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第111話「勝って兜の緒を締めよ!」
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午後5時より5分前。
貴族街区にあるシモンの自宅前。
クラウディアの警護役たる騎士アンヌは、ほぼ時間通りラクルテル公爵家の馬車で迎えに来た。
シモンとエステル、クラウディアは3人並んで出迎える。
市場の時同様、シモンの両腕にはふたりが「ぴったり」とくっついていた。
「ク、クラウディア様」
衝撃の光景だった。
アンヌは……
主クラウディアがシモンを心から慕っている事は充分認識している。
しかし、シモンははっきりとクラウディアの両親、ラクルテル公爵夫妻へ告げた。
自分には、想い人たるエステルが居ると。
だから所詮は、クラウディアの片想いにすぎないのだとも思っていた。
それゆえ今、目の前に起こっている状態は……
一体何があったのか、アンヌにはすぐ理解出来なかった。
はっきりしているのは、シモンと主クラウディアの距離がぐっと縮まり、深い仲に……『両想い』となった事。
そして恋敵たるエステルとも心の絆を結んだ事だ。
そんなアンヌの心のうちを読んだかのようにエステルは言う。
主クラウディアも告げる。
「アンヌさん、ご覧の通りです」
「そうですよ、アンヌ。ウチへ帰ったら私はお父様、お母様に伝えます。私はシモン・アーシュ様の『女』となり、同じく『女』となったエステル様とは姉妹の契りを結んだと」
「な、何と! おふたりで、シモン様の女に!?」
「はい! 私は妹クラウディアとともに恋人の証を交わしました」
「アンヌ! エステルお姉様のおっしゃる通りですわ」
ここで、シモンがアンヌへと言い放つ。
彼の眼差しには確固たる意志が宿っている。
「アンヌさん」
「は、はい!」
「エステル・ソワイエとクラウディア・ラクルテルは、これからの人生をともにする俺の女達だ」
「じ、人生を!!と、ともに!! お、俺の女達!?」
「ああ、俺の女達だ! エステルのご両親、そして公爵閣下ご夫妻にはしっかりと筋を通す。ふたりとも俺シモン・アーシュの嫁として貰い受ける!」
「シ、シモン様……」
アンヌは主クラウディアから聞いている。
クラウディアとシモンが両想いになれば、両親から『仲』を認められると。
しかし、エステルという『第三者』が入ったら、一体どうなるのか皆目見当がつかない。
そんなアンヌの懸念をシモンは見抜いたようである。
「ははは、大丈夫。絶対に『落としどころ』を見つける!」
シモンの力強い言葉を聞き、エステルとクラウディアは更に「ひし!」とくっついたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
衝撃の光景を見た上、エステルとクラウディアの宣言に対し、大いに戸惑い動揺したアンヌであったが……
けじめをつけると言い放ったシモンに感動。
全面的な献身と協力を申し出てくれた。
そんなアンヌに守られながら……
エステルとクラウディアは馬車で帰って行った。
時刻は午後5時30分になっていない。
このまま自宅で夕食……なんて事をシモンはしない。
エステルとクラウディアが『彼女』になっても安穏としない。
「勝って兜の緒を締めよ」とばかりに、行動を開始する。
戸締りをして、自宅を出発したシモンは……書店通りへ赴く。
新たな能力、スキルの向上を目指し、魔導書や資料本を大量に買い込む。
料理スキルアップの為に、料理本も多く買う。
書店で物色していたら、あっという間に時刻は午後6時を過ぎた。
そして夕食は、風車亭で摂る事にしたシモン。
相変わらず喧噪が漏れて来る入り口から入る。
「こんばんはぁ!」
「いらっしゃい! あ! シモン君!」
制服のメイド服を着た給仕担当のエマが顔を輝かせる。
先日、シモンが凱旋訪問をした事が記憶に新しいからだ。
「うふふ! 元気そうねっ! ええっと、今日あの人は? って今日は土曜日だし、お休みの日かぁ!」
エマがいう『あの人』とは、当然エステルの事である。
シモンとは仕事上の上司と部下の関係。
休日まで一緒に居る事はないと納得したのだ。
しかし、シモンは首を横へ振る。
「いや、エステルとはさっきまで一緒だったよ。デートしていたんだ」
「うっわ! デート!! やったね! 遂に彼女になったんだ。あの人、シモン君にベタぼれだったもんね!」
シモンの言葉を聞き、エマは素直に喜んだ。
彼女はシモンより少し年下だが、頼りなかったシモンの記憶が心に刻まれており、弟のように思っている節がある。
……クラウディアの事は、まだエマへ伝えなくて構わないだろう。
「エマさん、今日は、夕食がてら、お願いがあって来たんだ」
「お願い?」
「ああ、俺、エステルに料理を作ってあげたくてさ、今度俺が休日の日の開店前に下働きの手伝いをするから、代わりに風車亭の料理を教えて欲しいんだ」
「へぇ! 素敵! 彼女の為に料理を作ってあげるんだぁ!」
「うん! さっき決めたばかりだから、休み明けに上司の許可を取るけどさ」
「了解! 部外者は厨房へ入れないから、私からアルバンさんへ頼んであげるよ!」
「申しわけないっす」
「うふふ、いいの、いいの、お安い御用。じゃあ今日はひとりだからカウンター席ね! お客様1名様! カウンター席ご案内!」
