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第112話「有無を言わさない!」

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 休暇明けの月曜日午前8時15分……
 シモンとエステルはいつもの通りふたりが決めた時間に、きっちりと出勤していた。

「局長、おはようございます!」

「おはよう、エステル」

 慈愛を込めて見つめ合うふたり。
 記念すべき初デートを経て……
 クラウディアを含め、3人は相思相愛の想い人同士となった。
 否!
 3人は新たな人生を踏み出したといえるだろう。

「局長。本日の予定です」

「おう」

「午前9時から、2階の大会議室で全職員朝礼が行われます。そして午前10時00分から5階の長官専用会議室で幹部会議が行われます。アレクサンドラ長官、リュシー次官、レナ次官補が全員ご出席されます。当、支援開発戦略局からは、先週行った小村支援、そして局長の山賊討伐の報告を行う事になると思います」

「了解」

「報告書は私の方でまとめておきました。さっと目を通してください。ちなみに私も含め、秘書も全員が出席します」

「もろもろ了解。では、午後はどうなってる?」

「はい、幹部会議において、新たな課題が出されるかもしれません。それも踏まえ、既に出されている魔物の討伐等、課題の検討を会議形式で局員とともに行う事になると思います」

「じゃあ午後は局内会議か、了解。そういえばいくつか魔物の討伐依頼が出されているとか、エステルが言ってたっけ」

「はい、局長のおっしゃる通り、例の小村から少し離れた位置にあるいくつかの討伐案件です。こちらも私の方で概要をまとめてあります」

「ありがとう。小村に近い場所なら都合が良いな。預かっておくよ、本日中に目を通す」

「了解です。では未決済の書類入れに入れておきます」

「分かった!」

「局長……」

「お、おう」

「デートが終わった後、私、クラウディアに招かれ、ラクルテル公爵邸で夕食をごちそうになりました。歓談した後、帰りも馬車で騎士のアンヌさんに護衛して送って頂き、無事自宅へ帰りました」

「ああ、良かったじゃないか」

「はい、公爵閣下ご夫妻ともいろいろ話しました。クラウディアと姉妹の契りを結んだと話したら、たいそう喜んで頂きました」

「閣下ご夫妻が?」

「はい。クラウディアから、ラクルテル公爵家の料理長もご紹介頂き、今後クラウディアと料理修業する事も決まりました……局長の為に、美味しい料理を作れるようになりたいんです」

「ありがとう、エステル。俺も風車亭で料理修業をする事になったよ」

「そうなんですか」

「ああ、タダで教えて貰うわけにはいかないから、昔みたいに皿洗いして授業料代わりにする」

「え? 局長が皿洗い?」

「うん、アルバイトだと誤解されないよう、今日レナさんに許可を取ってからやる。もしも駄目だったら、独学で料理を勉強だな……俺も美味い料理を作って、エステルとクラウディアに食べて貰いたいから」

「局長……私、凄く嬉しいです。クラウディアも大喜びすると思いますよ」

「エステル……」

「うふふっ! 今すぐ局長に抱っこして欲しいですけど……仕事中ですから、我慢します。さあ! 今日も一日頑張りましょう!」

「おう! 頑張ろう!」

 心が通い合ったシモンとエステルは……
 軽くハイタッチし、改めて気合を入れたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 2階の大会議室で9時から行われた全職員朝礼。
 アレクサンドラ長官から、訓示があった後……
 次官のリュシーから、シモンの山賊討伐の件が告げられた。

 たったひとりで、1,000名もの凶悪な山賊を生け捕りにしたと聞き、職員達は大いに驚きどよめいた。

 やがて驚きは笑顔に変わり、賞賛の声が相次いだ。

 一方シモンは思いのほか冷静だった。
 少し苦笑したくらいである。
 これで世間から、王国復興開拓省が好意的に見て貰えればありがたいと思ったレベル。
 相変わらず、驕ることなど全く無い。

 3階の支援開発戦略局オフィスに顔を出し、簡単に局内朝礼を行い、本日の予定を局員達へ告げた後……
 午前10時少し前、シモンとエステルは、5階の長官専用会議室へ。

 入室し、腰を下ろしたシモンとエステルへ。
 アレクサンドラ、リュシー、レナから慰労の声が寄せられる。

「シモン君、エステル、お疲れ様。本当に良くやってくれたわ」
「ええ、またとんでもない事やってくれてわね」
「完全に想定外ね」

 アレクサンドラは、にこにこしている。

「シモン君、司法省のバシュレ伯爵から、ご連絡を頂いたわ。驚愕と賞賛のね」

「司法省長官から、驚愕と賞賛っすか」

「ええ、たったひとりで1,000人もの武装した山賊と戦い、全員生け捕り。その上無傷って、信じられないわ」

「はあ、何とか」

「もう! 何とかって、何よ、それ! でね。司法省からシモン君へ討伐報奨金の提示があったわ。強奪された宝物とかを取り戻したお礼も含め、何と金貨10万枚だって!」

「10万枚!? 凄い金額ですね。それ全部ウチの予算に入れといてください」

 欲のないシモンはそう言うが……

「何言ってるの! ダメダメ! 半分は受け取って貰わないと! 特別ボーナスということで、もうシモン君の口座に振り込んだから」

「え?」

 「有無を言わさない!」というように、アレクサンドラはきっぱり言い切り、更に「にっこり」と笑ったのである。
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