頑張ったら報われなきゃ!好条件提示!超ダークサイドな地獄パワハラ商会から、やりがいのある王国職員へスカウトされた、いずれ最強となる賢者のお話

東導 号

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第54話「その為の上司だ」

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 午前10時、王国復興開拓省庁舎4階次官補室……

 シモンは次官補エレン・デュノア、つまりレナとの会議に臨んでいる。
 勿論、秘書のエステル、そしてレナの秘書も同席していた。

 議題は王国復興開拓省と冒険者ギルド提携の案件である。
 まず口を開いたのは、次官補のレナだ。

「ではシモン君、早速打合せを始める。議題は伝えていた通り、一昨日おとといに君が提案した、我が王国復興開拓省と冒険者ギルドの提携に関してだ」

「了解です。金、人、情報を冒険者ギルドと共有。折り合いながら、共存共栄可能かどうかを模索、検討するというテーマですね」

「その通りだ。本日は次官、長官へ提案出来る具体案を出すまで行きたい。とりあえずは大まかで構わないぞ」

「了解です。まず『金』ですが……案件のバッティングに関してはどうなんですかね? 魔物討伐なんて、ギルドの請け負う案件と一番ぶつかると思いますが」

「ふむ。確かに魔物の討伐は冒険者ギルドでも多く請け負う案件だ。ウチが見境なく行えば、彼等の収入源を奪う懸念があるという事だ」

「ですね」

「その懸念はもっともだ。しかし案ずることはない」

「というのは?」

「シモン君、ウチが依頼された案件を受諾するかどうかは『審査部』が検討し、決定する。その決定をアレクサンドラ長官が承認する形を取る。審査部の最高責任者がリュシエンヌ・ボードレール次官だ。彼女は審査部部長を兼ねている」

「はい、次官のリュシーさんが決定した案件を、アレクサンドラ長官が最終承認する形ですね。そうお聞きしました」

「うむ、だから富裕な貴族や領主が資金を惜しみ、冒険者ギルドではなく、ウチへ魔物や山賊の討伐を依頼。彼等の自腹ではなく公費でちゃっかり討伐を遂行させようとしても、基本的に却下されてしまうのだ」

「ですね。それもお聞きしました。でも貴族や領主サイドが文句を言ってきませんか?」

「大丈夫だ。ウチは国王デュドネ陛下と、弟君の宰相マクシミリアン殿下のお考えで創設された特別な省であり、殿下直属の組織もである。おふたりの強力な御旗みはたがあるから、どのような王族も上級貴族も、こちらの判断や決定に絶対不満は言わないというか、一切言わせない」

「成る程」

 レナが言う通り……
 シモン達、王国復興開拓省がティーグル王国内で大きな権限を持つ事が可能なのは、やはり国王陛下と弟君マクシミリアン殿下の後ろ盾による。

 元補佐官のアレクサンドラは殿下の懐刀ふところがたなであるのは、現在も変わらない。
 アレクサンドラがOKした事は、マクシミリアン殿下の決定に等しいのだ。

「逆に、我々とシモン君が赴いた小村のオーク討伐のように、資金難の依頼主が|経済的に困窮こんきゅうしている場合は優先的に受諾する事となっている」

「成る程。基本的に資金難の依頼主案件を受けるという事ですね」

「まあ、イレギュラーな特例は確かにある。だが私達は基本、審査部の決定に従い、任務を遂行すれば良いという事だ」

「了解っす。では次、『人』です」

「うむ、スカウト、出向、そして依頼の発注などの下請けで、冒険者ギルドと人事交流をはかろうと私は考えている」

「ですね。そしてスカウトはしっかり筋を通す。こそこそ裏で動いたり、不義理はしないと」

「ああ、その通りだ。トラブルの原因となるからな」

「ですね」

「そして最後に『情報』だが……ウチが持つ情報は国家機密を含む。あちらも重要な情報はあるだろう。だから、互いに公開した情報を厳秘で、違反した場合には厳しい罰則に沿って処分する事にする」

「ええ、レナさん、基本はそれで構わないと思います」

 ………………それから、シモンとレナの打合せは続いた。
 金、人、情報に関し、様々な意見の交換が為され、議論され、取りまとめられた。
 
 レナは満足そうに頷き、シモンも笑顔である。

 …………そろそろ時間だ。
 会議を最後にクロージングしたのは、当然レナである。

「……という事で、冒険者ギルドに対するウチの方針は、ほぼ決まった。次官、そして長官とプランを承認して貰い次第、シモン君、君に同行して貰い、ギルドマスターを訪問する。それでOKかな?」

「はい、基本的には。ですが、実はスケジュールがペンディングの件がひとつありまして」

「む? ペンディング?」

 シモンは昨日の一件、ラクルテル公爵邸招待の件をレナへ説明した。
 
 単純に『クラウディア救出の礼』で招かれるという趣旨だけ告げる。
 エステルとクラウディア、女子ふたりのバトル話は、敢えてオミットした。

 しかしシモンが言わずとも、レナはエステルとクラウディアの『対決』を知っていたようである。
 面白そうに笑う。

「ははははは、ふたりの『事情』は聞いているぞ。エステル……頑張れよ。個人的にだが、私は君を応援する」

 レナからエールを送られ、エステルは微笑む。

「次官補……ありがとうございます。私、頑張ります」

「うむ! でだ、シモン君。公爵閣下の提示された日時が冒険者ギルドの訪問とバッティングした場合、当然閣下を優先する。長官のお立場もあるし、ウチが王国騎士隊や王国軍とも提携する可能性も大いにあるからな」

「了解です。公爵閣下のご招待日時が決定したら、すぐにレナさんへ上げますから」

「頼むぞ。いろいろ『事情』はあるだろうが、後々の事もある。公爵閣下とは何とか上手くやってくれ。こちらもギルドへの訪問日を出来る限り調整する。予定が入ったらすぐに連絡してくれたまえ」

「了解です。あ、それと午後は俺の部下候補の検討をします。何かあれば、リュシーさんとレナさんのおふたりに、いろいろとご相談しても宜しいですか?」

「当然、構わない。どんどん相談して欲しい。その為の上司だ」

「その為の上司……ですか。はい! ありがとうございます! 助かります!」

 シモンの相談に対し、レナは快くOKしてくれた。

 アレクサンドラ、リュシー、レナの女子3人は、気さくに相談に乗ってくれるライトサイドな職場の素敵な上司。
 かつての上司あくらつ非道なブグロー部長とは全く違う。

 シモンの『やる気』は、ますます燃え盛っていたのである。
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