ほぼ満席となっている風車亭の店内に、エマの声が響いたのである。
貴族街区にあるシモンの自宅前。
クラウディアの警護役たる騎士アンヌは、ほぼ時間通りラクルテル公爵家の馬車で迎えに来た。
シモンとエステル、クラウディアは3人並んで出迎える。
市場の時同様、シモンの両腕にはふたりが「ぴったり」とくっついていた。
「ク、クラウディア様」
衝撃の光景だった。
アンヌは……
主クラウディアがシモンを心から慕っている事は充分認識している。
しかし、シモンははっきりとクラウディアの両親、ラクルテル公爵夫妻へ告げた。
自分には、想い人たるエステルが居ると。
だから所詮は、クラウディアの片想いにすぎないのだとも思っていた。
それゆえ今、目の前に起こっている状態は……
一体何があったのか、アンヌにはすぐ理解出来なかった。
はっきりしているのは、シモンと主クラウディアの距離がぐっと縮まり、深い仲に……『両想い』となった事。
そして恋敵たるエステルとも心の絆を結んだ事だ。
そんなアンヌの心のうちを読んだかのようにエステルは言う。
主クラウディアも告げる。
「アンヌさん、ご覧の通りです」
「そうですよ、アンヌ。ウチへ帰ったら私はお父様、お母様に伝えます。私はシモン・アーシュ様の『女』となり、同じく『女』となったエステル様とは姉妹の契りを結んだと」
「な、何と! おふたりで、シモン様の女に!?」
「はい! 私は妹クラウディアとともに恋人の証を交わしました」
「アンヌ! エステルお姉様のおっしゃる通りですわ」
ここで、シモンがアンヌへと言い放つ。
彼の眼差しには確固たる意志が宿っている。
「アンヌさん」
「は、はい!」
「エステル・ソワイエとクラウディア・ラクルテルは、これからの人生をともにする俺の女達だ」
「じ、人生を!!と、ともに!! お、俺の女達!?」
「ああ、俺の女達だ! エステルのご両親、そして公爵閣下ご夫妻にはしっかりと筋を通す。ふたりとも俺シモン・アーシュの嫁として貰い受ける!」
「シ、シモン様……」
アンヌは主クラウディアから聞いている。
クラウディアとシモンが両想いになれば、両親から『仲』を認められると。
しかし、エステルという『第三者』が入ったら、一体どうなるのか皆目見当がつかない。
そんなアンヌの懸念をシモンは見抜いたようである。
「ははは、大丈夫。絶対に『落としどころ』を見つける!」
シモンの力強い言葉を聞き、エステルとクラウディアは更に「ひし!」とくっついたのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
衝撃の光景を見た上、エステルとクラウディアの宣言に対し、大いに戸惑い動揺したアンヌであったが……
けじめをつけると言い放ったシモンに感動。
全面的な献身と協力を申し出てくれた。
そんなアンヌに守られながら……
エステルとクラウディアは馬車で帰って行った。
時刻は午後5時30分になっていない。
このまま自宅で夕食……なんて事をシモンはしない。
エステルとクラウディアが『彼女』になっても安穏としない。
「勝って兜の緒を締めよ」とばかりに、行動を開始する。
戸締りをして、自宅を出発したシモンは……書店通りへ赴く。
新たな能力、スキルの向上を目指し、魔導書や資料本を大量に買い込む。
料理スキルアップの為に、料理本も多く買う。
書店で物色していたら、あっという間に時刻は午後6時を過ぎた。
そして夕食は、風車亭で摂る事にしたシモン。
相変わらず喧噪が漏れて来る入り口から入る。
「こんばんはぁ!」
「いらっしゃい! あ! シモン君!」
制服のメイド服を着た給仕担当のエマが顔を輝かせる。
先日、シモンが凱旋訪問をした事が記憶に新しいからだ。
「うふふ! 元気そうねっ! ええっと、今日あの人は? って今日は土曜日だし、お休みの日かぁ!」
エマがいう『あの人』とは、当然エステルの事である。
シモンとは仕事上の上司と部下の関係。
休日まで一緒に居る事はないと納得したのだ。
しかし、シモンは首を横へ振る。
「いや、エステルとはさっきまで一緒だったよ。デートしていたんだ」
「うっわ! デート!! やったね! 遂に彼女になったんだ。あの人、シモン君にベタぼれだったもんね!」
シモンの言葉を聞き、エマは素直に喜んだ。
彼女はシモンより少し年下だが、頼りなかったシモンの記憶が心に刻まれており、弟のように思っている節がある。
……クラウディアの事は、まだエマへ伝えなくて構わないだろう。
「エマさん、今日は、夕食がてら、お願いがあって来たんだ」
「お願い?」
「ああ、俺、エステルに料理を作ってあげたくてさ、今度俺が休日の日の開店前に下働きの手伝いをするから、代わりに風車亭の料理を教えて欲しいんだ」
「へぇ! 素敵! 彼女の為に料理を作ってあげるんだぁ!」
「うん! さっき決めたばかりだから、休み明けに上司の許可を取るけどさ」
「了解! 部外者は厨房へ入れないから、私からアルバンさんへ頼んであげるよ!」
「申しわけないっす」
「うふふ、いいの、いいの、お安い御用。じゃあ今日はひとりだからカウンター席ね! お客様1名様! カウンター席ご案内!」
ほぼ満席となっている風車亭の店内に、エマの声が響いたのである。
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