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第7話「タトラ村の少女」
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俺は今、件の少女と並んで歩いている。
彼女はもう泣いてはいない。
叫んでもいない。
にこにこして俺を見つめているし、白い歯を見せて良く喋る。
どうやら機嫌は、完全に直ったようだ。
あの超が付く『暴言事件』から、俺は言い過ぎたとひたすら謝った。
彼女に対して害意や悪意が無い事を、やっと理解して貰えたのである。
仲直りして話していると、何だか楽しくなって来る。
好みのタイプジャストではないが、目の前の少女はとっても可愛い。
元気な健康爽やか系の女の子で、とっても魅力的だ。
それに俺は、こんな近くで女の子と親しく話した事なんかないから。
ちょっとドキドキする。
彼女の名はジュリア。
ここから少し歩いた、タトラという小さな村の出身。
隣村にお使いに行った帰りに、あのゴブ達に襲われたそうだ。
俺も名を聞かれて、トオルと名乗ったら「言い難い」と言われてしまう。
結局は、トールと呼ばれる事になってしまった。
ここは異世界だし、トールという名前は北欧神話のあらぶる神みたいで強そうだから、まあ良い。
トオルでもトールでも拘らない。
通じればOK。
俺の名前を知ったジュリアは、更に機嫌が良くなったようだ。
命が助かった安堵感もあるのだろうし、俺が恩人という事で完全に心を許してくれたのだろう。
そんなジュリアに少しは優しくしようと思い、彼女の重い背負子を俺が代わりに背負って歩いて行く。
重いと言っても、改造人間であるチートな俺には全然重くはない。
それだけで、ジュリアからはとても尊敬されてしまった。
ゴブを瞬殺したのに加えて、見かけによらず逞しい男だと思ってくれたのか?
実は持って行くのが面倒だったので、魔道具である収納の腕輪に入れようかとも思った。
だが、いきなりチートなものを見せてはまずい。
何となく、ささやかな防衛本能が働いたのである。
「トール。あんたはどこへ行こうとしていたの?」
可愛らしく首を傾げて聞くジュリアへ、俺は正直に目的地は無いと答える。
これくらいは、正直に言っても構わないであろう。
「当ては無いのさ。俺はここからとても遠い国の出身でね。冒険者になろうとやって来たんだ」
「ふうん、事情は知らないけど気楽で良いね。あたしの村は貧しくて生きて行くのさえ必死なんだから」
ジュリアは、僅かに眉を顰めながら苦笑した。
俺が、相当お気楽な男に見えたらしい。
そんな会話をしながら約30分道を歩いただろうか、俺達は街道の脇から延びる草を踏み固めたような横道に入る。
更に10分程度歩いて行くと、武骨な丸太を組んだ簡素な防護柵に囲まれたタトラの村が見えて来た。
「さっきみたいなゴブリンとか、怖ろしいオークなんかがしょっちゅう出るからね。ああしないと安心して暮らせないんだよ」
ジュリアが言ったのは村の防護柵の事だ。
やがて俺達はタトラ村の入り口の前に着いたのである。
入り口に立つ門番は、村の人間であろうか。
使い古した革鎧を纏い、大きなメイスを腰に提げて武装した男が俺達に声を掛けて来た。
背は俺よりずっと大きくて190cmをゆうに超えているだろう。
髪の毛は茶色で短髪。
がっちりした体格でジュリア同様、真っ黒に日焼けしており精悍な風貌をした40代後半の男だ。
彼の野太い声が俺達へ降って来た。
「ジュリア、こいつは見ない顔だな―――誰だい?」
「ラリー、あたしをゴブから助けてくれたんだ、命の恩人だよ」
「そうか! それは村にとっては大事な客人だ。お前の家に連れて行け」
ラリーと呼ばれた門番の男は、改めて左右を見渡すと用心深く門を開いた。
そして俺達が中に入ると、さっさと門を閉じてしまったのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
タトラ村は俺の持っている資料本の世界では、良く知る中世西洋風の典型的な農村である。
村の中央には、土を踏み固めた小さな円形の広場がある。
そして1番奥には、村長の家らしい他の家屋よりふた回り程度大きな家が鎮座している。
村長宅の傍らには、こじんまりした教会のようなものも建てられていた。
教会?
もしかして?
俺は思わずジュリアに聞く。
「ね、ねぇ、ジュリア、あれって神様を祀っているのかい?」
「トールったら変な事を聞くのね。創世神様とその御子であるスパイラル様に決まっているじゃない」
ああ!
出たぁ邪神!
俺を改造したスパイラル様め。
やはり彼は管理者としてこの地の人々に崇められているんだ。
俺の瞼には見える。
Vサインを送っている邪神の姿が。
「こっちよ!」
ぼうっとしていた俺の手を、ジュリアが握って引っ張った。
正直、手を握られるとは思わなかったから少し驚く。
彼女の手は温かいが、意外にもごつごつしている。
節くれ立ち、まめもあって華奢な少女の手とは思えない。
いろいろな作業を行うので、そうならざるを得ないのであろう。
暫くジュリアに連れられて歩いた先には、いかにも冒険者の宿といった小規模な宿屋があった。
あの宿屋に俺を泊まらせようとするのであろうか?
