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第84話「俺の作戦で戦おう」
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俺達クランは一旦、階段の途中まで後退した。
今、作戦を練り直している。
これ迄の迷宮とは全く違う、『街』での戦闘という戸惑い。
予想より遥かに数が多い強敵、鋼鉄の巨人共へどのように対処すべきかである。
まずは市街戦だが、普通の迷宮で戦うよりも不確定要素が多い。
索敵で把握している敵は鋼鉄の巨人のみだが、街というノイズのせいで他の敵や罠が配置されていたりするとすぐに命取りになる。
よくよく考えれば誰にでも分かる事だが……
相手の戦力が読み切れていないの、にむやみに攻め懸けるほど愚かな事はないのだ。
市街戦は俺達のような少人数のクランで攻めるには圧倒的に不利。
というより戦いのプロならば、いきなり小部隊で攻めるなど絶対に避けるのが常識らしい。
近代戦でのやり方でいえば、退路をしっかりと確保しておくのがまずは第一。
そして火器、つまり戦車やロケット砲などで先に攻撃しながら相手の戦力を計る。
その上で状況を把握し、準備が整ってから歩兵部隊がやっと出張るのが『普通』なのだそうだ。
以上受け売りだけど……俺の読んだ資料本には確かそう書いてあった。
「トール……今後の為にもなる。何か意見があれば言ってみるが良い」
このところ、ず~っと教師然として接してくるアモン。
その対応にはさすがにもう……慣れた。
「他力本願で心苦しいが……アモンの炎の息とイザベラの火炎魔法を撃ち込んでの陽動作戦かな」
「ほう! それで?」
「奴等が出て来たら、アモンの配下である悪霊を囮に使う」
「ふむ……それをやると当然、鋼鉄の巨人が襲ってくるな」
「ああ、悪霊が誘き出した鋼鉄の巨人をこちらは退路を確保した上で各個撃破にて潰し、少しずつ数を減らして行く。いわゆる消耗戦で回り道となるが、それが逆に1番の近道だと思う」
アモンは俺の意見に納得しているようだ。
腕組みをしながら、黙って頷いていた。
『お叱り』がないので、俺は話を続ける。
「それに街を模したあの家屋などの中にはどのような罠があるか分からない。貴重な遺跡と考えるのであれば勿体無いが『王宮』への安全な進路を確保する為に破壊してしまおう」
俺の話を聞き終わった、アモンは満足げな笑顔を見せた。
あれ、破顔って奴、それ?
珍しいね!
アモンがこんな顔をするとは。
俺も釣られて笑顔で返すと、やっぱり機嫌良く話し始める。
「ははは、中々の作戦だな。となると鋼鉄の巨人共が一度には襲い掛かれない場所が必要だ。うむ……退路を確保しながらと言うのなら、この階段を背に攻撃するのが良いだろう」
「そうだな。囮が上手く立ち回ってくれないと各個撃破は出来ない」
俺とアモンの会話を聞いていたイザベラも、にこやかな表情をしながら手を挙げる。
普段は某女優並みのクールビューティという雰囲気を醸し出すイザベラ。
そんな彼女が見せる意外な素顔だ。
「トール! さっきアモンが召喚した部下の『悪霊』なら私も呼べるわ。今の話からすれば囮の数は少しでも多いほうが良いでしょう?」
「そうだな、イザベラ。宜しく頼む」
「任せといて!」
にっこりと微笑んで頷くイザベラ。
ここで慌てたのがジュリアである。
今迄の自分の働きを考えて、貢献度が全く足りていないと思っているらしい。
「私は!? 私に何かやれる事は無い?」
「ジュリア、お前にもぜひ頼みたい事がある」
「本当!? 私、クランの役に立ちたいから」
ジュリアの、このように健気で一生懸命な所が俺は好きだ。
そこで早速、彼女の役割を説明する。
「ジュリアの持つ杖の先端は今回復の魔法水晶が取り付けられているが、魔法水晶の魔力を使い切ったら、いつでも予備のものに着け代えられる様にスタンバイしておいてくれ。さっきの話に出たようにこの戦いは消耗戦となるからな」
「消耗戦?」
ジュリアは可愛らしく首を傾げる。
くう!
こいつ、本当に可愛いな。
間近で改めて見るとジュリアといい、イザベラといい、超絶美少女ぶりに更に拍車が掛かっている。
俺はやはり幸せ者だ。
「消耗戦というのは我慢比べだ。その中では回復役の働きが1番重要なのだ。クランの誰かが傷ついたらしっかりと回復してやってくれ。勿論、自分の安全も考えてくれよ」
「わ、分かった! 頑張るよ!」
緊張しているらしいジュリアの肩をぽんと叩き、俺はイザベラも呼んだ。
ちなみにアモンは腕組みをして、目を閉じていた。
あれ?
