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第33話「ジェトレ村のギルドマスター」
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イザベラが、俺との腕相撲であっけなく負けた瞬間……
禍々しい怒りの魔力波が至近距離から俺へ、激しく叩きつけられる。
「おわっ!」
ぞくぞくする、おぞましい悪寒が俺の全身を走る。
身体が怖ろしいほど痙攣する。
さすがに、周りに居た他の受講者達がぎょっとした目を向ける。
常人には魔力波は見えないかもしれないが、おぞましい『悪寒』は感じている様子。
腰を抜かしたおじさん教官も、異様な気配に口を「ぱくぱく」させている。
間違いない……
この強烈な負の魔力波は、誇り高いプライドを傷つけられたイザベラの怒りの波動だ。
イザベラは俺と握った右手をテーブルにつけたまま、動かずこっちを睨みつけている。
さすがに、ジュリアが呆れて言う。
「何かさ、すっごく怒っているみたいだけど……あんたはトールに負けたんだ。そっちから腕相撲を持ち掛けておいて、負けたら怒るなんて潔くないよ!」
その時。
丁度、応援を呼びに行っていた若い女性教官が、別の教官を連れて戻って来た。
彼女はまだ、腰を抜かしたままのおじさん教官へ視線を走らせる。
そして「ほう」と息を吐いた。
「トール・ユーキさん、すぐギルドマスター室に来てください。私がご案内しますから」
俺は思わずジュリアを振り返った。
彼女をこの場に残して行くのが少々不安なのだ。
不安そうな俺の気持ちを察してか、ジュリアは俺を力付けてくれる。
「大丈夫だよ、トール。あたしはこの実技を受けた後に1階の待合室に居るから」
ジュリアは、俺に親指を立ててにっこりと笑う。
了解した俺は頷くと、再びイザベラを見た。
きっぱりと、言い放つ。
「イザベラ……だったな、これで勝負はついただろう? 俺は君の下僕になるなんて真っ平御免だし、これきりもう俺達には構わないと約束してくれ、良いな?」
「はあああ~っ!」
イザベラの手を「ぎゅっ」と強く握った俺に対して、イザベラもずっと溜めていたらしい息を一気に吐いた。
それとともにあの禍々しい魔力波も徐々に収まって行く。
「あ、ああ……わ、分かったよ」
何とか掠れた声で返事をするイザベラ。
どうやら俺の話は通じたようである。
ゆっくりと、俺はイザベラの手を放したのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ジェトレ村冒険者ギルド、ギルドマスター室……
冒険者ギルドの初心者向けの講習を受けて、つい教官役のおじさんを翻弄した俺。
何と……ギルドマスターに呼ばれてしまったのだ。
俺の目の前には、ギルドマスターだという壮年の金髪女性が豪奢な椅子に座っていた。
彼女はアデリン・メイヤールと名乗った。
この冒険者ギルドのギルドマスターでAランクの冒険者だそうだ。
「ふふふ、トールって言ったね。君が子供扱いした男はこのギルドのサブマスターなんだ。彼だって決して弱いわけじゃないのにねぇ……結果的に君の剣の腕は大したものという事になる」
「あの、俺に何か用ですか?」
思わず俺は、とても間の抜けた質問をしてしまった。
「はぁ?」
驚いたアデリンさんは、思い切り目を見開いた後に腹を抱えて笑い出した。
「あはははは! この子、俺に何か用ですか? だって! この状況でマスターに呼ばれたら絶対に良い事があるって普通は分かるじゃない! ねぇ、チェルシー」
「は、はぁ……」
アデリンさんの笑いに困惑する若い女性教官。
曖昧に答えて安易に同調しない所を見ると彼女は誠実で真面目そうだ。
ふうん……
この若い女性教官は、チェルシーさんって言うのか。
可愛い人だ。
でもそれより今は、早く用事を済ませて戻りたい。
ジュリアが待っているだろうし、またナンパされたりしたら目もあてられない。
そこで俺は、早く話をして欲しいと促した。
「俺が浮き世離れしているのは分かりましたが……さっさと本題に入って頂けますか?」
俺は、アデリンさんの大笑いにも動揺せず淡々と話を切り出した。
それを見たアデリンさんは「オッ」という顔をする。
「ふうん……結構冷静なんだね。良いだろう、話というのは君の冒険者ランクの事さ。冒険者ランクはSからFまであって初心者は大体F、良くてもEなんだ」
まあ、そうだろう。
『俺様最強』でも無い限りいきなりランクがAとかSは無いよ、普通は……
「でも君はAランクのサブマスターを子供扱い……本当は『A』をあげたいけど、同じAランクの私にそこまでの権限は無い。という事で君はBランクに決定、これでも凄い事だよ」
吃驚した!
