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第155話「故郷へ!③」
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町営住宅であるシモンの実家は、小さな居間と寝室、そして土間の台所に小さな風呂とトイレ。
外観同様に、内部もやはり古くて質素であった。
狭くて全員が入り切れないので。
なので、ジュリエッタ、アンヌの騎士姉妹、そしてリゼットは馬車で待機。
居間で母マリアンヌと話すのは、シモン、エステル、クラウディアである。
手紙でまめに状況を報せていたシモンであったが……
マリアンヌは半信半疑のようだ。
母が疑問に思うのも、無理もない。
門番や町長と同じような印象を息子に持っていたからである。
魔法大学へ入学する為、息子シモンは魔法の勉強と実践に明け暮れていた。
良く言えば争いは好まず大人しい性格、はっきり言って社交的ではない。
加えて女性が、大の苦手のはずでもあった。
大学を卒業したら、公的な機関か大きな商会で地味に『魔法鑑定士』になると言っていたのに……
それが、何やら怪しげな商会へ入り、トレジャーハンターという危険な仕事に就き、
倒産後は元王国宰相補佐官で伯爵という、高い身分の大学の先輩に誘われ、公務員となった。
そして公務員が稼ぐとは思えない莫大な金を毎月送って来るようになった。
息子の無事と、仕事が順調なのがマリアンヌには嬉しい。
だが……違和感がありありである。
あの引っ込み事案だったシモンが、新しい革鎧を着てばりっとした冒険者風の姿で、堂々とした態度でふるまい……
事前には聞いていたが……
「洗練された服を着た、貴族らしき美女をふたりとも婚約者だ」と連れ、しなやか且つたくましい女子騎士の部下と可愛い使用人まで同行させて来たのだ。
信じられないのも無理はない。
まずエステルが、
「お母様、改めまして! 私はエステル・ソワイエでございます! シモン様の婚約者でございます! 王国復興開拓省支援戦略局局長を務めておられるシモン様の秘書をしております。この度、わけあって、このクラウディアの家の養子となりますっ!」
そしてクラウディアも、
「お母様! 改めまして! 私はクラウディア・ラクルテルでございます! ロジエ魔法学院に通う3年生であり、シモン様の婚約者でございます! エステルの言う通り、彼女はラクルテル公爵家の養子となり、令嬢である私クラウディアの姉となります。その上で私達ふたりともシモン様と結婚致します」
「オフクロ、という事で……仕事の成功を機に、ラクラテル公爵閣下ご夫妻がお認めになって、ふたりとの婚約と結婚が確定になった。詳しい相談が出来ず申し訳ないけれど、手紙で知らせた通り、俺この子達の『入り婿』になるんだよ」
ティーグル王国では一夫多妻を認めている。
倫理的には問題はない。
しかし……
マリアンヌには今直面している現実が信じられない。
何と!
息子シモンは王国でも誰もが知るくらいに有名な、
英雄たるラクルテル公爵家の愛娘達と結婚するというのだから。
「結婚を考えているって……そ、それは分かっていたけれどシモン、お前にOKを出したけど……ラ、ラクルテル公爵様のご令嬢おふたりと結婚って!」
「ああ、そういう事だ」
「た、た、確か……アンドリュー・ラクルテル公爵様って、誰もが知る竜退治をされた英雄で、ラクルテル公爵家って、王国の貴族の中でも有数の家柄じゃないの? ほ、本当に!?」
「ああ、オフクロ、公爵閣下はドラゴンスレイヤーの英雄だよな。そして本当の話でマジなんだ」
「はああ……何か、いろいろびっくりしどおしだわ……魔法の勉強ばっかりしていたお前が、王国軍を率いておられる公爵様の入り婿にねえ……」
「ああ、そうなるんだ、オフクロ」
「それもまた、こんなに綺麗な女子ふたりと結婚なんて……『勉強が恋人』じゃなかったのね」
大きなため息を吐く、マリアンヌ。
