上 下
42 / 50

第42話「わけありと変わり身①」

しおりを挟む
 二軒目の店以降……
 ダンとスオメタルが買物で行く店、行く店が、『勇者の噂』で持ち切りだった。

 魔王を倒した事と、不可解な追放で、人々は勇者ダンに大いに注目していた。
 噂は良いモノ、悪いモノ様々、多種多様であった。
 
 最初はいろいろと念入りに、用心深く探りを入れていたのだが……
 あまりにも多い!
 なので、ダン達はいちいち反応する事をやめた。
 考える事もやめた。
 
 いろいろざっくりと聞いたが……
 ありもしない『幻の財産』を狙う盗賊らしき存在以外は、
 大至急で対応する必要がない。

 全ての噂をスオメタルの魔導回路に記憶させた。
 なので、帰宅してからじっくり精査、分析する事を決めたのである。

 さてさて!
 買物も終わり、今日のランチも終了。
 ランチは……
 ダンの提案通り、露店のハシゴだった。
 いわゆる食べ歩きである。

 市場にはたくさんの露店が毎日威勢の良い声で、食欲をあおるよう、
 巧みに言葉を投げかけて来る。

 王都の人々は、五感に訴える様々な刺激に釣られ、
 つい手を伸ばしてしまうのだ。
 
 串焼き肉、揚げ肉、ミートパイ、パテ、ラグーなど……
 食欲旺盛なダンとスオメタルは、目移りしてあれもこれもと、
 い~っぱい食べてしまった。
 
 最後に果実を絞ったジュースを飲むと、
 珍しくデザートが食べられなかったほどである。

『わぁお! 凄く、美味しかったでございます!』

『だな!』

『買い物もめぼしいものは、無事購入出来ましたし、全くのノープロブレムでございます』

『うん、良かった、良かった』

 美味しいものをたくさん食べ、スオメタルは機嫌がすこぶる良い。
 ダンも「うんうん」と気分よく頷いていた。

 しかし、ここでスオメタルが何故か『ジト目』となる。
 疑いの眼差しかもしれない。

『でも……』

『え? ええっ? で、でもって! な、何?』

『珍しくマスター、ゴミ集積場やリサイクルショップへ行かないと思ったら……』

『お、お、思ったら、な、何?』

 いきなりの突っ込み。
 やはりダンの行動は、しっかりとチェックされていた。

 ダンの顔を凝視するスオメタル……

『あれ? マスターが発する魔力の波動が大いに乱れているでございます』

『え? み、乱れてる? そ、そ、そうかな?』

『はい、見た目もきょどっているでございますよ、マスター。それにだらだらだらと……滝のように、マスターの額に汗が流れ、完全に動揺しているのが、凄~く怪しいでございます!』

