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第154話「故郷へ!②」

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シモン帰郷の旅は天気に恵まれ、灰色狼風に擬態した魔獣ケルベロスの威圧効果もあり……
賊や魔物の襲撃等の妨害もなく……途中、様々な町で宿泊。
エステルとクラウディアにとっても思い出深い旅となった。

そんなこんなで……
予定より1日早い、6日目の朝8時に、一行はシモンの故郷小さな町プリンキピウムへ到着した。
ちなみにそのまま入ると、巨大灰色狼といえど『町は大騒ぎ』となる。
それゆえ魔獣ケルベロスは村の少し手前で『異界』へ戻してある。

さてさて!
シモンが言う通り、シモンの生まれ故郷プリンキピウムは、町と名はついても実質は村。
人口は約300人。
商店は個人経営の店がたった10店舗しかない。
住民もいわゆる『耕す者』――農民が殆ど、つまりほぼ農村である。

プリンキピウムの入り口は丸太をそのまま刺した無骨な防護策があり、粗末な詰所には門番が立っており、訪問者のチェックをしていた。

プリンキピウムの門番は町民の交代制であり……
当然ながら本業の農民も兼務する中年男である。

シモンは門番の男を憶えていたし、
門番もシモンの顔を当然ながら忘れてはいなかった。

そして門番は、約5年ぶりに会うシモンを見てたいそう驚いた。
……魔法大学へ入学する為、うつむき加減で暗い雰囲気にて、
ひとり寂しく旅立った18歳のシモンが……
5年経って、23歳のたくましい青年に成長していたからだ。
加えて、ばりっとした新品の革鎧姿である。

また豪華な馬車で乗りつけていて、身なりの整った美しい若い女性ばかり、3人も連れていた。
御者を務めている女子は騎士、馬を連れていた女子も騎士らしい。

「お、おい、シモン! 上級貴族が乗るようなスゲ~馬車だな! それと、そ、その人達は何者だい?」

門番から尋ねられ、シモンはエステル、クラウディア、ジュリエッタ、アンヌ、
そしてリゼットと、順番に紹介して行く。

「おはようございます! おじさん、この女子達は、俺の婚約者ふたり、そして配下の騎士さんがふたりに、あとひとりは侍女さんの計5名だ」

「ほえ~、お前の婚約者がふたり!? 配下が騎士ぃ!? そして侍女まで!?」

「そうだよ」

「な、何が何だかわけが分からんし、女性は本当に『べっぴん』さんぞろいだなぁ……」

「ああ、皆、美人だろ」

「うむ、確かに綺麗な女子達だ。そして怪しさはみじんもない。だがシモン、一応規則だ。お前を疑うわけじゃないが、身分証を見せてくれよ」

「了解」

シモンは驚く門番へ、ミスリル製の身分証を差し出した。
門番は恐る恐る身分証を手に取り、記載内容を確認する。

「ええっと……た、確かにシモン・アーシュと書いてあるな。間違いなくお前の名前だけど、金属製なんて凄い身分証だな。お、お、王国復興開拓省……し、支援戦略局? 何だい、この役所は? 聞いた事がないぞ。それに、この身分証、一体何で造られているんだ」

「ええっと……王国復興開拓省は困っている王国民を助ける役所、俺はそこの一部門長、そしてこの身分証はミスリル製だよ、おじさん」

「ひえ! ミスリルなんて生まれて初めて見る。それに王国復興開拓省? 何だかよく分からないお役所だな」

「何だかよく分からない役所とか、あまりそういう事、大きな声で言わない方が良いよ。何せ王国復興開拓省は、陛下の弟君、マクシミリアン殿下がお作りになった役所だからね」

「ま、マクシミリアン殿下!? ひえ~! 宰相様がかあ!? わ、分かったあ! わ、悪いが、ち、町長のところへ顔を出して、挨拶しておいてくれ」

「了解、おじさん。町長のところへ行くよ」

「おお、そうしてくれ、助かる」

という事で、シモン達一行はプリンキピウムの町内へと入ったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

ラクルテル公爵家専用の豪奢な馬車は、ひなびた町ではやはり目立った。

ちょうど朝の農作業から帰る町民が何人も道を歩いており……
実家に向かってゆっくり走る馬車を指さしていた。
中には馬車内のシモンの姿を見て、大騒ぎする者も居た。

町長は在宅しており……
シモンがおみやげを持って訪問し、挨拶するとビックリ。
門番とほぼ同じ反応をした。

驚き戸惑う村長へシモンは一行を紹介。
「急な里帰りだが、独り暮らしの母を引き取るつもりだ」と告げ、
シモンの実家と同じ町営住宅の空き家を、短期契約で一軒借りた。
このプリンキピウムは本当に小さな町であり、宿屋などはないからだ。

町長宅を出て、すぐに馬車は実家へ到着した。

シモンの実家は古い借家だ。
父が失踪する前から、ず~っと長く暮らしている。
シモンが王都に居るから、現在は母のひとり暮らしであった。

自宅には狭い庭がついている。
なので、何とか馬車と馬を入れた、その時。
きしむ音を立てながら、扉が開いた。
懐かしい声が、シモンの耳へ。

「どなた? あら、シモンかい?」

「ああ、シモンだよ、オフクロ。今、帰った」

扉が開き、現れたのは小柄な中年女性。
年齢は50代半ばだろうか、顔立ちはシモンに良く似ていた。

すかさず!
『ファスートインプレッション』が肝心なのだと、
エステルとクラウディアが、元気に声を張り上げる。

「初めまして、お母様! 局長……じゃなかった! 私は、シモン様の婚約者エステル・ソワイエでございますっ!」
「お母様、初めまして! 私もシモン様の婚約者クラウディア・ラクルテルでございますわっ!」

ひとりは、たおやかなストロベリーブロンドの美女。
もうひとりは、可憐な金髪碧眼の美少女。

すっくと背を伸ばしてあいさつするふたりとも……
魅惑的で才能あふれる素晴らしい女性である。
ここだけの話、はっきり言ってシモンにはもったいない。

同じ事をシモンの母――マリアンヌ・アーシュは大いに感じたらしい。

「え、えええっ!? あ、あ、貴女達が!? ウ、ウチのシモンの、お、お嫁さん!? ま、まさか!?」

大声で叫ばないよう口に手を当てて、驚き戸惑っていたのである。
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