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第90話「踊りましょう」

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「まぁぁっ!!!」

 土中から現れたのは体長が20m以上ある、岩石製の巨大な人型。
 
 シモンが召喚した『ゴーレム』は、雷のように咆哮すると……
 身体を「ぎしぎし」きしませながら、黙々と働き始める。

 『ガタイ』がでかいだけはあった。
 村長が懸念していた巨大な岩の5mも10mもまったく関係がない。

 がっと掴み、ずぼっ! と抜き。

 がっと掴み、ひょい! と移動。

 またがっと掴み、ずぼっ! と抜き。

 更にがっと掴み、ひょい! と移動。

 その繰り返しで開拓して、農地へ転換する荒野の障害物をどんどん排除して行く。
 そして片付けた巨石は一か所に集めて行く。

 エステル以下局員は固まり、村長達も「ぽかーん」としていた。
 多くの村民達もゴーレムの『大声』を聞き、びっくりして家から飛び出て来た。
 
 そして山のようにそびえるゴーレムの巨体を見た村民達は仰天。
 小さな子供は怖がって「わあわあ」泣きだし、母親が必死にあやしていた。

 苦笑したシモンは母親へ深々と頭を下げ謝罪。
 
 向き直り、呆然としている局員達を促す。

「おいおい、皆ぼ~っとしていないで、仕事、仕事」

「「「「「「は、はいっ!」」」」」」」

 嚙みながらも、全員からは大きな返事が戻って来た。

 満足そうに頷いたシモン。
 てきぱきと指示を出して行く。

「ジョゼフは、イネスとともに外柵のあたり・・・を取ってくれ。整地が完了したら、早速『地の壁アースウォール』を発動するように。事前に決めた通り、外柵の設置は村の周囲全て、高さは15mだ。正面には俺が持参した中古品の正門を据え付けるから幅20mは開けておけ……行き違いのないよう、村長に立ち会って貰って欲しい」

「は、はいっ!」

 ジョゼフは敬礼して、答える。
 村長も大きく頷く。

「シモン様、了解致しました」

「よし! バルテレミーも整地した開拓地の下見をしてくれ。畝の設置、肥料の投入、井戸の設置等の確認を頼む。ジョゼフが連れて来た農民出身の冒険者と共に作業にあたってくれ」

「はいっ! 分かりましたっ!」

「ジュリエッタは、外柵予定地周辺の警備。ジョゼフ達を守り、賊や魔物の妨害がないよう、注意してくれ」

「はっ!」

 シモンに心酔しているジュリエッタは、直立不動で敬礼だ。

「エステルとペリーヌは、同行の土木作業員達を使い、村民達へ支援物資の配布準備だ。いさかいがおこらないよう、公平にな……村長、幹部の誰かをフォローさせてやってくれないか」

「了解ですっ!」
「はいっ!」
「かしこまりましたっ!」

「俺は整地が終わったら、ゴーレムを使役し、周辺の村道を整備する。具体的には道幅を拡張、でこぼこをならす。更に原野から排除した岩を粉々に破砕し、ぬかるみ対策として撒く。仕上げは土木作業員達に行って貰う」

 シモンは指示を終えると、軽く息を吐き、改めて大きく頷いたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 村民達は……
 シモン達が行う、超がつくぐらいの仕事の速さに驚嘆していた。

 ……驚嘆するのも無理はない。

 何と何と!
 赴いた初日にして、開拓地の整地と外柵の工事はほぼ完了。
 地の壁による、頑丈な防護柵がそびえたったのだ。

 また村の正門も一新された。
 シモンが収納の腕輪にて持参した、王国の砦で使っていた中古の鋼鉄製の門を……
 更に魔法で防錆加工を施し、修理した上で設置したのである。

 開拓地の整地後も、ゴーレムはガンガン働いた。
 村道の整備も仕上げを待つのみ。

 そして大量の支援物資も……エステルとペリーヌが効率よく配布。
 食料、生活必需品とも充分村民達へ行きわたった。

 初日の作業が終わると、シモンが告げた。
 明日もゴーレムを召喚して開拓地の耕作を行い、バルテレミーが三圃式農法の説明を行うという。

 その夜……
 予定していた歓迎の宴も大いに盛り上がった。
 村民達は、村を救った英雄シモンの勇姿をしっかりと記憶に刻んでいた。
 支援にすぐ来てくれた事もあり、シモンの席へ礼を告げに、ひっきりなしに訪れる。
 局員達にも、多くの感謝の言葉が告げられ、全員が感激。
 仕事へのモチベーションは、大いに高まった。

 村の私設楽団が、ティーグル伝統の独特な民族音楽を奏でる中……
 感極まったエステルは、シモンを誘う。

「局長」

「お、おう」

「今夜だけは無礼講ですねっ。明日も頑張らないと」

「だ、だな!」

「気分転換に……踊りましょうっ!」

「あ、ああ、踊ろう!」

 シモンは、まともに踊った事などない。
 しかし、真剣な眼差しを向けるエステルの誘いを断るなど出来なかった。

「うふふ、局長。……私がリードしますから」

 そっと囁くエステル。
 彼女の優しさに触れたシモンは……好意は勿論の事、改めて信頼も深めたのである。
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