頑張ったら報われなきゃ!好条件提示!超ダークサイドな地獄パワハラ商会から、やりがいのある王国職員へスカウトされた、いずれ最強となる賢者のお話

東導 号

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第81話「エステルの深謀遠慮」

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 翌日、日曜日の休日……
 シモンは心身ともゆっくり休む事が出来た。
 とは言っても、もろもろの研究と読書はしていた……
 
 なんやかんや、いろいろあったが……
 ラクルテル公爵家における『数々の大イベント』は、何とか無事クリアする事が出来たからである。
 
 恋する愛娘のクラウディアを失望させず……
 そして底知れないシモンの実力を知り、愛妻ブリジットと共に上機嫌となったアンドリュー・ラクルテル公爵は……
 王国軍統括として、王国復興開拓省に対し、全面的に協力してくれる事となったのだ。
 アンドリューがシモンと邂逅した礼を厚く告げた事で、上席の長官アレクサンドラの面目も大いに立った。
 
 という事で、週明けの月曜日、午前8時15分……
 繰り返すが、定時は8時30分。
 早すぎず、遅すぎず……もはや定例化。
 シモンとエステルは決めた時間に、きっちりと出勤していた。

 ふたりはいつものように朝の挨拶を交わす。

「局長、おはようございます!」

「おはよう、エステル」

「本日は支援開発戦略局が発進する記念すべき日です。いつにも増して多忙となります」

「そうだな。とても忙しくなるだろう」

 シモンが同意すると、エステルはひどく真剣な表情となる。
 何か、伝えたい事があるらしい。

「はい! ですが、お仕事を始める前に、局長へお伝えしたい大事な案件があります。私事で申しわけありませんが、お話ししても構いませんでしょうか?」

「ああ、話してくれるかい」

「はい、局長。……まずはお礼を言わせてください。一昨日おとといはありがとうございました。私に対する局長のお気持ちをはっきりおっしゃって頂き、本当に嬉しかったです」

 シモンがはっきりと自分への想いを告げてくれた事に、エステルは、歓びを感じたようである。
 しかし、シモンは辛そうに首を横へ振った。

「いや、こちらこそ……まずお詫びを言いたい。公爵閣下ご夫妻のいらっしゃる目の前で、クラウディア様を拒絶するわけにはいかなかった。エステルには不快な思いをさせてしまった。本当に申しわけなかった!」

 シモンはそう言うと、深く頭を下げた。
 心からの謝罪である。

「と、とんでもないっ! 私こそおおやけの場で、ぷりぷりして冷静さを欠いてしまいました。お詫び致しますっ!」

 恐縮したエステルも深く頭を下げた。
 はっきりした事がある。
 やはりふたりは超が付くまじめさん。
 『似た者同士』なのである。

 しばらくして、頭をあげたエステルは深く深呼吸をする。
 そして……正直な心の内を告げる。

「……改めて告白致します。私エステル・ソワイエはシモン・アーシュ局長をお慕い申し上げておりますっ!」

「エステル……」

「大好きですっ! 局長!」

「ああ! 俺もエステルが大好きだ!」

「う、嬉しいですっ! でもここは職場です! これ以上いつくしみ合うと公私混同と言われてしまいます。私は……我慢致しますっ!」

「ああ、俺もエステルを抱きしめたい……でも我慢するよ」

 やはりふたりは『真面目』である。
 そして仕事を投げうち、恋をするタイプではない。
 『励み』にするタイプなのだ。

 エステルは更に言う。

「それに私は正々堂々、フェアに行きたいと思います」
 
「正々堂々? フェア?」

 ???
 正々堂々、フェアとは、どのような意味だろう?
 シモンはエステルの言葉を待った。

 やはりエステルの表情は真剣であった。
 まっすぐにシモンを見つめている。

「はい、局長! 私……あの場でクラウディア様と少しお話ししました」

「クラウディア様と? そういえば、辞去するまでふたりで30分ほど話していたな」

 そう……
 ラクルテル公爵からの話があった後、エステルは許可を得て、クラウディアと隅の席に移り、ふたりで話し込んでいた。
 最後にはふたりとも笑顔で和気あいあい。
「ハイタッチ」したので、何があったのかと、シモンは思っていた。

「はい! 私はお休み以外、局長と一緒です。でもクラウディア様はロジエ魔法学院の学生です。昼間はほとんど学院に居て、夜は門限が早い。だから局長にはお休みの日、昼間しか会えない……アンフェアだと思います」

「エステル……」

「私、クラウディア様と相談していろいろ決めました。彼女への連絡は魔法鳩便で行いますけど……たとえばデートする時は3人一緒にしようって」

 何と!
 エステルはとんでもない提案をして来た。
 しかし彼女はやはりというか、いたって真面目である。

「ええっ!? 3人一緒で!? デ、デート?」

「はい……おイヤでしょうか?」

「い、いや……エステルがそう言うのなら」

「はい、クラウディア様を邪険には出来ません。王国復興開拓省の業務におけるラクルテル公爵との兼ね合いもあります。局長がOKならば、アレクサンドラ長官にもお伝えしようと思います」

「そうか……了解した」

 シモンには分かった。
 エステルがいじらしくなる。
 
 自分の恋だけでなく、仕事の兼ね合い、アレクサンドラの立場など……
 エステルの『とっぴな申し出』は、彼女の深謀遠慮によるものだった。

 と、ここでエステルの席にある魔導通話機の呼び出し音がなった。

「多分、秘書ルームからです。商業ギルドのサブマスター、ペリーヌ・オリオールさんが1階の受け付けにいらしたのですね」

 ……時刻は8時25分である。
 ペリーヌは王宮正門の手続きも問題なく、出勤出来たようである。

「局長、私、ペリーヌさんをピックアップして、そのまま3階の支援開発戦略局オフィスへ行きます。局長は後からオフィスへいらしてください」

「俺も一緒に行こうか?」

「いえ、局長がご一緒だとペリーヌさんだけを特別扱いしているようにも見えます。9時少し前に、3階のオフィスへいらしてください」

 エステルはそう言うと、シモンへ一礼し、局長室を退出したのである。
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