上 下
42 / 205

第42話「邪神様の嘲笑」

しおりを挟む
「これだけのブツだったら、ウチで買い取ってやっても良いぜ」

ジェトレ村の悪名高き『名品・珍品の店 ダックヴァル商店』店主の髭親爺ひげおやじ
 イザベラの宝石を鑑定し終わると、「ふん」と鼻を鳴らした。
 超が付く、偏屈な性格なのだろう。
 品質の良さを認めている癖に、相変わらずの『上から目線』は変わらない。
 そんな態度だから、イザベラの店主に対する視線も厳しい。
 しかしこの親爺は、全く気にならないらしい。

 親爺は再び「ふん」と鼻を鳴らした。
 いよいよ、金額の提示みたい。

「この宝石……俺の鑑定金額は全部で800万アウルムだな、この金額でよければ即現金で払ってやる。無論、取引税もこっち持ちだ」

 取引税?
 何、それ?

 俺が首を傾げていたら、ジュリアが解説してくれる。

「トール、こうやって売買する度に、王国の規定でかかる税金が取引税っていうんだ。大体取引額の5%を取られるのさ」

 成る程、納得した。
 消費税……みたいなものかな?

 一方、親爺の見立てた金額にイザベラは不満そうだ。

「納得いかない! さっきのジュリアの見立てでは1千万アウルムだろう? 税金は店持ちだからといって、たった800万アウルムとは、いくら何でも買い叩き過ぎじゃないの?」

 確かに、200万アウルムの差は大きい。
 この宝石を売って、オリハルコンの購入金に充てるからだ。
 万が一、少しの金額差で落札出来なかったらという心配がある。
 それを考えたら、200万は大きい。
 大き過ぎる。

 差額の200万は、殆どが利益プラス経費だろう。
 だが、イザベラの言う通り確かに納得のいく説明が欲しい。
 これからジュリアと共に商売人を目指す俺にとっても、今後の勉強になるからだ。

 俺がそんな事を考えていたら、親爺がジュリアに顎をしゃくった。
 苦笑しながら、偉そうに言う

「おいおい、タトラの小娘よぉ。この馬鹿姉ちゃんに買取りと販売の兼ね合いを説明してやれ」

 はぁ?
 馬鹿……姉ちゃん?
 これはまずい!
 誇り高い悪魔王女を、寄りによって馬鹿呼ばわりなんて。

 案の定、イザベラは……切れてしまった。
 今迄、親爺の態度が腹に据えかねていたようだから無理もない。 

「おい、貴様! 薄汚い髭男! ……この私に対して馬鹿とは良い度胸だ。殺してやるから、首をここに出せ」

「何だと! この小娘がぁ! 馬鹿だから馬鹿って言ったんだよ」

「き、貴様! 馬鹿と……二度言ったな? そうか、そんなに地獄へ送って欲しいか? よ~し、待っていろよ……今、魂を奪ってやる」

 魂を奪う?
 おい、おい、やばいよ!
 いつの間にか、例の禍々《まがまが》しい魔力波オーラが凄い勢いで立ち昇っているじゃないか!
 
 そうだ!
 人間と違って、神や天使、悪魔族って呪文や言霊無しでも魔法が使えるって聞いた事がある。
 ぱぱっと、発動出来るんじゃなかったっけ!?

「……デ…

 あぎゃ、やばい!
 いかにも、凶悪そうな魔法が発動しかけてるう!

 俺がアッと思った時には遅かった。
 
 イザベラの指先から発生した黒く禍々しい魔力波オーラは、無情にも店主を覆う。
 親爺はは意識を失い、テーブルに倒れこんでしまった。
 
 ああ、遅かったか!?
 
 俺は咄嗟にイザベラを羽交い絞めにした。
 魔法を完結させない為?
 分からないが、何とか止めたい一心からである。

 でも……
 何、この……ふわっとした感触?
 もしかして、あの大きなおっぱい!?

「あうっ! いやあん!」

 俺に抱かれて脱力してしまったのか、甘く可愛い悲鳴をあげてくたっと座り込むイザベラ。
 
 おお!
 この『いやあん』はもしかして……好きにしてOKの『いやあん』だ!
 
 で、あれば!
 こんな汚い中年の髭店主なんか放っておいて、まずイザベラだ。
 俺が抱き起こすと、イザベラは潤んだ瞳で俺を熱く見つめて来る。

「トール、好きだっ!」

 イザベラが大きな声で叫び、彼女の冷たいけど柔らかい唇が俺の唇に押し付けられた瞬間!

 ガン!

 凄い音が、俺の後頭部で響いていた。
 何か固いもので、誰かに思い切り殴られたのだ。

 ぐわっ!
 いってぇ~。

 だいぶ痛いが、やはり邪神様に改造して貰った馬鹿みたいに頑健な身体。
 俺が何とか後ろを振向くと……
 やはり予想通り、目に涙を一杯溜めたジュリアが大きな花瓶みたいな器を持って怒りの眼差しで立っていたのである。

「ジュ、ジュリア!?」
 
 やばい!
 さすが竜神族、怒ると、ぱねぇ!

「う~! トールったら、あたしが! あたしが! あんたの彼女なのに! 他のとキスなんかして!」

 ああ、御免!
 俺は、ジュリアの正真正銘の彼氏なのに。
 ついイザベラの魅力に負けてしまった。
 
 でも、これって普通の人はやらないよ。
 愛する彼女の前で、他の女の子とぶっちゅうとキスなんて!

『あはははははは~、いや~最高! 面白い~、この浮気者~』

 呆然とする俺の頭の中では、邪神様の嘲笑する声が確かに響いていたのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

実力を隠し「例え長男でも無能に家は継がせん。他家に養子に出す」と親父殿に言われたところまでは計算通りだったが、まさかハーレム生活になるとは

竹井ゴールド
ライト文芸
 日本国内トップ5に入る異能力者の名家、東条院。  その宗家本流の嫡子に生まれた東条院青夜は子供の頃に実母に「16歳までに東条院の家を出ないと命を落とす事になる」と予言され、無能を演じ続け、父親や後妻、異母弟や異母妹、親族や許嫁に馬鹿にされながらも、念願適って中学卒業の春休みに東条院家から田中家に養子に出された。  青夜は4月が誕生日なのでギリギリ16歳までに家を出た訳だが。  その後がよろしくない。  青夜を引き取った田中家の義父、一狼は53歳ながら若い妻を持ち、4人の娘の父親でもあったからだ。  妻、21歳、一狼の8人目の妻、愛。  長女、25歳、皇宮警察の異能力部隊所属、弥生。  次女、22歳、田中流空手道場の師範代、葉月。  三女、19歳、離婚したフランス系アメリカ人の3人目の妻が産んだハーフ、アンジェリカ。  四女、17歳、死別した4人目の妻が産んだ中国系ハーフ、シャンリー。  この5人とも青夜は家族となり、  ・・・何これ? 少し想定外なんだけど。  【2023/3/23、24hポイント26万4600pt突破】 【2023/7/11、累計ポイント550万pt突破】 【2023/6/5、お気に入り数2130突破】 【アルファポリスのみの投稿です】 【第6回ライト文芸大賞、22万7046pt、2位】 【2023/6/30、メールが来て出版申請、8/1、慰めメール】 【未完】

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

処理中です...