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第139話「仮採用の提案」

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 2次選考会の後、シモンとエステルのふたりは王国復興開拓省庁舎へ戻り、
人事部に缶詰となった。
 シモンがチェックしたリストを精査し、3次選考候補者を絞り込む為である。
 作業を含めた綿密な打合せは、夜8時までかかったが……
 ふたりは今朝も元気に出勤した。
 
 シモンとエステルふたりの朝は、いつものように局長室で、笑顔で元気良く、挨拶を交わす事から始まる。

「局長、おはようございます! 昨日は、夜までいろいろとお疲れ様でした」

「おはよう、エステル! エステルこそ、いろいろお疲れ様。今日も頑張ろう」

「はい、頑張りましょう。昨日、人事部で打合せした事を改めて確認させて頂きます」

「ああ、宜しく頼む」

 シモンが頷くと、エステルは話し始める。
 ちなみにゴーレムの話は、昨日の選考会後に散々したので、今朝はナシである。

「概要は人事部とおおむね合意しましたが……昨日、局長がチェックしたリストを基に3次選考候補者を決定致します。クラン、応援部隊の候補者は最初が4,000名強、2次選考の時点では、1,115名でした。それを次の3次選考では200名に絞りたいというのが人事部の考えです」

「ああ、200名を更に絞って、その上で採用の最終決定だと、ケーリオ人事部長は言っていたが」

「はい、そうです。……何か、局長にお考えがありますか」

 エステルの問いに、シモンは応える。
 優先順位を付け、チェックした応募者のリストは既に人事部へ渡していた。

「ああ、あるよ。俺は次官、次官補と小村の案件に同行する形での、研修を受けた上で入省しただろう。それを今回の選考でも採用したいと思ってな」

 シモン入省の経緯は、アレクサンドラから話を聞いていた。
 でも……
 シモンの口から直接聞きたいとエステルは願う。

「何となく、局長のお話は理解出来ますが……改めてご説明をお願い出来ますか」

「了解! 昨日聞いた人事部の方針では、2次選考通過者を200名に絞ると言う。だが俺は更に50名増やし、仮採用という形で250名にしようと考えているんだ」

「ええっ? 50名増やし、250名の仮採用ですか」

「ああ、俺のチェックした中で、250名は結構な実力者だと思った」

「250名が? 局長のご評価に叶うと?」

「おお、そうだ。この250名を俺は勿論、エステルを含め全局員から、今後一緒にやって行けるのか見て貰うんだ」

「と、申しますと?」

「うん、俺は入省前に、王国復興開拓省の仕事を見極めてから判断しようと考えた。長官の話で心はほぼ決まっていたけど……実際の仕事の現場を見てからと、改めて決めたんだ」

「成る程」

「俺は小村へ行って、村民と話し合い、彼らの悩みを相談し、解決したいと心の底から思った。そして村民を苦しめていたオークどもとの戦いを経た上で、王国復興開拓省への入省を決めた。これこそ自分がやるべき仕事だと決意したんだ」

「はい! そのお気持ちは素敵です! 局長!」 

「でも、それだけじゃない。次官と次官補も俺の適性と実力をしっかりと見てくれて、俺を認めてくれたからこそ、王国復興開拓省へ入省出来たと思っている」

「局長……」

「だから、今回も仮採用したその250名を小村での実務と、魔物討伐の実戦に投入し、彼等彼女達の働きぶりや勤務態度を、俺達局員の目から評価するんだ」

「評価ですか?」

「ああ、これを『本試験』という事で、最終的な採用者を決定しようと思う。俺達の仕事は、自ら望み、相手から望まれてやるのが一番なんだ」

「素敵です! 私もその通りだと思います。それで、私達の仕事が体感出来る、小村の実務、魔物との実戦が本試験なのですね」

「ああ、それに加えて、もうひとつ」

「もうひとつ?」

「ああ、俺の前職のように超ダークサイドな職場とまでは言わないが、ウチの仕事は一般の公務員とは違う、見た目よりも相当キツイ」

「確かに……そうですね」

「専門外の事も、ガンガンやらされるしな。というか、俺が無理やりやらせるんだけどな」

 シモンは苦笑し、話を続ける。

「だから採用しても、思っていたのと違うとか、辛いからもうやめたいという者も出る可能性はあるだろう?」

「成る程。それで50名余分に、都合250名も仮採用するのですね」

「ああ、でもそれだけじゃない」

「それだけじゃない?」

「うん! 皆、ティーグル王国、国民の役に立ちたいと、ウチに志願してくれているんだ。その思いを大事にしたい。仮採用中も充分な手当ては出すし、最終的には予定より多く採用しても構わないと思うよ」

「かしこまりました! では! 局長のお考えを次官補、次官経由で長官にお伝えし、了解をお取りしてから、人事部へ伝えます」

「了解。勝手に決めやがってとか、人事部の反感を買わないよう、伝え方を気を付けよう」

「はい! という事で、ここまでは支援開発戦略局の話です」

「あ、ああ、そうだな! 一般職員の募集にもかかわるんだものな、俺」

「うふふ、そうですよ。3次の集団面接と個別面接に局長も参加しますから」

「特産品ショップのオープン準備もあるし、えらく忙しくなるな」

「はい! ここが踏ん張りどころです。頑張りましょう!」

「おう!」

 いつも晴れやかな笑顔のエステルを見ると、
 やる気になる! 元気になる! 力が湧いて来る!

 シモンは強くそう感じたのである。
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