頑張ったら報われなきゃ!好条件提示!超ダークサイドな地獄パワハラ商会から、やりがいのある王国職員へスカウトされた、いずれ最強となる賢者のお話

東導 号

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第55話「探しに行こう①」

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 打合せ後……
 またも職員食堂でランチを共にしたシモンとエステル。

 午後はシモンの部屋……局長室でそれぞれの席に座り、膨大ぼうだいな資料を前に部下となる人材の精査、検討の作業へ入った。
 『衣食住』、そして『武』を合言葉に、それぞれの分野における優秀な人材を探すのである。

 衣食住とは文字通り、衣服を着る、食物を食べる、拠点に住む。
 人間の生活において必要な事項を簡潔に表現した言葉である。

 シモンは更に武、つまり戦闘能力に長けた者を部下として加える事を想定する。
 この世界には人間を餌として害為す捕食者たる魔物が数多く存在する。
 彼等と戦い、住民を守る者も必要なのである。
 勿論、魔物以外に外敵となる人間の無法者、おいはぎ、山賊などに対処するのはいうまでもない。
 
 さてさて!
 ここでもシモンの超速読及び超暗記のスキルがいかんなく発揮されて行く。
 提出された全職員200余人のデータはあっという間にシモンの知識として認識、記憶されたのである。

 シモンほどではない。
 だが、秘書のエステルも人事資料を読み、理解する速度は中々である。

 ふたりは全ての資料に目を通すと、改めて精査へ入った。

 シモンとエステルがいろいろ相談した結果……
 考えは一致し、見込みがありそうな、ふたりの人物だけが選ばれた。

 ひとりは農業の専門家、もうひとりは建築の専門家である。

 職員200余人の中でたったふたり。
 しかし王国復興開拓省の職員はいろいろな役所から異動で来た者が殆どであり、事務能力に特化した者が多い。
 現場に入り、監督管理、または作業に従事可能な者は少ない……というか殆ど居なかったのだ。

 単に魔物を討伐するだけでなく、これからシモンの仕事はどんどん広がり多岐にわたって行くだろう。
 かつてのアレクサンドラのセリフではないが、優秀な部下が大勢必要となる。

「う~ん、局員候補が、たったふたりだけじゃあ、まだまだ全然足りないな」

「ですね。衣食住武のうち、食と住の、それも確定もしていないふたりだけですから」

「後は他の役所から人事異動で引っ張るのか、もしくはスカウトか。人材確保に奔走したアレクサンドラ長官の苦労が良く分かるよ」

「確かに、長官は大いに苦労されたでしょう。でも在野に埋もれている人物、そして王国を豊かにしようという大きなこころざしを持つ者達がきっと居ます。ぜひ我々の仲間にしたいものです」

 エステルが言い切った瞬間。
 彼女の机上にある魔導通話機の呼び出し音が鳴った。

 素早くエステルが受話器を取り、話している。
 どうやら業務連絡であり、かけてきたのは長官アレクサンドラの秘書らしい。

 話し終わり、受話器を置いたエステルがシモンへと向き直る。

「局長、長官の秘書からです。ラクルテル公爵から連絡があったそうです。今週末土曜日11時に屋敷へ来て欲しいとの事です」

「よし、すぐレナ次官補へ連絡だ。公爵閣下の招待日が決まったと伝えてくれ」

「はい、すぐに次官補へ連絡致します。ギルドの訪問日もすぐ連絡が来るでしょう」

「ああ、そうだな。エステルも同行を頼むぞ」

「お任せください! スケジュールを調整して、いずれにも必ず同行致します。私は全力で局長をサポート致しますから」

「リュシー次官、そしてレナ次官補には、俺達が選んだ候補者の了解を取るぞ」

「はい、了解致しました。おふたりのOKが得られたら、本人へ異動の意思を打診し、面接の手はずを整えましょう」

 シモンは改めて実感する。
 好ましい異性だと思うだけではない。
 エステルは自分の知識にあった通常の秘書とは違うと。

 秘書とは簡単に言えば、要職たる者に直属し、機密の文書・ 事務などを取り扱う職である。
 しかしエステルは秘書の領域を超え、シモンの右腕として機能しつつある。

 就任したばかりの自分も、新人エステルもまだまだ発展途上。
 しかしふたりで力を合わせれば……
 難儀する王国民を助ける事が出来るはずだ。

 笑顔のエステルを見ながら……
 ふと、シモンは記憶をたぐった。

 ……俺の人生は今まで完全に裏街道だった。
 苦労して大学を卒業。
 地味な仕事に就き、田舎の母に親孝行して人生を全うしようと考えていた。
 それがとんでもない会社へ入り、違法な契約にがんじがらめに縛られた。
 働いて働いても、搾取さくしゅされまくられ、使い倒されて……どこかの辺境で誰にも知られず、野垂れ死にすると覚悟していた。

 人生に絶望していた……
 だが、創世神様は見ていてくれていた。
 
 頑張って来た甲斐かいがあった。
 
 やっと人生が開けたのだ。
 俺は、遂にやりがいのある仕事に巡り会った。
 周囲の人にも恵まれた。

 引っ張ってくれたアレクサンドラ長官の期待に応え、たくさんの人々を幸せにし、満足出来る人生を送ってみせる。

「エステル」

「はい」

「俺達と一緒に働く『仲間』を探しに行こう。まずは人事部経由で王国労働局へ問い合わせをして。商業ギルドへ訪問し、王都の街中へも行こう」

「はい! では、私が急ぎ王国労働局へ提出する職員募集のひな型を作成します。局長にご覧頂いた上で、次官、次官補へ回覧し、最終的に長官へ了解を取り、人事部へ申請致します。あわせて商業ギルドへの紹介状も手配致しますねっ!」

 打てば響くエステルの返事を聞きながら、シモンは大きく頷いていたのである。
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