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第35話「イザベラの依頼」
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「てへぺろ」をするジュリアを見て、イザベラは苦笑する。
その笑顔は最初に会った時とは違い、情の籠《こ》もった優しいものだ。
確実に、ふたりの間には絆が生まれている。
「じゃあ、今回の私の依頼をトールへ話そうか?」
いよいよだ。
イザベラの依頼って奴が聞けるのか。
依頼を聞いたジュリアが、彼女と打ち解けた。
という事は、何か女性が同情するような気の毒な依頼に違いない。
さあ、聞こうか。
俺が見つめると、イザベラはにっこり笑う。
「単刀直入に言うと私はオリハルコンを探している。それを探す手伝いをして欲しいのさ」
おおっ、ははは~!
何だよ~っ。
ついに『オ・リ・ハ・ル・コ・ン』来た~っ!
幻のアトランティス大陸産の超合金!
定番のミスリルと並んで、中二病必須の金属の筆頭だぁ!
俺は期待にわくわくする。
と同時に、何故オリハルコンを探しているのかイザベラに理由を聞いてみた。
「なあ、オリハルコンって、凄い素材なんだろう? どうしてそんな物が要るんだい?」
「実はさ。私の姉が嫁ぐ事になったんだけど。輿入れの際にティアラと短剣を携《たずさ》えて行くんだよ」
へぇ~。
イザベラの姉さんの嫁入り道具か。
成る程ね!
「ティアラと短剣、それをオリハルコンで作ろうって事か」
「そうなんだよ。だけど私の国には他の金属はあってもこれだけは無くてね。姉は困っていたんだ、このままじゃあ好きな相手と結婚出来ないって」
成る程!
お互いが好きなら問題なんて無いとも思うけど、そのような慣習が残っていればそりゃ困るだろう。
でも、どうして……オリハルコン?
豪華さだけをアピールしたいのであれば、黄金なんかでも良い筈だけど。
「昔から決まっていて、絶対にオリハルコンじゃなきゃ駄目なんだ。我が家の面子に関わる事なのさ」
ふ~ん、昔から決まっている? 家の面子?
成る程ね。
イザベラの家って、きっと身分の高い、魔族の中でもさぞ立派な家柄なんでしょうね。
俺がそんな事を考えていると、いきなりイザベラが爆弾を投下した。
「私の父は、悪魔王アルフレードルよ」
あ、あ、あ、あくま!?
悪魔王アルフレードル!?
「悪魔……王?」
「そうさ、私は悪魔王の次女なんだ」
す、凄いカミングアウトを聞いてしまった。
俺が読んだ資料本の中に、その名前は無いが超怖そうな感じだ。
驚いたのは、ジュリアも同様。
鳶色の目を一杯に見開き、可愛い口をあんぐりと開けている。
「な、成程。で、では……そういう事で」
俺は、さっさと話を切り上げようとした。
だって、そうだろう。
性格が最悪な邪神とはいえ、俺は仮にもこの世界の管理神スパイラル様の使徒。
怖ろしい悪魔王とでは、真逆過ぎる存在だもの。
「何だい? 名乗っただけでちゃんと話も聞いて貰えないの? そんなの酷いよ」
いや!
他の素性は良いとしてその名乗りだけは皆、引きますって!
そんな時、ジュリアが信じられない事を言う。
「ねぇ、トール。イザベラは本当に困っているようなんだ。ここは相手の素性は置いといて話をまず聞こうよ」
いや素性は置いといてって……ジュリアさん、その素性が肝心なんだよ。
だがジュリアは俺に対して必死に懇願し、何とイザベラは目に涙まで溜めている。
はああ……困ったなぁ。
だって俺は神スパイラルの使徒だし、悪魔を助けて神罰とか喰らったら嫌だから。
『ははは、それ、面白いじゃない、傑作だよ! ぜひ、やってみなよ』
いきなり俺の魂に声が響く。
ああ、邪神様だよぉ!
『おお、君に邪神って呼ばれるとゾクゾクするね! 恰好良いよ、それ!』
もう!
相変わらずだ、この御方は。
『ふふふ、神の使徒が悪魔王を助けて『貸しひとつ』っていうのも傑作だよ。僕の方は全然問題無いから』
良いのかな?
いわば神の使徒が、悪魔を助けるのを公認なんて……
万が一、上級神って方々に知られたらまずくない?
『お~っと、それは内緒だ。もしチクったらそれこそ君に神罰喰らわせちゃうよ』
事の経緯を散々面白がった邪神様。
俺の心を読んで、きっちり口止めする。
さすがに、しっかりしてる。
『うふふ、じゃあ、ビシッと全力でその子を助けなよ~、じゃあね~』
散々面白がった邪神様。
悪魔王の娘であるイザベラを、助力するようにと言い残し去って行った。
もう!
