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第126話「後継者問題の解決」

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 シモン達は小村の施策補完と、特産品の選定、そしてショップのオープンを目指し、作業を続けていた。
 そんなある日の朝、エステルからシモンへ報告があった。

 本日から3日後に、王国復興開拓省の大々的な新規職員募集を発表する事が決まったのだ。
 エステルの手元には、概要が記載された数枚で1セットの書類が、都合20セットほど置かれていた。
 先ほど、人事部から届いた、局員へ配布する為の資料である。
 エステルは既に目を通し、シモンもざっくりとチェックした。

 後ほど……
 3階の支援開発戦略局オフィスにおいて配布した上で、説明する事になる。
 
「いよいよだな、エステル」

「はい、局長。今回の新規職員募集は、ウチの局、いえ、王国復興開拓省最大のターニングポイントとなる事でしょう」

「だな! 王国各省へは通達が行くんだよな。早速ウチの局員へも通達を入れよう。特にジュリエッタとジョゼフへ知らせないといかん」

「ええ、それとペリーヌにも。彼女へ託し、商業ギルドへも一般より先行して募集概要を伝える事となりました」

「そうか」

「はい、特に冒険者ギルドと騎士隊、王国軍のつばぜり合いが相当ですが、局長が率いる統合部隊なら、協調性も問題なくご指示に従うと思われます」

「何故だい? まあ何となく分かる気がするけど、……ギルドのランクS認定と、公爵閣下と引き分けた事、騎士隊との腕相撲で、だよな」

「はい! その通りです。あと、騎士隊に関してはクラウディアの件も大きいです」

「え? クラウディアの件が? もしかして?」

「はい! そのもしかして、です! こちらも職員募集同様、正式発表はまだですが、クラウディアから伝言を頼まれました」

「正式発表はまだ? クラウディアから伝言? お、おい! ま、まさか!」

「うふふ、おい、まさかなんて言ったらクラウディアが大泣きしますよ。そうです、公爵閣下ご夫妻が、局長とクラウディアの婚約を認めたそうです」

「おお! 閣下ご夫妻に、遂に俺との婚約を認めて貰ったのか。俺とクラウディアが相思相愛だと」

「はい、局長は先日、私とクラウディアのふたりと、3人で真摯に恋人のあかしを交わされましたよね」

「ああ、間違いない。クラウディアも両親へ伝えると言っていた」

「はい、クラウディアはまず奥様へ、恋人のあかしを交わし、局長と相思相愛になったと伝えたそうです。奥様はたいそうお喜びとなり、即、局長との結婚をお許しになったとか。クラウディアは返す刀で奥様とともに、閣下へ相思相愛になった、結婚を認めるようにと迫ったそうです」

「結婚を認めるようにと迫ったって、男としては嬉しいよ」

「ですよね! その場では渋々お認めになった閣下ですが、実は大喜びされていて、後日、自ら騎士隊内にて、王国復興開拓省、支援開発戦略局局長シモン・アーシュを愛娘クラウディアの結婚相手として認めたと公言されたそうです」

「そうか!」

「うふふ、だから、完全に既成事実が出来ました。公言された際の証人もたっぷり居ますし、自分達に勝った局長ならばと、将軍、隊長以下騎士隊全員が納得もしています。これはもう絶対に覆せません」

「それは良かったと思うけど……クラウディアとの婚約が認められたとなると、考えている事が現実問題になると思ってさ」

「局長が考えている事? 現実問題?」

「ああ、公爵家の後継者問題だ。クラウディアは公爵家のひとり娘じゃないか。俺もひとりっ子だけどさ。閣下から入り婿にと頼まれそうだ」

「はい、それで局長はどうされると?」

「うん! 考えに考えて結論が出た。俺は愛するふたり、エステルとクラウディア、両名と結婚する。これは決定事項だ。だがエステルには申しわけないし、了承して欲しいんだが」

「私が了承とは、どのような事でしょう?」

「単刀直入に言おう。クラウディアが産んだ子を、ラクルテル公爵家の跡取りにしようと思う。それで上手くいくはずだ。婿云々むこうんぬんはこれから考えるよ」

 そんなシモンの気持ちを察してか、エステルは話し始める。

「局長、ありがとうございます、いろいろとお考え頂いて。でも、私と局長のお考えはまたも一緒です。本当に気が合いますね」

「またも一緒、気が合うって? どういう事だ?」

「はい、私は局長のお話しの通りに致します。クラウディアの子が、ラクルテル公爵家を継ぐ、それが後々、問題がなくなると思います。私の話とご相談を聞いてくださいますか?」

「お、おう! 話してくれ」

「はい、ズバリ! 結婚前に、私をラクルテル公爵家の養子にして頂けないかとお願いしたいと思います」

「えええっ! 結婚前にエステルが公爵家の養子になるのか!?」 

「はい、クラウディアとは既に話しており、内々でOKと意思確認を致しました。私は、クラウディアが大好きです。ちぎりを結んだ姉として、妹クラウディアと一生支え合い生きて行きますから」

「そうか」

「はい! それで、もし養子縁組が正式に決定したら、私はエステル・ソワイエ・ラクルテルを名乗ります。私の産む局長の子は、分家の子、ソワイエ・ラクルテルを名乗るのです」

「エステルの子は分家。ソワイエ・ラクルテルを名乗る……か。成る程」

「はい、事前にそう決めれば、後継者問題は問題なくクリア出来ます。クラウディアの子が、局長が継いだ公爵本家の、更に跡を継ぐのですから」

「ま、まあ、そうだな」

「はい! 私達『ラクルテル公爵家姉妹』を局長がめとり、局長が次期当主として、公爵閣下ご夫妻から、婿入りを求められても問題なく収まります」

「ええっと、それはそうだろうけど……エステルは構わないのか、それで」

「構いません。優先順位を考えましたら、その案しかないと思います。私達3人が結婚して一緒に、そして幸せに暮らして行くのが一番大事ですから」

「でも、ソワイエ家のご両親は?」

「……局長、私の父は、子供の頃に亡くなりました。ソワイエ姓の母も少し前に亡くなりました」

「エステル……、知らなかったとはいえ、すまない」

「いいえ、謝らなくてはならないのは私の方です」

「エステルが謝るのか?」

「はい、局長、申しわけありません。局長秘書の辞令が出た際、私は局長の出自から前職までの履歴調査書を、アレクサンドラ長官のご指示で拝見致しました」

「そ、そうか……」

「その履歴調査書で、局長が私と同じ母子家庭で育ったと知ったのです」

 エステルの言葉を、シモンは肯定する。

「ああ、その通りだ。俺は父が突然失踪し、母ひとり子ひとりで育ったんだよ」

「はい、申しわけありません、調査書に記載があったので存じております。実は……私も局長と同じ身の上なのです」

「エステルが俺と同じ身の上……」

「はい、先ほども申し上げましたが、私は父が亡くなり、母子家庭で育ちました。そして少し前に母も亡くなりました。公爵家の養子になるのに何の支障もありません」

 淡々と話すエステルはそう言うと、柔らかく微笑んだのである。
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