真☆中二病ハーレムブローカー、俺は異世界を駆け巡る

東導 号

文字の大きさ
上 下
56 / 205

第56話「つまらない賭け」

しおりを挟む
 状況は以前、イザベラと勝負した時と全く同じになった。
 悪魔族の理屈というか論理は以前、イザベラから聞いた通りなのであろう。
 力こそが正義、いや悪。
 ……悪魔同士が揉めた時に決着をつける為の簡単明瞭なパワーゲーム、それが腕相撲なのだ。

 場所は、とある居酒屋ビストロの軒先を借りた。
 ここは、ジュリアの知り合いの店のようだ。
 娯楽が殆ど無い世界だから、どのような物でも賭け事のネタとなるらしい。
 俺とアモンが腕相撲の勝負をすると分かると、あっという間に10人以上の人が集まって来た。

 アモンはさっさと椅子に座ると、目を閉じてゆっくりと右腕をテーブルに置いている。

 店の主人らしい若い男が、ジュリアに話し掛けていた。
 腕相撲勝負で意外な人だかりが出来て、吃驚したような表情だ。

「ジュリアちゃん、いきなり店の軒先貸せって……あいつら……一体何者なんだよ?」

「こらっ、何言っているの? あたしのお陰で少しは客が入ったじゃないか? 明日の夜の飲み食いはこれでタダだからね」

「ちぇっ! それより前から頼んでいる俺とひと晩デートしてくれるって話はどうなんだい? いつも誤魔化されているけどよ」

 男は今迄、事あるごとにジュリアを口説いて来たらしい。
 しかしジュリアは今回も男の誘いをきっぱりと断った。

「駄目よ!」

「駄目って? 何故だよ?」

 男は、なおも食い下がる。
 ここで、ジュリアが爆弾を投下した。

「何故って……あの黒髪の彼があたしの旦那だもの!」

「ああっ!? あいつがジュリアちゃんの旦那か!? あっちの逞しい戦士の男じゃなくてか?」

 店の主人は旦那が居ると言われて、てっきりアモンの方を相手だと思っていたらしい。
 そして自分が勘違いしていたと分かると、このような捨て台詞を吐いたのである。

「でも弱そうな奴だなぁ……今迄言っていたジュリアちゃんの趣味と全く合わないじゃあないか?」

「ほう、よく言った……賭けるかい? あたしは博打が嫌いだけど勝てる勝負は受けて立つよ」

「お~し、やろう! 勝ったらひと晩デートだぜ。うひひひひ」

 男は下心見え見えの態度で勝負を受けると、ジュリアに答えた。

「その代わり負けたら金貨20枚だよ、良いね?」

 邪神様から貰った聴覚の鋭い、人間離れした俺の耳はそんな会話を一切捉えていた。
 
「おい、てめぇ……何が勝ったらひと晩デートさせろ、だ?」

 俺は指を「ぽきり」と鳴らすと、ジュリアと男の前に立った。

 「何だ! てめぇは!」

 ジュリアと賭けをした居酒屋《ビストロ》の主人がいきり立つ。
 しかし俺は奴をスルーしてジュリアに言い放つ。 

「ジュリア、そんな馬鹿な賭けはやめておけ」

「え?」

 俺から少し離れていたし、小声で話していた居酒屋の主人との会話がまさか聞こえているとは思わなかったらしい。
 ジュリアは呆気に取られている。
 
「聞こえなかったのか? そんな馬鹿な賭けは『無し』だと言ったんだ」

「えええ! だ、だって! あ、あたし!」

「勝負事なんて何が起こるか分からないんだ。俺はそんなくだらない賭けで勝った金貨20枚なんて欲しくはないし、万が一俺が負けたらお前はその男とどこかへ遊びにでも行くのか?」

 ジュリアは、俺がそんなに怒るとは思っていなかったのであろう。
 驚きのあまり口がぱくぱく動いて、まるで酸欠状態の金魚である。

「お前がそんな馬鹿な事をやるのなら、もう、勝手にどこへでも行ってしまえ!」

 俺は自分でも意外だった。
 そこまで言う!? って感じである。

 さっきの「悪魔ぶち殺す」発言といい、前世の弱気な俺ならそんな事は一切言えないから。
 そして極めつけは、容赦ないジュリアへの絶縁宣言!
 初めて出来た彼女への扱いとは思えない対応である。

 俺って実は、思い切り亭主関白?
 確かに、知らない間の『嫁寝取られ事件』などは真っ平御免だが……

 しかし居酒屋ビストロの主人である若い男は、はっきり言って俺を舐め切っていた。
 俺に一方的に言われて、少しは低姿勢になるかと思いきや、ますます粋がって増長している。

「何だと、てめぇ! 約束は約束なんだよ。賭けはもう成立しちゃったんだ。ジュリアちゃんは俺がばっちり美味しく頂くぜ! てめぇこそ、弱そうな癖に粋がるな! 馬鹿はてめぇだよ、ば~か!」

 俺は「ずいっ」と罵倒する男へと詰め寄った。

「な、な、何だよ、てめぇ?」

 びびる男などまるっきり無視。
 俺は黙って左手で奴の胸倉を掴み、右手で平手打ちを連発した。
 
 ぱんぱんぱんぱんぱ~ん!
 
 肉を打つ乾いた音が軽快に鳴り響き、居酒屋の主人の口からは血が噴き出す。

「あが、あごががが……ぼぼ、ぼうりょく……は、んたい……」

 顎《あご》が痛いとか、他にも何か訴えているようだが、口は災いの元だ。
 いい気味である。
 手加減したので、居酒屋の主人は意識を手放すまでに到っていない。

「おい! 今、何と言った? 俺には馬鹿とか聞えたが気のせいか? それに人の嫁を亭主の目の前で口説くとは良い度胸だ。次にやったらてめぇの顔の真ん中に風穴、開けてゴミ溜めに放り込んでやるぞ」

 俺は掴んだ男を軽く振り回し、店の入り口から奥へ無造作に投げ込んだ。
 
 テーブルや椅子が倒れる派手な音がした。
 主人の苦痛を訴える呻き声が聞こえていたが、やがて静かになったのであった。 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる 

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ 25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。  目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。 ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。 しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。 ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。 そんな主人公のゆったり成長期!!

処理中です...