シモンは苦笑し、エステルとクラウディアも顔を見合わせ、
にっこりと微笑んだのでである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ショックが大きく嘆息する母マリアンヌへ、シモン達は説明を続けて行く。
「婚約を機に、公爵閣下はお屋敷に隣接する敷地に、別館を建ててくださるんだ」
「そ、そうなの?」
「その新居で俺達は生活をする。そしていずれ俺は公爵家を継ぐんだよ」
「ま、まあ……入り婿ならそうかもね。エステル様か、クラウディア様が、女性当主になられるって事にはならないの?」
マリアンヌの疑問は尤もである。
平民のシモンが、ラクルテル公爵家の娘ふたりと結婚するとはいえ、いきなり当主になるのは不可解だからだ。
対して答えたのはクラウディアである。
「シモン様が優しく誠実な人柄なのは勿論ですが……」
と、前置きし、
「シモン様の強さを、父アンドリューがはっきりと認めたからですわ。武家であるラクルテル公爵家は、力こそが正義、力なき正義は悪……が家訓なのです」
「え? 公爵様がお認めに? 力こそが正義って……ウチのシモンは戦うどころか、ケンカも大の苦手な男の子だったのですよ」
ここで、言葉を発したのはエステルである。
「うふふ、お母様。今のシモン様は全く違いますよ。私が同行した出張先でも無法者の山賊1,000人を生け捕りにし、恐ろしいオーガ数十体を、おひとりであっという間に倒しましたから」
負けじとクラウディアも、
「そうですわ、お母様! 私、ふらちな悪党どもに、危なく、さらわれそうになり、危機一髪のところをシモン様に救って頂きましたし、王都の街中でも、シモン様が、ナンパ男どもを退け、エステル姉とともに守って頂きましたわ♡」
「そうそう! 私達局長に! シモン様に守って頂きましたからっ♡」
しかし……
「ふ~ん……凄く臆病だったこの子がねえ……全く信じられないわ……」
婚約者のふたりが熱くシモンを称えても、マリアンヌはいまだ半信半疑のようだ。
そろそろ話はクロージングに入る。
「でだ、婚約が確定し、仕事も一段落。休みも1か月貰えた、それでオフクロを迎えに来たというわけさ」
「私を迎えに?」
「ああ、オフクロはいつか王都に住んでみたいと言っていただろう? 王都のおしゃれで素敵な家に住みたいって」
「え、ええ……確かに言ったけど、所詮は夢よ、そんなの」
「いや! 夢で終わらせない! オフクロの夢は叶う! いや、俺とエステル、クラウディア3人が叶える! 俺、苦労したオフクロに、王都で親孝行がしたいんだ」
「親孝行って……お前が毎月送ってくれている大金で充分すぎるくらいだよ」
「そんなこと言って、オフクロは相変わらずこの家で質素に暮らしているし、働いてもいるじゃないか?」
「ええ、私が生活する分は自分で稼ぐし、お前が送ってくれたお金は将来お前が結婚する時の資金にと、考えていたの。魔法鳩郵便局に、そのまま貯金してあるわよ」
「……そうか。ありがとう、オフクロ。俺には今や生きがいともいえる仕事がある。難儀する王国民を助ける仕事がね」
「ええ、シモン。お前から聞いて素晴らしい仕事だと、私も思うわ」
「ああ、だから俺は王都を離れられない。結婚すればオフクロ以外に家族が増える。面倒を見るべき部下も大勢居るし、更に増える予定なんだよ」
「そ、そうなんだ」
「ああ! というわけで、まずはしばらく、俺が王都に借りているウチで暮らそう」
「お、お前の王都の家で?」
「ああ! 居間を入れると部屋が5つもある、オフクロも自分の部屋が持てる。結構広い庭付きの家なんだ。モノ凄くオシャレなんだぜ」
「そ、そうなの?」
「ああ! 悪いけど無理やり王都へ連れて行き、長年のオフクロの夢を叶えるぜ! 公爵閣下と、上司の伯爵閣下からも厳命されているんだ。オフクロと一緒に暮らして、親孝行しろ! ……ってな」
シモンの熱弁を聞き、エステルとクラウディアも!