気を利かせてくれている?
だったら!
俺は奴を前にし、ふたりの事をしっかりと抱き締めていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――20分後
俺達は再び、地下6階フロアへの入り口から様子を窺っている。
相変わらず鋼鉄の巨人達はじっとしたまま動かない。
一見、ただの彫像に見える彼等。
それが動き出して攻撃するなど俺には到底信じられないが、索敵では確かにあの中に魂の波動を感じるのだ。
いきなり突っ込むのは危険。
戦うにはまずは奴等がどのような動きで攻撃して来るか、確かめる必要があった。
俺はアモンとイザベラに合図をした。
背後でジュリアが身体を硬くする気配が伝わって来る。
かあああっ!
「燃えよっ!」
アモンの口からは気合を込めた灼熱の炎が、イザベラの手からは炎の魔法が発動され、鋼鉄の巨人達を襲う。
がちゃり!
その攻撃が届く前に鋼鉄の巨人達は想像以上の機敏な動きで向きを変えると、盾と一体化したと思われる太い腕で炎を防ぐ。
ふたりが放った炎は力無く四散してしまう。
むう!
敵ながら凄いや。
あれじゃあ……な。
アモンの灼熱の炎もイザベラの火炎魔法も全く効いていない!
よっし!
続いての作戦、発動だ!
「アモン、イザベラ! 悪霊を!」
「分かった……」
「了解! 旦那様!」
ぶしゅうう!
鋼鉄の巨人達は敵として俺達を認めたようだ。
何が動力で動いているのか分からないが、排気口らしい部分から蒸気が立ち昇る。
そこへわらわらと、実体を持たない悪霊軍団が襲い掛かった。
掴み所のない敵に鋼鉄の巨人達は戸惑っている。
「アモン! イザベラ! 悪霊に命じて奴等を少しでも分断するんだ! そうしたら、俺が出る!」
「よし! トール、奴等を分断させるぞ!」
「OK! 旦那様!」
ふたりの指示で悪霊達は思い思いの方向に散って行く。
すると上手い事に、鋼鉄の巨人達も悪霊を追って走り出した。
これは……肉食獣が草食獣の群れから狙いすました獲物を狩るやり方だ。
すなわち群れから、はぐれた個体を狙って倒すのである。
俺は1体の鋼鉄の巨人が、だいぶ離れたのを確かめると剣を握って走り出す。
走る俺の背にはジュリアとイザベラから、「頑張って」という大きな声が飛んだのであった。
今、作戦を練り直している。
これ迄の迷宮とは全く違う、『街』での戦闘という戸惑い。
予想より遥かに数が多い強敵、鋼鉄の巨人共へどのように対処すべきかである。
まずは市街戦だが、普通の迷宮で戦うよりも不確定要素が多い。
索敵で把握している敵は鋼鉄の巨人のみだが、街というノイズのせいで他の敵や罠が配置されていたりするとすぐに命取りになる。
よくよく考えれば誰にでも分かる事だが……
相手の戦力が読み切れていないの、にむやみに攻め懸けるほど愚かな事はないのだ。
市街戦は俺達のような少人数のクランで攻めるには圧倒的に不利。
というより戦いのプロならば、いきなり小部隊で攻めるなど絶対に避けるのが常識らしい。
近代戦でのやり方でいえば、退路をしっかりと確保しておくのがまずは第一。
そして火器、つまり戦車やロケット砲などで先に攻撃しながら相手の戦力を計る。
その上で状況を把握し、準備が整ってから歩兵部隊がやっと出張るのが『普通』なのだそうだ。
以上受け売りだけど……俺の読んだ資料本には確かそう書いてあった。
「トール……今後の為にもなる。何か意見があれば言ってみるが良い」
このところ、ず~っと教師然として接してくるアモン。
その対応にはさすがにもう……慣れた。
「他力本願で心苦しいが……アモンの炎の息とイザベラの火炎魔法を撃ち込んでの陽動作戦かな」
「ほう! それで?」
「奴等が出て来たら、アモンの配下である悪霊を囮に使う」
「ふむ……それをやると当然、鋼鉄の巨人が襲ってくるな」
「ああ、悪霊が誘き出した鋼鉄の巨人をこちらは退路を確保した上で各個撃破にて潰し、少しずつ数を減らして行く。いわゆる消耗戦で回り道となるが、それが逆に1番の近道だと思う」
アモンは俺の意見に納得しているようだ。
腕組みをしながら、黙って頷いていた。
『お叱り』がないので、俺は話を続ける。
「それに街を模したあの家屋などの中にはどのような罠があるか分からない。貴重な遺跡と考えるのであれば勿体無いが『王宮』への安全な進路を確保する為に破壊してしまおう」
俺の話を聞き終わった、アモンは満足げな笑顔を見せた。
あれ、破顔って奴、それ?
