復するまで自分も絆亭に残ると宣言したのである。
イザベラの答えを聞いて尚更、吃驚したのがジュリアだ。
俺が残るのでさえ難色を示していたのに、当事者のイザベラまで残ると聞いて戸惑いと嬉しさが入り混じった複雑な表情をしている。
「あううう……だ、駄目だよ、イ、イザベラ……」
「こらっ、ジュリア! 何、言っているの? 私達は仲間というか、夫を同じくする妻同士じゃないか! つまり家族だろう? 助け合うのは当たり前だよ」
「あうううう、トールゥ、イザベラ~」
ジュリアはもう大泣き。
涙と鼻水で酷い状況になっている。
だけど、とっても嬉しそうだ。
そんなジュリアを見て、イザベラはにっこり笑った。
優しさに満ち溢れた笑顔である。
「オリハルコンはもういつでも渡せるんだ。姉上にはもう少し我慢して貰うさ」
アモン単独で帰国するのは絶対に無理……
イザベラはそれを見越して、姉にオリハルコンを渡すのは先になると言っているのだ。
……イザベラの真意は俺にも分からない。
ジュリアの為と言いながら……
帰国したら、俺とはもう二度と会えないのではと感じたのが理由かもしれない。
念話で密かに聞いても構わないが、それはイザベラを完全に信じていない事になってしまう。
ここは、素直にジュリアの為と受け取っておこう。
そうと決まれば、絆亭の女将であるドーラさんには、ジュリアが『風邪』をひいたという事にして延泊を申し入れる。
ちなみに医者は呼ばなかった。
下手に医者を頼むとジュリアの素性が探られる可能性もある。
絶対にやめた方が良いと、アモンから忠告されたのだ。
じゃあ、治療に関しては? と尋ねると……
さすがに他部族の事などで詳しくないと言いながらも、一応アドバイスはしてくれた。
竜神族の覚醒の症状は様々だが、高熱が出る、食欲不振、下痢、眩暈、倦怠感等々。
有効な薬も無い為に、例えば熱が出たら冷やすとか等のいわゆる対処療法的な事を行うしかないようだ。
寝込んでしまい、苦しそうなジュリアを見た俺は、彼女がとても可哀想になってしまった。
俺はジュリアの夫として、身の回りの世話をしっかりやると、心に決めたのである。
0
お気に入りに追加
284
あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜
霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!!
「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」
回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。
フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。
しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを……
途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。
フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。
フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった……
これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である!
(160話で完結予定)
元タイトル
「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様
コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」
ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。
幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。
早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると――
「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」
やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。
一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、
「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」
悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。
なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?
でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。
というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】
その攻撃、収納する――――ッ!
【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。
理由は、マジックバッグを手に入れたから。
マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。
これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

S級クラフトスキルを盗られた上にパーティから追放されたけど、実はスキルがなくても生産力最強なので追放仲間の美少女たちと工房やります
内田ヨシキ
ファンタジー
[第5回ドラゴンノベルス小説コンテスト 最終選考作品]
冒険者シオンは、なんでも作れる【クラフト】スキルを奪われた上に、S級パーティから追放された。しかしシオンには【クラフト】のために培った知識や技術がまだ残されていた!
物作りを通して、新たな仲間を得た彼は、世界初の技術の開発へ着手していく。
職人ギルドから追放された美少女ソフィア。
逃亡中の魔法使いノエル。
騎士職を剥奪された没落貴族のアリシア。
彼女らもまた、一度は奪われ、失ったものを、物作りを通して取り戻していく。
カクヨムにて完結済み。
( https://kakuyomu.jp/works/16817330656544103806 )

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる