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第147話「オーガ戦②」

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シモンほどではない。
だが、冒険者ギルドサブマスターのジョゼフも若手騎士も常人よりは遥かに俊足である。
命令を伝える時間も含め、数分で戻って来た。

その間、オーガどもは距離を詰め、400mを切る距離まで接近している。

シモン達も陣形を整えていた。

クラン総勢10名の陣形は、先陣にシモン、女子騎士ジュリエッタ、ジョゼフの並び、
次いでクラン候補者6名が続き、最後方が支援役の秘書エステルと彼女を護衛する、魔獣ケルベロス。

当初、エステルは先陣のシモンと並び立ちたかった。
だがシモンの強い要望と現人数を考え、冷静に受け入れた。
後方から、水属性の攻防魔法でシモンを援護するつもりだ。

何といっても、総勢たった10名のクラン、最後方でもシモンの姿はばっちり見える。
それゆえ、エステルは安心。

傍らに立つケルベロスも、エステルは頼もしい。
凄まじい強さを感じる。
だから……シモンは安心して戦える。

そしてシモンを理解し、公私ともにサポートするエステルにはシモンの真意が見えて来ていた。
ここでシモンは圧倒的な強さを見せるつもりなのだ。

まずは自分達クランへ、そして後続部隊にも。
シモンを彩る数多の伝説を目の当たりにさせ、圧倒的な強さを認識させる。

そして、クラウディア・ラクラテルの婚約者に相応しい、アンドリュー・ラクルテル公爵の後継者として……
『王国のカリスマ』となり、多種多様な身分の者が構成する王国復興開拓省をまとめあげ、今後、牽引して行くと。
その強さの根幹が、エステルだけに告げてくれたシモンの秘密……
たったひとりの『ぼっち』で10体ものドラゴンを撃退した事なのだ。

エステルにはこれから行うシモンの『作戦』も見えている。
今、自分達が居るのは森林であるが、目の前には木々が途切れ開けた空間と空き地がある。

木々など遮蔽物が多い森林では、遠距離攻撃魔法が当たりにくい。

シモンは自分の分身に等しい人間大のゴーレムに獲物を追い込む『勢子』をやらせ、オーガどもの群れを分断。

何割かを目の前の開けた空間に追い込み、ゴーレムとともに、
近距離の格闘戦で一気に殲滅するつもりなのだ。

そして一旦クラン10名を退いて、後続部隊100名と合流、全員の前で同じく格闘戦でオーガの残党を全滅させる。
状況を見て、可能ならば全員戦闘に参加させる……

その後の状況は……エステルの予想通りに進んだ。
『勢子』となったゴーレムが『ま!!』と雄たけびをあげながら、オーガども数十体を追い込んで来たのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「よし、俺とゴーレムでオーガどもを殲滅する。殲滅後に後続部隊と合流。お前達は俺とゴーレムが打ち漏らしたら、フォローしてくれ」

シモンはきっぱりと言い切った。
有無を言わさない迫力である。
シモンの言葉を応援するかのように、
エステルの傍らに居たケルベロスが「うおん」と軽く吠えた。

エステルを含め全員が緊張の面持ちで頷く。

ぶしゃ! ぐしゃ! ぐちゃ! ばき! どが!

ぐぎゃああああ!
ぎええええええ!
がああああっっ!

ゴーレムが、拳をふるう、重く肉を打つ音。

対して、オーガどもの絶叫に近い悲鳴。

クランメンバーの目の前には、阿鼻叫喚の地獄図……

既にゴーレムは獲物を追い込む『勢子』から『強靭な討伐者』へ早変わり。
……たった1体で圧倒的な強さを見せ、オーガどもを倒していたからだ。

「行って来る!」

シンプルに言葉を発したシモンが脱兎の如く、駆け出し、消えた!
あまりの速さに、常人の肉眼では捉え切れないのだ。

既に乱戦となっている戦場へ乱入。

シモンはゴーレムとともに、オーガを倒し始める。
肉体にダメージを与えないよう、拳、蹴りをオーガどもの急所へピンポイントで打ちまくる!
近距離からの風の塊を放つ攻撃魔法を『風弾』を撃ちまくる!

ぐえ! ぎゃ! ぐあ! ぐお! がは! 

オーガどもは短い悲鳴とともに、あっさりと絶命して行く……

ゴーレム以上といえる、シモンのその無敵無双ぶりに、エステル以下、クランメンバーは驚愕。
呆然と戦いを見守っていた。

ジョゼフだけが唸った後に、

「お、おお……ランクSを超えている!」

戦闘自体はものの20分もかからなかった。

数十体……正確にいえば、シモンとゴーレムの圧倒的な能力で、
約70体のオーガは全滅していたからだ。

シモンは倒したオーガのうち、比較的損傷がないもの51体を腕輪へ回収。
2次利用が不可能なものは、不死アンデッド化せぬよう、葬送魔法で、完全に塵とする。

こうして……
前哨戦が終わり、シモンとゴーレムは、たったったと足取りも軽く、
意気揚々と戻って来た。

「おう! 今、戻った」
「ま!」

いつものように屈託がない笑顔を見せるシモン。
強さを誇示するよう吠えるゴーレム。

「お、お疲れ様ですっ!!」

すかさず大きな声で返すエステル。

「うおおん!」

「今度は俺が戦う!」とばかりに元気よく吠えるケルベロス。

そんなエステルとケルベロスにつられ、

「「「「「お疲れ様です!!!」」」」」

と、全員で唱和するクランメンバー達。

そう……
エステル以下、クランメンバーの誰もが……
予感していた。

自分達の上司、王国復興開拓省支援開発戦略局、局長シモン・アーシュが……
英雄アンドリュー・ラクルテル公爵の『竜殺しドラゴンスレイヤー伝説』を継ぐと……
否! 遥かに! 超えてしまうと!!

このリアルな戦いを目の当たりにして、その『予感』が今、『確信』へと変わって行く。

シモンの指示が、電撃のように鋭く速く飛ぶ。

「よし、皆、残りはあと30体少しだ」

「「「「「はい! 局長!」」」」」

「ま!」
「うおん!」

「よし、一旦撤退! 後続部隊と合流し、打ち合わせ通り、一気に殲滅する」

「「「「「はい! 局長!」」」」」

「ケルベロス! ゴーレムと交代だ! まず勢子を! その後は討伐者モードで! 奴らの肉体にあまりダメージを与えないよう頼むぜ!」

「うおおお~ん!」

シモンの指示でケルベロスは吠え、駆け出して行く。
代わりに今度はゴーレムがエステルの傍らに立った。

その後……シモン達は後続部隊と合流。

今度は総勢110名の前で、シモンはケルベロスとともに、
凶暴なオーガの残党30体余りのうち、10分もかからず、8割方を倒した。

呆気に取られた後続部隊を、合流したジョゼフとジュリエッタが、
気合を入れ直すが如く、叱咤激励して指揮。

後続部隊が前進、入れ替わりにシモンは後方へ撤退した。

こうしてシモンは……
残りのオーガ10体を配下達全員に任せた。
約10名で、オーガ1体を倒す計算である。

その結果、オーガ104体を見事に全滅させ、ひとつ目の討伐案件をクリアしたのである。
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