真☆中二病ハーレムブローカー、俺は異世界を駆け巡る

東導 号

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第30話「冒険者ギルドへ」

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 宿に帰って来た俺達は、絆亭の食堂で夕食を摂っている。
 
 大空亭と違って、スープの肉や野菜は格段に質が良い。
 パンも、白くふんわりと柔らかいものだ。
 この食事は……ジェトレ村とタトラ村の格差そのものでもある。
 
 アホなナンパ男のせいで、風呂から上がって散々走ったので俺達は腹が減っていた。
 なので、ふたり揃って旺盛な食欲でどんどん平らげて行く。

 時間がそこそこ早かったせいか、他に客は居ない。
 絆亭では酒を出さないので夜、ここで飯を食うという客は余り居ないという。

 酒を出さないという絆亭の方針が俺には不思議であった。
 もし酒を出せばもっと沢山客は来るのに……
 何故だろう?

 俺が疑問をぶつけるとジュリアが笑顔で答えてくれた。

「以前、あたしも不思議に思ってドーラさんに聞いた事があるんだ。彼女が言うには酒を飲むと客が酔っ払って騒いだり、さっき広場で見たような喧嘩になったりするからね。トータルで見れば静かで落ち着ける宿っていう方が良いんだって」

 成る程……
 俺は酒を飲んだ事がないので分からないが、宿泊するのであれば確かに落ち着いた静かな宿の方が良い。

「で、ジュリア。明日からの予定は?」

 俺が何気に聞くとジュリアは声のトーンを落とし「部屋で……」と小さい声で囁いたのだ。

 そうか……
 いくらドーラさんが良い人だと言ってもここで内々の話をするのは無防備過ぎるのだな。
 食堂の奥の厨房には、料理人だというドーラさんの旦那さんも居るそうだし……
 納得して頷いた俺は、料理をひたすら食べ続けたのであった。

 ――30分後

 俺達は、あてがわれた2階奥の部屋に居る。
 ジュリアに言われた通り、明日からどう行動するかの相談をするのだ。
 但し、あまり大きな声で喋ってはいけない。
 はっきりいって、隣の部屋との仕切りの壁はそんなに厚くないのである。

「まずやるべき事を整理するよ。あたしたちふたりの冒険者ギルドの登録を兼ねた初心者講習の受講、トールの商業ギルドの登録、ジェトレ村の案内を兼ねた商品の仕入れと既に所持している商品の売却、モーリスと約束した金属の購入、あとはジェマ叔母さんから頼まれたお使いを少々……こんな所かな? 何か洩れている所があったら言ってくれる?」

 俺はジュリアが挙げた案件を反芻したが、とりあえずそんな所だったような気がするので黙って頷いた。

「OK! じゃあ次はこれらの案件の順番だね。あたしは今、言った通りが良いと思うけど、どう?」

 これも、俺に異存は無い。
 何せ、冒険者ギルドの講習が第一優先だから……
 これも俺がその通りで良いと頷くと、ジュリアは嬉しそうに微笑んだ。
 
 後は……

 そんな俺の気配を、敏感に察したのであろう。
 ジュリアは鼻を鳴らして、俺にしがみついて来たのである。

「トール、さっき……怖かった。でもトールがいるからさらわれずに済んだんだ。ありがとう、トール……大好き!」

 ジュリアは俺の顔に、キスの雨を降らせて来た。
 あの遊び人男に無理矢理連れて行かれそうになったのが、余程怖かったらしい。

 ……その後は推して知るべし!
 俺とジュリアは熱く激しく愛し合い、夜は更けて行ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 翌朝午前6時15分……

 この絆亭は、商人専用の宿だけあって朝も早い。
 朝食の対応が、午前6時から可能なのだ。
 実は冒険者ギルドの講習が午前7時からの受付なので、今日の俺達は時間を有効に使う為、朝早めから朝食を摂っているのである。
 他のテーブルにも何組かの客が居て朝食を摂っているが、何故か注目されているのは気のせいだろうか?

