真☆中二病ハーレムブローカー、俺は異世界を駆け巡る

東導 号

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第32話「勝負」

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 うおっ!
 いきなりのアプローチ。
 ここで、一番関わりたくない人来た~!
 あの、魔族の子だよ~。

 銀髪の魔族美少女はにやにや笑いながら、腕を組んで俺を見下ろしている。
 革鎧を着た、いかつい冒険者の出で立ち。
 なのに、何故か彼女に優雅な気品が感じられるのは何故だろう?
 相変わらず大量に放つ、禍々しく黒い魔力波オーラは不気味であったが……

「ええっと、何の御用で?」

 俺は、そ知らぬ振りをして問い掛ける。

「とぼけるな! お前があの教官相手に手加減をしたのは見え見えだ」

「俺が手加減? 滅相もない」

「嘘つきめ! まあ、良い……それくらいの強さなら私の下僕げぼくを務めるのに相応しい。特別に取り立ててやろう、ありがたく思え」

「下僕!?」

 はぁ!?
 何、いきなりのお前呼ばわり?
 そして、その上から目線?
 下僕になれって、一体何だ……

 俺は思わず呆気に取られてしまうが、それ以上敏感に反応したのがジュリアである。

「ちょっとぉ! いきなり何さ。トールに失礼だろう? あんたの下僕? 冗談じゃないよ。トールはあたしと仲買人ブローカーになるのさ。おとといいで!」

 怒ると、野生的な美しさが余計に強調されるジュリア。
 きつい目で睨む、そんなジュリアを冷ややかに見つめる銀髪の美少女。

 俺はやばい状況を忘れて、ついふたりの美少女に見入ってしまった。
 銀髪美少女は、俺をちらっと見てから訝しげにジュリアを見る。

「ふむ……お前の男という事か? その様子だと惚れてるのか?」

 相変わらず上から目線、人を喰ったような物言い。
 ジュリアは「いらっ」と来たようだ。

「うるさい!」

「ふふふ、熱いねぇ……そういうのは嫌いじゃないが……ん?」

「な、何よ?」

「お前、もしや……ほう!」

 何か、勝手に始めて勝手に完結している銀髪美少女。
 ジュリアは戸惑い、肩を竦める。
 
「な、何なのよ!?」 

「成る程……その様子じゃあ、まだ気付いていないようだがまあ良い」

 意味ありげに言う銀髪美少女は、にやりと笑った。
 何なんだ?
 ジュリアが何だと言うんだ?

「トールと言ったな、少年よ。とりあえず私と勝負しろ。当然私が勝つだろうが……そうなればトール、お前は私の下僕になるのだ」

 何だよ、また。
 俺と勝負って……
 やっぱり、俺はこのと戦うのか?
 そして……負けたら下僕になるのかよ。

「トール! 構わないからやっちゃいなよ、そんな生意気女。あたしのトールが負けるわけない!」

 俺に大きな声援を送るジュリア。
 ああ、駄目なんだ。
 この娘は魔族なんだよ。
 それも、とびきり上位に位置する凶悪魔族だ。
 あの巨大な魔力波オーラを見た俺には分かる……

 しかし、銀髪美少女が取った行動は意外なものであった。
 彼女はすたすたと歩き、片隅に置いてある古びたテーブルの傍に行くと置いてあった椅子に座ったのである。

 おいおい、何をするつもりだ?
 あいつ……

「さっさと来い、早く私と勝負しろ」

 は?
 何だ?
 勝負?

 テーブルに右腕を出して、肘をついた少女。
 彼女は更に、右手の人差し指を「くいっ」と曲げて俺を呼んだのだ。

 何だよ?
 う、腕相撲って!?
 はぁ!?
 
