上 下
11 / 160

第11話「名も無き仮面の賢者②」

しおりを挟む
 小村のゴブリンを完全に撃滅し……
 村民達を死の淵から救ってから、その後も……
 シモンは、冷酷な主人にこき使われる馬車馬のように働かされた。
 国内を始めとして、世界各地の僻地へガンガン出張を命じられたのだ。

 しかし、いくら稼いでも稼いでも……
 『怪しい必要経費』が、がっぽり引かれまくり、手元に残るのはいつも信じられないくらいの少額でしかなかった。
 抗議はした。
 だが、王国の法律を巧みにすり抜けるダークサイドさに長けたコルボー商会。
 シモンは全く歯が立たず、逆に減給される始末であった。

 そして相変わらず、ブグロー部長始め、商会側からねぎらいの言葉も全く無し。

 仕事へのモチベーションが全く保てないシモンは……
 小村のゴブリン討伐と同じく、『人助けのボランティア』を続ける事で、
 何とか心の均衡きんこうを保っていた。

『貴方が居てくれて、良かった! ありがとうございます!』
『救ってくれて、感謝致します! 賢者様』
『お願いですっ! せめてっ、お名前をお聞かせくださいっ!』
『ああ、嬉しい! 明日から、前を向き、生きて行く事が出来ますよ』
 
 これらの、難儀していた人々の感謝の言葉と笑顔を唯一、己の人生の励みとしていたのである。 
 
 またシモンは、新たな魔法やスキルを習得しても、商会には一切報告しなかった。
 知識をどん欲に吸収し、トライアル&エラーのポリシーでひたすらレベルアップもはかっていた。

 やがて……
 シモンが出張で行く先々で、
 最強の『名も無き仮面の賢者』が現れ、難儀する人々を助けているという噂が立った。

 そんな噂が王都グラン・シャリオにも流れ出したある日の事……
 
 シモンが出張を終え、商会へ戻ると……
 上司のブグローがいぶかし気な表情で尋ねて来た。

「おい! シモン」

「……はあ、何すか、部長」

「お前の出張先でよぉ、妙な噂がいっぱい立ってるぜ」

 妙な噂とは……多分、『人助け』の事だろう。
 シモンは当然とぼける。

「はあ、らしいっすね」

「お前は知ってるのか? 謎めいた最強の賢者が、何と無償タダで人助けしてるそうだぞ」

「いや、そういう噂があるのは聞きましたが、詳しく知りません」

「はっ、そうかい。関心全くナッシングって、感じだな」

「はあ、部長。俺……タダ働きは興味ないんで。働いたらちゃんと金は貰うべきだと……その点は部長を見習ってますから」

「がはははは! だろうな! 上司で師匠たる俺を見習えよ! タダ働きなど厳禁だぁ! ボランティアなんて、冗談ぽいだっ!」

「ええ、部長の指示通り、出張先ではひたすら仕事してます。売り上げも月に金貨1万枚は行ってますものね」

 シモンがそう言うと、ブグローは胸を張った。
 そして、一生懸命に働く部下をほめるのかと思えば……全く違った。

「おお、さすが我が弟子だ! やはり俺の目に狂いはなかった。会頭にもほめられた。ブグロー、良くやった! この調子でシモンをガンガン働かせろとな」

「はあ……やっぱそういう『落ち』っすか。部長はいつも全て、確実に自分の手柄にしますね」

 シモンが呆れたように言えば、ついブグローの本性が出た。
 
「当たり前だ、シモン! お前達部下の手柄は全て俺の手柄だぜ!」

「何すか、それ?」

「がははははは! シモンよ、聞け! 部下など、単なる駒だ! 俺が出世する為だけの使い捨ての道具なんだ。俺に嫌われたら、ウチの商会では生きて行けないと思えよ!」

 このように超自己中で、悪逆な上司は必ず、またはどこにでも居るものだ。
 ここまで口に出してはっきり言う奴は、最低最悪の外道ではあるが……
 
 しかし自分は全然働かず、ノルマノルマと言うばかり。
 部下にだけ厳しく、自分には超甘い。
 上にはごますり、口先だけの奴はたくさん居る。
 
 具体案も示さずに批評ばかりで、すぐ精神論へ走るとか……
 自分が過去に活躍した『誇大な自慢話』が、やたら多いのもこのような上司の特徴である。

 だが、因果応報、天罰てきめん。
 外道な畜生はいつか、……報いを受ける日が来る。
 必ず来るのだ。

「はああ、部長ったら、相変わらずっすね。はい、はい」

「ごら! はいは一回だ!」

「はい」

 いつもの通り、ダークサイドな会話はあった。
 しかし、売上しか興味のないブグローはそれ以上、『名も無き仮面の賢者』に関して追及して来なかった。

 これ幸いと思ったシモン。
 見えないところで、ぺろりと舌を出した。

 商会には内緒で……
 シモンはフルフェイスの仮面を被り、『名も無き仮面の賢者』として……
 魔物の害に苦しむ人々を、無償で次々と救って行った。
 人々はシモンがいにしえに現れた『勇者の再来』だとも噂した。