「入って!」
俺はその『宿屋』にジュリアに促されるまま中に入った。
中は正面にカウンターがあり、恰幅の良い女が入って来た俺とジュリアを見つめていたのであった。
彼女はもう泣いてはいない。
叫んでもいない。
にこにこして俺を見つめているし、白い歯を見せて良く喋る。
どうやら機嫌は、完全に直ったようだ。
あの超が付く『暴言事件』から、俺は言い過ぎたとひたすら謝った。
彼女に対して害意や悪意が無い事を、やっと理解して貰えたのである。
仲直りして話していると、何だか楽しくなって来る。
好みのタイプジャストではないが、目の前の少女はとっても可愛い。
元気な健康爽やか系の女の子で、とっても魅力的だ。
それに俺は、こんな近くで女の子と親しく話した事なんかないから。
ちょっとドキドキする。
彼女の名はジュリア。
ここから少し歩いた、タトラという小さな村の出身。
隣村にお使いに行った帰りに、あのゴブ達に襲われたそうだ。
俺も名を聞かれて、トオルと名乗ったら「言い難い」と言われてしまう。
結局は、トールと呼ばれる事になってしまった。
ここは異世界だし、トールという名前は北欧神話のあらぶる神みたいで強そうだから、まあ良い。
トオルでもトールでも拘らない。
通じればOK。
俺の名前を知ったジュリアは、更に機嫌が良くなったようだ。
命が助かった安堵感もあるのだろうし、俺が恩人という事で完全に心を許してくれたのだろう。
そんなジュリアに少しは優しくしようと思い、彼女の重い背負子を俺が代わりに背負って歩いて行く。
重いと言っても、改造人間であるチートな俺には全然重くはない。
それだけで、ジュリアからはとても尊敬されてしまった。
ゴブを瞬殺したのに加えて、見かけによらず逞しい男だと思ってくれたのか?
実は持って行くのが面倒だったので、魔道具である収納の腕輪に入れようかとも思った。
だが、いきなりチートなものを見せてはまずい。
何となく、ささやかな防衛本能が働いたのである。
「トール。あんたはどこへ行こうとしていたの?」
可愛らしく首を傾げて聞くジュリアへ、俺は正直に目的地は無いと答える。
これくらいは、正直に言っても構わないであろう。
「当ては無いのさ。俺はここからとても遠い国の出身でね。冒険者になろうとやって来たんだ」
「ふうん、事情は知らないけど気楽で良いね。あたしの村は貧しくて生きて行くのさえ必死なんだから」
ジュリアは、僅かに眉を顰めながら苦笑した。
俺が、相当お気楽な男に見えたらしい。
そんな会話をしながら約30分道を歩いただろうか、俺達は街道の脇から延びる草を踏み固めたような横道に入る。
更に10分程度歩いて行くと、武骨な丸太を組んだ簡素な防護柵に囲まれたタトラの村が見えて来た。
「さっきみたいなゴブリンとか、怖ろしいオークなんかがしょっちゅう出るからね。ああしないと安心して暮らせないんだよ」
ジュリアが言ったのは村の防護柵の事だ。
やがて俺達はタトラ村の入り口の前に着いたのである。
入り口に立つ門番は、村の人間であろうか。
使い古した革鎧を纏い、大きなメイスを腰に提げて武装した男が俺達に声を掛けて来た。
背は俺よりずっと大きくて190cmをゆうに超えているだろう。
髪の毛は茶色で短髪。
がっちりした体格でジュリア同様、真っ黒に日焼けしており精悍な風貌をした40代後半の男だ。
彼の野太い声が俺達へ降って来た。
「ジュリア、こいつは見ない顔だな―――誰だい?」
「ラリー、あたしをゴブから助けてくれたんだ、命の恩人だよ」
「そうか! それは村にとっては大事な客人だ。お前の家に連れて行け」
ラリーと呼ばれた門番の男は、改めて左右を見渡すと用心深く門を開いた。
そして俺達が中に入ると、さっさと門を閉じてしまったのである。
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タトラ村は俺の持っている資料本の世界では、良く知る中世西洋風の典型的な農村である。
村の中央には、土を踏み固めた小さな円形の広場がある。
そして1番奥には、村長の家らしい他の家屋よりふた回り程度大きな家が鎮座している。
村長宅の傍らには、こじんまりした教会のようなものも建てられていた。
教会?
もしかして?
俺は思わずジュリアに聞く。
「ね、ねぇ、ジュリア、あれって神様を祀っているのかい?」
「トールったら変な事を聞くのね。創世神様とその御子であるスパイラル様に決まっているじゃない」
ああ!
出たぁ邪神!
俺を改造したスパイラル様め。
やはり彼は管理者としてこの地の人々に崇められているんだ。
俺の瞼には見える。
Vサインを送っている邪神の姿が。
「こっちよ!」
ぼうっとしていた俺の手を、ジュリアが握って引っ張った。
正直、手を握られるとは思わなかったから少し驚く。
彼女の手は温かいが、意外にもごつごつしている。
節くれ立ち、まめもあって華奢な少女の手とは思えない。
いろいろな作業を行うので、そうならざるを得ないのであろう。
暫くジュリアに連れられて歩いた先には、いかにも冒険者の宿といった小規模な宿屋があった。
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