頑張ったら報われなきゃ!好条件提示!超ダークサイドな地獄パワハラ商会から、やりがいのある王国職員へスカウトされた、いずれ最強となる賢者のお話

東導 号

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第143話「もうひとりは誰?」

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 合宿形式により、3週間実施された研修の効果はシモンの想定以上のものであった。

 班、又は小隊で組まれた仮採用者達は、急きょ各所から志願した寄せ集めの連合部隊なのに……
 長年に亘って戦い続けた、まるで元からの仲間のような強固な連帯感を醸し出すようになったからだ。

 その根底にあるのが……
 困窮している王国民達を救うという、崇高な理念なのは間違いがなかった。

 研修の仕上げ『地獄の森』での戦闘訓練も無事に終わった。
 さすが選び抜かれた猛者達である。
 ゴブリンは勿論、オークやオーガも簡単に蹴散らしていた。

 中でも、シモン率いる4名プラス20名のクランは、もはやティーグル王国最強の部隊と断言しても、けして過言ではない。
 まだ仮採用、本採用ではない。
 という立ち位置も、彼らにほど良い緊張感を与えていた。

 そして、いよいよ明日に小村へ出発……という中。
 他の局員達には休みを取らせたが、シモンとエステルは事務作業等でいつも通り、
 王国復興開拓省庁舎の局長室へ出勤していた。

 ふたりの朝はいつものように局長室で、挨拶を交わす事から始まる。

「局長、おはようございます! お休みのところ、お疲れ様です」

「おはよう、エステル、エステルこそ、休みなのに申しわけない」

「いえいえ、局長と私は一心同体ですから。それより明日は、いよいよ小村へ出発ですね。今のところ全てが順調ですが、油断大敵と言います。業務の完遂まで抜かりのないように致しましょう」

「ああ、勝って兜の緒を締めよとか、好事魔多しとも言うな。いろいろチェック項目をあげて、確認して行こうか」

「はい!」

 シモンとエステルは書類に片端から目を通して行く。
 参加者、連絡を含めた段取り、資材手配、全て問題がなかった。

「よっし! 確認OK! 資材は全て俺の魔法腕輪に入ってるしな」

「はいっ! ばっちりですっ!」

「じゃあ、昼メシ食って帰ろうか」

「ですね! まもなく午後2時です。ランチタイムも終わりですけど……職員食堂へ行きますか?」

「いや、久々に風車亭へ行こう。クラウディアには後で謝る」

「うふふ、次回は必ず連れていけと言ってましたからね」

「ははは、仕方がない。仕事のうちだ。埋め合わせはちゃんとしよう」

「はい!」

 と、いうことで、シモンとエステルは風車亭へ向かったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 居酒屋ビストロ風車亭……
 シモンとエステルは、安堵した。
 時間は、午後2時を過ぎていたが、まだ『営業中』の札がかかっていたからだ。

「こんちわ~!」
「こんにちは!」

 シモン達が声を張り上げると、メイド服ユニフォーム姿の少女エマが応える。
 エマは記憶力が良く、シモンは勿論だがエステルの事も憶えていた。

「いらっしゃいませぇ! あ、シモン君にエステルさん!」

「エマさん、席、空いてるかな?」

「ええ、今ちょうど最後のお客さんが帰ったところよ」

「え? 最後って……もう昼の部を終わらせるところだったとか?」

「うふふ、実はそう……ちょっとショック。せっかくひと息つけると思ったからさ」

「あちゃ~。じゃあ悪い事したかな?」

「うふふ、冗談冗談 シモン君なら大歓迎。ちょっと待っていてね」

 エマはそう言うと「ささっ」と走り、表の札をひっくり返し、『準備中』へ変えた。
 シモンとエステルを誘う。

「さあ、貸し切りでどうぞ。こちらの席へ!」 

 そして店内に響き渡る大声で叫ぶ。

「みんなあ! シモン君が来たわよ~!!」

 エマは風車亭で一番の上席へ案内してくれた。
 
 と、そこへオーナーシェフのアルバン・ビュイエと見習いの少年シェフが、
 更にエマの同僚達メイド少女軍団が押し寄せた。

「お~、シモン。噂は聞いてるぜ。お前、凄いな!」

 対して、シモンは相変わらず控えめである。

「いえ、ぼちぼちっす。今日はメシ食うのと、もうひとつお願いがあるんです」

「お願い?」

「ええ、実は俺……エステルと婚約するんです」
「はい! 私、局長と婚約して……結婚します」

「えええっ!? こ、婚約う!?」

 アルバンが大げさに驚き、更に……とんでもない事を言う。

「あのさえなかったシモンがこんな超美人と婚約なんて……やっぱり時代は変わって行くんだなあ」

 対して、シモンも肯定。
 苦笑する。

「ははは、まあ自分でもそう思います。それで、この風車亭で婚約祝いをしたいんです。貸し切りで」

 シモンのお願いとは、婚約祝いを風車亭で行う事。
 多分、気の置けない内輪の仲間のみと内々で行う会であろう。
 クラウディア絡みの公式なお祝いは、ラクルテル公爵家主導で行われるはずだから。

 苦学生だったシモンを、父親代わりに可愛がったアルバンは、当然快諾する。

「おう、お安い御用だ! 最優先で予約を入れてやる! いつ頃だ?」

「それが明日から出張なんで、仕事が終わって、落ち着いてから……2カ月から3カ月後かなあ……」

 シモンの仕事が、地方の支援復興である事をアルバンは承知していた。
 仕事の日程が不規則な事も。

「うむ、シモン。お前の仕事が仕事だからな! 了解した!」

「それと、もうひとつあるんです」

「もうひとつ?」

「ええ、実は……婚約って、エステルだけとするんじゃないんです」

「何? エステルさんだけじゃないだと?」

「はい、俺もうひとりと、ふたりの女性と婚約するんですよ」

 シモンの衝撃発言に、風車亭は騒然となる。
 アンドリュー・ラクルテル公爵の『コメント』は、風車亭一同の耳へは入っていないらしい。

「ええっ!? ふたりぃ!! ということは嫁さんがふたりかあ!?」

 アルバンが叫ぶと、エマ達も追随する。

「何それぇ!!」
「すっごぃぃ!!」
「うっそぉ!!」

 メイド服少女のひとりが、エステルへ問う。

「エステルさん、本当!? 冗談でしょ!?」

「いえ、本当です。私もその子が大好きですから」

 エステルが認めた。
 となると、風車亭一同の関心は……

「シモン、お前が婚約するもうひとりは誰なんだ?」

 アルバン以下全員がそう言い、一斉にシモンへ詰め寄った。
 しかし、ラクルテル公爵家令嬢クラウディアだとは、今の時点では言えない。

「いずれ伝わるかもしれませんし、差し障りがなくなれば、皆さんにもお伝えします。彼女はこの店にも来たがっていましたから、必ず連れて来ますよ」

 シモンが申しわけなさそうに、告げるとさすがに『わけあり』だと、アルバン達は気付いた。

 ここでエマが声を張り上げる。

「どっちにしてもおめでたいわ! お祝いの乾杯をしましょ!」

 この提案に対し、反対する者は皆無である。
 すぐに人数分の飲み物が運ばれた。

「シモンとエステルさん『達』の婚約を祝し、かんぱ~い!!」

「「「「「「「「乾杯っ!!!」」」」」」」」

 アルバンの音頭により、風車亭の店内は陶器のマグカップが合わされる音が大きく鳴り響いたのである。
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