俺がいきなり冒険者ギルドのBランク?
えええ、Bランクだって!
それってもう上位ランカーって事じゃないか。
多分SやAは別格だろうから、確かに凄い事だ。
そう言われると、やっと異世界に居る実感が湧いて来た。
何か、急に嬉しさが込み上げて来る。
ああ、もう駄目だ。
我慢出来ないっ。
これは、中二病全開の兆しだ。
「あ、ありがとうございます、ギルドマスター」
くううう!
この会話ぁ!
最高だ!
いかにも俺が憧れていた、ラノベの異世界ファンタジー。
感激!
浮かれている俺を、アデリンさんは頼もしそうに見つめる。
「ふふふ、あんたほどの剣士だ。精進すればすぐあたしと同じAランク……いやSランクも夢じゃないよ」
……実は俺の能力ってはっきり言うと『チート』なんだけど。
まっ、いっか。
「どうする? Bランクならどのクランからも引く手数多だし、あたしが紹介しようか。もしくは君がリーダーでクランを立ち上げても良いと思うよ」
おお、絶賛されているな。
それに俺の素質を見込んだギルドマスターはどうやらギルドへ『囲い込み』をしたいようだ。
魔力波でそれが分かる。
でもねぇ、俺はもう約束したから。
「マスター、申し訳ないですけど約束したんですよ。俺、冒険者にならずに……商人になります。それも仲買人になりますので」
「はあっ!?」
「な、何故っ!?」
俺の告白を聞いたアデリンさんとチェルシーさんが、ふたりとも吃驚して大きく目を見開いた。
「大事な彼女との約束なんで……」
呆気に取られていたアデリンさん。
口をぽかんと開けている。
さっきも同じ表情をしていたよ、貴女。
しかし、アデリンさんの顔が「くしゃっ」となったかと思うと先程以上に大笑いを始めたのだ。
「あはははははは!」
「マ、マスター!?」
慌てるチェルシーさんを尻目にアデリンさんは大きな声で笑い、その声は部屋中に響いていたのである。
―――30分後
俺は階段を急いで降りて1階に向っていた。
あの後も暫くギルドマスター室に留め置かれてしまった。
その為に、思ったよりも時間がかかってしまったのだ。
「あ、トール!」
ジュリアも講習はとっくに終わっていたようだ。
元気に手を振って……いる。
そして彼女の隣には誰か?
居る?
誰だ?
え!?
ええっ!?
何で?
意外な人物、いや魔族が居るじゃないか!?
ジュリアの傍らには……あの銀髪美少女魔族のイザベラが恥ずかしそうに俯いて立っていたのであった。
禍々しい怒りの魔力波が至近距離から俺へ、激しく叩きつけられる。
「おわっ!」
ぞくぞくする、おぞましい悪寒が俺の全身を走る。
身体が怖ろしいほど痙攣する。
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この強烈な負の魔力波は、誇り高いプライドを傷つけられたイザベラの怒りの波動だ。
イザベラは俺と握った右手をテーブルにつけたまま、動かずこっちを睨みつけている。
さすがに、ジュリアが呆れて言う。
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その時。
丁度、応援を呼びに行っていた若い女性教官が、別の教官を連れて戻って来た。
彼女はまだ、腰を抜かしたままのおじさん教官へ視線を走らせる。
そして「ほう」と息を吐いた。
「トール・ユーキさん、すぐギルドマスター室に来てください。私がご案内しますから」
俺は思わずジュリアを振り返った。
彼女をこの場に残して行くのが少々不安なのだ。
不安そうな俺の気持ちを察してか、ジュリアは俺を力付けてくれる。
「大丈夫だよ、トール。あたしはこの実技を受けた後に1階の待合室に居るから」
ジュリアは、俺に親指を立ててにっこりと笑う。
了解した俺は頷くと、再びイザベラを見た。
きっぱりと、言い放つ。
「イザベラ……だったな、これで勝負はついただろう? 俺は君の下僕になるなんて真っ平御免だし、これきりもう俺達には構わないと約束してくれ、良いな?」
「はあああ~っ!」
イザベラの手を「ぎゅっ」と強く握った俺に対して、イザベラもずっと溜めていたらしい息を一気に吐いた。
それとともにあの禍々しい魔力波も徐々に収まって行く。
「あ、ああ……わ、分かったよ」
何とか掠れた声で返事をするイザベラ。
どうやら俺の話は通じたようである。
ゆっくりと、俺はイザベラの手を放したのである。
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冒険者ギルドの初心者向けの講習を受けて、つい教官役のおじさんを翻弄した俺。
