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第33話「初出勤!②」

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 バイヤール商会からは、所要時間徒歩約10分と言われていたが、
 前職トレジャーハンターのくせから、東方の戦士ニンジャのように、超速足ちょうはやあしで歩くシモン。
 たった3分あまりで、王宮前へ到着した。
 
 現在、午前7時35分を数秒過ぎたくらいだ。
 指定された出勤時間の午前8時30分より1時間近く早い。
 
 はっきり言って、自宅を出た時間、自宅から王宮までの距離。
 加えてシモンの歩く速度を考えれば、当たり前の結果ではある。
 
 正式な初出勤という事で凄く嬉しくなり、気合が空回りしてしまった。
 「やっぱ早すぎたか」と少しだけ後悔、苦笑するシモンは、正門へ……

 王宮の巨大な正門前には、騎士10名ほどが詰めており、いかめしい表情で鋭い視線を投げかけて来る。

「お、おはようございます!」
 
 少しだけ緊張したが、シモンは何とかあいさつ。
 噛まずに氏名を述べ、ミスリル製の身分証明書を見せた。

 すると、硬い騎士達の表情が大きく緩み、「びしっ」と直立不動で敬礼した。

「おお、王国復興開拓省のアーシュ局長ですかっ! これは失礼致しましたっ!」
 
 シモンも安堵し、思わず敬礼で応えた。

 まだシモンは王宮内で、認識されていない。
 先日同様、警備で巡回している騎士から職務質問を受ける。
 しかし、今度は伝家の宝刀?『身分証明書』がある。

 見せたら、一発。
 騎士達は直立不動で、敬礼する。

 そんなこんなで……
 シモンは王国復興開拓省の庁舎へ入る。

 今度は受付など通さない。
 入り口の警備員へ挨拶し、直接、職員専用の出入り口から、アレクサンドラが行ったように身分証明書をかざしてイン。
 シモンが聞いたところ、職員として登録された特定の魔力を感知し、魔法で施錠した扉が開く仕組みのようだ。

 魔導昇降機へ乗り込み、4階へ。
 まっすぐ与えられた自分の個室へ向かう。

 同じような扉が並んでいて、少し迷ったが、すぐに自分の個室が見つかった。
 『局長室』という札が掲出されている。

「この俺がよりによって管理職の局長ねぇ……全然、貫禄ないし、そうは見えないだろうなぁ」

 苦笑し、独り言ちたシモンは、懐中魔導時計を取り出した。
 見れば、まだ午前7時45分である。
 定時出勤が午前8時30分、幹部会議が午前9時からだから、まだまだ全然余裕である。

「お茶を飲みながら、先日、先輩に同行したオーク退治の反省点、改善点と提案をまとめておこう。後は、王国復興開拓省の業務資料でも読み込んでおくか。一応、丸暗記してあるけど」

 シモンは大きく頷くと、自分の部屋『局長室』へ入ったのである。
 
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ 

 局長室に置く調度品は、アレクサンドラが「お祝いで私が買ってあげる! 任せて!」
というのでそのままお願いしてしまった。
 
 良き先輩の好意には「はい!」と素直に応えるものだと、シモンは認識していた。
 それに長官室を見る限り、アレクサンドラの趣味は素敵だ。
 お任せしておいて安心である。

 果たして、シモンが室内を見やれば……
 期待通り、アレクサンドラが手配した机、椅子、応接セット、衣服用ロッカー、資料用ロッカー、書架等は素晴らしかった。

 お洒落なのに、派手でなく渋い。
 それでいて高級感がある。

 アレクサンドラから聞かれたのは色味だけ。
 シモンは黒か、茶色と伝えてあったが、ほぼリクエスト通りとなっていた。
 また黒と茶はストレートな色味ではなく、ほんの若干明るめなのも大いに気に入った。

「さっすが、長官。センス最高! ありがたいっす」

 シモンは法衣ローブを脱ぎ、ロッカーに仕舞う。
 そして試作品の魔法収納腕輪から、ジャケットを取り出し羽織った。

 オーク退治に関する資料、王国復興開拓省の業務資料を読み込んで行く。
 自然と速読となる。

 あっという間に読み切ってしまう。

「よっし、じゃあ資料を作っておこう。簡潔に分かりやすく、それでいて漏れがないようツボはしっかり押さえた報告書……だよな」

 シモンはさくさくと資料を作成。
 魔法で同じものを、念の為10枚複写しておいた。

「ふう、これで良しと……今、何時かな?」 

 局長室の壁にも魔導時計がかけてある。

 ……時間はまだ午前8時10分を少し過ぎたくらいだ。

 8時を過ぎ、扉の外……廊下は、数人が通った。
 自然と索敵魔法が働き、魔力気配を読んでしまう。
 トレジャーハンターをしていた時の癖で、魔力気配から相手を特定しようとしてしまうのだ。

 さすがに知らない気配が殆どである。
 だが、リュシーとレナの気配もあった。
 あのふたりが出勤する時間帯が分かる。
 ふたりより早く出勤せねばと、思ってしまう。

 その時。
 ひとりの気配が『局長室』へ近付いて来る。

 女性だ。
 この気配は……覚えがある。
 シモンは見かけた事がある。
 話した事はないのだが……

 やはり局長室の前で立ち止まった。
 シモンに用事があるらしい。

 とんとんとんとんとん!

 リズミカルにノックが為され、凛とした声が聞こえる。

「おはようございます! 本日よりアーシュ局長の秘書として働くこととなったエステル・ソワイエと申します。ご挨拶に伺いました」

 シモンは、こういう時の為に女性苦手症を克服しようとしていた。
 女子だらけのカフェに通ったり、いろいろ努力もした。
 アレクサンドラ以下3巨頭女子は平気であった。
 だけど、今朝は駄目だった……

 エステルの綺麗な声を聞き、シモンは気持ちがたかぶり……
 返事を思い切り噛み、加えて声が上ずってしまった。

「ど、ど、ど、ど、ど、どうぞぉ!」

 一瞬の間。
 エステルからすぐに返事はない。
 気配で分かる。
 どうやら、笑いをこらえているようだ。

 しかし、それもわずかな間。

 すぐ扉は、ゆっくりと慎重に開けられた。
 現れたのは洒落たスーツ姿の女子である。

「あら?」

 室内のシモンを見て、小さく驚いたのは……
 先日、アレクサンドラに初めて連れて来られた王国復興開拓省庁舎において、
 シモンが、魔導昇降機ホールで見かけた美しい職員女子であった。
 
 彼女が、シモンの新たな秘書となるエステル・ソワイエ。
 ストロベリーブロンドの髪を持つ、素敵な職員女子だったのである。
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