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第109話「恋人の証」

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 シモン、エステル、クラウディアは、シモン宅の探検を終了。
 
 居間でお茶を飲みながら、午後5時に来るアンヌの迎えを待っていた。
 来たのと同様、ラクルテル公爵家の専用馬車でエステルを送った後……
 クラウディアは、自宅へ帰るのだ。

 楽しいデートの余韻が残っており……
 3人の会話は盛り上がる。

 シモンの企画したサプライズな王都探索企画……
 職人通り、露店ランチ、そしてトレジャーハントゲーム。
 ……どれもとても楽しかった。

 ふたりはシモンに丁寧に礼を告げると、改めて次回のデートに心を馳せる。

「お姉様、次のお料理勝負が凄く楽しみですわ!」
「本当に!」

 そう、次回の勝負テーマは料理。
 公平を期すため、条件は一緒。
 ラクルテル公爵邸にて、クラウディアは、エステルとともに修業する。
 そしてシモン宅の厨房で「戦う」のだ。

 ここでシモンが挙手。
 何か、提案があるようだ。

「面白そうだ。俺も料理を修業してふたりの為に一品作ろう」

「え? 局長も?」
「シモン様、お料理されるんですか?」

 意外だ!?
 というふたりを見て、シモンは苦笑する。

「ああ、前職は殆どが辺境への出張で、店が無い場所も多かったし……自炊は結構したよ」

「じゃ、じゃあ! 私、お姉様と一緒に当家で料理修業致しますか?」
「あ、3人一緒? それ楽しいかも!」

 クラウディアとエステルが身を乗り出して誘うが、シモンは首を横へ振った。

「いや、俺は風車亭で修業させて貰うよ」

 聞き慣れない店名を聞き、クラウディアは首を傾げる。

「風車亭って?」

 しかし、エステルはすぐに思い出した。

「局長と一緒に行った、あの料理の美味しい居酒屋ビストロですねっ!」

 エステルの嬉しそうな笑顔を見て、クラウディアはむくれる。
 しかし本気で怒ってはいない。
 少しだけすねているのだ。

「あ、お姉様ったら、行った事あるんだぁ! ずる~いですわぁ!」

「うふふ、仕事中にランチしただけよ。今度3人で一緒に行きましょ!」

「はいっ! 喜んで! あ、そうだ! 修業で思い出しましたわ!」

 『姉』の誘いに喜んだクラウディアであったが、何かを思い出したらしく、ポンと手を叩く。

「シモン様の習得されている魔法とスキル、私はぜひ学びたいですわ、お姉様と一緒に!」

 クラウディアの提案にエステルも大いに同意する。

「ええ! 私達は局長を支え、並び立てるようにもっともっと上に行かねばなりません。ぜひご指導をお願い致しますっ!」

「ああ、良いよ。俺なんかで良ければ」

 シモンの『快諾』を聞き……
 大いに喜んだエステルとクラウディアは、嬉しそうに「ハイタッチ」をしたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 時間は午後4時40分を過ぎた。
 まもなく騎士アンヌが迎えに来るはずである。

 ここでエステルが「はいっ!」と手を挙げる。

「提案です! 局長、私達と契約を交わして頂けませんか?」

「け、契約?」

「はい! 創世神様に誓って申し上げます! 私とクラウディアは、局長ひとすじの女子なんです。だから局長も応えて頂ければと!」

「お、俺が応える?」

「はい! 召喚魔法の契約と一緒です。私達と恋人のあかしを交換致しましょう」

「恋人のあかしを交換って? まさか契約書? どういうものなの?」

 シモンが尋ねると、エステルは急に口ごもる。

「え、ええっと……」

 そしていきなり、魔法使い特有の呼吸法を始めた。
 「どきどき」している気持ちを、何とか落ち着かさせたいようだ。

 す~は~。
 す~は~。

 す~は~。
 す~は~。

「こ、恋人のあかしとはっ、に、肉体的なというか、唇の接触で……」

 と、ここで補足したのはエステルである。

「あはっ! お姉様! ナイス提案! キスですよねっ!」

 ひとり驚いたのはシモンである。

「えええええっ!? キ、キ、キスぅぅ!?」

 女子達の熱いお願いに臆するシモン。
 オークの大群や山賊どもに全く臆さないシモンが、女子とのキスに及び腰。

 そんなシモンに、エルテルもクラウディアも「きゅん!」としてしまう。
 いわゆる『ギャップ萌え』である。

 しかしシモンは、いまだ迷っていた。

「い、いや! そ、それって……」

「局長!」
「シモン様!」

「私達とキスするのが」
「おイヤなんですかっ!」

「い、いえ……い、イヤじゃないっす。したいです……」

 遂に本音を言ったシモン。
 エステルは大きく頷き言う。

「うふふ、先ほど市場の露店で、局長が私達を守って頂いたように優しく抱き締め、唇で私達の唇に……そっと触れてくださいませ」

「な、成る程。方法は理解したよ」

 まるで魔法やスキルの説明を聞き、納得したような物言い。
 苦笑したエステルは更に言う。

「では、局長! クラウディアから先に……キスしてあげてください」

「え? お、お姉様!?」 

 信じられない順番の譲渡。
 クラウディアは当然、戸惑う。

「な、何故!?」

「敵に塩を送る……先ほどの貴女の優しさが、私は本当に嬉しかったから!」

「お、お姉様ぁぁ!!!」

 感極まったクラウディアは、ひしとエステルに抱き着いていたのである。
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