上 下
96 / 160

第96話「喜んでぇぇっっ!!」

しおりを挟む
「終わったぞぉ~! 討伐は全て完了! あ、念の為、生きたまま捕虜にして殺してないぞぉ~!」

 捕虜の自白により、森の奥にあると判明した山賊どもの本拠地へ単身乗り込み……
 首領以下残党200人を、そしてトータル1,000人以上の山賊を討伐したというのに……
 シモンは、疲れも全く見せず……
 「簡単な仕事を終えた」という雰囲気で、「しれっと」と村へ戻って来た。

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおっっっ!!!!」」」」」

 怖ろしいオークの大群に続き、非道な山賊集団も退けてくれた……
 感動に目を赤くした村長以下、歓声をあげる村民達に囲まれ、ねぎらいを受けるシモンであったが……

「局長ぉぉ!! わああああああああああん!!」

 怪我ひとつないシモンの無事な生還を祈りに祈り……
 気が張りつめていたエステルは安堵し、叫ぶと取りすがって大泣きしてしまった。

「ああ、ごめんな、エステル」

 泣きすがるエステルを優しく抱き締めるシモン。

 ジュリエッタが苦笑する。

「局長、あまり、かよわい女子に心配かけるものではないですよ。私も含めてね」

 たくましい騎士のジュリエッタが? かよわい?
 シモンは訝し気な表情となる……が。

「え? かよわいって?」

 シモンが思わず言えば、ジュリエッタは冷たい視線を向けて来る。

「局長……何か? 異論でも?」

「い、いや、何でもない」

 口ごもるシモンへ、イネスとペリーヌが追随する。

「こら、局長! 私たちだって、すっごく心配していたんですよぉ」
「そうだ、そうだぁ!」

 ジョゼフとバルテレミーも、渋い表情だ。

「女子だけじゃない、俺達男だって、大いに心配していたぞ」
「その通りです! 局長は無茶しすぎです! 万が一何かあったらどうするんですか!」

「スマン、スマン。前職のトレジャーハンターだと、これくらいは当たり前の展開だったからな」

 当たり前の展開……
 シモンの言葉に反応したのは、とりすがっていたエステルである。
 キッとシモンを睨む。

「局長!」

「お、おお、エステル。どうした、そんなに怖い目をして」

「王国にとって、いえ、私にとって! 貴方はなくてはならない人です。……本当に! 無茶はやめてくださいっ!!」

 きっぱりと言い切ったエステルは、再びシモンにしっかりと抱き着いたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 なんやかんやで、落ち着いたところで、シモンは相変わらず「しれっ」と言う。

「という事で、改めて仕事再開だなっ!」

 まず反応したのは、やはりエステルとジュリエッタである。

「改めて!? な、何言ってるんですか、局長!」
「そうだ! こんな戦いの後で! 仕事など、やれるわけがないっ!」

 対して、シモンは苦笑。

「いや、俺、全然疲れていないし、時間だって、まだ午後2時過ぎだし……午後6時くらいまでちょっち頑張らないか?」

 確かに……
 見る限りシモンに疲れの色はなく、太陽は真ん中よりやや西に傾いたくらいだ。

「全然疲れてないって!? 局長ぉぉ!!」
「はあぁ……午後2時過ぎだしって……局長の言う通りだが、ホント呆れたよ」

「いやいや……あいつらが襲撃して来たせいで、だいぶ予定より遅れただろ? 他の仕事もあって押してるし、少しでも進められないかな?」

 シモンの『希望』を聞き、ジョゼフも苦笑する。

「ははは、仕方がない。今回の戦いを開始し、完結させたのは局長ひとり。俺達は準備して、見守っていただけ……だからな」

 エステルとジュリエッタも呆れながら、同意するしかない。

「……うふふ、局長ったら、今日、一番働いた本人がそう言うんじゃ仕方ないですね」
「ああ、私たちにほとんど負担はかかっていない。それではダークサイド……とは言えないからな」

 イネスと、ペリーヌも……

「ホント、超人というか……」
「もう、黙ってついて行くしかないですねっ!」

 ここで、エステルが「はいっ」と手を挙げる。
 シモンへ質問があるようだ。

「局長」

「ん?」

「捕縛した山賊どもって……腕輪へ放り込んだままで宜しいのですか? あの食事とかトイレとか、もろもろは?」

「ああ、それなら大丈夫。腕輪の中は魔法の力で時間の流れが止まっている。だから腹も減らないし、トイレも必要ない。大気だけは充分あるから、当然ながら死なない」

「な、成る程」

「奴らは束縛の魔法により身体の自由だけを奪われているから、当然意識はある。王国の司法へ引き渡されるまで、ず~っと、恐怖と後悔の中で生きるのさ」

「わ、分かりました」

 という事で、最後に締めるのは、やはりシモンである。
 向き直って、村長へ告げる。

「村長」

「は、はいっ!」

「という事で……悪いけど、仕事再開。俺は奴らに踏み荒らされた村道を、作業員とともに修理する。他の者も各自、担当した業務を続行する。悪いけど、村民の皆さんも、全面的に協力してくれるよう、貴方からフォローしてくれ」

 村長は、シモンの『意向』を聞き、再び感極まったようである。

「あ、ありがたい事ですっ! シモン様のおかげで、村民も疲れはありませんし! 当然自分達の事ですから、ガンガン働かせていただきますっ!! そうだな? みんなぁっっ!!」

「おおおおおっっっ!!! 喜んでぇぇっっ!!」

 村長の呼び掛けに対し、村民達は大きく頷き、快く応えたのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

処理中です...