上 下
27 / 160

第27話「何から何まで!」

しおりを挟む
 王国復興開拓省長官アレクサンドラ・ブランジェ伯爵と正式に契約をとり交わし……
 晴れて王国職員、それも幹部たる局長となった元ダークサイド商会所属のトレジャーハンター、シモン・アーシュ。

 意気揚々いきようようと庁舎を出たシモンは、買い物を含め、いろいろ段取りを組んで貰う為、まっすぐにバイヤール商会へ赴いた。
 
 シモンは自分には縁遠いともいえるバイヤール商会をあまり知らなかった。

 そもそもバイヤール商会は、貴族や上級市民に顧客が多い大手商会である。
 社屋は石造りの3階建て。
 地下には巨大な金庫と倉庫を有する。
 王国復興開拓省の庁舎ほどではないが、地上の社屋は白亜の巨大な建物である。

 入り口にはいかめしい表情をした屈強な守衛が立っていたが、
 「アレクサンドラの紹介だ」と告げたら、一転、柔らかな笑顔で通してくれた。

 これで緊張が解けたシモンが中へ入ると……大きな受け付けがあった。

 受け付けの社員は、年季が入った革鎧を着たシモンの身なりを見て、ぞんざいな物言いと、不可解な視線を投げかけた。
 だが、開き直ったシモンは気にせず華麗にスルー。
 
 改めて名乗った上で、王国復興開拓省職員の身分を明かし、更にアレクサンドラ・ブランジェの名を出すと、社員の態度が一変した。
 
 青くなった社員が、奥へ引っ込むと……
 入れ替わりに、支配人のラウル・フィヨンがすっ飛んで来た。
 
 現れたラウルは30代半ば、中肉中背。
 茶色の巻き毛で鳶色とびいろの瞳。
 イケメンのやり手という雰囲気の男である。

 苦笑したシモンは改めて名乗った。

「初めまして、シモン・アーシュです」

「シモン様、申し訳ございません! ウチの者が、大変失礼を致しました。私がバイヤール商会の支配人ラウル・フィヨンでございます」

 シモンは今回、王国復興開拓省に就職した経緯、そしてアレクサンドラから言われて、バイヤール商会へおもむいた事を伝えた。

 アレクサンドラが直々にシモンをスカウトしたと聞き、ラウルは驚いたようである。
 口調と物腰が更に丁寧となる。

「かしこまりました、シモン様。失礼のおわびに当商会は、誠心誠意の対応をさせて頂きます。お話を整理致しますと、まずはお引越し先のご自宅候補をいくつか、予算はお聞きしましたのでお任せください……王宮の最寄り、貴族街区が宜しいですね?」

 さすが御用達たるブランジェ伯爵家の威力。
 さきほどの受け付け社員とは大違い。
 支店長の超が付く丁寧な対応を見て聞いて、シモンは再び苦笑する。

「はい」

「そして生活用品一式を、更にお服をいくつかご入用。とりあえず以上で宜しいでしょうか?」

「その通りです」

「当商会で直接扱うお服は基本的に、仕立てにお時間がかかるオーダーものです」

「そうなんですか」

 補足しよう。
 この世界で上流階級の人間が着る衣服は基本一点物。
 つまり全てがオーダー品である。
 庶民は安価な既製品を着る事もあるが、生産数に限りがある。
 
 ここで中古品たる衣服の登場となる。
 飽きやすい上流階級の人間は使用人へ、着る事が少なくなった衣服の廃棄を命じる。
 捨てられるものはあるが、使用人の多くが中古品を扱う古着屋へ売る。
 主も『給金の補填』だと心得ており、使用人を責めはしない。
 こうして上質の服が、ぼうだいに放出され、一般市民でも比較的安価で手にする事が出来るのだ。

 バイヤール商会は傘下に古着屋があるらしい。
 こういった商会へ、衣服の処理を頼む得意先も多いという。
 
 多分、処理の代金は馬鹿にならない。
 中々、抜け目がないと、シモンは思う。

 つらつら考えるシモンへ、ラウルは告げる。

「はい、しかし今回は仕上がりを待つお時間がないとの事ですので、オーダー品は、ご発注だけお受けします。後日お受け取りにいらしてください」

「はい、了解です」

「シモン様のご採寸だけ行い、急ぎ協力店へセカンドハンド商品を依頼。その後、オーダー品を発注。とりあえずご入用のセカンドハンド商品は本日夕方までに手配しておきましょう」

