頑張ったら報われなきゃ!好条件提示!超ダークサイドな地獄パワハラ商会から、やりがいのある王国職員へスカウトされた、いずれ最強となる賢者のお話

東導 号

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第85話「どうするの?」

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 王国騎士隊所属の魔法騎士、ジュリエッタ・エモニエは気位が高すぎて、とんでもなくめんどくさい人だった。
 あるじアンドリューに命じられ、「いやいや来てやった」という態度があからさま。
 その上、騎士という身分を鼻にかけ、シモン達を完全に馬鹿にしていた。
 
 冒険者ギルドでも近い出来事はあった。
 しかし今回は事情と条件が違う。
 このような人物を根本から説得して、教育するつもりなどシモンにはない。
 多忙だから、そんな暇もない。
 速攻、お帰り頂く事を決め、シモンは勝負を持ちかけたのである。

「この場で勝負とは? 一体どうするつもりなのだ、シモン・アーシュ!」

「簡単だ」

「簡単?」

「貴女は知ってるはずだ」

「むう……」

「閣下のお宅で騎士さん達と勝負したのと同じ条件だ。腕相撲だよ」

「むむむむ……」

「ああ、念の為言っておくが、閣下だけは特別さ」

「特別だと? 閣下が?」

「ああ、当初は腕相撲勝負のはずが、正規の勝負を挑まれた。それゆえ、普通に戦った。あとは将軍も騎士隊の隊長も副隊長も、騎士達も全員腕相撲で戦った。貴女もそうだ。文句は言わさない」

「何だとっ! ふ、ふざけるなっ!」

「ふざけてなどいない。それとも怖いのならば、やめるか? そのまま帰って貰っても俺は一向に構わない」

「な!? だ、誰が! こ、怖がるかあ! 良いだろうっ! 受けてやるっ! そして貴様を思い切り叩き潰してやるぞっ!」 

「よし! では受けるな。それと約束しろ。これも将軍達と同じ条件だ」

「な、何!」

「際限なくやるときりがない。勝負は1回だけ。やりなおしは『なし』だ」

「当たり前だ。貴様との勝負など、1回やれば十分だ」

「よし、俺が勝ったら、あんたはおとなしくこの庁舎から出て行く事。今後、出入りも禁止だ。それと怨恨は一切無しだぞ」

「ははははは、その条件全て受けてやる! なぜなら! 貴様が勝つなど絶対にありえない! それゆえ恨む事もない!

「ははは、安心したよ」

「ふん! お前に騎士達が敗北したのは、手加減したからだ。閣下や奥様の前だから、そしてクラウディア様に気づかいして負けたに決まっている!」

「そうかい」

「そうだっ! 100%ありえんが、私がもしも負けたら、貴様に仕える絶対服従の奴隷にでもなんでもなってやる。一生のな!」

「はいはい、一生奴隷ね。今の約束、絶対守ってくれよ」

「ああ、騎士は嘘をつかない! 二言もない! その代わり私が勝ったら、局長は私がなるぞっ!」

「お~い、みんな聞いたか?」

 シモンは悪戯っぽく笑った。
 エステル含め、局員達へ目で合図をする。

「「「「「「聞きましたぁ! 証人になりまぁす!」」」」」」

「ふんっ! くそったれが!」

「あうん」の呼吸を見せるシモンとエステル、局員達を、ジュリエッタは鼻を鳴らし、憎々し気に見つめていたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「さあ、準備をするか」

 シモンは左腕の腕輪に手を触れた。

 すると腕輪が光った。
 と、同時にオフィスの片隅に古ぼけた大型の樽が現れた。

「な! な、なんだ!?」

「「「「「!!!!」」」」」

 驚くジュリエッタ。
 エステル始め、局員達も驚愕し、凝視していた。

 シモンは、ジュリエッタへ言う。

「酒樽さ、腕相撲のリングだ」

「馬鹿者! さ、酒樽など! そ、そんな事は分かってる! どうやって、手品のように腕輪から樽を出したっ!」

「貴女も魔法使いならば分かるだろ? 空間魔法の一種。収納魔法さ」

「空間魔法! しゅ、収納魔法! じゃ、じゃあその腕輪は!? こ、高価な魔道具持ってやがるんだな!」

「いや、これは自作さ。市販の腕輪に俺が収納魔法を付呪エンチャントしたんだ」

「じ、じ、自作だとお!? 自分で作ったのか!!」

「ああ、その通りだ」

「むううう……」

「さあ、勝負だ」

 威勢が良かったジュリエッタのトーンが落ち、少々緊張気味となっている。
 エステル達、局員も無言となり、見守っていた。

 さあ、腕相撲の試合開始! 
 少々硬いジュリエッタ。

「がっし!!」と手を握り合った時。

 だぁんんっっ!!
 重い音とともに、シモンにより、ジュリエッタは『瞬殺』されていた。

「うおおおお、……ば、ば、ば、ば、馬鹿なああっっ!?」

 驚愕し、混乱するジュリエッタ。
 シモンは苦笑した。

「仕方ない、騎士の情け。チャンスをやろう」

「な、何!?」

「但し、10回だけだぞ。それで絶対に終わりだ」

「むむむ……くそったれ!」

 そして……
 ダン! ダン! ダン! ダン! ダン! ダン! ダン! ダン! ダン! 
 ……ダンっ!

 10連敗、トータル11連敗。
 ジュリエッタの完敗……否、惨敗。
 …………………………………………

「ううううううっ!」

 悔し気に唸るジュリエッタ。
 と、その時。

「うふふ、面白い事してるじゃない」

 支援開発戦略局のオフィスに現れたのは、長官アレクサンドラ・ブランジェである。
 シモンは当然、オフィスへ近付く気配でアレクサンドラの接近を察知していた。

「あはは、長官。いろいろあって、勝負しました」

 ジュリエッタと拳を組み合ったまま、シモンは簡単に経緯いきさつを話した。
 アレクサンドラは柔らかく微笑む。

「成る程」

「ですが今、決着つきましたよ。彼女……おとなしく帰ります。約束ですからね」

 シモンの言葉を聞き、アレクサンドラはジュリエッタへ視線を向ける。 

「だってさ、どうする? 王国騎士隊所属の魔法騎士、ジュリエッタ・エモニエさん」

「…………………」

「このまま帰れば、貴女の犯したつまらない愚行で、騎士隊全員が、いえ、ラクルテル公爵閣下もメンツを潰す事になる。それでも良いの?」

「…………………」

 アレクサンドラから問われ、ジュリエッタは力なく俯いてしまったのである。
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