上 下
99 / 160

第99話「悩みまくるシモン」

しおりを挟む
「困った! 困った! 困ったぁ!」

 自宅へ戻ったシモンは頭を抱えてしまった。
 エステルから、とんでもない『宿題』を出されてしまったのだ。
 彼女はシモンへこう告げた。

「はい、つきましては、どこに行って何をするのか、お任せ致しますから、素敵なデートプランを局長にお考えいただきたく……何卒宜しくお願い致しますっ!」

 素敵なデートプランを……考える!?

 普段から『女子慣れ』している男子なら、
 「よっしOK! 俺に任せとけぇ! 楽しいデートにしてやるぜぃ!」
 と余裕たっぷりに引き受ける事だろう。

 しかし、恋愛経験値『極小』否!
 限りなくゼロに近いシモンにとっては、到底無理、無理、無理ゲー……なのだ!

 でもシモンにはまだ運が残っている。
 そう、時間だけはある。

 デートは明日ではない。
 幸い、明々後日の土曜日。
 まだまだ時間はあるのだ。

 よし!
 仕事以上に高難度のテーマ。
 燃えるぜぃ!

 気合を入れ直したシモンは書斎の書架を漁る。
 記憶の片隅に刻まれていた。
 以前、書店で買い込んだ大量の書籍の中に、『恋愛マニュアル本』があったはずだと。

「ええっと……確か、ここら辺に……あ、あったぁ!!」

 良かったぁ!
 これで、何とかなる!

 大いに安堵したシモンは早速、むさぼるように恋愛マニュアル本を読みだした。

 まず食事は必須。
 これは間違いない。

「そっかあ。エステルは気に入ってくれたけど……クラウディア様が一緒だと、庶民向けの居酒屋ビストロ風車亭はいかがなものだろか?」

 店のセレクトは後回しにするとして……
 王道デートの行き先。
 遊園地。
 動物園。
 水族館。
 美術館。
 博物館。

 夜までデートするならば、夜景が素敵な場所。

「でも、未成年で箱入りのクラウディア様を夜まで引っ張り回すわけにはいかないし……」

 他にも、市場で買い物。
 創世神教会でおごそかに礼拝。
 馬車で王都内の名所を回る……とかか。

 ええっと、インドアだと……
 レトロなゲームで遊ぶ。
 一緒に料理やスイーツを作る。

 俺のウチへ来て貰うって……男の部屋に引っ張りこむとか、いきなりはない。
 エステルの家へ?
 いやいやいや!
 女子の部屋へいきなりもない!
 
 かと、いってラクルテル公爵邸だと、また公爵夫妻の寝技?に持ち込まれてヤバくなりそうだし。
 エステルも完全アウェーで機嫌が悪くなりそうだしなあ。

 う~む。
 屋外は?
 アウトドアだと……
 ミニキャンプ。
 ハイキング。

 などは、俺ひとりならともかく王都郊外では人喰いの魔物が出て危険だから却下。

 スポーツ観戦は、闘技場《コロシアム》?

 格闘技は、父親譲りでクラウディア様が好き?
 ……エステルは、どうだろうか?

 う~ん、どうしたら良いのか分からん!!

 1対1のデートならともかく1対2。
 それも、クラウディアが何を好むのか、嗜好の情報はほとんどない。

 結局その日、帰宅してから就寝するまで……
 悩みまくったシモンは、食事もろくにとらず……
 恋愛マニュアル本をひたすら読みふけっていたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 しかし……
 いつもの事ながら、悩みに悩むと……
 「思い切り突き抜けて開き直る」のが、シモンの長所。
 恋愛マニュアル本を読みふけって、もやもやしていても仕方がない。

 実践&経験あるのみ。
 気持ちを切り替えたシモンは朝早くから出かける事にした。

 朝食は摂らない。
 市場に隣接するどこかの食堂で摂る。
 そう決めて、午前7時に家を出た。

 シモンの姿を認め、庭で花へ水をやっていた隣家の騎士爵夫人が声をかけて来る。

「あら、おはようございます! シモンさん、おでかけ? 最近お留守だったみたいね」

「おはようございます! はい、ちょっと出張していたので!」

「あらあら、ご出張って、お疲れ様。今日もお仕事ですか?」

「いいえ、公休を貰ったんで今日から日曜まで休みです」

「うふふ、ゆっくり休んでね。行ってらっしゃい」

「行ってきま~す」

 などという会話を交わす。
 騎士爵夫人の笑顔がエステルに重なり……
 つい、自分の未来像が見えてしまう。

 クラウディアとの未来像は……申しわけないが、全く想像出来ない。
 平民と超上級貴族……
 身分が違いすぎて、イメージが見えては来ない。

 シモンは騎士爵夫人に一礼して再び歩き出した。
 歩きながら、思案する。

 美味い朝食。
 自分の好きなもの……
 焼き立てのパンにスクランブルエッグ、新鮮な牛乳かな。
 少し焦げ目のついたウインナーも付けたら、更にグッド。
 あ、ウインナーは塩ゆででもOKか。

 なんて、他愛もない事を考えながら歩いていると、やがて市場へ到着した。
 午前7時20分過ぎ……
 朝一番のピークは過ぎているが……
 まだまだ活気が残っている。

 シモンは、嗅覚の感度をあげる。
 雑多な匂いが鼻孔へ流れ込んで来た。

 しばし立ち止まり、シモンは鼻を鳴らした。

「よし! こっちか!」

 やがて……
 朝食を摂る店を決め、シモンは迷わず真っすぐに歩き出したのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

処理中です...