 凄まじい殺し合いを覚悟していた俺の全身から力が抜ける。
 そんな俺の、気持ちを読んだかのように少女の声が響く。

 何と!
 これはあのスパイラルと同じこころに呼びかける声だ。

『馬鹿か、お前は? 常識的に考えたら冒険者ギルドここでいきなり暴れるわけにはいかないだろう? だけど腕相撲なら、シンプルで目立たず決着をつけられる素晴らしいパワーゲームだ』

 俺が呆然としていると、銀髪美少女は焦れたようだ。
 結構な短気らしい。
 
『愚図愚図するなっ! 早くここに来いったら! 私は忙しいんだ!』

「トール! 腕相撲なら、かよわい女を殴ったとかどうのとか言われないよ。大丈夫さ、思う存分やっつけろ!」

 相変わらずジュリアは、相手の怖ろしい正体に気付いていない。
 もしここで逃げても、相手は諦めそうもない。
 こうなったら、もうやるしかないだろう。

 俺は仕方なく銀髪美少女の反対側に座ると、同じ様に右腕を出して肘をついた。

「やっと覚悟を決めたね。ふふふ、まあ腕相撲くらいなら精々手が砕けるか、腕が折れるか、肩がちょっと外れるくらいだろうから安心しろ」

 はぁ!? 
 なんちゅう腕相撲だよ。

「お前……たかが腕相撲だと舐めないで貰おう。私の故郷くにでは腕相撲も真剣勝負なのだ。念のために言っておくが私は今まで両親と姉にしか負けた事がない。そのつもりでかかって来い」

 両親と姉にしか負けた事がない?
 一家で腕相撲?
 どこまで変な魔族一家なんだ。

 ジュリアがすかさずダッシュして、俺達の傍らに立つ。
 どうやら審判をしてくれるようだ。

「ふふふ、先に名乗っておこうか。お前のあるじとなる者の名をな……」

 はぁ……もう!
 この娘は……

「私はイザベラ。……気品に満ち溢れて良い名だろう? 今のうちに深く心に刻んでおけ」

 イザベラはそう言うと、いきなり俺の右手を掴む。
 さっさと腕相撲をしたいらしい。

「な!?」

 だが……
 俺の手を握って吃驚するイザベラ。
 武技に優れた、ただの人間と思っていたのだろう。
 どうやら、俺の右手から流れる不思議な魔力に戸惑っているらしい。
 
 再びイザベラの声がこころに響く。

『この凄まじく不思議な魔力波オーラ、お前……一体何者だ?』

 さすがにこの場では邪神様の使徒とかは言えない。
 俺はその問いに答えず、この会話自体が何なのか聞いてみた。

『イザベラって言ったな。何だよ、これ?』

 余り怖がらない俺に調子が狂ったらしいイザベラは激しく動揺した。

『呼び捨てるな! イ、イザベラ様と言え! ね、念話を知らないのか? まさか、お前……』

「よ~い……」

 そんな念話のやりとりなど知る由もなくジュリアが開始スタートを告げようとする。

「どん!」

 しかし俺はミスってしまった。
 タイミングが合わなかったのである。

 って、え!?

 イザベラは腕相撲に慣れているらしくジュリアの言葉に反応して上手く力を入れ、容赦なく俺の右手を組み伏せようとする

 うわ~!
 やばい!
 こんな細い身体の癖に凄い力だよって、あれ?

 開始がワンテンポ遅れた俺であったが……
 改めて気合を込めイザベラの力を受け止めると、腕の下降がぴたっと止まった。
 イザベラはと見ると、もう少しで俺に勝てると踏んだらしく渾身の力を込めて押している。

 だが……ここまでだ。

「ふん!」
 
 俺が腕に少し力を込めると、イザベラの右手は凄い勢いで反対側に動いた。
 そして、呆気なくテーブルについたのである。

 何と!
 意外な事に俺はあっさりと勝ったのだ。 

「あ!?」

 相当なショックだったのであろうか、呆然としたイザベラはそのまま固まってしまう。

「トールの勝ちぃ~!」

 すかさず俺の勝ちを告げたジュリアの得意そうな声が辺りに響き渡っていたのであった。
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