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第23話「余裕の研修テスト①」

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 翌日、シモンは研修旅行に参加する事となった。
 
 王国復興開拓省の幹部職員、次官リュシーと次官補レナに同行し、彼女達の仕事ぶりを現場で見学するのだ。
 朝……午前6時に、王国復興開拓省庁舎1階のロビーでふたりと待ち合わせし、一緒に出発する事となっている。
 
 まだ夜が明けない内、起床したシモンは簡単な朝食を摂った。
 さっと身支度をし、用意しておいた旅行用のディバッグを背負い、自宅を出発する。
 
 さくさく超速足で歩き、徒歩10分のところを5分強。
 約束の待ち合わせ時間より30分早い午前5時30分に王宮へ入った。
 ちなみに王宮の正門は夜午後10時に閉まり、午前4時に開く。

 シモンはフルネームを名乗った上、事情を説明。
 預かった『仮職員証』を門番役の騎士へ渡し、確認して貰う。
 持参した荷物のチェックも念入りに行われた。

 シモンに好感を持ったらしい『こわもて』の騎士は笑顔で頷き、シモンに『仮職員証』を返却すると、快く王宮内へ入れてくれた。

 王宮内でも何人もの屈強な騎士が巡回していた。
 
 シモンは何回か、職務質問で呼び止められたが……
 その度に、名乗り『仮職員証』を提示。
 問題なしと判断され、解放して貰った。
 さすがに王宮内の警備は厳重である。

 そんなこんなで少し歩き、シモンは王国復興開拓省の庁舎へ到着。
 受付け担当の職員に、来訪の趣旨を告げ、ロビーで待つ。
 時刻は5時45分。
 
 更に5分経ち、5時50分。
 リュシーと、レナが一緒に現れた。
 両名とも魔法使いが着る法衣ローブではなく、頑丈そうな革鎧をまとっている。

「おっは~、シモン君」
「……おはよう、シモンさん」

 能天気かと思われるくらい、明るい突き抜け声で挨拶するリュシー。
 片や、落ち着きすぎるくらい淡々と低い声で挨拶するレナ。

 元教師、元冒険者。
 静と動。
 明と暗?

 あまりにも対照的なふたり。
 女子相手に余裕が出て来たシモンはつい笑いそうになるのを何とか耐え、元気良く挨拶をした。

「おはようございます!」

「よし、偉い、シモン君! 時間厳守ね!」
「……まだ時間前だけど、すぐに出発しますよ」

「はい! 今日は宜しくお願い致します!」

 就職の為の一種の研修であるが……
 今日は行き先もはっきりしているし、シモンに社会人デビュー前のような小心さは見られず、動揺は全く無い。
 研修といっても、あの地獄のパワハラ特訓はもはや無いからだ。

 しかし……
 シモンは、誤解をしていたのだ。
 もう内定を貰った気でいた。
 王国復興開拓省入省に関しては、後は自分の返事ひとつ次第で契約だと。

 出発し、走り出した馬車の中。
 リュシーが話しかけて来た。

「シモン君、今回、君は契約前の単なる見学者だから、戦わなくて構わないわ」
「但し、自分の身は自分で守れ」

「はあ、これから行く王都郊外の村の案件って、一体何でしたっけ? ざっくりとしか聞いていないんですが」

「うん! シモン君が散々行った、魔物の討伐よ」
「うむ、村民を襲い、周囲の動物を喰い荒らすオークの群れ、約100体余の討伐だ。全部は無理でも9割がた討伐すれば、依頼は完了だな」

 シモンは少し……だけ、驚いた。

 領主の救援が滞った村を襲うオークの群れ約100体余……
 それを魔法の達人らしいとはいえ、たった女子ふたりで討伐するのだ。
 元教師のリュシーも、元冒険者のレナも凄まじい実力を有しているのは間違いなかった。

 そしてシモンも……
 トレジャーハンター時代に、オーク数百頭を、ひとりで倒した事があった。

「成る程。まあ、おふたりなら大丈夫だと思いますが、万が一何か、あったら微力ながら、お手伝いします」

「うふふ、全く臆していない。それどころか余裕だし、前向きね!」
「うむ、彼が仕事に取り組む姿勢は合格かと」

「ええっと、何か?」

「い、いや、何でもないわ」
「ああ、構わんでくれ」

 ふたりの曖昧あいまいな態度にピンと来たシモン。
 その『勘』は当たっていた。

 シモンの大いなる誤解はすぐに解消されたのだ。

 表向きは単なる研修で見学なのだが、その実……
 入省候補たるシモンの適性、実力。
 及び臨機応変な順応性をチェックするようにと、長官アレクサンドラから、密かに指示が出ていたのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 馬車は走り続けている。
 予定では数日間、くだんの村に留まり、オークを出来るだけ討伐する。
 目標数値は個体総数の9割……という趣旨らしい。

 シモンは、すぐに気付いた。
 自分が暗にテストされると感づいている。

 しかしアレクサンドラ、リュシー、レナの大いなる誤解はまだ解けていなかった。
 3名は、想定をはるかに超えたシモンの底知れぬ実力を知り、とんでもなく驚愕する事となるのだ。

 こうなると、シモンも選ぶ側として、王国復興開拓省の内情をもっと知りたくなる。
 アレクサンドラ以下、3人が全てを話しているとは当然思っていない。

「あの、いくつかお聞きしても宜しいですか?」

「うん、話しても構わない範囲ならば」
「うむ、差し支えない内容ならばという条件付きだ」

「あのズバリお聞きします。王国復興開拓省の中でも、アレクサンドラ長官以外に抜きん出た実力者のおふたりがわざわざ現場へ出張るのは、早く実績を作り、新たな省の存在感を世間へ広く知らしめる為でしょうか?」

 シモンの質問はもっともであり、的を射ていた。
 しかし、ふたりは微笑んだだけである。

「ノーコメント……かな」
「ノーコメントだ」

「成る程……次の質問です。長官によってスカウトされた俺は即戦力として、期待されているのですね?」

「うん、シモン君は即戦力扱いね」
「次官の仰る通りです」

 それから、いくつか……
 シモンはリュシー、レナと問答を繰り返した。
 
 結果、自分の推測も合わせて……
 シモンはさりげなく、王国復興開拓省の情報を数多あまた得ていたのである。
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