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第156話「王都へ!」

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善は急げ!とばかりに……
シモンは移住を決意した母マリアンヌの、『王都への引っ越し』を進める。

「さあ、ちゃちゃっと、やっちゃうぞ、まずは荷造りだな」

手伝いを申し出たエステルとクラウディアの婚約者ふたりに、待機していたジュリエッタ、アンヌ、リゼットも呼び戻されて加わり、全員で作業。
「整理整頓は王都へ戻ってから!」という事で、とりあえず家財道具をまとめた。

「ほいっと!」

シモンは、自作の魔法収納腕輪へ実家の荷物をどんどん放り込む。

腕輪の効力を知らない母マリアンヌ、同じくクラウディア、アンヌ、リゼットが驚く中……室内は、あっという間に空っぽとなった。

「さあ、立つ鳥跡を濁さず。隅々まで掃除しよう」

という事で、全員で室内を掃除。
掃除が完了したら、近所への挨拶である。

母マリアンヌは、あまり近所づきあいをしていない。
父が失踪してからは尚更であった。
お隣さんと、仕事絡みの限られた数人が開いてなので周囲への挨拶はすぐに終わった。
皆、久しぶりに帰郷したシモンの変貌と美しいふたりの婚約者と同行者達に、
とても驚いていた。

一行は帰宅。
マリアンヌは長年住んだ家を感慨深く見つめてから、

「シモン」

「何だい、オフクロ」

「もう二度と戻らないかもしれないし、馬車でこのプリンキピウムを一周したいんだけど」

「了解! オフクロの言う通りだ。嬉しい事も、哀しくて辛い事も、いろいろあったけれど、思い出が詰まった俺の生まれ故郷だ。俺も心に風景を刻んで旅立つよ」

シモンは柔らかく微笑み、自分が生まれ育った家をマリアンヌ同様、じっと見つめた。

母に対するシモンの思いやりと気遣いに、エステル達は「ほろり」となる。

という事で、家に戸締りをしてから、シモン達は出発した。

御者を姉と交代したアンヌが御す馬車で、プリンキピウムの各所をゆっくりと走る。
後方からは、ジュリエッタが騎馬で続く。

シモンとマリアンヌは勿論、エステルとクラウディアも、愛する想い人が生まれ育った町を、馬車の車窓から感慨深く見つめていた。

約1時間と少しかけて、プリンキピウムを一周したシモン達は、町長宅へ。
改めて母とともに丁寧に挨拶をし、深く礼を告げ、町営住宅のカギを返却した。

そして、しばし話した後で、町長宅を辞去。
王都へ向け、旅立ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

帰りの旅も順調であった。
途中、温泉宿にも寄り、食事と風呂を楽しみ、皆で旅の疲れを取り……
プリンキピウムを出立して7日後、シモン達は王都へ到着した。

シモンの母マリアンヌにとって、王都は生まれて初めてである。

マリアンヌは、まず高い街壁に囲まれた巨大な正門の威容にびっくり。
人の多さとにぎやかさにびっくり。
建物の多さにびっくりし、あちこちを眺めていた。

そして一旦、シモン宅へ寄ったが……
息子が住んでいる家の規模と豪華さにもびっくり。

ここで、シモン、エステル、クラウディア、リゼットが着替え、しばしの休憩の後、
ラクルテル公爵家邸へ……

ここでもお約束。
マリアンヌは、公爵邸の敷地の広大さと4階建ての主屋の威容にびっくり。
ようやく息子が大出世した事を実感したようである。

警護の騎士達は、シモン達の姿を見て、大喜び。
全員が既に、エステルの養子入り、シモンとエステル、クラウディアの婚約を知っていた。

なので、全員が祝福の言葉を述べる。

「「「「「お帰りなさいませ、お疲れ様でございます。そしておめでとうございます!」」」」」

温かい言葉が次々に投げかけられる中……
主屋の玄関が開き、大勢の使用人とともに、アンドリュー、ブリジットのラクルテル公爵夫妻が登場する。

名だたるドラゴンスレイヤー、そして王家に匹敵する上級貴族のオーラに、
マリアンヌは圧倒されてしまうが……

「おお、皆、良く帰って来た」
「お疲れ様でした」

アンドリュー、ブリジットはシモン達へ声をかけた後……
不安そうな様子のシモンの母マリアンヌへ挨拶する。

「お初にお目にかかります。エステルとクラウディアの父アンドリュー・ラクルテルです」
「同じく! ふたりの母で、妻のブリジット・ラクルテルです」

上級貴族とは思えない腰の低さ、気さくさに、マリアンヌは仰天。

「マ、マ、マリアンヌ・ア、アーシュでご、ございます……こ、公爵様、お、奥様……私ごとき身分が低い者へ、そ、そんな……もったいない、お、おそれ多いです」

か細い声で、やっと挨拶し、言葉を戻すマリアンヌ。

しかしラクルテル公爵夫妻は、

「畏れ多とは何をおっしゃる! マリアンヌ殿! 我がラクルテル公爵家の跡継ぎシモンを生み、立派にお育てになってくれた貴女は、我々の大事な家族ですよ」
「マリアンヌ様、夫の言う通りですわ。今後とも宜しくお願いしますね。シモンみたいに才能あふれる素晴らしい男子が、当家に『入り婿』へ来てくれるなど、本当にありがたいのですよ」

「公爵様、奥様……」

「ははははは! 気を楽にしてください。王都の勝手や貴族社会のしきたりとかは、おいおいお教え致します。だが、面倒な事は全部我々が引き受けます。ご安心ください」
「そうです。私と同じくシモン、エステル、クラウディアの母として、堂々と自由にふるまってくださいな。誰にも文句は言わせませんよ」

「そ、そんな、そんな! あ、ありがとうございます!」

長きにわたり、シモンを育て慈しみ、王都へ送り出した後も必死に生きていたマリアンヌは……

アンドリューとブリジットふたりからの温かく優しい言葉を聞き、
感極まり、号泣してしまった。

その日の晩……シモンの母マリアンヌが入り、
そして、シモンの良き理解者で上司、エステルの身内でもあるアレクサンドラ・ブランジェ伯爵も招かれ……

シモン・アーシュと、エステル・ラクルテル、クラウディア・ラクルテルの婚約内祝いのうたげが、ラクルテル公爵邸で行われた。

……今まで、「王都で一緒に暮らそう」というシモンの誘いを何度も断り、
生まれ故郷プリンキピウムで独り寂しく暮らしていたマリアンヌであったが……

愛しい息子シモンに、優しく美しいふたりの伴侶が出来て、
そして新たな家族もたくさん増え、楽しくにぎやか、そして温かい優しさに包まれたひと時を過ごした。

そう、マリアンヌもまた50代半ばにして、新たな人生のリスタートを切ったのであった。
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