 このボランティアともいえる行為が、後々運命を大きく変える事になるとは……
 シモンは、この時点で知るよしもなかったのである。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

最弱テイマーの成り上がり~役立たずテイマーは実は神獣を従える【神獣使い】でした。今更戻ってこいと言われてももう遅い~

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属するテイマーのカイトは使えない役立たずだからと追放される。 さらにパーティーの汚点として高難易度ダンジョンに転移され、魔物にカイトを始末させようとする。 魔物に襲われ絶体絶命のピンチをむかえたカイトは、秘められた【神獣使い】の力を覚醒させる。 神に匹敵する力を持つ神獣と契約することでスキルをゲット。さらにフェンリルと契約し、最強となる。 その一方で、パーティーメンバーたちは、カイトを追放したことで没落の道を歩むことになるのであった。

ハズレスキル【収納】のせいで実家を追放されたが、全てを収納できるチートスキルでした。今更土下座してももう遅い

平山和人
ファンタジー
侯爵家の三男であるカイトが成人の儀で授けられたスキルは【収納】であった。アイテムボックスの下位互換だと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 ダンジョンをさまよい、魔物に襲われ死ぬと思われた時、カイトは【収納】の真の力に気づく。【収納】は魔物や魔法を吸収し、さらには異世界の飲食物を取り寄せることができるチートスキルであったのだ。 かくして自由になったカイトは世界中を自由気ままに旅することになった。一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトに戻ってくるように土下座してくるがもう遅い。

ハズレ職業のテイマーは【強奪】スキルで無双する〜最弱の職業とバカにされたテイマーは魔物のスキルを自分のものにできる最強の職業でした〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティー【黄金の獅子王】に所属するテイマーのカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 途方に暮れるカイトであったが、伝説の神獣であるフェンリルと遭遇したことで、テイムした魔物の能力を自分のものに出来る力に目覚める。 さらにカイトは100年に一度しか産まれないゴッドテイマーであることが判明し、フェンリルを始めとする神獣を従える存在となる。 魔物のスキルを吸収しまくってカイトはやがて最強のテイマーとして世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放した【黄金の獅子王】はカイトを失ったことで没落の道を歩み、パーティーを解散することになった。

俺だけレベルアップできる件~ゴミスキル【上昇】のせいで実家を追放されたが、レベルアップできる俺は世界最強に。今更土下座したところでもう遅い〜

平山和人
ファンタジー
賢者の一族に産まれたカイトは幼いころから神童と呼ばれ、周囲の期待を一心に集めていたが、15歳の成人の儀で【上昇】というスキルを授けられた。 『物質を少しだけ浮かせる』だけのゴミスキルだと、家族からも見放され、カイトは家を追放されることになった。 途方にくれるカイトは偶然、【上昇】の真の力に気づく。それは産まれた時から決まり、不変であるレベルを上げることができるスキルであったのだ。 この世界で唯一、レベルアップできるようになったカイトは、モンスターを倒し、ステータスを上げていく。 その結果、カイトは世界中に名を轟かす世界最強の冒険者となった。 一方、カイトの家族は彼の活躍を耳にしてカイトを追放したことを後悔するのであった。

世界最強の勇者は伯爵家の三男に転生し、落ちこぼれと疎まれるが、無自覚に無双する

平山和人
ファンタジー
世界最強の勇者と称えられる勇者アベルは、新たな人生を歩むべく今の人生を捨て、伯爵家の三男に転生する。 しかしアベルは忌み子と疎まれており、優秀な双子の兄たちと比べられ、学校や屋敷の人たちからは落ちこぼれと蔑まれる散々な日々を送っていた。 だが、彼らは知らなかったアベルが最強の勇者であり、自分たちとは遥かにレベルが違うから真の実力がわからないことに。 そんなことも知らずにアベルは自覚なく最強の力を振るい、世界中を驚かせるのであった。

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

処理中です...