真☆中二病ハーレムブローカー、俺は異世界を駆け巡る

東導 号

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第73話「恐るべき現実②」

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「奴等はいわゆる初心者殺しルーキーキラー。人間の誇りも何もない不心得者達である」

 一転して犠牲者となっている冒険者達。
 彼等を見るアモンの濃い鳶色の眼はまばたきもしない。

「俺には発する魔力波《オーラ》で分かる。奴等はこの迷宮に来たばかりの、冒険者としては経験の少ない下位ランクの初心者《ルーキー》だけを狙って来た」

「…………」

「襲ったクランの男は即座に殺し、女も犯した後に容赦なく殺した。因果応報とは良く言ったもの、今そのカルマが自分達に返って来たのだからな」

 悪霊はまだ音を立てて、哀れな冒険者達を貪り食っていた。
 アモンは、ゆっくりと俺に向き直る。

「トールよ、見ておけ! これがこの世界の非情な現実なのだ……他人を全て敵とみなせとは言わないが、全ての行動の結果が自己責任となる。今のお前には大事な妻を守る義務が生まれたのを忘れるな」

 ……確かに、アモンの言う通りだ。
 
 少し前まで普通の高校生だった俺。
 その俺が嫁をふたりもめとり、今や全く違う環境の異世界で生きて行く。
 この初心者殺しルーキーキラーへの対応も、本当はこのクランのリーダーである俺が責任を以て対処すべき事なのだ。

 アモンは更に話を続ける。

「この世界は創世神とその一族が管理する世界。彼等の定めた運命の輪に基づいて生きるのは俺達悪魔でも、お前達人間でも変わらない事実だ。実戦経験が無いお前がこの迷宮に来たのも、その運命のせいかもしれない」

 そうか!

 アモンにそう言われた俺は「ハッ」として気が付いた。
 万が一、俺があっけなく死んだらいろいろと問題が起こるに違いない。
 
 それを回避させる為だろう。
 邪神様……すなわちこの世界の管理者である創世神の直子スパイラルは俺に経験を積ませ、価値観を分からせる為にこの迷宮に送り込んだのだ。
 
 俺がそんな考えに及んだ瞬間である。
 例によって俺の心へ聞き慣れた声が響いた。
 この異世界へ俺を送り込んだ張本人である邪神様である。

『ふふふ、僕の事がようやく分かって来たようだね。さすが、伊達に使徒をやっていないね』

 邪神様の事など知りたくもないが、一応使徒なら仕方がない……

『そう! 使徒の君はもっと僕の事を知らなきゃね! そしてこの世界の事もね』

『認めます……そして自覚もします。確かに家族も出来たし、この世界の事を知らないといけないです』

『うふふ、使徒として結構しっかりして来たじゃない! 責任感が芽生えたって事だね』

『褒めて頂きありがとうございます』

『ふふふ、結構! 君はこれから今迄生きて来た世界とは全く違う価値観で生きる事を強いられる。この悪魔君の言う通り全てが自己責任という世界だからね。甘い判断では僕が改造したそのチートな能力をもってしても危ないよ』

『分かっていますよ、俺はこの世界では非情になるんでしょう?』

『ノンノンノン! それこそ分かっていないよ。非情な決断をするだけではないんだ。……情けは人の為ならず……時にはそういう配慮をする事で君達が生き残れる理由となる』

 情けは人の為ならずって……どういう意味の諺だっけ?
 ……難しいな。
 まだ頭が高校生の俺では理解不能だ。

『高校生ってだけじゃなくて、単に落ちこぼれだったしね、あはは』

 くう~、相変わらず性悪!
 本当に……ムカツク!
 
『ははははは! 偉大なる僕が教えてやろう。馬鹿で愚かな君は、謙虚に耳をかっぽじってから聞くが良い』

『…………』

『情けは人の為ならずって言うのはね、まさに君が悪魔王女様を助けている事。お陰でそこに居る悪魔侯爵君でさえ、君に友情って奴を感じているじゃないか』

『へ? このアモンが俺に友情を!?』
 
『そうだよ! 面白い事にさ、不出来な弟子を育てる厳しい師匠みたいな気持ちも生まれているみたい』

『まさか? 俺は人間だし、アモンは非情な悪魔じゃないですか。その上、婚約者であるイザベラを寝取ってもいるんですよ』

『そこが面白い所さ。まあ神と悪魔、そして人間の価値観はそれぞれ違うからね』

 むう……
 そんなもんかい。

『まあ、神の使徒の嫁が竜神族と悪魔、親友も悪魔ってのは傑作だよねぇ! 僕も君を見ていて飽きないよ、さすがに!』

 邪神様は満足そうに言い放つ。

『ふふふ、これからも山あり谷ありの人生を用意しておいたから楽しんでね。ば~い』

 あ、待て!
 じゃあ、俺はまたお前の手の平で遊ばされるのか?

 しかし!
 いつものように邪神様は自分が告げたい事を言うだけ言うとさっさと帰ってしまった。

「大丈夫?」

「おい、トールったら、ぼうっとして……」

 え!?

 心配したジュリアとイザベラ、ふたりの声で俺は我に返った。

「迷宮……いや戦場における集中力の欠如は死に繋がる。深く反省すべきだ」

 俺をぴしりとさとすような、アモンの教師然たる声。
 やはりスパイラルの声、念話は俺以外には全く聞こえていない。

「ジュリア、イザベラ、大丈夫だ。そして済まない、アモン……反省するよ」

 俺が素直に謝るとジュリアとイザベラはホッとする。
 そして、いかつい顔のアモンの顔が僅かだが……ほころんだ気がしたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 アモンの部下である悪霊達が、魔界に帰った。
 なので、俺達はかつて冒険者であったモノの傍らに行ってみた。
 悪霊達の食欲は旺盛と言って良い。
 冒険者達は単に残骸と化していて、骨と装飾品を残しているのみであった。

 因果応報……

 彼等がさっき見たような形で経験の少ない初心者に悪事を働いた報いを受けた事になる。
 ここまで来ると1番冷静なのがジュリアだ。
 『自分』と『イザベラ』を容赦なく乱暴した事も、彼女を非情にしている大きな原因であろう。

「ええとこいつら、大した鎧はつけていないね。これは要らないと…… 後は結構な現金といくつかの魔法指輪マジックリング、そして魔力蓄積用の魔法水晶を持っているよ。もう2度と奴等が使う事は無いだろうから、ありがたく貰っておこう」

 前世の俺から見れば立派な窃盗だが、この世界では拾得物を届けるような習慣はない。
 悪霊が奴等を喰い殺した事もあって、犯罪確認用の魔法水晶も反応しないという。

「貰っちゃおう! 私も賛成だよ!」
「…………」

 イザベラは否応なく賛成し、アモンは肯定するように無言で頷いた。

 俺は「分かった」と返事をして、死体から『回収』を始めたのであった。
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