珍しいね!
アモンがこんな顔をするとは。
俺も釣られて笑顔で返すと、やっぱり機嫌良く話し始める。
「ははは、中々の作戦だな。となると鋼鉄の巨人共が一度には襲い掛かれない場所が必要だ。うむ……退路を確保しながらと言うのなら、この階段を背に攻撃するのが良いだろう」
「そうだな。囮が上手く立ち回ってくれないと各個撃破は出来ない」
俺とアモンの会話を聞いていたイザベラも、にこやかな表情をしながら手を挙げる。
普段は某女優並みのクールビューティという雰囲気を醸し出すイザベラ。
そんな彼女が見せる意外な素顔だ。
「トール! さっきアモンが召喚した部下の『悪霊』なら私も呼べるわ。今の話からすれば囮の数は少しでも多いほうが良いでしょう?」
「そうだな、イザベラ。宜しく頼む」
「任せといて!」
にっこりと微笑んで頷くイザベラ。
ここで慌てたのがジュリアである。
今迄の自分の働きを考えて、貢献度が全く足りていないと思っているらしい。
「私は!? 私に何かやれる事は無い?」
「ジュリア、お前にもぜひ頼みたい事がある」
「本当!? 私、クランの役に立ちたいから」
ジュリアの、このように健気で一生懸命な所が俺は好きだ。
そこで早速、彼女の役割を説明する。
「ジュリアの持つ杖の先端は今回復の魔法水晶が取り付けられているが、魔法水晶の魔力を使い切ったら、いつでも予備のものに着け代えられる様にスタンバイしておいてくれ。さっきの話に出たようにこの戦いは消耗戦となるからな」
「消耗戦?」
ジュリアは可愛らしく首を傾げる。
くう!
こいつ、本当に可愛いな。
間近で改めて見るとジュリアといい、イザベラといい、超絶美少女ぶりに更に拍車が掛かっている。
俺はやはり幸せ者だ。
「消耗戦というのは我慢比べだ。その中では回復役の働きが1番重要なのだ。クランの誰かが傷ついたらしっかりと回復してやってくれ。勿論、自分の安全も考えてくれよ」
「わ、分かった! 頑張るよ!」
緊張しているらしいジュリアの肩をぽんと叩き、俺はイザベラも呼んだ。
ちなみにアモンは腕組みをして、目を閉じていた。
あれ?
気を利かせてくれている?
だったら!
俺は奴を前にし、ふたりの事をしっかりと抱き締めていたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
――20分後
俺達は再び、地下6階フロアへの入り口から様子を窺っている。
相変わらず鋼鉄の巨人達はじっとしたまま動かない。
一見、ただの彫像に見える彼等。
それが動き出して攻撃するなど俺には到底信じられないが、索敵では確かにあの中に魂の波動を感じるのだ。
いきなり突っ込むのは危険。
戦うにはまずは奴等がどのような動きで攻撃して来るか、確かめる必要があった。
俺はアモンとイザベラに合図をした。
背後でジュリアが身体を硬くする気配が伝わって来る。
かあああっ!
「燃えよっ!」
アモンの口からは気合を込めた灼熱の炎が、イザベラの手からは炎の魔法が発動され、鋼鉄の巨人達を襲う。
がちゃり!
その攻撃が届く前に鋼鉄の巨人達は想像以上の機敏な動きで向きを変えると、盾と一体化したと思われる太い腕で炎を防ぐ。
ふたりが放った炎は力無く四散してしまう。
むう!
敵ながら凄いや。
あれじゃあ……な。
アモンの灼熱の炎もイザベラの火炎魔法も全く効いていない!
よっし!
続いての作戦、発動だ!
「アモン、イザベラ! 悪霊を!」
「分かった……」
「了解! 旦那様!」
ぶしゅうう!
鋼鉄の巨人達は敵として俺達を認めたようだ。
何が動力で動いているのか分からないが、排気口らしい部分から蒸気が立ち昇る。
そこへわらわらと、実体を持たない悪霊軍団が襲い掛かった。
掴み所のない敵に鋼鉄の巨人達は戸惑っている。
「アモン! イザベラ! 悪霊に命じて奴等を少しでも分断するんだ! そうしたら、俺が出る!」
「よし! トール、奴等を分断させるぞ!」
「OK! 旦那様!」
ふたりの指示で悪霊達は思い思いの方向に散って行く。
すると上手い事に、鋼鉄の巨人達も悪霊を追って走り出した。
これは……肉食獣が草食獣の群れから狙いすました獲物を狩るやり方だ。
すなわち群れから、はぐれた個体を狙って倒すのである。
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