「ええ、私も母ひとり、子ひとりで育ったんです。ぜひお母様へ親孝行させてくださいっ!」
「私も頑張って練習した料理を、お母様にお召し上がりになって頂きたいですわっ! 家事もいろいろと教えてくださいませませっ!」
エステルとクラウディアは、ここぞとばかりに素直に気持ちを訴えた。
3人の熱いお願いを聞いて……マリアンヌは、改めて息子が幸せを掴んだ事を実感したようだ。
しばし考え込んだ後、マリアンヌは嬉しそうに微笑み……
「分かったわ! あなた達と王都へ行き、一緒に暮らしましょう!」
と、決意してくれたのである。
外観同様に、内部もやはり古くて質素であった。
狭くて全員が入り切れないので。
なので、ジュリエッタ、アンヌの騎士姉妹、そしてリゼットは馬車で待機。
居間で母マリアンヌと話すのは、シモン、エステル、クラウディアである。
手紙でまめに状況を報せていたシモンであったが……
マリアンヌは半信半疑のようだ。
母が疑問に思うのも、無理もない。
門番や町長と同じような印象を息子に持っていたからである。
魔法大学へ入学する為、息子シモンは魔法の勉強と実践に明け暮れていた。
良く言えば争いは好まず大人しい性格、はっきり言って社交的ではない。
加えて女性が、大の苦手のはずでもあった。
大学を卒業したら、公的な機関か大きな商会で地味に『魔法鑑定士』になると言っていたのに……
それが、何やら怪しげな商会へ入り、トレジャーハンターという危険な仕事に就き、
倒産後は元王国宰相補佐官で伯爵という、高い身分の大学の先輩に誘われ、公務員となった。
そして公務員が稼ぐとは思えない莫大な金を毎月送って来るようになった。
息子の無事と、仕事が順調なのがマリアンヌには嬉しい。
だが……違和感がありありである。
あの引っ込み事案だったシモンが、新しい革鎧を着てばりっとした冒険者風の姿で、堂々とした態度でふるまい……
事前には聞いていたが……
「洗練された服を着た、貴族らしき美女をふたりとも婚約者だ」と連れ、しなやか且つたくましい女子騎士の部下と可愛い使用人まで同行させて来たのだ。
信じられないのも無理はない。
まずエステルが、
「お母様、改めまして! 私はエステル・ソワイエでございます! シモン様の婚約者でございます! 王国復興開拓省支援戦略局局長を務めておられるシモン様の秘書をしております。この度、わけあって、このクラウディアの家の養子となりますっ!」
そしてクラウディアも、
「お母様! 改めまして! 私はクラウディア・ラクルテルでございます! ロジエ魔法学院に通う3年生であり、シモン様の婚約者でございます! エステルの言う通り、彼女はラクルテル公爵家の養子となり、令嬢である私クラウディアの姉となります。その上で私達ふたりともシモン様と結婚致します」
「オフクロ、という事で……仕事の成功を機に、ラクラテル公爵閣下ご夫妻がお認めになって、ふたりとの婚約と結婚が確定になった。詳しい相談が出来ず申し訳ないけれど、手紙で知らせた通り、俺この子達の『入り婿』になるんだよ」
ティーグル王国では一夫多妻を認めている。
倫理的には問題はない。
しかし……
マリアンヌには今直面している現実が信じられない。
何と!
息子シモンは王国でも誰もが知るくらいに有名な、
英雄たるラクルテル公爵家の愛娘達と結婚するというのだから。
「結婚を考えているって……そ、それは分かっていたけれどシモン、お前にOKを出したけど……ラ、ラクルテル公爵様のご令嬢おふたりと結婚って!」
「ああ、そういう事だ」
「た、た、確か……アンドリュー・ラクルテル公爵様って、誰もが知る竜退治をされた英雄で、ラクルテル公爵家って、王国の貴族の中でも有数の家柄じゃないの? ほ、本当に!?」
「ああ、オフクロ、公爵閣下はドラゴンスレイヤーの英雄だよな。そして本当の話でマジなんだ」
「はああ……何か、いろいろびっくりしどおしだわ……魔法の勉強ばっかりしていたお前が、王国軍を率いておられる公爵様の入り婿にねえ……」
「ああ、そうなるんだ、オフクロ」
「それもまた、こんなに綺麗な女子ふたりと結婚なんて……『勉強が恋人』じゃなかったのね」
大きなため息を吐く、マリアンヌ。
シモンは苦笑し、エステルとクラウディアも顔を見合わせ、
にっこりと微笑んだのでである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ショックが大きく嘆息する母マリアンヌへ、シモン達は説明を続けて行く。