『う~……そ、そ、そ、そ、そうかなぁ?』

『ですが、う~ん。とりたてて今日の行動に不審な点はございませんし……』

『ないない、ないな~い! ふ、不審皆無、怪しくな~い!』

『その慌てぶり……非常に怪しいでございますねぇ……たとえば、スプーンいっぱいあるのに、金物屋さんで、何故にたくさん買ったでございます?』

『い、い、いや! ほ、ほら! あ、新しいスプーンを使いたいと思ってさ。ほ、ほら、美味い食事を摂る際、き、気分がリフレッシュするだろ?』

『いえ! 今あるものは、まだまだ使えるでございます。むむむ……何故か、金属フックとかもいろいろと、い~っぱい買ったでございますよね?』

 スオメタルは「ぐいぐい」迫って来る。
 ダンの滝汗も、だらだらだらと止まらない。

 こうなったら……
 ダンはスオメタルと、約束するしかない。
 それしか収拾がつかない。

『城に帰ったら分かるって! スオメタルも絶対喜ぶって! 保証する!』

『ふうむ。スオメタルが喜ぶ? 保証する……でございますか? じゃあマスターを信じるでございます』

 そんなこんなで、念話のやりとりが盛り上がっているうちに、
 ふたりは、冒険者ギルド王都支部へ到着した。
 
 時間は午後0時30分過ぎ。
 業務カウンターは多分昼休み。
 だが、午後1時の業務開始とともに並ぶつもりだ。

 正門の守衛に挨拶し、しれっと1階フロアに入るダンとスオメタル。
 当然だが……
 完全に擬態しているから、正体がバレる気配はない。

 と、その時。

「あ~!! 久々にぃ! わけありクラン来た~!! やった~!!」

 ダンとスオメタルの姿を見つけ、ひとりの女性職員が絶叫すると、
 脱兎の如く、駆け寄って来た。

『はあ? わけありクラン?』

『私達の事みたいですが、どういう意味でございますかね、マスター』

 ダンとスオメタルが首を傾げていると、 
 ふたりの傍らに立った女性職員は、身を乗り出し、ぐいぐい迫って来る。

「待ってたよぉ! 私の事、憶えてるよね!」

「はあ、何となく」
「確か、冒険者ギルド王都支部、特別渉外担当のネリーさんでございましたか?」

「そうよ! 特別渉外担当のネリーでっす! 久しぶりだから聞くわね。ええっと貴方達は、ルウさんとツェツィリアさんよね?」

 ネリーはダンとスオメタルの『偽名』を口にした。
 ここは当然、肯定するしかない。

「はあ、そうです」
「その通りでございますが、何用でございますか?」

「じゃあ、こっち来て! 早く!」

 ギルドの職員ネリーは……
 別人の冒険者に擬態したダンとスオメタルをもどかしそうに促し、
 業務カウンターへ連れて行ったのである。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

復讐完遂者は吸収スキルを駆使して成り上がる 〜さあ、自分を裏切った初恋の相手へ復讐を始めよう〜

サイダーボウイ
ファンタジー
「気安く私の名前を呼ばないで! そうやってこれまでも私に付きまとって……ずっと鬱陶しかったのよ!」 孤児院出身のナードは、初恋の相手セシリアからそう吐き捨てられ、パーティーを追放されてしまう。 淡い恋心を粉々に打ち砕かれたナードは失意のどん底に。 だが、ナードには、病弱な妹ノエルの生活費を稼ぐために、冒険者を続けなければならないという理由があった。 1人決死の覚悟でダンジョンに挑むナード。 スライム相手に死にかけるも、その最中、ユニークスキル【アブソープション】が覚醒する。 それは、敵のLPを吸収できるという世界の掟すらも変えてしまうスキルだった。 それからナードは毎日ダンジョンへ入り、敵のLPを吸収し続けた。 増やしたLPを消費して、魔法やスキルを習得しつつ、ナードはどんどん強くなっていく。 一方その頃、セシリアのパーティーでは仲間割れが起こっていた。 冒険者ギルドでの評判も地に落ち、セシリアは徐々に追いつめられていくことに……。 これは、やがて勇者と呼ばれる青年が、チートスキルを駆使して最強へと成り上がり、自分を裏切った初恋の相手に復讐を果たすまでの物語である。

ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!

桜井正宗
ファンタジー
 辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。  そんな努力もついに報われる日が。  ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。  日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。  仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。 ※HOTランキング1位ありがとうございます! ※ファンタジー7位ありがとうございます!

パーティーから追放され婚約者を寝取られ家から勘当、の三拍子揃った元貴族は、いずれ竜をも倒す大英雄へ ~もはやマイナスからの成り上がり英雄譚~

一条おかゆ
ファンタジー
貴族の青年、イオは冒険者パーティーの中衛。 彼はレベルの低さゆえにパーティーを追放され、さらに婚約者を寝取られ、家からも追放されてしまう。 全てを失って悲しみに打ちひしがれるイオだったが、騎士学校時代の同級生、ベガに拾われる。 「──イオを勧誘しにきたんだ」 ベガと二人で新たなパーティーを組んだイオ。 ダンジョンへと向かい、そこで自身の本当の才能──『対人能力』に気が付いた。 そして心機一転。 「前よりも強いパーティーを作って、前よりも良い婚約者を貰って、前よりも格の高い家の者となる」 今までの全てを見返すことを目標に、彼は成り上がることを決意する。 これは、そんな英雄譚。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。

晴行
ファンタジー
 ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。

拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~

荒井竜馬
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。 ========================= <<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>> 参加時325位 → 現在5位! 応援よろしくお願いします!(´▽`) =========================  S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。  ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。  崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。  そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。  今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。  そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。  それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。  ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。  他サイトでも掲載しています。

治療院の聖者様 ~パーティーを追放されたけど、俺は治療院の仕事で忙しいので今さら戻ってこいと言われてももう遅いです~

大山 たろう
ファンタジー
「ロード、君はこのパーティーに相応しくない」  唐突に主人公:ロードはパーティーを追放された。  そして生計を立てるために、ロードは治療院で働くことになった。 「なんで無詠唱でそれだけの回復ができるの!」 「これぐらいできないと怒鳴られましたから......」  一方、ロードが追放されたパーティーは、だんだんと崩壊していくのだった。  これは、一人の少年が幸せを送り、幸せを探す話である。 ※小説家になろう様でも連載しております。 2021/02/12日、完結しました。

処理中です...