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第38話「二度ある事は……」

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『うっわぁ! たらふく食ったぁ~』
『もう! さすがに食べられないでございます』

 ランチを開始して、1時間後……
 ダンとスオメタルの動きが止まっていた。
 椅子に座ったまま動かない。
 
 また、ふたりともお腹をさすり、息が荒い。
 そう満腹状態なのである。

 いつもは食後に楽しむ紅茶も、お腹いっぱいで全く飲めない。
 恐る恐るダンはテーブルの上を見た。

 レモン付き塩焼き、香草焼き、フライ、唐揚げ、ムニエル、そしてスープ。
 テーブルの上には、食べきれなかった鱒料理が、まだまだたくさん並んでいた。

 ダンは頭を抱え、叫ぶ。
 深い自戒の念を込めて。

「う~! 失敗したぁ~! 調子に乗って、料理作り過ぎたし、食べ過ぎた~。でも! まだ残ってるぞぉ~」

 しかし、このような時、女子は動じない。
 更に、悪魔と激戦を繰り広げたスオメタルはより打たれ強いのだ。

 無敵のオリハルコンとミスリル合金の超ボディだけでなく、
 心も硬度ナンバーワンの、ダイヤモンドハートなのである。

「いえ、マスター! 全然構いません、残った分は未調理分も含め、夕食に回しますゆえ。逆に夜が大いに楽しみでございます!」

「うわ! もしかして夜も鱒料理?」

「はい! 当然でございます! スオメタルは今、食の喜びに満ちあふれているでございます。マスターが作ってくれた鱒料理は至高の幸せを与えてくれるでございます」

 スオメタルがきっぱりと言い放った、その時。
 外で狼の咆哮が轟いた。

 わおおおおおおおおん!
 わおおおおおおおおん!

 これは……
 人狼の咆哮である。
 という事は……

「おいおい、聞いた事のある声だぞ。魔法障壁のそばまで来て騒いでいるようだ」
「マスター、あいつでございます。人狼のアルパッドでございますよ」

 スオメタルが咆哮の主を認識すれば、またも咆哮が響く。
 
 わおおおおおおおおん!
 わおおおおおおおおん!

「ああ、そうだ、アルパッドだ」
「あいつぅ! 性懲りもなく来たでございますかぁ! 二度ならずこれで三度目でございます。しつこさナンバーワン! ストーカーのクソワン公でございます!」

 スオメタルが小さな拳を振り上げると同時に、またもまたも咆哮が!

 わおおおおおおおおん!
 わおおおおおおおおん!

「一体、何の用だろう? ああ、そうか……以前会った時、渡すと約束した鱒でも取りに来たのか」
「でもマスターは、自宅までは教えてないはずでございます。やっぱり、あいつは超が付くストーカーでございますね」

 わおおおおおおおおん!
 わおおおおおおおおん!

 ふたりが話している間も、アルパッドは何度も吠えまくる。
 まるで、居留守をとがめる押し売りのようであった。

 魔法障壁があるから、敷地内へは入って来れない。
 
 しばらく放置し、スルーして、アルパッドが諦めて帰る事を期待したが……
 どうやら望み薄である。

 わおおおおおおおおん!
 わおおおおおおおおん!

「何だよ、何度も何度もしつけ~な! でもあの咆哮は何て言ってるんだ。興奮しすぎててよく念話が聞こえん。お願いしま~すみたいな波動は感じるが」
「ぬぬぬ! 相当うるさいでございますね。ウチの他に住居はありませんが、完全に近所迷惑でございます」

 わおおおおおおおおん!
 わおおおおおおおおん!

「う~ん、困ったな」
「……ええっと、念話で直接話すのが絶対に嫌なので、今、翻訳機を稼働しました。たのも~っと言ってるでございます」

 わおおおおおおおおん!
 わおおおおおおおおん!

「たのも~って……何か、すっご~く嫌な予感がするな」
「スオメタルも激し~く同意……で、ございます」

 わおおおおおおおおん!
 わおおおおおおおおん!

 相変わらずアルパッドの咆哮は続いていた。
 ダンがこぼすように、ひどくしつこい。

 騒音に閉口しているのは、ダンとスオメタルだけではなかった。
 
 念話で、怒声、金切り声が聞こえて来る。
 殆どが男であるが、時おり少女の声も混ざっていた。
 どうやらスパルトイ達とタバサのようである。
 結構スラングが入っていた。

 言葉の汚さはさておき……
 セリフの意味としては、「うるさい!」「黙れ!」「帰れ!」等々、呼びかけているらしい。

 しかし、やはり効果はなかった。
 またまたアルパッドの咆哮が轟いたのである。

 わおおおおおおおおん!
 わおおおおおおおおん!

 だが……
 このまま放置もしていられない。
 ダンとスオメタルは、苦笑しながら城の外へ出たのである。
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