「大丈夫ですか?」

「はい! ご安心ください、シモン様! ご自宅候補の確認をされたら、当商会のスタッフと共に、一旦こちらへお戻りください。お服を用意しておきます」
 
 てきぱきと、何から何まで段取りを組むラウル。
 さすが商いのプロである。

「助かります。1週間後、王国復興開拓省へ初出勤するものですから」

「成る程! オーダーのお服は勿論、セカンドハンドも含め、シモン様がアレクサンドラ様にお認めになられるような、立派なお服をお手ごろな価格でご用意出来るよう努力させて頂きます」 

 補足しよう。
 『中古』という言葉に語弊があるとの自己判断で、ラウルはセカンドハンドという言葉を商会内では使うのだ。

「ありがとうございます。本当に助かります」

 こうして……
 シモンは王宮に最寄りな貴族街区の新居を超が付く格安で借りる事が出来た上……
 生活用品一式、そして通勤とプライベート用のこなれたデザインの服を、
 オーダー、セカンドハンド共に、必要な数だけで安価で揃える事が出来た。

 しかし……
 バイヤール商会も、ここまでサービスしたのは、計算づく。
 シモンを上得意にする為、「損して得取れ」のスピリットだったらしい。

 この作戦は大成功した。
 
 何故ならばシモンは今後、バイヤール商会をアレクサンドラ同様、御用達ごようたしにする事となったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

スキルスティール〜悪い奴から根こそぎ奪って何が悪い!能無しと追放されるも実はチート持ちだった!

KeyBow
ファンタジー
 日常のありふれた生活が一変!古本屋で何気に手に取り開けた本のタイトルは【猿でも分かるスキルスティール取得法】  変な本だと感じつい見てしまう。そこにはこう有った。  【アホが見ーる馬のけーつ♪  スキルスティールをやるから魔王を倒してこい!まお頑張れや 】  はっ!?と思うとお城の中に。城の誰かに召喚されたが、無能者として暗殺者をけしかけられたりする。  出会った猫耳ツインズがぺったんこだけど可愛すぎるんですが!エルフの美女が恋人に?何故かヒューマンの恋人ができません!  行き当たりばったりで異世界ライフを満喫していく。自重って何?という物語。  悪人からは遠慮なくスキルをいただきまーーーす!ざまぁっす!  一癖も二癖もある仲間と歩む珍道中!

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

大切”だった”仲間に裏切られたので、皆殺しにしようと思います

騙道みりあ
ファンタジー
 魔王を討伐し、世界に平和をもたらした”勇者パーティー”。  その一員であり、”人類最強”と呼ばれる少年ユウキは、何故か仲間たちに裏切られてしまう。  仲間への信頼、恋人への愛。それら全てが作られたものだと知り、ユウキは怒りを覚えた。  なので、全員殺すことにした。  1話完結ですが、続編も考えています。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

さんざん馬鹿にされてきた最弱精霊使いですが、剣一本で魔物を倒し続けたらパートナーが最強の『大精霊』に進化したので逆襲を始めます。

ヒツキノドカ
ファンタジー
 誰もがパートナーの精霊を持つウィスティリア王国。  そこでは精霊によって人生が決まり、また身分の高いものほど強い精霊を宿すといわれている。  しかし第二王子シグは最弱の精霊を宿して生まれたために王家を追放されてしまう。  身分を剥奪されたシグは冒険者になり、剣一本で魔物を倒して生計を立てるようになる。しかしそこでも精霊の弱さから見下された。ひどい時は他の冒険者に襲われこともあった。  そんな生活がしばらく続いたある日――今までの苦労が報われ精霊が進化。  姿は美しい白髪の少女に。  伝説の大精霊となり、『天候にまつわる全属性使用可』という規格外の能力を得たクゥは、「今まで育ててくれた恩返しがしたい!」と懐きまくってくる。  最強の相棒を手に入れたシグは、今まで自分を見下してきた人間たちを見返すことを決意するのだった。 ーーーーーー ーーー 閲覧、お気に入り登録、感想等いつもありがとうございます。とても励みになります! ※2020.6.8お陰様でHOTランキングに載ることができました。ご愛読感謝!

処理中です...