何と……ギルドマスターに呼ばれてしまったのだ。
俺の目の前には、ギルドマスターだという壮年の金髪女性が豪奢な椅子に座っていた。
彼女はアデリン・メイヤールと名乗った。
この冒険者ギルドのギルドマスターでAランクの冒険者だそうだ。
「ふふふ、トールって言ったね。君が子供扱いした男はこのギルドのサブマスターなんだ。彼だって決して弱いわけじゃないのにねぇ……結果的に君の剣の腕は大したものという事になる」
「あの、俺に何か用ですか?」
思わず俺は、とても間の抜けた質問をしてしまった。
「はぁ?」
驚いたアデリンさんは、思い切り目を見開いた後に腹を抱えて笑い出した。
「あはははは! この子、俺に何か用ですか? だって! この状況でマスターに呼ばれたら絶対に良い事があるって普通は分かるじゃない! ねぇ、チェルシー」
「は、はぁ……」
アデリンさんの笑いに困惑する若い女性教官。
曖昧に答えて安易に同調しない所を見ると彼女は誠実で真面目そうだ。
ふうん……
この若い女性教官は、チェルシーさんって言うのか。
可愛い人だ。
でもそれより今は、早く用事を済ませて戻りたい。
ジュリアが待っているだろうし、またナンパされたりしたら目もあてられない。
そこで俺は、早く話をして欲しいと促した。
「俺が浮き世離れしているのは分かりましたが……さっさと本題に入って頂けますか?」
俺は、アデリンさんの大笑いにも動揺せず淡々と話を切り出した。
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「ふうん……結構冷静なんだね。良いだろう、話というのは君の冒険者ランクの事さ。冒険者ランクはSからFまであって初心者は大体F、良くてもEなんだ」
まあ、そうだろう。
『俺様最強』でも無い限りいきなりランクがAとかSは無いよ、普通は……
「でも君はAランクのサブマスターを子供扱い……本当は『A』をあげたいけど、同じAランクの私にそこまでの権限は無い。という事で君はBランクに決定、これでも凄い事だよ」
吃驚した!
俺がいきなり冒険者ギルドのBランク?
えええ、Bランクだって!
それってもう上位ランカーって事じゃないか。
多分SやAは別格だろうから、確かに凄い事だ。
そう言われると、やっと異世界に居る実感が湧いて来た。
何か、急に嬉しさが込み上げて来る。
ああ、もう駄目だ。
我慢出来ないっ。
これは、中二病全開の兆しだ。
「あ、ありがとうございます、ギルドマスター」
くううう!
この会話ぁ!
最高だ!
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感激!
浮かれている俺を、アデリンさんは頼もしそうに見つめる。
「ふふふ、あんたほどの剣士だ。精進すればすぐあたしと同じAランク……いやSランクも夢じゃないよ」
……実は俺の能力ってはっきり言うと『チート』なんだけど。
まっ、いっか。
「どうする? Bランクならどのクランからも引く手数多だし、あたしが紹介しようか。もしくは君がリーダーでクランを立ち上げても良いと思うよ」
おお、絶賛されているな。
それに俺の素質を見込んだギルドマスターはどうやらギルドへ『囲い込み』をしたいようだ。
魔力波でそれが分かる。
でもねぇ、俺はもう約束したから。
「マスター、申し訳ないですけど約束したんですよ。俺、冒険者にならずに……商人になります。それも仲買人になりますので」
「はあっ!?」
「な、何故っ!?」
俺の告白を聞いたアデリンさんとチェルシーさんが、ふたりとも吃驚して大きく目を見開いた。
「大事な彼女との約束なんで……」
呆気に取られていたアデリンさん。
口をぽかんと開けている。
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しかし、アデリンさんの顔が「くしゃっ」となったかと思うと先程以上に大笑いを始めたのだ。
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え!?
ええっ!?
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追伸、
雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。
気になった方は是非読んでみてください。
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