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第41話「人々の噂」

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 数日後……
 ダンとスオメタルはリオン王国王都アンペラールの街中を歩いていた。
 追放されたダンは、王都も含め王国全域へ立ち入る事は禁止されている。
 それ故、ふたりはとがめられないよう魔法で別人に擬態していた。

 背恰好はさほど変えてはいない。
 だが、ふたりとも髪と瞳の色を全く印象の違う金髪碧眼に変えていた。
 年齢も5つほど上に設定している。

 この変わり身だけで、ふたりを元黒髪の少年勇者ダン、銀髪の少女従士スオメタルと判別できる者は殆ど居なかった。

 はたから見れば、ふたりは無口、殆ど話さないカップル。
 ず~っと無言で並んで歩くせいか、王都ではお馴染みのナンパも皆無である。
 何となく近寄りがたい雰囲気があるらしい。

 でも……
 こっそり念話で、ふたりは熱々な会話を交わしていた。

『マスター、これからの予定は、いかがでございますか?』

『ええっと、午前はいろいろな商店や市場で買い物……か、かなぁ?』

『何か、語尾を噛みましたが、どうしました? マスター』

『い、いや何でもないぞ。ええっと! 買い物が済んだら、早めのランチにする。食べ終わったら冒険者ギルドへ移動し、短期の依頼探しをする! その後、情報屋と午後3時に会う約束になってる。打合せが終わったら帰還と!』

 しかしダンの本音は違っていた。
 本当は買い物の後、世の中から打ち捨てられた『お宝』を探しに、
 ゴミ集積場やリサイクルショップへ寄りたかった。

 しかしダンは我慢する。
 折角、機嫌が直ったスオメタルを再び刺激したくないからだ。

 案の定、性癖のかけらも見せないダンに対し、スオメタルは至極上機嫌である。

『うふふ、素敵でございます。マスターのスケジューリングは最高でございます。ちなみにランチはどこで食べるでございますか?』

『せっかくの良い天気だ。市場の露店で食べようか? 共用のテラス席が使えるはずだ』

 ダンの提案に対し、スオメタルは躍り上がって喜ぶ。

『わあお、嬉しい! スオメタルは露店大好きでございます。いろいろ好きに気楽に選べるし、気に入った料理は、マスターに習い、作り方覚えたいでございます』

『了解! ただし俺、今日はダンじゃなくルウだぞ』

『そして、私はスオメタルではなく、ツェツィリアでございますよね、うふふ』 

 そう、今日ふたりは名も変えている。
 ルウとツェツィリアという偽りの名で、冒険者ギルドの登録をしているのだ。

 という事で、ふたりは買い物へ……
 
 もう残り少ないと言っても……
 現在の持ち金は金貨1,000枚余りも残っている。
 ダン愛用の収納腕輪に勇者時代に溜めた金の残金全額が入っていた。

 ちょっとしたモノを購入したり、ぜいたくな食事さえしなければ全く支障はない。
 ふたりは張り切って、商店街と市場へ向かったのである。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 最初に入った食料品店の店主は噂好きらしかった。
 ダンとスオメタルが、香辛料など高価な品を沢山買い上げた事もあり、
 大層機嫌が良い。

「毎度! ところでお兄さん、お姉さん、知ってるかい」

「何をだい?」
「何をでございますか?」

「おいおい、今や王都で大の噂になってる追放された救世の勇者ダンだよ!」

「え? きゅ、救世の勇者? あ、ああ、勇者をクビになって、ひっそり魔境へ引っ込んだあの人?」
「地位も名誉もお金も、何も得られず、世捨て人のようになったとは聞きましたでございますよ」

「いやさ、それが全然違うって噂だよ」

「違うって……どういう事だい?」
「隠遁したと聞きましたでございますが」

「何かさ、莫大な隠し財産持ってて、悠々自適で暮らしてるって噂なんだ」

「はあ? か、隠し財産?」
「へ、へぇ~、悠々自適でございますか」

「ああ、隠し財産は勿論、こっそり裏側で、王様からとんでもなく高額の報奨金も貰ってるはずじゃねぇのか?」

 実は、報奨金はゼロ。
 王国が超ボンビーなので辞退しましたぁ!

 そう言いたいダンであったが、国王リシャールとの約束がある。
 口外は一切出来ない。

「……………」
「……………」

「だからよ! 勇者様は、腐るほど黄金持ってるんじゃないかって。隠し財産と合わせて、金貨換算で数千万枚くらいは軽くあるって、もっぱらの噂だよ」

 店主からそう言われ、思わずダンとスオメタルは首を「ぶんぶん」横に振った。

「ないない、全然違う!」
「そんな財産、絶対あるわけないでございます! あったらバイトなんかやらないでございますっ!」

 対して、店主は首を傾げる。

「??? 何で勇者に関係ないおふたりがそう言い切るの?」

「え? ま、まあ……何となく」
「単なる想像でございます」

「ふ~ん……」

 つまらなそうに鼻を鳴らした店主であったが……
 幸い追及しては来なかった。
 
 だが、店主の口は止まらない。

「その隠し財産を狙って、勇者からちょろまかそうとする奴が居るそうだ」

「成る程」
「身の程知らずでございます」

「ま、そうだな。魔王とその配下共を瞬殺した勇者の財産なんかに手を出したら、命がいくつあっても足りねぇ。それに勇者様が居るのは、ほぼ魔境。だから行くのだけでも大変だぁな」

「……………」
「……………」

「今度はだんまりか。ま、良いや。その勇者様を巡って、いろいろな奴が動いてるって噂もあるぜ」

「ど、どんな噂!」
「ぜひぜひ、教えて欲しいでございますっ!」 

「おいおい、いきなり、すっげぇ、喰い付き! だ、大丈夫か? あんた達」

「……………」
「……………」

 再び無言で応えるふたり。
 怪しさ満点だが、擬態は完璧。
 
 第一、追放になった勇者が、
 大手を振って王都を歩くわけがないという先入観がある。

 なので、目の前のふたりが噂の当人達とは露知らず、
 店主は話を続ける。

「ま、いっか。ひとつは冒険者ギルドだ」

「冒険者ギルド?」
「何故で、ございます?」

「だってよ、冒険者ギルドは世界各国にあるじゃねぇか!。だからヴァレンタイン一国の追放は関係ない。ギルドは自分の組織へ箔を付ける為、本部と全ての支部をまとめる総マスターへ、最強の勇者様を迎えたいって話なんだ」

「総マスターは確かに魅力的で凄いけど、いろいろとめんどくさい、ノーサンキューだな」
「全くでございます」

「だからぁ! あんたらには関係ないって」

「……………」
「……………」

「ギルドだけじゃねぇ! 有名なクランがいくつも、ぜひリーダーに迎えたいとか、有名な商会が金に糸目を付けず商隊の護衛隊長に雇いたいとか、有名な武術道場が、顧問か、指南役に雇いたいとか、オファーが、わんさか、ある」

「……成る程、王国外ならバイト先は不自由しなさそうだな」
「御意でございます」

 何故か、納得し、頷き合うふたりを……
 店主は呆気にとられ、見つめていたのである。
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