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第7話「地獄のパワハラ特訓① 」

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 なんやかんやで地獄の森へ連れて来られたシモン。
 超・鬼教官バスチアンとの間で、早速、特訓が始まった。

 わずか1か月で1人前に!
 という、信じられないくらい無謀なコルボー商会名物、短期間の超急速育成方針の為……
 シモンは、強制的な身体強化魔法により、スタミナ&俊敏さ&頑健さMAXのドーピング状態にさせられたのである。

 信じられない事に、魔物が跋扈ばっこする森に居るというのに、
 バスチアンは鎧に着替えずに軽装のまま。
 
 シモンの自宅へ来た時の恰好、ランニングシャツに短パン姿である。
 
 当初、少しだけ心配したシモンが、バスチアンの身を気遣うと……
 
 鎧など、不要。
 俺の鋼鉄の肉体は無敵。
 魔物など全く平気だときっぱり。

 喰われるどころか、逆に何度も捕獲して、魔物をさばいて焼き、喰ったという。
 シモンに告げた事を有言実行していた。
 バスチアンは、魔人のような男であった。
 「余計なお世話だ、ごらぁ!」と、逆に散々怒られてしまう。

 しかしシモンの気力もここまでであった……
 もう他人を気にする余裕などなかった……
 
 ストレッチの方法を指示しながら……
 バスチアンが話しかけて来る。

「おい、シモン」

「……………」

 地獄の森に来て30分後……
 極限の環境に置かれ、モチベーション究極ダウンのシモンは……
 目の焦点が合っておらず、生きる気力を完全に失っている。

「ごら、シモン、てめぇ! 教官の俺が呼んだら、返事くらいしろ!」

「はぁ……ふうううう……」

「はぁ、じゃない、はいだ! ゾンビみたいに無気力なツラしやがって! 返事はしっかりしろ! ため息も一切吐くんじゃねぇ!!」

「は、は、は、はい…………」

「びびって、噛むんじゃねぇっ! それに何だっ、その覇気はきの無さはっ! ごら! 元気出せっ! 行くぜ! 精神注入っっ!!」

 いつの間にか、バスチアンは鋭い『とげ』のいっぱいついた木刀を持っていた。
 ディーノの尻に容赦なくふるわれる。

 びしぃぃぃっっっっ!!!
 びしぃぃぃっっっっ!!!
 びしぃぃぃっっっっ!!!

「ぎゃあああああ~~っっ!!」

 3発のとげ木刀を喰らい、シモンは思わず絶叫した。

 体力、耐久力、運動能力を著しくアップする、身体強化魔法をかけていても凄く痛い。
 ベテラン教官らしいバスチアンは『力加減』も良~く分かっているようだ。
 シモンの鎧はボロボロになったが、致命傷までは行っていない。
 まさに生かさず殺さずを地で行っていた。

「ごら! 今日は初日だ。俺は寛大な男だから、特別に軽く行く! 基礎体力をつける為、周囲10㎞のこの森を10周するぞ!」

 シモンは仰天した。
 尋常ではない距離である。 

「じゅ、10周!? と、と、いう事は! ひゃ、100㎞のランニング!?」

「そうだ!」

 バスチアンにきっぱり言われ、シモンはぶんぶんと首を横へ振った。

「む、む、無理っす! い、い、いくら身体強化魔法かけてても、死んじゃいますっ!」

「ごら! 甘ったれるな! また俺の精神注入『とげ木刀』を喰らいてぇか! 今度は容赦せず100発行くぞぉ!!」

「ひええええ、ノーサンキューっすぅぅ!!」

「ふん! たった10周くらい、身体強化魔法でビルドアップしていたら大楽勝だろ! これぐらいで弱音を吐くなっ! 明日からは倍の20周だっ!」

「に、に、20周……200㎞!? に、人間の、は、走る距離じゃない……」

「おう! たった20周なんぞ慣れれば楽勝だ! ちなみに俺は超大楽勝! ははははは!」

「あ、あ、あの……きょ、教官」

「おう! 何だ?」

「も、もしも訓練中に、ゴブリンとかオークとか、人喰いの魔物が出たら……どうします?」

 しかしバスチアンはシモンの質問に答えない。
 それどころか、訓練メニューの追加を告げて来る。

「おう、そういえば言い忘れてたな。明日はランニング17周のあと、残り3周はほふく前進だ」

「はああっ!? さ、30km!? ほ、ほ、ほふく前進!?」

 補足しよう。
 ほふく前進とは、腹這いになり、手と足、ひざで地面をするように前進する事だ。 
 軍隊等では兵が周囲から目撃されないように腹這になって移動するのだ。

「おう、30㎞きっちりな。ぜってぇ魔物に悟られんよう、気配はきっちり消して進め!」

「け、け、気配を消すって! な、な、なんすか、それって!」

「ティーグル王国軍の演習と同じやり方だ。お前もやるんだよ、ほふく前進をよ!」

「はあああ……でも、す、すごく不安です。俺、魔物と戦った事なんてないんですよ」

「ふん! 最初の質問に答えてやる! 訓練中にはお前の言う通り魔物が、ガンガン出る」

「ガンガン出るぅ!? 俺、喰われちまうっすよぉ!!」

「当然だろ。油断すれば、骨まで喰われる! 後には何も残らねぇ!」

「わあ! 骨までぇ! 何も残らないって! この世で俺が生きた証《あかし》も皆無っすか!」

「まあ、そういうこった」

「そういうこったって……」

「こういう場所でお前を鍛えているんだから当たり前だな。まあ……3日間だけは俺が倒してやる。但し4日目から、自分の身は自分で守れ!」

「え~! 俺ひとりで戦うんすかぁ! たった4日後からぁ!!」

「そうだ! 俺と魔物の戦いぶりをしっかり見て、盗め! 全てを学び取るんだぁ!」

「そ、そんなぁ……盗めとか、全て学べって……俺、戦うどころか、ケンカもした事ないっすよぉ……俺の経験っていったら、魔法の勉強と、場末な居酒屋の厨房で皿洗いしていただけなのに……」

「シャラップ! ぐちゃぐちゃ言うな! 気合で生き残れ! ランニングが終わったら、腕立て、腹筋3,000回ずつだ! 絶対に回数を誤魔化すなよ! もしも誤魔化したら事故に見せかけ抹殺してやる」

「…………」

「その後が木刀の素振り3,000回! その後も鍛錬メニューがびっしりだ! 覚悟しとけぇ!」

 身体強化魔法をかけていても、こなせないくらい超が付くスパルタ特訓である。
 
 ぜいぜい息を切らしながら、おえ~とゲロを吐きながら、とげ付きの木刀でビシバシ容赦なく叩かれながら……
 
 何とかノルマをこなしたシモンは……その日の夜、死んだように眠ったのである。
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