「婚約を機に、公爵閣下はお屋敷に隣接する敷地に、別館を建ててくださるんだ」
「そ、そうなの?」
「その新居で俺達は生活をする。そしていずれ俺は公爵家を継ぐんだよ」
「ま、まあ……入り婿ならそうかもね。エステル様か、クラウディア様が、女性当主になられるって事にはならないの?」
マリアンヌの疑問は尤もである。
平民のシモンが、ラクルテル公爵家の娘ふたりと結婚するとはいえ、いきなり当主になるのは不可解だからだ。
対して答えたのはクラウディアである。
「シモン様が優しく誠実な人柄なのは勿論ですが……」
と、前置きし、
「シモン様の強さを、父アンドリューがはっきりと認めたからですわ。武家であるラクルテル公爵家は、力こそが正義、力なき正義は悪……が家訓なのです」
「え? 公爵様がお認めに? 力こそが正義って……ウチのシモンは戦うどころか、ケンカも大の苦手な男の子だったのですよ」
ここで、言葉を発したのはエステルである。
「うふふ、お母様。今のシモン様は全く違いますよ。私が同行した出張先でも無法者の山賊1,000人を生け捕りにし、恐ろしいオーガ数十体を、おひとりであっという間に倒しましたから」
負けじとクラウディアも、
「そうですわ、お母様! 私、ふらちな悪党どもに、危なく、さらわれそうになり、危機一髪のところをシモン様に救って頂きましたし、王都の街中でも、シモン様が、ナンパ男どもを退け、エステル姉とともに守って頂きましたわ♡」
「そうそう! 私達局長に! シモン様に守って頂きましたからっ♡」
しかし……
「ふ~ん……凄く臆病だったこの子がねえ……全く信じられないわ……」
婚約者のふたりが熱くシモンを称えても、マリアンヌはいまだ半信半疑のようだ。
そろそろ話はクロージングに入る。
「でだ、婚約が確定し、仕事も一段落。休みも1か月貰えた、それでオフクロを迎えに来たというわけさ」
「私を迎えに?」
「ああ、オフクロはいつか王都に住んでみたいと言っていただろう? 王都のおしゃれで素敵な家に住みたいって」
「え、ええ……確かに言ったけど、所詮は夢よ、そんなの」
「いや! 夢で終わらせない! オフクロの夢は叶う! いや、俺とエステル、クラウディア3人が叶える! 俺、苦労したオフクロに、王都で親孝行がしたいんだ」
「親孝行って……お前が毎月送ってくれている大金で充分すぎるくらいだよ」
「そんなこと言って、オフクロは相変わらずこの家で質素に暮らしているし、働いてもいるじゃないか?」
「ええ、私が生活する分は自分で稼ぐし、お前が送ってくれたお金は将来お前が結婚する時の資金にと、考えていたの。魔法鳩郵便局に、そのまま貯金してあるわよ」
「……そうか。ありがとう、オフクロ。俺には今や生きがいともいえる仕事がある。難儀する王国民を助ける仕事がね」
「ええ、シモン。お前から聞いて素晴らしい仕事だと、私も思うわ」
「ああ、だから俺は王都を離れられない。結婚すればオフクロ以外に家族が増える。面倒を見るべき部下も大勢居るし、更に増える予定なんだよ」
「そ、そうなんだ」
「ああ! というわけで、まずはしばらく、俺が王都に借りているウチで暮らそう」
「お、お前の王都の家で?」
「ああ! 居間を入れると部屋が5つもある、オフクロも自分の部屋が持てる。結構広い庭付きの家なんだ。モノ凄くオシャレなんだぜ」
「そ、そうなの?」
「ああ! 悪いけど無理やり王都へ連れて行き、長年のオフクロの夢を叶えるぜ! 公爵閣下と、上司の伯爵閣下からも厳命されているんだ。オフクロと一緒に暮らして、親孝行しろ! ……ってな」
シモンの熱弁を聞き、エステルとクラウディアも!
「ええ、私も母ひとり、子ひとりで育ったんです。ぜひお母様へ親孝行させてくださいっ!」
「私も頑張って練習した料理を、お母様にお召し上がりになって頂きたいですわっ! 家事もいろいろと教えてくださいませませっ!」
エステルとクラウディアは、ここぞとばかりに素直に気持ちを訴えた。
3人の熱いお願いを聞いて……マリアンヌは、改めて息子が幸せを掴んだ事を実感したようだ。
しばし考え込んだ後、マリアンヌは嬉しそうに微笑み……
「分かったわ! あなた達と王都へ行き、一緒に暮らしましょう!」
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