 ジュリアの『あの声』が聞こえた……かな?
 まあ、良い……お互い様さ。

 立場が違えば、考える事も言う事も違う。
 以前の俺なら、隣の部屋でひと晩中あの声を聞かされたら、壁を叩いて怒り狂っている筈だ。

 まあそれは置いといて……
 昨日たっぷりと愛し合ったので、俺とジュリアは恋人同士として、余計に距離が縮まった気がする。
 はっきり言って、もうお互いの身体の隅々まで分かっているからだ。

 ふう!
 今朝も腹一杯食った!

 満腹になってしまったが、講習は午前中が身体を動かさないギルド幹部の授業。
 午後からが、実技だから問題無しであろう。
 朝食を食べ終わった俺達は早速、支度をして冒険者ギルドに出掛けた。

 今日のジェトレも昨日同様、上空には雲ひとつ無い青空だ。
 俺とジュリアは、もうお決まりのように手を繋いで歩いている。

「トールは強いし、実技の方も楽しみだね」

 まさか模擬試合とはいえ、人間相手の試合は生まれて初めてとはジュリアにも言えない。

「ああ、出来る限り頑張るよ」

 可愛い彼女に頼られちゃ、男としては頑張らないといけません!
 俺はそう言うと同時に、ジュリアの手を「ぎゅっ」と握ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 ジェトレの冒険者ギルドは、俺が想像していたラノベのギルドとほぼ同じイメージであった。
 ギルドの本部は、冒険者の街として名高いバートランドだそうだ。
 だが、このジェトレも辺境の支部としては充分なほどの規模と威容を誇っている。

 冒険者ギルドはこのジェトレの村でも五指に入る大きな建物で3階建&地下1階という造り。
 1階が依頼の受付&報告のカウンター、2階が個人依頼用の応接室と公衆用の会議室、3階がギルドマスター室と幹部達の個室、そして地下1階が資料室と倉庫に充てられていた。
 
 朝は、冒険者ギルドが最も混雑する時間帯である。
 『効率的で割の良い仕事』とは朝、仕事を請けてその日の内に終わらせる楽な仕事だという考え方なのでそれを探そうと皆、躍起なのだ。

 俺達は、その喧騒を横目で見ながら2階に上がる。
 未だ冒険者にもなっていない俺達は、このギルドの講習を受けた後に冒険者として正式登録するのだ。
 個人面談用のいくつかの部屋が受付になっており、俺とジュリアは金貨1枚ずつを支払い、講習を申し込む。
 ここで必要だったのが、ジェトレの特別村民証だ。
 何となくその部分の身元確認は緩いイメージがある冒険者ギルドだが、これで妖しい人外の干渉も排除しようとする趣旨らしい。

 ああ、俺……悪魔族とか判定されないで、本当によかった!

 俺はホッと胸を撫で下ろし、待合室になっている隣の会議室にジュリアと共に入って行く。
 部屋の中には10人くらいの先客が居た。
 皆、今回の講習を受けて冒険者登録をする『同期』であろう。

 見回すと、基本的には俺達と同じ若い人間族が多い。
 しかし中には30代半ばの男やもっと年のいった老人も椅子に座って、じっと目を閉じていた。
 そして驚いた事には何と!
 俺が資料の中でしか知らなかった地球で言う伝説上の種族……人間と言うより妖精族に近いというアールヴ(エルフ)やドヴェルグ(ドワーフ)の男女が数人混ざっていたのである。

 おお、これこそファンタジー!
 あの某ハリウッド映画みたい。
 俺の知らなかった未知の世界だ!

 知らないといっても、最初から俺の未体験ばかりであるこの異世界。

 会った事も無い未知の種族に遭遇し、改めて俺の中二病の虫はうるさい程に騒いでいたのであった。
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