こうなると、俺はもう腹を括るしかないだろう。
「トール? 大丈夫?」
「どうした? ぼーっとして?」
竜神族の血を受け継ぐ娘と悪魔王の娘……
さすがのふたりにも、俺と邪神様の会話は聞こえないらしい。
『念話』の最中は俺が単にぼうっとしているようにしか見えなかったようだ。
「だ、大丈夫だ。分かった! イザベラ、もう少し詳しく話を聞かせてくれ」
決心した俺は、改めてイザベラへと向き直ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
何度か深呼吸した俺は、漸く話を聞く態勢になった。
イザベラは何故か「くすり」と笑う。
「じゃあ最初から話すよ。姉のレイラは隣国の悪魔王ザインの息子エフィム王子の下へ嫁ぐ事になったんだ。ふたりは幼馴染で昔から仲が良かったから、お互いの国に異存はない」
ふうん……
悪魔の王国ってのもたくさんあるのね……
何か凄そう……
「私達の悪魔王家の習慣では花婿が広大で豪奢な宮殿を築いて花嫁を迎え、花嫁は光り輝くオリハルコンのティアラと短剣を携えて嫁入りするのさ」
「さっきから気になってたけど……何故、オリハルコンなんだ?」
「うん! オリハルコンはとても入手が困難な金属でね。それに降魔の効果があるから我々悪魔族を始めとした魔族の力の象徴でもあるんだ」
オリハルコンに降魔の効果?
それは俺の知識には無い。
確か資料本にそのような事は載っていなかった気がするが……
「そのオリハルコンがどうしても手に入らない。父上や母上、そして姉上本人も懸命に手を尽くして探させたんだけど、いまだに見つかっていないのさ」
そうか……
事情は分かった。
でもこういうのって、タイムリミットがあるよなぁ。
すぐ確認だ。
「で……婚礼はいつなんだ?」
「それが……もう2ヶ月後に迫っているんだよ」
たった2か月?
何だよ。
それ、ヤバくないか?
現状では全く手がかりがない。
インゴッドか何かもし探し出せても、精錬してからティアラと短剣を作るんだろう?
「おいおい、全然時間が無いじゃないか!」
「だからだよ、だから困って私が人間界にまで探しに来たんだ。何とか力になってよ! うわああああん! このままじゃあ姉上が可哀想そうだぁ!」
イザベラはとうとう泣き出してしまった。
ここまで切羽詰っていたら、確かに厳しいな。
ジュリアが同情するわけのも納得。
イザベラは姉思いの健気な妹……だものな。
更に聞けば家出同然で来た為、供も連れておらず冒険者ギルドで下僕を探そうとしていたらしい。
「トール、力になってやろうよ。このままじゃあイザベラ……可愛そうじゃない」
協力を促すジュリアの言葉に、俺は思わず同意して大きく頷いていたのであった。
その笑顔は最初に会った時とは違い、情の籠《こ》もった優しいものだ。
確実に、ふたりの間には絆が生まれている。
「じゃあ、今回の私の依頼をトールへ話そうか?」
いよいよだ。
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という事は、何か女性が同情するような気の毒な依頼に違いない。
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幻のアトランティス大陸産の超合金!
定番のミスリルと並んで、中二病必須の金属の筆頭だぁ!
俺は期待にわくわくする。
と同時に、何故オリハルコンを探しているのかイザベラに理由を聞いてみた。
「なあ、オリハルコンって、凄い素材なんだろう? どうしてそんな物が要るんだい?」
「実はさ。私の姉が嫁ぐ事になったんだけど。輿入れの際にティアラと短剣を携《たずさ》えて行くんだよ」
へぇ~。
イザベラの姉さんの嫁入り道具か。
成る程ね!
「ティアラと短剣、それをオリハルコンで作ろうって事か」
「そうなんだよ。だけど私の国には他の金属はあってもこれだけは無くてね。姉は困っていたんだ、このままじゃあ好きな相手と結婚出来ないって」
成る程!
お互いが好きなら問題なんて無いとも思うけど、そのような慣習が残っていればそりゃ困るだろう。
でも、どうして……オリハルコン?
豪華さだけをアピールしたいのであれば、黄金なんかでも良い筈だけど。
「昔から決まっていて、絶対にオリハルコンじゃなきゃ駄目なんだ。我が家の面子に関わる事なのさ」
ふ~ん、昔から決まっている? 家の面子?
成る程ね。
イザベラの家って、きっと身分の高い、魔族の中でもさぞ立派な家柄なんでしょうね。
俺がそんな事を考えていると、いきなりイザベラが爆弾を投下した。
「私の父は、悪魔王アルフレードルよ」
あ、あ、あ、あくま!?
悪魔王アルフレードル!?
「悪魔……王?」
「そうさ、私は悪魔王の次女なんだ」
す、凄いカミングアウトを聞いてしまった。
俺が読んだ資料本の中に、その名前は無いが超怖そうな感じだ。
驚いたのは、ジュリアも同様。
鳶色の目を一杯に見開き、可愛い口をあんぐりと開けている。
「な、成程。で、では……そういう事で」
俺は、さっさと話を切り上げようとした。
だって、そうだろう。
性格が最悪な邪神とはいえ、俺は仮にもこの世界の管理神スパイラル様の使徒。
怖ろしい悪魔王とでは、真逆過ぎる存在だもの。
「何だい? 名乗っただけでちゃんと話も聞いて貰えないの? そんなの酷いよ」
いや!
他の素性は良いとしてその名乗りだけは皆、引きますって!
そんな時、ジュリアが信じられない事を言う。
「ねぇ、トール。イザベラは本当に困っているようなんだ。ここは相手の素性は置いといて話をまず聞こうよ」
いや素性は置いといてって……ジュリアさん、その素性が肝心なんだよ。
だがジュリアは俺に対して必死に懇願し、何とイザベラは目に涙まで溜めている。
はああ……困ったなぁ。
だって俺は神スパイラルの使徒だし、悪魔を助けて神罰とか喰らったら嫌だから。
『ははは、それ、面白いじゃない、傑作だよ! ぜひ、やってみなよ』
いきなり俺の魂に声が響く。
ああ、邪神様だよぉ!
『おお、君に邪神って呼ばれるとゾクゾクするね! 恰好良いよ、それ!』
もう!
相変わらずだ、この御方は。
『ふふふ、神の使徒が悪魔王を助けて『貸しひとつ』っていうのも傑作だよ。僕の方は全然問題無いから』
良いのかな?
いわば神の使徒が、悪魔を助けるのを公認なんて……
万が一、上級神って方々に知られたらまずくない?
『お~っと、それは内緒だ。もしチクったらそれこそ君に神罰喰らわせちゃうよ』
事の経緯を散々面白がった邪神様。
俺の心を読んで、きっちり口止めする。
さすがに、しっかりしてる。
『うふふ、じゃあ、ビシッと全力でその子を助けなよ~、じゃあね~』
散々面白がった邪神様。
悪魔王の娘であるイザベラを、助力するようにと言い残し去って行った。
もう!
こうなると、俺はもう腹を括るしかないだろう。
「トール? 大丈夫?」
「どうした? ぼーっとして?」
竜神族の血を受け継ぐ娘と悪魔王の娘……
さすがのふたりにも、俺と邪神様の会話は聞こえないらしい。
『念話』の最中は俺が単にぼうっとしているようにしか見えなかったようだ。
「だ、大丈夫だ。分かった! イザベラ、もう少し詳しく話を聞かせてくれ」
決心した俺は、改めてイザベラへと向き直ったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
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「じゃあ最初から話すよ。姉のレイラは隣国の悪魔王ザインの息子エフィム王子の下へ嫁ぐ事になったんだ。ふたりは幼馴染で昔から仲が良かったから、お互いの国に異存はない」
ふうん……
悪魔の王国ってのもたくさんあるのね……
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「私達の悪魔王家の習慣では花婿が広大で豪奢な宮殿を築いて花嫁を迎え、花嫁は光り輝くオリハルコンのティアラと短剣を携えて嫁入りするのさ」
「さっきから気になってたけど……何故、オリハルコンなんだ?」
「うん! オリハルコンはとても入手が困難な金属でね。それに降魔の効果があるから我々悪魔族を始めとした魔族の力の象徴でもあるんだ」
オリハルコンに降魔の効果?
それは俺の知識には無い。
確か資料本にそのような事は載っていなかった気がするが……
「そのオリハルコンがどうしても手に入らない。父上や母上、そして姉上本人も懸命に手を尽くして探させたんだけど、いまだに見つかっていないのさ」
そうか……
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でもこういうのって、タイムリミットがあるよなぁ。
すぐ確認だ。
「で……婚礼はいつなんだ?」
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何だよ。
それ、ヤバくないか?
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インゴッドか何かもし探し出せても、精錬してからティアラと短剣を作るんだろう?
「おいおい、全然時間が無いじゃないか!」
「だからだよ、だから困って私が人間界にまで探しに来たんだ。何とか力になってよ! うわああああん! このままじゃあ姉上が可哀想そうだぁ!」
イザベラはとうとう泣き出してしまった。
ここまで切羽詰っていたら、確かに厳しいな。
ジュリアが同情するわけのも納得。
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更に聞けば家出同然で来た為、供も連れておらず冒険者ギルドで下僕を探そうとしていたらしい。
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この子のおかげで作家デビューできました
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